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世界の隣人 -Another World-  作者: タンス
第3章 守護者ソラリス
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 城壁からの攻撃にも怯まず、モンスターはどんどん近づいて来ていた。このままだとすぐに足元の戦士たちとぶつかるだろう。俺はそこでとあることに気づいてしまった。


 そう、このままだと同士討ちになる。


 パーティを組んでいない冒険者たちはお互いの攻撃が当たるのだ。誰かが検証していたが、ある程度までのダメージが入るらしい。相手を倒すまではいかないのだが、その後にモンスターの攻撃を受ければ簡単に死んでしまう。つまりは間接的PK――プレイヤーキルとなる。普段なら逃げることもできるが、今回はそんな悠長なことなどできない。周りのプレイヤーたちもそれに気づいたようで、少し攻撃の手を緩めている者もいる。


「おいおい。援護射撃もできないんじゃないか? 前線から少し下がった場所だけ攻撃しろってか」


 そんな声が聞こえてくる。イベント失敗でどんなペナルティがあるのかわからない以上、確実にモンスターを減らしたい。だがそれは同士討ちの危険性もかなり高い。プレイヤーも焦燥感が隠せなくなってきていた。


「っ! 制約魔法の発動に成功しました! 条件はギルドカード!」


 石を耳元に当てていた騎士が叫ぶ。そんなことを言われてもよくわからん! 魔法発動のため口には出すことはしなかったが、それでも目だけで威嚇しておく。そんな視線を浴びて、自らの説明不足を思ったのか、騎士はもう1度叫んだ。


「ギルドカードを持った方たちは同士討ちがありません! 『ギルドカードを持つ』という制約に従うことで効果が出ます!」

「マジかよ」

 

 同士討ちが無くなった、と聞いて一気に攻撃が激しくなった。ご都合主義もいいところだが、今はそんなものに突っ込みをしている暇はない。

 足元では砂埃が舞っている。とうとう彼らも戦闘を開始したようだ。およそ人のものとは思えない、おぞましい叫び声の中に聞きなれた声が混ざっていた。


「……の……うッ!」


 なんと言っているかはよくわからないが怒声だろう。城壁まで届く声なんて出していると疲れてしまうんじゃないか。まぁ元気そうで何よりだ。こっちは少し疲れが出てきている。インベントリからマナポーションをいくつか取り出し、地面に置いてまた攻撃を再開した。




「ぷはっ」


 マナポーションを飲み干し、空になった容器を投げ捨てる。中身が無くなった容器はそのまま光の粒となり消滅した。魔力は回復したが、マナポーションは持っていた分全てを使い切った。しかし、モンスター襲撃は終わらない。大地を埋め尽くすほどの数はもういないが、それでも門の付近では激しい戦闘が起きている。遠距離組もマナポーションを使い切り、仕方なく自然回復を行う者も出てきている。


「フレイムスピア!」


 炎の槍が突き刺さり、硬直したトカゲを見知らぬ戦士が切りつける。胴体から半分に分かれたトカゲはそのまま姿を消していった。もう、トドメを持っていかれた、なんて言う元気なんてなかった。いや、力を合わせてこの局面を乗り切るしかないと頭のどこかで思っていたからか。いつ終わるのかわからない、この襲撃に耐えるしか道はないのかもしれない。


 そんな厭戦ムードが漂っていた。



 おおおおぉぉ


 突然、鬨の声が辺りに響き、騎士団がモンスターに雪崩れ込んでいく。増援。それを理解するまで数秒かかった。他のプレイヤーたちも動き始める。


「いけるか?」

「増援とか遅いって」

「こっちに来たってことは他の門は終わったの?」

「じゃあこれで終わりか! 気合い入れてこうぜ!」


 根拠は無いが、それに反論する馬鹿なんていない。せっかく持ち直した雰囲気を壊すなどもってのほか。ここぞとばかりに俺は両手で杖を掲げ、炎を放った。


「燃え尽きろ! フレイムスピア!」


 不自然なほど大きい動きだったのは自分でもわかる。それにフレイムスピアは相手を燃やす魔法じゃない。だが、それを見て、周りの雰囲気が変わった気がした。


「クエスト『導くもの』を達成しました。称号『扇動者』を獲得しました」


 頭にアナウンスが流れた。しかし今は気にしてる暇はない。一気に畳み掛ける。

 騎士団と冒険者たちは一丸となってモンスターの群へ剣を向ける。数はみるみる減っていき、誰もが勝利を確信したその時、大地が揺れた。



「何だ……?」


 その声は誰のものだったか。だがそれは皆の声を代弁するものだった。

 そして大地を揺らす正体が現れる。


 山。そう錯覚するほど巨大なモンスター。遠目から見ても10メートルは超えているだろう亀だった。

 真っ黒な甲羅からは赤茶色の手足が伸び、開いている口からは炎が漏れている。下にいるプレイヤーたちはそれを見て固まっている。


「やってられねぇ! 何なんだよあれは! 終わりじゃねぇのか!」


 罵声のような叫び声。持ち直していた空気が一気に萎んでいく。俺の中の何かが言っている。あれには勝てないと。圧倒的な存在感を持つ亀が近づいていた。


「ラ、ランドタートル……」


 震えるようなか細い声を出したのは、伝令役になっていた騎士だった。顔は真っ青で実際に震えている。


「大海嘯はおとぎ話じゃないのか……。あれが実在していたなんて……」


 騎士は震える両手を握り締め、ぶつぶつと言っていたが、石を取り出して話しだした。


「報告します! ラ、ランドタートルです! ランドタートルが現れました! 我々では持ちません!」


 負けイベントなのか? 持ちませんって都市が破壊されたらどうなるんだよ。俺は攻撃を止め、プレイヤーたちも視線をその騎士に集中させていた。

 そして、石を耳に当てていた騎士の表情が突然明るくなる。


「冒険者の皆様! 領主様が転移してこられます! そこを空けてください!」


 腕を振って退くよう促され、空いた場所に真っ赤な魔方陣が浮かんだ。


 

 魔方陣から天を衝くような白い光が湧き上がる。その光が納まった後には、数人の騎士と共に金の髪をなびかせ、白銀の鎧に身を包んだ美しい少女が立っていた。

次回更新は少し開きます。

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