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64.兄が見ている世界 —料理対決⑤—

まきは、少しため息をついた後、

『先輩、もううちへは来なくていいです。』

と言った。


すると兄は、

『でも、期末試験の勉強を教えるって約束したよね?』

と言う。


まきは、

『平日の放課後は、妹があんな感じなので、家で一人で勉強します。』

と答えた。


だが兄は、

『心配しないで。二人まとめて俺が教育するから、学年トップクラスにしてみせる。』

と闘志を燃やす。


まきは、

『え……? 私が思い描いていた、学生カップルが一緒に勉強する微笑ましい光景にならない?』

と呟いた。

その可能性が出てきたことに、まきは軽く身震いした。


バスに乗ると、兄は厚手の膝掛けをまきに掛け、優しく腰をさすった。

まきは安らいだような、満足そうな顔をしている。

すると兄が、

『妹さんが言ってたけど、キツかったのに二日とも付き合ってくれてありがとう。』

と言い、まきの頭を撫でた。


まきは、

『えへへ』

と可愛らしく笑った。


そして、とても小さな声で、

『先輩、だーいすき』

と言った。


わたしは、うん、知ってた!

と思いながら、この光景をまり姉か、ありさが見てくれたらなーっと心の中で願った。


二人で家に入り、兄は早速料理の準備を始めた。

テーブルの上にギッシリ置かれた材料を見て、まきは固まる。

『先輩? これで何をするんですか?』


兄は、

『まきちゃん、これ今日作るパスタの材料。

色んな条件で試してみるから、それぞれの特徴や良い点、悪い点、それと順位を付けてね。』

と言った。


まず兄は、教科書通りのカルボナーラを作る。

そして小皿に少量ずつ盛り付け、

乾麺パスタ

超濃厚バージョン

濃厚バージョン

通常バージョン


生麺パスタ

超濃厚バージョン

濃厚バージョン

通常バージョン


さらに基準用として教科書通りのカルボナーラを加えた。

『この七種類の中だと、どれが一番いいと思うかな?』


兄は真剣だ。

そして、まきは泣きそうだ。

まさか同じメニューを七種類も比較することになるとは思っていなかったからだ。


まきは、

『いただきます。』

と言い、一つずつ味見をしていく。

七種類を食べ終わると、兄はメモを手渡し、感想と順位を書いてもらった。


『生麺の超濃厚バージョンが一位か。』

兄は満足そうに頷く。

『次はベーコンの種類を変えるね。』


『え? え?』

まきは逃げ出したくなった。

だが、お腹が重くて動けない。


兄は再び小皿を並べた。

生麺 超濃厚バージョン

厚切りベーコン

パンチェッタ


『厚切りベーコンがいいんだ。』


まきは、息をする度に、

『ふー……ふー……』

と言っている。


兄は、

『じゃあ次は――』

と言いかけた。


すると、まきは、

『先輩、待って……苦しい…… お腹が、ヤバい……』

と言った。


兄は心配そうに、

『まきちゃん、無理させてごめんね。

あと三皿、大丈夫かな?』

と言った。


わたしは、鬼!悪魔!!

まきの顔を見ろ!

と思った。


だが、まきは冷や汗を流しながらも、

『大丈夫です。』

と答えた。


最後はチーズの比較だ。

兄は、


パルミジャーノ・レッジャーノ

ペコリーノ・ロマーノ

グラナ・パダーノ

の三種類を用意した。


そして、

超濃厚

生麺

厚切りベーコン


という条件で作ったカルボナーラを、小皿に少量ずつ盛り付けて並べる。


まきは、それを順番に食べた。


そして―

倒れた。


兄はメモを見ながら考える。

超濃厚

生麺

厚切りベーコン

ペコリーノ・ロマーノ

で決定!


兄の中で、料理対決へ向けた最高のカルボナーラが完成した。

目の前では、まきがソファに沈み込んでいる。

兄は心配そうに、

『まきちゃん、大丈夫?』

と声を掛けた。

だが、その表情はどこか満足そうだった。

料理対決へ向けた最高の組み合わせが決まったからだ。

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