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露店が並ぶ通りを抜け、素材を扱う店に入る。ここは町の住人が営む店で、金属から木材、調合素材まで何でもそろっていた。
店主はカウンターの奥に座って本を読んでいたが、こちらを確認すると読むのを止め、じろりと不躾な視線を送ってきた。そんな視線を受け流し、興味深く棚に並んでいる商品を見ていく。先ほど拾ったデッドツリーの小枝も取り扱っており、なんとその値段は10束で1万パール。粗悪品だと思っていたが、実はそうでもないのか? とりあえず今は使う当ても無いので売り払うことにした。
「すいません、これ買い取りお願いします」
インベントリから小枝を取り出して店主に渡す。
「あぁ。これか。12パールだな。ほらよ」
引き出しから小銭を出し、カウンターに適当に置かれる。既に売買は完了してしまったようだ。買い取り、じゃなくていくらになるのか、と聞けばよかった。
「えっと。でもそこのはかなり高くないですか? なのに10パールって」
ボッタクリもいいところだ。さすがにこれは大人しく従うわけにはいかない。噛み付くと店主は眉をひそめ、不愉快そうに口を開いた。
「こっちも生活がかかってんだ。嫌なら次から他の所にでも行けばいい。ま、買い取りやってるのはウチだけだがな」
こいつ……。独占禁止法って言葉を知らないのか! いや、ここにそんな法律あるのかはわからないけど。あぁ、村のみんなが恋しい。
「……わかりました。じゃあさよなら」
そう言って店を出ると、そのまま入り口の前で考えこむ。これではドロップを売って生活する予定が崩れてしまう。みんな金策はどうしてるんだろう。あそこに無かったのは食材くらいだ。食材はそれなりに売れるのかな。
そういえば、地理は覚えてきたが他のことは知らない。情報を手に入れる必要があるな。でもシンさんはもうログアウトしていないし、俺に他の知り合いなんて……、いた。でも苦手なんだよなあの人……。でもこのままだといつかお金が無くなるし……。仕方ない、背に腹は代えられないってヤツだ。
重い足取りで、あの人物と初めて会った場所に進んでいく。いるといいなぁ。いなかったらいなかったで良いけど。いや、やっぱいて欲しいかも。花占いのように、いる、いないと頭の中で繰り返し呟きながら歩くと、記憶に新しい赤茶色の髪が目に入った。
「うっ。いた……。いや、いてくれて良かった」
俺よりこの町のことに詳しい人。それはここで露店を開いていたサラさん。商売しているくらいだから金策くらい知っているはずだ。
「こ、こんにちは」
声をかけてみると、サラさんは動きを止めてじっと見つめてきた。あれ?
「あー! あの時の少年か。えーっとケ、ケ、ケイスケだったよね。うんうん。今日はどうしたんだい」
おぉう。あんな絡み方をしたくせに忘れているとは……。確かに覚え辛い顔とは良く言われる。でも勝手に絡んでそのまま忘れてるとかショックなんだけど。
「いえ実は……」
素材屋での出来事を話す。サラさんは、ふーんとかへーとかそんな返事ばかりで本気で聞いてるようには見えない。こちとら予定が崩れて余裕が無いんですよ。
「本当に困ってるんです。お金ってみんなどうやって貯めてるんですかね?」
「食材はそんな買い叩かれないよ。あと、人型のモンスターはお金落とすからね。ついでに職人スキルさえあれば、素材集めて完成品を作ってその辺の店に売ればいい値がつくし。ちゃんと攻略サイト見たらどうかな?」
めんどくさそうにサラさんは答える。そのくらい自分で調べておけよ、と心の声が聞こえてきそうだ。
「はぁ。でもネタバレとかあったら嫌だなぁって。ついつい他の情報とか見ちゃうタイプなんで……」
「それは自分が悪い。情報はきちんと使ってこそだからね。ネタバレが嫌だけど他の情報見るとか、そんなの自分の意思でどうにでもできるでしょうに」
……正論だ。完璧な正論を言われて少し落ち込む。ごめんなさい、と言ってそこから離れようとする。しかし、そんな俺の腕をがっしりとサラさんは掴んできた。
「いやー言い過ぎたわ。ごめんね。つかケイスケの落ち込んだ姿ってちょっとイイね。お姉さんキュンとしちゃったわ」
ふふ、となんだか嫌な笑い声をあげたサラさんは、まだしっかりと俺の腕を掴んだままだ。ちょっとそういうの慣れていないんできついです。
「ん? ほほぅ。ケイスケってあんまり女の子と仲良くしてない? これくらいで顔が赤くなってるとか可愛いねぇ」
にやにやと、今度は両腕で俺の腕を掴みにかかった。ほんとヤメテ! 本気で振り払うのも悪いと思い、軽くしか腕を払えなかったのがいけなかったようだ。
「まぁ、座んなさい。悪いようにはしないからさ」
目の奥が笑ってるように見えるのは気のせいだろうか。しかしこの人力が強いな。ぐいぐいと引っ張られて仕方なく隣に座ることにした。
「攻略情報を見ずにやるのもいいけど、それならそれで自分で調べる努力もしなきゃね。でもお姉さんは優しいからケイスケに情報を渡してあげよう。その代わり……」
「ありがとうございました。サラお姉さん」
「いいねー。くくく。いつでもお姉さんの所に聞きに来なさいね。待ってるよー」
そう、俺はサラさんをお姉さんと呼ぶという条件で、サラさんの持っている情報を教えてもらえることになった。
彼女いわく、年下の男の子を可愛がるのが趣味だそうで、一定ラインを超していれば俺のように特徴の無い顔付きでも関係無いらしい。そして、相手の恥ずかしがる顔を見るのが何よりも楽しいという、とても良い性格をしていた。
フレンド登録も半ば強制的に行われ、魔法アイテムの素材は必ずサラさんの店に持ち込む契約もいつの間にか決められていた。
「い、勢いに負けた……。年上の女の人ってみんなあんな感じなのか……?」
羞恥心とか恐怖心とかそんなものが胸の中に生まれたが、それを必死で隠すように今日の夕食のことだけを考えて酒場に戻ることにした。




