51. わたしの入院生活⑤
わたしの心が少し落ち着いてきた数日後、兄がお見舞いにやって来た。
『あいちゃん、お疲れ様』
兄の顔が少し疲れている。
何かあったのだろうか――そう聞こうと思った時、兄が先に口を開いた。
『色々疑問だったことを聞けて、自分なりに納得はできた?』
わたしは少し考えてから答えた。
『納得はしてないよ。今でも、何でわたしがこんな目に遭わなくちゃいけないの?って思ってる。でも、これが現実だから受け止めるしかないって思えるようにはなってきたかな』
そう言うと、兄は少し安心したように笑った。
『そっか。なんかツンツンしてたのが、棘が取れて丸くなった感じかな。少しだけど心も落ち着いているみたいだし』
『諦めて観念したって言う方が正しいかな』
そう言った後、わたしは別の不安を口にした。
『ただ、わたし、分家の方々とコミュニケーション取れないよ……』
兄は不思議そうな顔をした。
『何で?』
『何でじゃないよ。わたしは分家の方々の姿も見えないし、声も聞こえないんだから』
すると兄はますます不思議そうな顔になる。
『見えてるし、話してたじゃん』
『は? そんなわけないじゃん』
そう言うと、兄は手招きをした。
すると――
『え……いかついおじさんと、にこやかなおばさん?』
いかついおじさんが一歩前に出る。
『私は銀と申します。篤志様のお父様の頃から付き人をさせていただいております。そして、こちらは――』
続いて、にこやかなおばさんが前へ出た。
『私は絹と申します。私も篤志様のお父様の頃から付き人をさせていただいております。二人共々、よろしくお願いいたします』
わたしは、
『えぇっと……銀さん、絹さん。わたしこそ、よろしくお願いします』
そう言うと、二人は元いた場所へ戻っていった。
兄が首を傾げる。
『見えてたし、会話もできたみたいだけど?』
『…………?』
わたしの思考が止まる。
『えーーーーーーっ!? なんで!!???』
叫ぼうとした瞬間、盛大に咽せて強制終了させられた。
この気持ちを表現することすらできないとは……
自分の喉が恨めしい……
『前にさ、俺と見えるものが徐々に似てきたなー、みたいなこと言ったじゃん』
兄は何でもないことのように言う。
『言った。たぶん言ったけど……』
そんなんで分かるか!!
そう言いたかったが、咽せて言えなかった。
『しかもさー、たまに看護師さんだった人?とも会話してたし』
兄は続ける。
なんだ?
周囲から見たら、見えないものと会話していたやつが、最近は焦点の合わない目で、よだれを流しながらうわ言を言って、糞尿まで垂れ流していたってこと?
そりゃ周囲はビビるわ!
終わった……
お父さんに乙女としての尊厳を蹂躙され、兄に人としての尊厳まで暴露された……
『…………ろ!』
わたしが何とか声を出すと、兄が不思議そうに近づいてきた。
『どうしたの?』
『責任とって……』
『え?』
『責任とって、わたしを一生面倒みろ!』
わたしは声を絞り出し、掠れた声で兄へ訴えた。
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