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リンと鬼  作者: すすす
鬼の村時期
1/16

01:さらわれましたー

 ある日、私たちは鬼にさらわれてしまいました。


 さらわれてしまったと言っても、鬼への供え物としてなので、ちょっと語弊があります。

 私たちの住む村は、実りの少ない、貧しい寒村でした。

 その中で子供や老人は、幾人も養えません。

 その上、盗賊だったり人を惑わす妖怪だったりを恐れる日々です。


 しかし、私たちは鬼へお供え物を捧げることで、鬼の縄張りに住み、盗賊や他の妖怪から守ってもらえるのです。

 捧げ物を用意するのは、数十年に一度で、周辺の村と持ち回りです。


 私の住む村が、捧げ物を用意する年になりました。

 私を含めた数人の少女たちが、村長さまの号令で集まります。


 村が用意した捧げ物は、数人の少女と、なけなしの耕作物です。

 捧げ物と、捧げ物を運ぶ者達は、口数も少なく、鬼との待ち合わせの場所に向かいました。






 村から半日歩いた時、待ち合わせの場所に着きました。

 そこには大きな二本の杉があり、おそらくこれが目印です。

 待ち合わせの場所には、他の村からも、少女たちと食料が用意されてありました。


 すべて合わせると、二十人前後の少女たちと、たくさんの食料です。

 粗末な輿(こし)や、豪華な輿があります。

 多くのお供え物は、村での質素な暮らしと相対して、かえって、これから起こる不吉な出来事を予感させます。


 少女たちの格好も、粗末だったり豪華だったり、様々です。

 ちなみに私の格好は、身なりを整えただけの、いつもと変わらない格好です。

 女三人寄れば、かしましい。などと言いますが、状況が状況なので、とても静かです。

 表情も硬く、悲しんでいたり諦めていたりです。


 私たちを連れてきた、村の衆も早々と帰りました。


「……。」

「……、……。」

「…………。」


 少女たちは静かです。

 いつ来るかも分からない鬼を、鬱々と待ってるのも何なんで、私は近くの少女と、こっそり交流を図ってみました。


 私は近くの数人の少女と、何回か会話をして、相手の緊張が少し和らいだかもしれない頃。

 あたりが青い薄闇に包まれ、日も沈み始めた頃。


 鬼たちは現れました。






「……。」

 さっきまで、少しさわめいていた少女たちは、一斉に息を呑みました。

 暗闇に現れた鬼たちは、供え物を運ぶのに十分な人数です。


 その数十人の鬼たちの身の丈は、個人差はありますが、人の二倍三倍ありました。

 頭からは、鹿とも牛ともとれない、白、黒、茶色、まだら、鬼によって色々なツノを生やしています。

 たてがみは、ごうごうと枯れ草のような色です。

 口からは、大小、凶悪な牙を、上から下から、生やしています。


 耳まで裂けた、人ならざる口も、大変醜悪です。


 格好は、獣の毛皮などなどを身にまとい、腰や背には武器を持ち、山賊の方がよほど気の利いた格好をしてると思われます。こわい。

 鬼たちは、供え物を一瞥すると、数人の鬼の指示に従い、持ち上げ始めました。


 少女たちも、悲鳴を上げる暇もなく、鬼にかつがれます。


「……!?」


 食われる。(食的に)


 などと危惧した少女たちですが、鬼たちは、少女や輿をさっさと持ち運び、移動をはじめました。

 諸々のお供え物を、良い塩梅(あんばい)に持ち、大漁大漁とでも言わんばかりです。


「……。」


 私たちは、鬼の肩の、前に後ろに適当にかつがれました。

 薄暗い獣道を歩いて行きます。

 鬼たちの体は、大きさからして人間と違うので、走っているのか歩いているのか、それこそ魍魎(もうりょう)に化かされたかのように、まわりの景色は流れてゆきました。






 不思議なものです。

 私は、流れる景色をただ眺めました。

 こんな状況に対して、はばかれる言い方をすれば、ちょっと感動していました。スピードすごい。


 鬼たちは、少女を含めた荷物を黙々と運び、私語は聞こえません。

 むしろ、少女たちのすすり泣きが聞こえます。


 しくしく…… くすん、くすん……


 そうですよね、こわいですよね。

 産まれ育った村ともお別れですし。私も、大きな鬼は怖いです。

 しかし、回りを流れる景色の何て不思議なことでしょうか。

 いつもより高い目線の、何とおもしろいことでしょうか。これは目が離せません。


 しかし、少女たちが泣いている時に、こんな風に楽しがるなんて、不謹慎かもです。

 もしかしたら、高い所が苦手な人もいるのかもしれません。そうそう、昔から、なんとかと煙は高い所が好きって……。

 私が無口に運ばれていると、


「リ、リンさぁん……。」


 私の名前を呼ぶ、少女の涙声です。

 ごめんなさい、こんな時に何ですが、そんな風に呼ばれると、ちょっときゅんとします。

 私(をかつぐ鹿角の鬼)の前を歩く(牛角の鬼にかつがれている)少女の声でした。

 さっき知り合いになった、私よりも、ふたつ年下の少女です。

 まだ親も恋しい年頃です。あらあら泣かないで、大丈夫ですよ。私は少女に声をかけます。


「だいじょうぶ。たぶん鬼の村まで、運ばれているだけだから。」


 まあ、見たままを言ってるだけなんですけど。

 先のことを考えると、実はなにも大丈夫じゃないんですけど。

 中身はなくとも、声かけは大事だと思うのです。


「だいじょぶよ。」


 私は少女に笑いかけます。

 根拠のない笑顔なのですが、人間ふしぎと、仲良くなった相手の表情につられてしまいます。

 少女はすこし落ち着きを取り戻しました。手を伸ばして、


「わぁん、リンさん。手を繋いでください~。」


「それはちょっと……、さすがに手がとどかないよ……。」


 私たちは、お互いに手を伸ばしましたが、いまいち届きませんでした。


「くっ、リンさーん……!」

「うう、ぃよいしょー……!」


 ファイト一発的に手を伸ばしたのですが、やはり届きませんでした。






 ――――某時。某倉庫。


 鬼たちは、人の村から頂いたお供え物を、整理していた。

 穀物、野菜、酒。または織物、貴金属。

 近年は悪天候による不作で、どこの村も世知辛い。

 運搬をしている鬼が、目録を確認している鬼に、世間話を始める。


鹿角(しかづの)。お前が運んでた人間たちは、妙にきゃっきゃしてたな。」


「そうだな。それソコの場所な。」


「おう。おれが運んだ人間は気が強くて、顔を蹴られたよ。」


 愚痴のようだが、少女の蹴りなど、猫パンチもいいところ。鬼にとってはご褒美です。

 他の鬼が、本気で陰鬱そうに言った。


「蹴られる位ならまだいい。おれなんか泣きわめかれたよ。一人が泣いたら、五人、十人と広がって……。混沌とするわ、いたたまれないわ……もう……。」


「……。」


「……。」


「……。」


 生きるための略奪、いや、そこの目録をつけている鬼風に言えば、「治安の向上とその報酬の、交換条件」とは言え、いたいけな少女を泣かせるのは、やはり寝覚めが悪い。

 鬼の一人が、「まあ……、なんだ……。」と、重苦しい雰囲気を変えようと、話題を変えた。


「おれうしろの方にいたから、分からなかったけど、きゃっきゃしてた人間って、どんな風だった?」


「片方はたれ目で小動物みたいなので、片方は切れ長黒目勝ち。鹿角が運んでいたほうが、切れ長黒目勝ち。」


「かわいい?」


「種類は違うが、両方かわいい。」


「……。」


「甲乙つけがたいな。」


「あとは好みの問題……か……。」


 鬼たちは、とても難解な局面を迎えたかのように、神妙な面持ちで、倉庫の整理を続けた――。






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