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20か30か、多くのモンスターを倒し、目的の素材も集まったころサラさんからメールが届いた。
『盗賊団のクエストが達成されたみたい。ポータルが使用可能になってみんな移動してるよ。ケイスケも一度戻ってきたらどう?』
つい興奮して変な声が喉から出てしまった。隣にいたシンさんはびくりと肩を震わせこちらを凝視している。
「すいません、でも盗賊のクエストが達成されたって聞いて。ポータルが開放されたらしいっすよ」
「マジかよ! んじゃ町に戻るとするか。売り物もあることだしな」
戦利品は1000パールちょっとに素材が20を超える。もちろん、合間合間に採集していたおかげで染色材料もかなりの量だ。
逸る心を抑えられず、全力で町に戻ることにした。
「ふぅ! やっと着きましたね。なんだかプレイヤーの数も心なしか少なくなったかな」
「まぁログアウトしてるのもいるからな。でもまぁ移動してるのは確かだろうよ」
シンさんが空中で指を動かしている。恐らくフレンドに連絡を取っているのだろう。
ちなみにこのゲーム、メール機能はあるがチャット機能は無い。戦闘中に突然声をかけられて死ぬ被害を無くすためだそうだ。緊急連絡を取れないが諦めるしかない。遠く離れた知り合いとチャット機能を利用したい場合、クランを立ち上げて、クラン専用チャットを利用するしかない。少々不便な作りである。
「フレはみんな次に進んだってさ。次の町は周りを城壁で囲んだでっかい都市らしいぜ」
そんなことを聞かされてはすぐに向かいたくなってしまう。だが、俺にはローブを作るという使命がある。
シンさんがそわそわと体を動かしていた。きっと次の町に行きたいんだろうな。さすがにローブが出来るまで拘束するのも悪い。
「あー、先行ってていいっすよ。俺はローブ作ったりフレンドに挨拶してから行きますんで」
「そっか! わりぃな!」
シンさんは即消えてしまった。ここで得られる物は少ないし、少しでも早く情報を仕入れたいのだろうと考えた。もしかしたら金属素材が手に入る可能性もあることだし。
消えた方角を見ていた俺はくるりと向きを変え、北部へと歩いていくことした。まずはサラさんに染色剤を作ってもらい、それからローブ製作の依頼だ。織物職人の知り合いもいたようだしお世話になりっぱなしだな。
「や。もう移動してるかと思ったよ」
そんなセリフを言われてしまった。ローブが欲しいって言ったじゃないですか。恨めしそうにサラさんを見ると、彼女は頭をかきながらあさっての方を見ていた。
「まぁそれはいいとして。染色剤の材料は持ってきたかい? 一応知り合いには、ローブを欲しがってる子がいるって伝えてあるけど」
「これくらいあれば足りますか? ローブ素材は十分集めたんですけど染色剤の素材はそれくらい必要になるか聞いてなかったんで」
インベントリに入っている15本を取り出すと、両手で抱えなければ持つことができない。我ながら取りすぎてしまったか?
全て受け取ったサラさんは目の前にどさりと置くと、乳鉢や試験管立てがセットになっているアイテムを取り出した。
「これが調合キットってやつさ。すり潰して水と混ぜれば出来上がり。魔力を消費して時間とか温度をすっ飛ばして完成させるんだとさ」
乳鉢に入れた花がどんどんすり潰されていく。潰された花から濃度が高いのだろう、赤黒い液体が染み出している。15本全てを使ってしまったが所用時間は1分も経っていない。かなり加速されてるなぁ。
その液体を今度は試験管に入れ、水と混ぜていく。サラさんの手と試験管の中の液体がふんわりと輝いていることから魔力を消費しているのだろう。5本の試験管全てに同じように入れたあと、袋から手のひら大の瓶を取り出し中身を入れ替えた。
「はい。これで完成。染色剤(赤)だね。これを持ってギルドに行けばいいよ。名前を言って、私からの紹介って付け足せば織物職人のところに案内してもらえるから」
次の町に行けるようになったお祝いとして、代金は取られなかった。ローブにいくらかかるのかわからないため、その心意気がありがたかった。
サラさんに教えられた職人ギルドはこじんまりとした建物に入っており、泊まっている酒場よりも小さい。
中に入ってみると、数人の職員と受付が2ヶ所。少し不安を覚える。
「いらっしゃいませ。今日はどのようなご用件で?」
西洋顔の若い女性に尋ねられる。営業スマイルだろうが、その微笑みを直視するのが難しい。目線を首に持っていき、サラさんから言われたことを思い出した。
「サラっていう人からの紹介で来たんですけど……。あ、自分ケイスケって言います」
「サラ様からの……。織物職人にご用でしたね。こちらになります」
思案顔になったのもつかの間、その女性は奥の扉に案内してくれた。扉を開けるとそこには地下に続く階段。この建物が小さかったのは地下にスペースを割いているからのようだ。
階段を下っていくと、職人たちが各々機材の前で座っていたり、出来上がったアイテムだろうか、服やローブを見せ合っている。
「ん? なんか作って欲しいものでもあるの?」
大学生くらいだろうか、優しそうな顔の男性が声をかけてきた。顎のラインに沿って髪を流し、二重のまぶたに整えられた眉毛。バランスの良い鼻に口元は自然に上がり、女性が喜びそうな笑顔を作り出している。いわゆるイケメンというやつだ。
「ローブを作ってもらおうと思って。知り合いの職人さんからここに行けって言われたんです」
「んー。じゃあ君がケイスケか。サラから聞いてるよ。赤のローブだろ? 欲しいのは」
肩をぽんぽんと叩かれ、そのまま機材の前に連れて行かれる。首をこきこきと鳴らす目の前の青年が、サラさんの知り合いの織物職人なのだろう。
「ローブっていいよね。僕も自前で装備してるよ。本職は戦士なんだけどさ」
この人は自分の好みに合うローブを作るために織物スキルを取ったらしい。防具扱いにはならないが、服も作ることができ、町で着ている人も多いそうだ。
「じゃあ素材と染色剤をお願いね。代金は1400ってことでいいや」
素材と代金を渡すと、機材に布切れを並べ、側に瓶を置いた。体全体が薄く発光し、数秒後には茶色ローブが完成していた。
「よし。なかなか綺麗にできた。では染色開始っと」
蓋を開け、瓶の中身をローブにかけていく。ローブが染色剤を全て飲み込むと、濃淡入り乱れていたはずが均一に染まっていく。
出来上がったのは、フード付きの赤いローブ。想像していたよりも目立つなこれ。
「はい。大事にしてね」
渡されたローブをさっそく装備してみる。今まで着ていたローブは処分してくれるらしい。
「なかなか似合ってると思うよ。炎魔法が得意ですって感じでね」
出来栄えに満足したように、青年は腕を組んで頷いている。着てみると、肌触りもかなり良く。今まで着ていたローブとは比べ物にならない気がする。
「ありがとうございました」
「こちらこそ。次の町に行くのかな? また会うこともあるかもね」
最後まで笑顔を崩さない青年に別れを告げ、俺はギルドを後にする。
出てすぐサラさんにメールを送り、ポータルがある町長の家に向かうことにした。




