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世界の隣人 -Another World-  作者: タンス
第2章 冒険者の町ソフィア
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 眠りから覚めるように俺は現実に戻ってきた。


 そして体に起きた異常とは生理現象、トイレだった。慌てて駆け込み用を済ませる。

 夕食を取ってからもう数時間。日付もとっくに変わり、そろそろ眠りに就く時間だ。体は「Another World」にログインしている間は休んでいるが、脳は起きているために睡眠が必要とされていた。


「さて、今日はもう寝るかな」


 ログアウトしてすぐは少し興奮状態になっているものの、ベッドに入るとすんなりと夢の世界に旅立っていった。




 ピーピッピッピ……。


 聞き慣れた目覚まし時計の音で目が覚めた。こいつは小学生の頃に買ったからもう10年近く現役で頑張ってくれている。その仕事ぶりを褒めるようにスイッチを叩きつけてアラームを止めるとパソコンに向かった。


 

 ホログラム型立体ディスプレイが実用化されて長い月日が経っているが、家庭用に普及しているのは昔ながらの据え置きディスプレイだ。ビジネスツールとして普及が進んでいるホログラムディスプレイなのだが、家庭では置き場所の心配が無い。カバンの中をスッキリさせたいビジネスマンと違うのだ。透過性も調整可能ではあるが、やはり後ろの景色が見えてしまい、ゆっくりと調べ物をしたい俺のような学生や主婦には人気が出なかった。


「攻略サイトはっと。へー。もう調理スキルは見つかったのか」


 そこにはいくつかのスキルの使用感や、店で買うことのできないスキルの取得方法など、役立つ情報が満載だ。誰でも編集できるため、確証が持てない情報もあるのが玉にキズだったりもする。


「包丁が売ってないから鍛冶で作るしかないとか……。金属職人は戦闘に生活に大活躍じゃない」


 いろいろ見ていると、クランという文字が目に付く。ギルドと同じようなものじゃなかったっけ? とりあえず見てみると、ゲームではギルドは職人組合のこととして扱われ、クランはプレイヤーたちが気の合う者同士で組むものらしい。所属するプレイヤーはクラン紋章というアイテムを作成することができ、武器や防具に刻印、縫い付けることで外に向けてアピールすることができるそうだ。


「クランかぁ。いつか俺も作ってみたいもんだな」


 気の合う仲間ができれば、の話だけど。ちょっとずつでいいから頑張ろう。

 時間はあっという間に過ぎ、昼食を取れと胃が抗議を始めた。それをなだめながら簡単にできる食事を取ることにした。



「さてログインしますか。ちゃんとトイレにも行ったし準備万端」


 専用ディスプレイを取り付け、「Another World」に飛び込んでいく。




「うーん。ここは北部……か。あの時ログアウトした場所のはずなんだけど人がいないですよ?」


 誰もいない空間に話しかける。少しばかり怪しい人になった気分だ。


「まぁ夜だしそんなものなのかも。モンスター相手にするのも昼の方が安全っぽいし、冒険者相手の商売じゃ売れない時間はそりゃいないよね」


 一人で納得し、中心にある酒場に向かうことにする。やはり夜は酒場と相場が決まっているのだ。現実では飲めないアルコールがここでは飲めるという情報に踊らされたわけじゃないよ。脳に酔った気分に似た効果を擬似的に与えるとかなんとか。体に取り込むことはしないから未成年でも安心なのさ!

 

 ……まぁ攻略サイトの受け売りですけど。運営会社は実際に酔わないといっても未成年の飲酒は推奨されません、と公式サイトに載せていたがね。


 そういえば街灯が点いてるな。ぼんやりとした光だと思ってたけど意外や意外、普通のLED街灯並みに明るい。夜道は怖いからありがたいです、はい。

 

 白い光が道に沿っていくつも並び、不審者もやり辛いだろうなぁと考えながらぼんやり歩く。酒場の前に着くと、入り口にはかがり火が焚かれ、街灯とのギャップがおかしかった。いや、これは狙ってやってるのかも。それらしい、ってのは大事だよね。


 入り口は観音開きのスウィングドア。よく西部劇に出てくるけどレンガ造りのこの町では国が違うような? でも詳しくは知らないから酒場のドアは世界共通だと思っておこう。

 パタパタといかにも、な入り口を進むと50人くらいは座れるような食堂になっていた。カウンターには常連っぽい人がマスターと会話を楽しみ、他の席では皿に山盛り積まれた肉を取り分ける数人のグループ。想像していたとおりの風景が広がっていた。

 

 空いている席に座ると従業員がすぐにやってくる。ってこの人プレイヤーじゃないか!


「いらっしゃいませー。ご注文は何にしましょー?」


 間延びする声。いや、こんなところで気にしてちゃダメだ。非現実なんだからこんな店員もいるさ。


「あー、まだ決まってないので。というかプレイヤーですよね? ここって働けるんです?」


「実は働けるのですよー。アルバイト扱いでお金がきちんともらえるのですー。私が最初に雇われたのでリーダーなのだー」


 ショートヘアーにくるくるとしたパーマを当てているこの女性はそう教えてくれた。大きい目が特徴的で、小動物を見ているような感じがする。歳もそんな高くなさそうで、もしかすると同じくらいかもしれない。


「そうですか。まぁとりあえずはこのリンゴのカクテルで。オススメの料理とかありますか?」


 メニューの一番上に載っていたお酒を頼むことにした。他のはまた次に頼めばいい。

 オーダーを聞いた彼女はにぃっと口元を上げ、静かに人差し指を唇に当てた。


「未成年の飲酒はオススメできないなー。でも店の利益になるから見逃しちゃう。オススメはねー、グリーンシープの塩焼きだよー。今日採れたばかりで新鮮なのだー」


 ゲームだからね。そう笑って彼女は店の奥に引っ込んだ。

 カクテルが来るまでメニューを眺めることにする。文字は日本語で書かれているため、文字がわからなくて変な料理が! という心配は無い。ウサギの肉や魚のメニューが並ぶ中、一際オーラを放つ存在があった。



「ブラウンフロッグの太もも香草焼き……。ヤツめ、本当に調理されておるとは……」



 あるかも、と思っていた料理は確かに存在していた。だが、メニューにフロッグの文字ある限り、俺は貴様を頼むことは無いであろう。

 罪無きメニューへ一方的な宣言を叩きつけていると、さっきの女性がカクテルを運んできたところだった。


「はーい。お待たせー。なんとなくだけど君、未成年っぽいよね。顔つきとか雰囲気が高校生みたい。現実じゃダメ、絶対だからねー」


 それだけ言うとさっさと移動していった。お客も多く入っているからだろう、忙しそうにぱたぱたと走り回っている。他にも2人の店員が同じようにせわしなく動いていた。



 違う女性、顔つきが西洋風なのでプレイヤーではない、が腕に皿を乗せてやってきた。

 目の前に置かれたそれは、一枚肉が食べやすい大きさにスライスされている、ステーキのような料理だった。


「こちらがグリーンシープの塩焼きになります。小皿にソースも付いておりますが、まずは塩だけでお試しください」


 洗練された動きとでも言うのか、流れるように動作を終えて去っていく。やっぱり店員ってこうだよね。

 地域は日本だからだろう、フォークとナイフの他に、箸まで準備されていた。細かい配慮が嬉しい。でも使いません。皿から一切れ、フォークで口に運ぶ。最初は言われたとおりに何もつけずに。


「うまっ! つか味覚もアリか! 食事の楽しみが増えたな」


 口直しにカクテルを一口。ふんわりと広がる甘い口触りが気に入った。ソースをつけては食べ、次はそのままで、を繰り替えすとすぐに料理は肉は無くなってしまった。満腹感が無いのが残念だ。もしかすると、ここでの食事だけで済まそうとする猛者を警戒したのかもしれないな。


 ついでに宿もここで取ることに決める。

 料金は食事と宿泊を合わせて230パールだった。村での生活により、インベントリには3000パール近い現金が入っている。余裕で支払いを終えると、2階に通され今晩お世話になるベッドに対面した。


「いやー、美味しかったなぁ。明日はちゃんと外の情報も集めてみるか。サラさんには……気が向いたら会いに行こう」



 布の服とズボンだけになり、ベッドに潜り込む。じんわりと擬似アルコールで緩んだ頭はすぐに眠りに就くことになった。

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