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宿屋に泊まって3日。サラさんから杖が完成したとのメールが届いた。あの人は調合スキルのレベル上げの為にずっと工房に篭っていたらしい。本人いわく、大量に溜まっていた素材を消費する絶好の機会だったとか。まぁ杖の完成までは自由に過ごしておくと言って別れた手前、何も言うことはないけれど。
「こんにちは」
のんびりとした挨拶をしながら調合職人たちの工房へと入る。まだ作業場に入っていないにも関わらず、薬の臭いが充満していた。ついでに草の匂いも軽く漂い、思わずしかめてしまった顔を少しだけ緩めてくれた。何年も自然の中で遊ぶなんてしてないけどやっぱり癒されるもんなんだな。
「お、来たかい。キリがいいとこまでやりたいから少し待ってて」
着く直前、メールをしておいた為、サラさんは作業場入り口で待っていてくれた。彼女からはきつめの臭いが漂っている。一体この人は何を作っていたんだろう。ポーションだけではこんな臭いはしないはず、きっと。一声かけてすぐにまた作業場へと戻って行ったサラさんを待つことにした。
5分ほどでそのキリがいいとこまでやったのか、にこにこと笑顔でサラさんは戻ってきた。しかしまだ臭うな。ちなみに服についてしまった臭いだが、インベントリに入れればすぐに消える。調合スキルを持つプレイヤーは装備変更用に適当な服を持っているのがマナーだそうだ。サラさんもぱぱっと装備を切り替えたのを見て調合工房を後にした。
「とうとう自力で杖のグレードアップですな会長」
からかうようにサラさんが言ってくる。クランリーダーの呼び名である会長なんて普段は滅多に言わないのに。ここでニヤニヤした顔でもしてれば文句の1つでも言い返せただろうが笑顔で言われたものだから大人しく頷く。確かに今までチュートリアル武器とサラさんの知り合いからもらった、その辺で拾ったような杖しか装備していなかったのは事実だし。それに未だに体は初期装備の布の服だ。これもどうにかしたいな。
「職人スキル持つのも考えたらどうだい? 素材集めは大変だけど私も手伝うしシンも言えば来てくれると思うよ」
「そうですよね。いつまでもサラさんに頼りっぱなしなのもどうかと思いますし……。織物スキルでも取ろうかなぁ」
「うんうん。布の服からは卒業する時期じゃないかな?」
やっぱりそうか。後衛だから攻撃を食らうことは少ないけれど防御力を上げておくことには反論する気は無い。痛いのやだし。
うんうん唸りながら、少し離れた場所にある木工職人たちの作業場へと進んでいく。もちろん、関係者以外は立ち入り禁止なのでサラさんがメールで呼び出しているようだ。
と、入り口に杖を持った青年が立っていた。白のロングコートのボタンをしっかりと首元までしめ、その黒髪はオールバックで決めている、なんだか堅物そうな青年だった。ちらりとこちらと目が合ったような気がすると、そのまま彼はコツコツと小気味良い足音を立てながらこちらに向かってきた。
「お疲れさま。頼んでた杖が完成したって言うからさ、取りに来てあげたよ」
いつもの口調でサラさんが青年に話しかけているが、内容が少しおかしい気がする。立場的にはこちらが頼んだんじゃないっけな?
そして俺たち3人は人気の少ない路地へと入っていく。なんだか怪しい取引をする反社会組織みたいなんですけど。
「ええ。貴女はそんなものですよね。……これがその頼まれた杖です。手が空いていたのが私だけだったので3日間も缶詰にされてしまいました」
「たまにはそんなこともあるさ。ものづくりは楽しいだろう青年!」
少し顔をしかめていた青年の肩をばしばしと叩き、強引に杖を奪い取ったサラさんは、先端の魔石を睨みつけたり軽く素振りをやった後、俺の手の中に渡してくる。
「なんかすごそうな石がついてるね。おいヤマト! なんか特殊な効果の1つくらいつけてくれたりはしてないの?」
へぇ。あの人はヤマトって言うのか。……ん? こっち来た!
「素材をいくつかもらった借りがありますからね。倉庫に置いてあった属性石を魔石と混ぜておきました。確か、貴方は炎属性だったと聞いていますが?」
「あ、はい。メインは炎で後の2種類はその場その場で……」
「さすがに複数属性の強化なんて技術は持ち合わせていませんし、枝程度では対価にもなりませんからね。炎強化と魔力上昇で十分でしょう」
え? そんな効果つけてくれたの? そういやこのロングコートも真っ白でかなりの職人が作った物みたいだし、そんな知り合いがいるなら意外とヤマトさんって凄腕の職人じゃなかろうか。職人は実力が近い者同士で切磋琢磨するとか聞いたことがあるしな。
ぼんやりとそんな物思いに耽っていると、サラさんとなにやらぼそぼそと話している。ヤマトさんは一瞬渋い顔をした後、何度か頷いていた。
「交渉成立! 代金だけど15万でいいってさ。その代わり、何か入用だったらこいつらのクランを優先利用するってことで!」
おぉぅ。かなり値切ったみたいだ。属性石に魔石を使った杖で15万とか考えられないし。その2つは下手したら数十万単位で取引されるのに。
「それはありがたいですけど……。ヤマトさんはそれで大丈夫なんですか?」
無表情になっているヤマトさんに声をかけてみると、無言で頷かれた。
「気にすることはないさ。こいつがそれでいいって言ってるんだからね。後は職人同士の『話し合い』さ」
「サラさんがそう言うなら。ヤマトさん、ありがとうございました」
「ええ。できるなら素材も格安で卸していただけると助かります。職人ギルドで『飛翔』クランとクラン同盟を結ぶと伝えてください。こちらはもう『戦う生徒会』との同盟許可は出しているのでそちらが申し込めばすぐ終わります。そうすれば素材持ち込み等で『飛翔』に優先権が生まれますので後は我々が処理します」
そんなことができるだなんて初耳だ。というか、俺とシンさんは戦闘スキルしか持ってないし、サラさんも素材は自力で集められるんだよな。3人でなら少し強めのモンスターがいる地域まで足を伸ばせるし。おかげでまともにクランについて調べることなんてしてなかった。ちょっと反省だ。
「そう。じゃあそれはケイスケよろしく。帰ろっか」
「丸投げですか。まぁいろいろやってもらったのでそれくらいやらないとバチが当たりそうですね」
戻ります、とヤマトさんに一言かけてギルドに続く道を歩いて行く。
道すがら装備変更して、真新しい杖を握り締めた。これから長い付き合いになりそうだ。
プレイヤー名:ケイスケ
職業:魔道師
称号:扇動者
装備一覧
武器:赤熱の妖杖
頭:
体:布の服
腕:一角獣のミトン
足:クロコ革のブーツ
他:染色された職人のローブ
スキル:炎魔法Lv7 水魔法Lv2 雷魔法Lv3 魔力上昇 高速詠唱 連続魔法 炎属性強化Lv4(+1) 空き




