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世界の隣人 -Another World-  作者: タンス
第4章 兆候
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 ギルドには住人からの依頼の他に、プレイヤーが他のプレイヤーに依頼することもできる。

 戦闘に自信の無い職人プレイヤーがモンスターの素材を手に入れたい時や、ランクの高い素材を手に入れることができないプレイヤーが利用していた。


「黒夜の森にいる鬼面樹の枝かぁ」


 サラさんの伝手を頼って新しい杖を作成できる職人と知り合えたが、必要な素材がその人では倒すことのできないモンスターの素材だった。格安料金で作成してもらう代わりに必要な量にプラスして何本か持って来て欲しいと言われたため、俺たち3人は今まで足を踏み入れたことのない『黒夜の森』に行くことになった。未開拓地と言えばそうなるが、あくまで『俺たち』にとってであり、既に何人ものプレイヤーがモンスターの情報を流していた。


「えーっと、確か鬼面樹は奥の泉付近で目撃情報が多いんだっけか」

「そうそう。ちなみにその泉はマナポーションの強化に必要な素材でもあるからね。ついでに採取させてもらうよ」


 ソロではサラさんも森の奥までは行けないらしく、色々な素材が手に入ると喜んでいた。シンさんに聞いてみるとスキル上げができるならどこでもいいそうだ。おかげで順調に新しい杖を手に入れることができるだろうと思う。


 

 森へと入り、途中に生えていたハーブをいくつか採取し、出てきたモンスターをなぎ倒し、ようやく鬼面樹の生息地らしい泉にたどり着く。透き通った淡い青色の水からはわずかではあるが魔力が立ち上っていて、確かにマナポーションの素材になりそうな気がする。周辺には背の低い木々と並んで薄紫の水晶が立ち並んでいた。いわゆるアメジストというやつだろう。水を飲んでいたカナヘビによく似た生物が、俺たちの気配に気づいてほとりから大急ぎで逃げ出していく。


『黒夜の森』というだけあって薄暗い森が、この辺りだけやんわりとした光に満ちていて、それまでの印象ががらりと変わった。木々の幹が発光し、それが水晶が反射しているのがその原因か。魔力を含んだ水を吸った、という設定かもしれないと思う。


「この辺の木は魔力を含んでいるみたいだね。きっと泉から吸い上げているんだろう」


 サラさんも俺と同じことを考えていたらしい。なるほど、つまりは魔力に持った植物が一杯ってことか。ん、待てよ? そうなるともしかして鬼面樹って……。

 

 そこまで考えた時、がさりと何かが草をかき分けてやってくる音に気づく。素早くシンさんが音のした方に飛び出して行き、剣を振り上げた瞬間――。


「うおぉぉ!?」


 悲鳴とともに後方に弾き飛ばされる。だがその状態から空中で回転し、滑りながらも上手く着地して事なきを得た。どこの雑技団だろうかこの人は。

 シンさんがふき飛ばされた方を見ると、生い茂った葉を持った3、4メートルはありそうな木が『歩いて』いた。何度か倒したことのある、あの枯れ木と同じようなものか。だが、その幹には顔のような洞があり、その周りの樹皮が気味悪く動いていて、顔に表情があるかのように錯覚してしまう。風切り音をさせて枝を鞭のようにしならせ、こちらを睨みつけているようだった。


「見た感じ、あれが目標っぽいね」

「でしょうね。シンさんを吹っ飛ばしたことですし、それなりに力もありそうです」


 武器を構え、戦闘態勢を作る。2本の枝が人の腕のように滑らかに動いており、攻撃のタイミングがつかめない。が、それもつかの間、右の枝がうなりをあげサラさんに襲い掛かる。ようやく目で追えるほどのスピードで、もし俺が目標だったら確実に避けることはできないと思う。

 しかしそこは戦士職。サラさんは体を沈めてそれをかわすと、立ち上がる勢いそのまま右手の長剣で切り上げた。一瞬で枝は空を舞い、衝撃で硬直した隙に幹へと走り出す。戦士が持つ『縮地』と呼ばれるスキルだろう。現実ではありえない速度で鬼面樹の元へ駆けて行ったサラさんがその両手に持つ剣で十字に切り裂く。そして後方に大きく飛んで距離を取った。俺の足元には切り飛ばされた枝が落ちていて、自切されたトカゲのしっぽのようにうねり、とても気味が悪い。

 一連の攻撃を受けた鬼面樹は吼えるような音を洞から出し、その顔が大きく歪む。残った左の枝でサラさんに襲い掛かるが上手くかわされ、それが気に入らないのかターゲットを完全にサラさんに絞ったようだった。


「こりゃチャンスだ。消し炭にしてやんよ!」


 杖を構え、精神を集中させて杖の先端に魔力を集めていく。言いなれた詠唱を2回。Lv5を超えた魔法スキルを持つ魔道師が覚えるスキル『連続魔法』だ。もちろんLv5を超えた魔法――俺の場合は炎魔法になる――だけがその対象になり、残念ながら違う種類の魔法を混ぜて使うことはできない。少々微妙なスキルである。だが弱点属性があるモンスターなら有効な攻撃手段なのは確かだ。


「食らえ! フレイムスピア!」


 スキル名を叫んだ所で杖の先端から2本の炎の槍が飛んでいく。Lv5を超え、馬上槍のような形へ進化を遂げた我が必殺スキル。それは風を切って1本は鬼面樹の左目に突き刺さり、もう1本は枝と幹の付け根に刺さった。俺のことなど忘れていたようで、横から魔法が飛んでくるなど予想もしていなかったのだろう。まぁ知能があるのかどうかは知らないけれど。

 突き刺さり、ぶすぶすと黒煙を上げている箇所を枝で何度か擦ることで消火した鬼面樹のターゲットが確実に変わったことがわかる。なぜなら空洞の目と俺の目が合ったから。歪んだ口から奇声を上げ、枝を振り上げたがそこまでだった。気配を消して後ろに回っていたシンさんの一撃でばっさりと枝が切り落とされていた。そして焦げ付いた目元にシンさんの爆発剣が決まる。爆炎と煙が晴れると鬼面樹の顔は左目から口元付近まで欠けていて、涙を流しているかのようにも見える。俺の炎で脆くなっていたのか、それともシンさんの攻撃が強かったのかはわからないが、ダメージは小さくないようだ。


「――――ッ!」


 鬼面樹は声にならない叫び声を上げ、右の枝を振り回して突撃してくる。根元から切ったわけじゃないので半分くらいは残っていて、さすがにそのまま食らうとまずい。俺は慌てて避けたが、2人はすれ違いざまに一撃を叩き込んだようだった。ふらふらになりながらも鬼面樹は吸い込まれるように泉に飛び込んだ。足元を取られては上手く戦えないので戦士2人は構えるだけ構えて、鬼面樹が泉から上がってくるのを待っている。俺はその辺り関係無いので詠唱を開始していたが、あることに気づいた。


「もしかして……。あいつ回復してないです?」 

「だねぇ。ここで戦ってたのはまずかったか。引き離すべきだったね」

 

 生い茂った葉がかさかさと動き、枝の切断面が光っている。そしてゆっくりと伸びて右枝が完全に元通りになった。左枝は根元から切り落としたのが効いているのか、半分程度まで伸びて止まる。なるほど、鬼面樹がここを生息地にしているのはこれが理由だったらしい。回復拠点があるならそりゃ当然そこに棲むよね。

 泉から上がってきた鬼面樹は先ほどまでとは違い、慎重にこちらを伺っているようだった。そして枝を伸ばしてなぎ払う。そのターゲットは……。俺か!

 詠唱を放棄して全力で回避に努める。横っ飛びで逃げようとしたが、枝は足首に掠りバランスを崩された。おかげで肩から地面に落ち、じんじんと痛む。肩を押さえながらも、次の攻撃が来る前に離れようと急いで立ち上がると、魔道師だけが感知できる、魔力の動きがあった。それは鬼面樹の口へと集まっていき、水の塊へと変わる。そして――。


「ごほっ……」


 恐らくはウォーターボールだと思われる魔法がみぞおちへと命中し、意識を失いそうになるほどの衝撃が襲ってきた。体勢が悪いこともあったが、それ以上に速度が問題だった。俺が使っていたウォーターボールは避けられないこともない、程度だったのだが、鬼面樹が撃ったのはそれと桁違いの速度だった。Lvが高いのか、それともまた別の魔法だったのか。しかし今はそんなことを考えている暇は無い。震える手でインベントリからポーションを取り出し、叩きつけるように体に浴びる。



「すまん! 俺が最初に飛ばされたのはさっきの魔法だったんだ!」


 

 シンさんの叫びに俺は微かに殺意を覚えたのだった。

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