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『第3の拠点開放される! 今度の舞台は失われた古代文明の香りに包まれた砂漠のオアシス!』
公式サイトにそんな文言が掲載されていた。たまには覗いてみるのもいいかと思ってアクセスしてみたのが幸運だったようだ。古代文明とあるが、今までそんな雰囲気など一切無かったしあの世界に高度な文明が発達していたなんて思えない。しかし特設ページにはいくつか説明がされていた。
1000年以上前、魔法と科学が融合した技術『魔科学』が確立され、空翔ける船や水中都市、果てはゆっくりと世界を回る空中都市まで存在していたらしい。突然、その文明は姿を消したのだが、原因は不明。記録によればその頃から凶悪なモンスターが徘徊するようになったそうだから、恐らくはモンスターに滅ぼされたというのが学者たちの一応の結論となったようだ。不思議なことに、栄華を極めていた時代の記録などは一切残っていないということで、現在の学者たちの睡眠時間を大いに削られたことだろう。
砂漠のオアシスの推奨レベルは基本スキル9以上となっていた。
一気にレベルが引き上げられたことで、砂漠のモンスターはかなり手ごわそうなことが伺えた。砂漠砂漠……すこーしばかり嫌な予感がするな。砂漠に生きるってことはそれなりに暑さ耐性があるってことだよな? 炎魔法にも耐性があるんじゃないか? 暑さと熱さは違うけどだいたいは一緒くたにされてるしなぁ。でも砂漠といっても全部が砂じゃないだろうし……。つか舞台はオアシスだしな。まぁ行ってみないとわかんないね。それにまだ推奨レベルになってないからレベル上げしなきゃな。
とりあえずは体調もよくなっていたことだし、ヘッドディスプレイを装着してログインすることにした。
戻ってきて気づいたことは、この前と比べて人が少なくなっていたことだった。つまりは多くのプレイヤーが砂漠に旅立って行ったとわかる。9レベル以上に育てた人は意外と多かったのか。フレンドリストを確認してみるとサラさんはギルド内部、シンさんは町から少し離れたレイド草原にいるみたいだった。シンさんはきっとレベル上げしてるだろうからついでにPT組んでもらおうかな。あそこまでの移動手段は確かレンタル陸鳥があったはず。
陸鳥というのは、見た目は2メートルほどのフクロウそっくりな鳥なのだが、飛ぶことはできない。立派な翼はもっぱらバランサーとして使用し、短い足を高速で動かしてかなりの速度で移動する。
フクロウは視界が立体的に見えることで獲物や障害物までの距離を計るというが、陸鳥も似たようなものなのだろう。
彼らは目的地でプレイヤーを降ろすと一直線に巣に帰る習性があり、レンタル陸鳥はそこを上手く利用した商売だ。ちなみに食事の時間以外はほとんど巣から出てこない。引きこもりと帰巣本能が半端なく融合したインドア派だ。そんな彼らをどうやって躾けたのかは店主のみぞ知る。意外とリーズナブルで1回のレンタルには100パール。レイド草原なら素材売りで十分お釣りがくるレベルだ。シンさんに連絡を取って今から行くと告げ、陸鳥に乗って門を飛び出した。
陸鳥の背中に備え付けられたシートに座り、おんぶされるような形で向かっている。目的地までは勝手に行くので馬のように操る技術は必要ない。求められるのは、陸鳥の背中にぴったりと張り付く気合いと持久力。下手に顔を上げていると高速走行の振動で首ががくがくと揺さぶられ、着く頃には生きる屍状態になってしまう。アバターに脳は無いから普通はありえないのだが、代わりに状態異常『混乱』『脱力』のコンボを食らうことになる。回復には時間がかかるし店主からも注意事項として教わるから滅多に起こすことは無いけど。
しばらくの間、ふわふわの羽毛に包まれる幸福感を味わっていると急ブレーキがかかり、背中に顔が押し付けられた。休憩する時間も嫌がる陸鳥が止まったということはレイド草原に着いたということだ。シートから降りると、ものすごい勢いで町の方へ陸鳥は走っていった。土煙を上げて走る陸鳥を見て、本当に彼はお家が好きなんだなぁと思いました、まる。
「うーっす」
後ろから声がかかり、振り向くと肩に大剣を担いだシンさんがいた。この人と会うときはいつもこのポーズのような気がする。まぁ様になっているからいいか。
「こんちは。ちょっとレベル上げしたいんでお願いしまっさー」
杖を取り出しながら言うとさっとPT申請が届く。許可すると名前の下に赤いバーが見えた。
「なんすかこれ? 前までなかったはずですけど」
「あー、確かPT組むと仲間の体力が見えるようになったんだと。なんかクレームが多かったんじゃないかってのが大体の予想」
「なるほど。でもいつそんな変更したんでしょう? ゲームにログインしながら仕様変更ってできるもんなんですかね?」
「できるんじゃね? ほら脅威の技術力ってやつで」
確かに謎の技術(笑)と囃されることが多いこのゲーム。あまり気にしたら負けなのかもしれない。
「この辺りの敵ならレベル10くらいまではいけそうだな。お前確か7だったからできれば9にはしたいな。まぁ8でも次行くけど」
にやりと笑うシンさんは砂漠のオアシスに行く気満々のようだ。……戦闘狂だしな。
「サラさんはどうなんです?」
「あの人ならもう8になったから職人レベル上げるっつってずっとギルドに篭ってるよ。ちなみに俺は9になった。それからまぁまぁやってるからもしかしたら10なるかもな」
廃人さま、と言ったら柄で頭を小突かれた。まぁ本物はとっくに砂漠に住み着いてるだろう。競おうとは思わないけど、せっかくなので早く行きたいのが本音だ。その辺りもこの人はきちんとわかってくれているはず。
「んじゃちゃきちゃき狩るから全力な。魔力無くなったら適当に休憩で」
「了解であります。突撃隊長に1番槍はお任せするであります」
「てめっ!」
そう言いながらも近くでのんきに草を食んでいたホーンチャージャーという大型草食獣に的を絞る。牛ほどの大きさのそれは、30センチはあるだろう前方に向いた角が2本頭の上から生えており、危険が迫ると頭を低く構えて突進してくるというなかなかの牛(と書いてツワモノと読む)だ。まともに食らうと体の風通しがよくなること請け合いだろう。
実は調整が上手くできないらしく、直線に突進するだけなので慣れたプレイヤーにはカモという悲しい一面もある。
「おぉおぉぉ!」
シンさんが飛び上がり、一気に剣を振り下ろす。そして爆発。スキルが育っても爆発半径は大きくならないと聞いたけど威力はかなり上がっているようだった。毛皮は焦げてその意味を成さず、焼け焦げた皮膚に大きな剣戟の跡が残っている。
「ブモォォ!」
食事を邪魔された上、傷を付けられたホーンチャージャーは怒り狂ってこちらを睨みつける。俺も気を引き締めていると横合いから声がした。
「こいつ雷で痺れるってさ! 弱点らしくて『麻痺』は100パーかかるみてぇだ!」
それを聞くとすぐに魔法の発動にかかる。突進準備で前脚で土をかいているその時間は高速詠唱を終えるには十分過ぎた。
「我が怒りよ 大気に満ちて刃となれ サンダーボルト!」
黄色い閃光が杖の先から飛び出し、ホーンチャージャーの体に命中する。苦悶の声を上げ、脚を折ってしゃがみ込むとそれから動こうとしない。『麻痺』が発動したようだ。効果は10秒ちょい、耐性ありだと5秒以下になることもあるこれを完全に信用なんてできない。すぐさま連続魔法の準備にかかる。
「ナイスアシスト! 俺! いっちゃうぜぇ!」
どこへ? つい声の方へ顔を向けるとシンさんが地面に大剣の中ほどまで突き刺すところだった。
「食らえぇい! 地走り!」
剣を刺した場所からめきめきと地面が裂け、伏せっているホーンチャージャーまで伸びていく。体の真下まで裂けた時、剣から光の帯が導火線のように走り、最終地点で火柱へと変わった。
「どうよこれ! 本当はアースクラックとかいうんだけど地走りの方がそれっぽいだろ!」
うん、どれっぽいのかはわからないが、威力はものすごい。もしかしてエクスプロージョンより高いんじゃない? 魔道師としてのプライドが折れそうになるわこれ。だってほら、炭しか残ってねぇもん。
「ちなみに! 範囲が4メートル以内で裂け始めたら真っ直ぐしか行かんし、発動まで時間かかるから避けられまくり! 今みたいに『麻痺』がないとほぼ当たらん!」
胸を張っているがそれ欠陥スキルじゃねぇか。いや1撃のロマンというなら確かにアリか……。
――聞くと、俺がやってきて初めて当てることができたらしい。ここまでの威力とは思ってもみなかった、というシンさんだったが、その時の顔はもう、すごい良い笑顔だった。




