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世界の隣人 -Another World-  作者: タンス
第4章 兆候
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「杖、杖っと。ついでにスキルも検索でぃ」


 テンションを上げて攻略サイトを覗いていく。最優先は杖だ。できるだけ安く、質の良い物が欲しい。俺が職人だったら確実に門前払いするような客だな。安かろう悪かろうが世の真理なのだ。金はかければかけるほど良い物が買えるって誰か言ってたし。

 まずは普通に店売りされている杖の情報を見ていくものの、値段が高いだけで杖自体の性能は低い。買う必要は無いな。何故店を出しているのか疑問に感じてしまう品揃えだった。

 そして次こそがメイン。プレイヤーが出している露店の情報や職人たちが作ったとされる武器情報だ。もちろん全ての情報が出ているなんてことはなく、ある程度の性能で付加されている能力が載っていたりするのでそれを見る。


「さすがに『詠唱破棄』は付加できないか……。いや、もし付加できてもこんなとこに親切に書く訳ないよな」


 当然、信用の置ける人間だけに売るだろう。そして一部の人間だけにこっそりと情報が伝わり……という感じで隠れた名品ってやつになるだろうな。でもいつかどこかの誰かが情報を出してくれることを信じたい。


 しばらく見ていたが、「詠唱破棄」「高速詠唱」「無詠唱」のどれも引っかかることは無かった。ちなみに魔法+1、魔力上昇などが付加された杖は桁違いの金額で取引されているようだ。そりゃ限られたスキル数でやりくりしているんだから、それから1つでも自由にできればかなり大きいよね。しかし7桁の金額とかどうやって貯めたんだって言いたくなるな。

 ディスプレイには自身の武器紹介欄があり、10万から100万以上まであらゆる金額で取引した武器が一覧になっていた。もちろん全情報を載せているなんて信じてはいない。もしかすると100万クラスはスキルが複数付加されているのかも、と妄想にふけっていた。


「とりあえずは露店見なきゃな。予算は30万以下で」


 ドロップアイテムを売り払っているといつの間にか貯まっていた30万パールが俺の全財産だったはずだ。それにスキルも買わなきゃな。「高速詠唱」は必須だよなぁ。あれいくらするんだろう。

 ぼーっとしていた頭で攻略サイトを眺めていると、ある文字が飛び込んできた。


「う……? 『上級職』に『上級スキル』だと……?」


 そんな話は聞いたことがないぞ。待てよ? 都市襲撃後にアナウンスが流れてたな。確かクエスト開放とかなんとか。もしかするとそれ関係か! ネタバレは嫌だけどちょっとくらいならいいよね。別にクエスト攻略とか見る訳じゃないしね。

 脳内言い訳が終わるといつの間にか上級職のページに飛んでいた。俺の脳が反乱を起こしていたようだ。まぁ今回は見逃してやんよ。画面に釘付けになった俺は転職クエストの内容を読んでいた。


「えーっと。基本スキルをLv6以上にし、尚且つ必要スキルをLv5に……」


 具体的な説明を求める。なんだよ必要スキルって。つか編集した人間はちゃんと調べてから編集してくれよ。マジ勘弁してくれ。だがため息を吐いた拍子に下がった視界の隅に、小さく書かれていた説明文が目に入る。


「必要スキルは職業、現在のスキル構成によって変わるようです、だと?」

 

 なるほどね。だからお前の求める情報はこれくらいしか書けないってことね。オーケー理解してやろうじゃないか。まぁ俺のスキル構成は魔法3種に魔力上昇だろ。金さえあれば「魔力回復量増加」も付けたいな。それに「高速詠唱」もだからなぁ。ついでに属性強化系も付けたい。あれ? 意外と金なんてすぐ無くなるんじゃね? スキル強化も金かかるし……。 


「よし。20万以下で杖は探す。んで金稼いでスキル整えたらまた杖を探そう。上級なんとかってすごい心惹かれる物も見つけたし満足じゃ」


 大きく伸びをして体をほぐしていると、ふと過ごしやすい気温になってるなと気づいた。窓から見える景色はぼんやりとした太陽が沈んでいくところだった。


「さてさて。夕食の準備でもしましょうかね」


 誰もいない部屋で1人呟き、台所へ向かう。簡単にできる野菜炒めでいいか。栄養素も大体詰まってるしいいだろ。ついでにサプリメントでも飲んどきゃ問題無いさー。




「ふぅ。いい湯だった」


 夕食を終え、後片付けを終わらせた俺はすぐさま風呂に入っていた。今夜もまた「AnotherWorld」に入り浸る予定なのだから何でも早く終わらせたかったのだ。無造作に頭をバスタオルで拭きながらテレビの電源を入れる。昔は3Dテレビとかがもてはやされたらしいが、実際に番組を制作する立場からすると、ムダに金がかかるとかそういう理由で3Dのテレビ番組が製作されることが少なく、10年ほどで消えていった悲しい歴史がある。しかしながら、その立体技術は後世に大きな影響を与えることになった。現にVRなんてものはその延長上にあるようなもんだろうし。


「――以上、ロンバルディア・コーポレーション社屋前からお伝えしました。スタジオにお返ししまーす」


 場面はスタジオに切り替わると、円卓に座る品の良さそうな男性たちが映し出される。


「VRゲームですか。私としては危険な技術だと思いますよ。人を殺す疑似体験もできる訳ですからね」

「しかしプラスの面もあると思います。例えば医療現場では医師の技術向上に大きな役割を……」

「ですがねぇ。あまりにリアルな体験をしてしまうと現実世界でも同じような行動を取るという話もありますから」


 番組表を見ると有識者を集めた論戦、ということで議員や脳科学者、ゲーム業界関係者が集められていた。えっと、立体技術関係の人が見当たらないのは何故でしょうか。そんな突っ込みをするような人間はスタジオにおらず、各々が持論を展開していく様子が流れていく。


「私が聞いた情報によると、ゲームでプレイヤーたちは殺し合いをしているとかなんとか。そんな恐ろしいことなどあってはならないと思うのです」

「あくまでゲームですよ? ゲームと現実をごちゃ混ぜにしてはいけない。そんな――――」


 ん? いつのまにかスタジオの雰囲気が悪くなってんのな。業界の人間と脳科学者がにらみ合っている。うん、どうでもいいや。つかこれって生放送っぽいな。お、舌打ちまで聞こえるなんてすげぇわ。そうこうするうちに軽い言い争いになり、脳科学者はそのまま席を立って退場してしまった。これにはみな、苦笑いでついでに俺も釣られてしまった。いやいや、これってどうなんだろね。主がいなくなった席には水の入ったグラスだけがライトを反射して映っていた。




「まぁどっちの言い分もわかるけどね。ようするに使う人次第ってことさ。包丁と同じだね」


 ログインするとサラさんが既に露店を開いていた。少しだけだが同じ番組を見ていたらしく、俺がテレビの話をすると食いついてきた。


「でも、この技術はきっと良いことなんだと思うよ」


 

 目を細めて遠くを見ながら話すサラさんは、いつものサラさんとは思えず、なんだか知らない人のようだった。 

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