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「生徒会長じゃないですか?」
「は? なんで?」
突然そんなことを言われて彼は戸惑っている様子だった。何度か学校行事で見かけたことのあるツンツン頭。これは間違いない。我が校の43代いや47だっけな? ……まぁいい。とりあえず生徒会長だ。
「俺のことを知ってるってことはうちの生徒か。ん? うちの生徒でここのプレイヤー……? お前、多々良ってヤツか!」
あれ? 何で俺のこと知ってるの? この人と話したことなんてないのに。
「いやー、クラスでさー。お前のこと話題になってたんだよ。声にぼかし入れてもらえなかったせいで全校生徒にバレた可哀想な人って」
あぁ……。3年生でもそんなことになってたんですね……。黙って空を見上げる。目から汗が零れ落ちそうだよ。
「ま、でも助かったわ。俺もだいぶ慣れてきたんだけどな。さすがに2匹相手は死ぬかと思ったぜ」
「だったら良かったです。助けるか迷ったんですけど声をかけて正解だったみたいですね」
それを聞いた会長は剣を肩に担ぎ、大きく息を吐く。
「いや、そこは人として助けろよ。生徒会長サマが死にそうなら命を捨ててでも助けろって校則にもあるべ?」
ありません。生徒と生徒会長はそんな奴隷みたいな関係じゃないんで。呆れた俺が立ち去ろうとすると、慌てたような声で引き止められた。
「冗談だよ! これくらい流してくれないと困るわー。お前真面目か!」
「いや、冗談言えるならもう大丈夫かなって思ったんで。それに俺なんかより会長になるような人の方が100倍真面目だと思います」
「はっ! スポーツ万能、成績優秀、品行方正な会長サマだからな。ぶっちゃけ、ゲームをやる時間が欲しくてランク落としたんだけど。テストは授業時間に集中してれば解けるものしか出ないし、バスケが好きだったから部活もそれにしただけだし。上っ面で判断されっからまぁ都合良いけど」
会長へ持っていたイメージが音を立てて崩れていく気がする。まぁうちのバスケ部は強くないけど、会長はキャプテンを務めて引っ張ってるってクラスのバスケ部が言ってたような。ついでに言うと、県大会は出場できなかったから春で引退したそうだ。
爽やかな笑顔、と一部の女子が喜ぶ、それなりに顔の整った会長の笑顔が今はなんか黒い。
「これ内緒な。そうだ、せっかくなんだし一緒にやろうぜ。少しは効率上がるだろうし」
会長は何かを操作するように、空中で指を動かす。すると会長の頭の上に文字が浮かんだ。パーティを組んだプレイヤーはお互いの名前が頭上に出るとの説明を読んだ覚えがある。
「シン? これって会長のキャラ名ですか?」
「は? お前、俺のこと知ってたろ? なら真二のシンってわかるべ?」
「いや、顔を知ってるだけで名前は覚えてなかったです。2年と3年じゃ棟が違うし会いませんからね。何回か行事で見ただけだったんです」
顔を押さえて、また会長はため息をついている。この人は生徒全員が自分の名前くらい覚えてるとか思ってるのか? すごい自信だな。
「まぁいいか。んじゃこれからはシンな。お前は……ケイスケか。魔道師なら後ろは任せるから。あと、その敬語はなんかなぁ。タメ口がムリならちょっとは崩せよ。せっかく学校の生徒同士なんだからさ」
兄貴分ってこんな感じなのかな。頼れるリーダーって感じがする。さすが我らの生徒会長だ。
「じゃあ、シンさん。これからよろしく」
「おう。がっつり行こうぜ。遊ぶ時は全力でやんなきゃな!」
にやりと笑うシンさんは黒いなんてことはなくて、素直にカッコよかった。
「よっしゃ。狙うのはアレな。食材狙いのついでに他も取れたらって感じでいこう」
「はい。んじゃシンさん前衛は任せたんで」
俺たちは、ダチョウに似た鳥を見つけ狙いを定める。羽部分は茶色ではなく真っ赤で悪目立ちしていた。シンさんは何度か戦闘した経験があるそうで、体当たりしかやってこない、飛ぶこともしないからパーティだと狩りやすく、プレイヤー間では鳥肉と呼ばれていることも教えてくれた。
「俺の後ろって言っても直線には並ぶなよ。体当たり避けたらお前に当たったとか笑えねぇからな」
「わかりました。魔法使う時は言うんでとりあえず横っ飛びか何かして逃げてくださいよ」
左の親指を立て、了解の意思を伝えてくる。1メートルを超えるような大剣を持つシンさんはそれを軽々と操る。重さはそこまで感じないと言っていた。その大剣を両手で構え、突撃していく。
「おぉぉぉらっ!」
シンさんの大きく振りかぶってからの一撃がダチョウの体に命中する。よろめいたダチョウを打ち上げるように再度大剣を叩きつける。それだけで倒せるのではと思ったが、踏ん張ったダチョウはシンさんへ体をぶつけた。その一瞬前に大剣を自分の前に突き刺して防御したシンさんだったが、その剣ごと吹き飛ばされてしまった。
一人で狩っていたときはこの後に連続で攻撃されて死んでいたらしいが、今は追撃する俺がいるのだ。ダチョウに向け、もう得意魔法になってしまったいつものスキルを発動させる。
「フレイムスピア!」
ダチョウは完全に俺のことを忘れていたようで、胸元へ横から飛んできた赤い槍を避けようともしなかった。頭は鶏レベルかよ。槍が突き刺さり、ぐらついたダチョウの長い首を、体当たりから立ち直ったシンさんが思いっきりなぎ払う。
「ふんぬぁぁぁ!」
フルスイングされた大剣の一振りで、首は鈍い音を響かせ関節でも出来たように折れ曲がる。そして、追い討ちとばかりに起きた爆発によってその体ごと地面へと叩きつけられた。
「ふぅ。良い仕事したぜ」
汗を拭うような仕草をしながらこちらを見るシンさん。
「ええ、新しい関節ができてましたね。動物愛護団体から狙われそうです」
「現実とゲームの区別をつけれらん人間がなんで権力とか持ってんだろうな。あいつらも肉食ってるだろうにそれはいいのかって話だよな」
「ベジタリアンじゃないとアレ入れないんじゃ?」
「そうなのか?」
「いや、知らんっすけど」
知らねぇのかよ、と軽く小突かれながらドロップを回収する。数キロはありそうな肉の塊が俺のインベントリに入る。ソウルバードの胸肉、だそうだ。酒場で売ったらすぐ食べられるのかとシンさんに尋ねると、少し時間がかかるから戻るかということになった。
「やっぱ仲間がいるといいよな。これからも時間が合ったら一緒にやらねぇ? 赤の他人よりは組みやすいしさ」
酒場に着くとシンさんがそんなことを言い、フレンド登録を申請してきた。許可すれば相手のログイン状況がわかり、フレンドのみに送ることのできるメール機能など便利なシステムだ。もちろん許可をする。
「これからもよろしくお願いしますね」
「こっちこそ。今日は俺ログアウトすっからまたな。肉は好きにしていいから」
太っ腹なシンさんを見送ると、昨日と同じ部屋を予約する。食堂が開くまで適当に時間を潰そうとしたとき、久しぶりにあの音が頭に響いた。
「クエスト『パーティを組もう』を達成しました。報酬として100パールを手に入れました」
もうちょっと報酬ください。そんなことを思ながら、俺は北部へと歩いて行った。




