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――ゴーン鉱山、廃棄された採掘場。
ソラリスでの鉱物資源を一手に引き受けるゴーン鉱山。鉱山自体がかなりの大きさということもあり、採掘量が落ちた場所はそのまま打ち捨てられていた。精霊石も無く、複雑に入り組んだ坑内はモンスターが住み着くことが多いこともあって冒険者ギルドにはその討伐依頼が舞い込んでくる。
「坑内って聞いてたからせまいのかと思ったらそうでもないんだな」
「横並びに3人歩けますし、ところどころ広場になってるからモンスターとも戦いやすいですね」
「ウチの会長・副会長は余裕だねぇ。このまま戦闘を任せたいくらいだよ」
大剣を担いだシンさんに、2刀を腰に差したサラさんが並んで歩き、その1歩分後ろに俺が続く、という陣形というには怪しいがこれが俺たち3人の普段の光景である。作りがしっかりとしているのか、それともダンジョンは破壊不可能なのか、シンさんの爆発スキルにも坑道は耐えてくれている。ここに出てくるモンスターはどちらかというと攻撃力に優れたものが多く、素早いモンスターは少なかった。しかし、一部のモンスターに変化が起きているようで、防御力が高くなった子鬼族や、鉄の甲羅を持つ陸亀など表では見ないモンスターもいる。そして一番の問題は――
「げっ。また出た」
「よーしケイスケ。おめぇは後ろで素振りでもしてろや」
岩石に意識が宿り生まれたとされるモンスター。岩石クモの存在である。
厄介なのは、普通の岩石ではなく、鉱物がふんだんに混ざった岩石のため、俺の得意な炎魔法がほとんど通じないということだ。近くで転がっている黒い石は恐らく鉄混ざりだろう。恐らくこのクモモドキは鉄が中心のモンスターということだ。ちなみに鉄を溶かすには1200度の温度が必要だと聞いたことがある。フレイムスピアにそんな高温は出せない。スキルを撃っても全く気にされないどころか、相手の温度をムダに上げ、触れれば高温による状態異常『火傷』を発生させるという利敵行為になってしまう。それを経験した俺たちは炎禁止を締結し、水・雷で対応しようとしたが……。
「ふふ。まぁケイスケは後ろで棒崩しでもしてなよ。後でお姉さんが遊んであげるからね」
何故かはわからないが雷は無効化。もしかしてアース効果とかそんなのだろうか? ウォーターボールの飛沫程度では表面を削ることさえできない。つまり、岩石クモ相手では魔道師は完全に要らない子扱いになっていた。雷魔法なら砕けると信じていたのにヤツは見た目だけの魔法だった……。他に出てくるコウモリとか、生物相手なら強いんだけどね。
「ま、1匹だしすぐ終わるよね」
そう言って俺は杖を構える。指先にそっと乗せると倒れないよう、腕を動かし、時には体ごと移動しながら杖が倒れないようバランスを取っていた。いやいやこれはなかなか難しいな。うむ。
「お前は何をやっているんだ」
呆れたような表情でシンさんが俺を見ていた。
声をかけられたせいで今まで耐えていたバランスが崩れる。時間が緩やかに流れているかのように、杖が回転しながら落ちていくのがしっかりと確認できた。そして坑道に敷かれていたレールと杖の先端部が見事にぶつかり……。
――――砕けた。
「へ?」
「うお」
「あちゃー」
砕けた。それはもう無慈悲に。またまたご冗談を、とでも言いたくなったが、目の前にあるのは先端の宝石が砕けた可哀想な我が愛杖。持ってみると情報ウィンドウが立ち上がった。
・壊れた杖
魔石が壊れ全ての魔力を失った杖。木の枝とほぼ変わらない。
魔力上昇(小)
「こ、これは……」
ウィンドウが告げる現実に打ちひしがれていると、後ろにいたシンさんが声をかけてきた。振り返ってみるとシンさんの眉が下がり、目線も忙しなく動いており、申し訳なさそうに頬をかいている。
「あー、その、まぁ、うん。なんだな。悪い。えっととにかく街に戻ろう」
確かに。杖で遊んでいた俺が悪いといえば悪いのだが、まさか壊れるなんて想像だにしていなかった。とりあえずはモンスターの討伐数も十分だし、一刻も早く戻って武器の調達に走らないと。
「はっはっは。いやぁ壊れるとかすごいな。杖はデリケートだって聞いたことあるけどさ、こんなに簡単に壊れるとか」
サラさんは笑いっぱなしだ。いや、これ死活問題ですけど。「詠唱破棄」が無くなるとか今までアドバンテージを取れていた部分の消滅だ。これはマズイ。一気に並みの魔道師にランクダウンしてしまう。
「これでただの魔道師に戻ってしまったね。ま、ようやくチュートリアルが終わったとでも思ってればいいさ」
そう。俺の他にも特殊武器をもらったプレイヤーがいたことがわかっている。さすがに1500人もいれば似たような人間がいるもので、攻略サイトにはいくつかの武器情報が載っていた。性能はかなり良い物なのだが、耐久性が無いという欠陥武器だった。俺の杖も今まで大切に使っていたので無事だったのだが、つい出来心でこんな事態になってしまった。現在ではほぼ壊れてしまい、特殊武器を持っているプレイヤーなんて存在しないと言われていたのに……。みなさん、最後の1つも壊れてしまいましたよ……。
もちろん確かめたわけじゃないし、最後かどうかは知らないけどね。
「はぁ。そうですけどね。今までお世話になったのは確かなんでとりあえずは残しておきますよ」
インベントリの奥底にひっそりと保管し、来た道を引き返すことにする。
鉱山入り口に出るともう日が暮れてきていたが、3人ということもありそのままソラリスへ向けて歩き出す。夜中歩き通し、なんとか昼頃には到着できた。途中で数回モンスターの襲撃もあったが問題無く、2人がさっくりと倒してくれた。ついでに俺も魔法で援護はしておいた。
「はい。討伐依頼完了ですね」
支部で報酬を受け取り、クランカードに実績ポイントが加算される。
「クラン『戦う生徒会』は現在30ポイント貯まっています。100ポイントになれば紋章付与が許可されるので頑張ってくださいね」
営業スマイルで教えてくれる職員にこれまた全力で営業スマイルで微笑み返すが、フラグなんて存在しなかったようだ。まぁダメ元だったしどうでもいいけどね。他にも待っている人がいるので、とやんわりと邪魔だと告げられ支部を出るとシンさんが大剣に寄りかかりながら待っていてくれた。
「まだまだ先は長いな。そういやサラ姉はどこいった?」
「もうログアウトしましたよ。シンさんによろしく、と言って」
「いやいや、自分で言えばいいし。すぐそこにいたのにどんだけ面倒なんだよ」
そういえば俺もログアウトしてないな。体が慣れてきたのか、かなりの長時間ログインできるようになった。向こうの体も頑張っているようで、出来る限り生理現象を止めてくれている。数日おきにログアウトするようにはしていたが、今日のところはここまでにしておくことにした。武器の情報も集めたいしね。
「んじゃ俺もそろそろ落ちますね。杖の情報も集めたいんで」
「そかそか。俺もちょっとしたら落ちっかな。お疲れさん」
「お疲れさまでした」
そうして俺は現実の世界に戻ることにした。




