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会話文の1行空けをやめてみました。
見辛かったらごめんなさい。
「これはもしかしてでっかいイベントじゃないか?」
シンさんはかなり嬉しそうだった。現在、職人製のチェインメイルに身を包み、手足も行動の妨げにならないような小手やグリーブを装備している。武器も以前までのぎりぎり剣と呼べるような鉄塊から、ツヴァイハンダーと呼ばれる2メートルほどの両刃の大剣、刀身だけでも1.5メートルはあるのではないだろうか。それに持ち替えてからというもの、戦闘が楽しくてしようがないといった様子なのは俺もよく知っている。破壊力を追い求めた彼は一目見てその剣を選んだそうだ。
「そうだね。きっと都市にモンスターが攻めてきた! とかじゃないかな」
兼業職人だと教えてくれたサラさんは、実は戦士職に就いていた。シンさんとは違い、手数で勝負するタイプの戦士だった。右手に二等辺三角形の刃形のショートソードを持ち、左手にはマインゴーシュという鍔が刀身に向かって反り返っている独特の形をした防御重視の短剣を持つスタイルだ。攻撃を受け流し、ある時は受け止め、ショートソードで切りつける。
「見学だけして戻りませんか? 他のプレイヤーもいることだし。絶対そのイベント大群で押し寄せて来てますって」
そして俺。炎をメインに水と雷を操る魔道師だ。3人で狩りをしたこともあるが、大体前衛の2人で終わってしまう。なので、一番の仕事が魔法を当ててモンスターをおびき寄せることになっていたくらいだ。密かに2人とも戦闘狂だと思っている。
「やれやれ。うちの魔道師サマは相変わらずですなぁ」
「ほんとほんと。詠唱破棄を持ってる凶悪な魔道師のクセにね」
2人とも頭を振り、やれやれといった表情だ。『詠唱破棄』があっても炎限定だし、威力も落ちる。他のプレイヤーの方が強いと思う。
「わかってないな。条件付きでも詠唱無しってことはだな、状況に応じて攻撃できるってことなんだよ。普通は詠唱時間があるからそのタイミングがずれるって訳だ。まぁ先読みして魔法を撃つような人もいるって話だけどな」
「他にも連携が上手いパーティだとできるってさ。私のとこに買いに来てたプレイヤーの中にもいたかもしれないね」
へー。確かに戦士職のようにほぼ、即発動ができるのは強い。魔法名を口に出す必要があるので0秒ということはできないが。ただ、俺の中のイメージは、ここ一番で魔法を撃って敵を消滅させる、そんな大魔道師を目指したいのです。
「君の考えはわかる。おいしいとこ取りの大魔道師になりたいんだろう? でも範囲が広い魔法スキルなんて見つかってないし、今は地道にやれってことさ。……そういえばLv5になったら新しいスキルが増えるとか聞いたね。まずはそれを目標にしようか」
サラさんは意外と堅実な意見を出してくれることが多い。さすが年上だな。シンさんもサラ姉と呼んで慕っているようだし。まぁせっかくのイベントだし、Lv5に近づけるよう頑張るしかないな。……できれば遠くから攻撃だけしたい。
「お、着いたぜ。門番は……っと。おー、プレイヤーが一杯じゃんか。確実にあそこにいるわ。俺らも行こうぜ」
先頭を切って歩き出すシンさんに着いて行くと、プレイヤーに囲まれた門番が説明をしているところだった。
「――ですので、外に出て迎撃する方と、城壁の上から遠距離攻撃する方に別れていただきます。遠距離攻撃ができる方はこちらから城壁に上ってください」
なるほど。確かにそれがいいよね。危ないことは前衛がやればいい。安心した様子の俺を2人が何か見ているが気にしないことにした。
「ちっ。これだから軟弱者は」
笑いながらシンさんは頭を軽く叩いてくる。少し前に筋トレをさせられたが思い出が蘇る。ちなみにいくらやっても筋肉痛が起きなかったので意味が無いという結論に終わった。戦士とは違うんです。もっと労わって欲しい。
「私も筋力増強剤を調合できるよう努力してるんだけどね。なかなか難しいよ」
俺たちを見て、サラさんもそんなことを言い出した。いや、アイテムが設定されてないと作れないでしょうに。努力の方向を間違えないでください。
「拳で戦う魔道師なんていい話のネタになりそうなのに……」
シンさんはまだ諦めてなかったのか。というかあれは剣を持って魔法も使える、という理想であって、拳法家の話ではなかったはずだ。どこで間違ったのか。
「ほらほら。それくらいにして。前衛組と後衛組で別れるのは仕方ないからね。ケイスケは私たちの凛々しい姿でも見ておきなさい」
2人はそのまま門から出て行った。俺も城壁に上るため、塔に入っていく。
城壁には既に魔道師や弓を持ったプレイヤーたちがいた。各々、好きなようにくつろいでいる。まだ敵も見えないしね。などと思っていると1人の騎士が塔の扉を乱暴に開けて飛び込んできた。
「ほ、報告っ! モンスターが現れました! その数は、か、数え切れません!」
こいつは何を言っているんだ。さっき見たけど何もいなかったはず。もしやイベントが始まったのかと、もう一度確認してみるとその光景に肌が泡立った。
敵、敵、敵。モンスターだらけ。さっきまで地平線が見えていた景色は、半分が真っ黒に染まっている。いやいや多すぎるだろう。バランス調整って言葉知ってるか? そんなことを言いたくなるくらいの数だった。角砂糖を外に1時間置いたような、虫の死骸に集まる蟻たちのような。蟻が1匹ならどうも思わないが、数百、数千集まると気持ち悪い。まさにそんな光景だった。
「うわぁ。気持ち悪い」
周りからもそんな感想がもれている。大群ってどうしてあんなに気持ち悪いのだろうか。
「こ、ここにいる方は、射程距離に入り次第攻撃を、お、お願いします!」
落ち着け。あと水を飲め。騎士は息が上がってまま大声を出すものだから切れ切れになっている。ちなみに攻撃の許可が出てから、プレイヤーたちの目の色が変わり始めている。城壁からは攻撃し放題のボーナスステージのようなものだ。嫌悪感を放り投げて恩恵に与る方が賢い。
そろそろ攻撃ができそうな距離までモンスターが近づいてくる。最初は黒の点だったものが、ここまで来るとその姿かたちも見えてくる。
この辺りでよく見かける歩く樹はもちろん、人型のモンスターも多い。醜悪な小人や、2足歩行の鳥頭、トカゲ人間もいた。ついでに巨大な蜘蛛、犬か狼かわからないが獣たちが先頭を切っている。
大群を見ていると突然、隣から風切り音がした。そちらを見ると、弓使いたちが攻撃を開始していた。ということは弓は魔法よりも射程距離が長いのか。魔道師たちは杖を握り締め、射程に入るのを今か今かと待ち構えている。
矢の雨を浴びながらもモンスターは前進を続ける。そしてようやくその時が来た。
「フレイムスピア!」
「サンダーボルト!」
スキル発動のキーが叫ばれ、魔法の第一波が襲い掛かる。皆、詠唱は終わらせていたようだ。色とりどりの魔法がモンスターに飛んでいく。俺も負けじと攻撃を開始する。
「フレイムスピア!」
「我が怒りよ 大気に満ちて刃となれ サンダーボルト!」
「赤き願いよ 焔とならん フレイムスピア!」
高速詠唱で早口になった詠唱が周りから聞こえてくる。しまったな。高速詠唱を買っておけば良かった。こんな状況では狙った獲物が既に倒されていた、なんてことが起きてもおかしくない。試したことがあったが、いくら頑張っても高速詠唱が無ければ早口で唱えることはできない。その制限を作ったヤツが憎たらしい。
仕方ない、炎魔法でやるしかないか。そう決めて、杖をしっかりと握りなおした。




