22.兄が見ている世界 —お見舞い—
『いーやーだ!!!!』
わたしが駄々をこねても、兄はまったく反応せず、そのままICUへ入っていった。
『ほら、あいちゃん。着いたよ』
兄が、早く自分の体へ戻るよう促してくる。
『いーやーだ!!!! 絶対いやだ!』
わたしは断固拒否した。
すると兄が、困ったような声で言う。
『もしかしたら、知らない何かが、あいちゃんの中に入っちゃうかもしれないよ。そうなったら大変だから、入って』
『だって、二日に一回くらいでいいって言ったじゃん。昨日だって入ったし』
『じゃあ、あいちゃんのお願いごと、一つ叶えるから』
その言葉に、わたしは渋々、自分の体へ戻った。
―瞬間。
『ぎゃーーーー!!!!!!!!』
今日もうるさいな、と兄は思っていたかもしれないが、特に何も言わなかった。
『さあ、約束を守ってもらおうか』
わたしがそう言うと、兄はベッドに横たわるわたしをじっと見つめた。
『ふぅ……』
一、二分ほどして、まるで仕事を終えたみたいな反応をしたので、わたしは思わず尋ねた。
『何が終わったの?』
すると兄は、平然と答える。
『昨日のおっぱいの話、ちゃんと見てって言われたから確認してた』
『その後、見るなって言っただろ!!』
わたしが怒鳴ると、兄は優しい声で言った。
『ガーゼ越しで、左胸しか分からなかったけど……ごめんね。ちゃんとあったよ』
『あ……っ、う……』
恥ずかしすぎて、自分でもよく分からない声が漏れる。
すると兄は、一瞬だけ真剣な顔になり、
『やっぱり、ロマンなのかもね』
と呟いた。
『っ……あ、う……』
わたしは変な声しか出ない。
そんなわたしを気にも留めず、兄は今度は笑顔で言った。
『ありちゃんがメロンなら、あいちゃんはマロンかな。いや、小ぶりのどんぐりかも』
その瞬間、わたしの中で何かが切れた。
『誰の胸が小ぶりのどんぐりだ!!!!
乳首しか無いって言いたいのか!?』
そんなやり取りをしていると、看護師さんが入ってきた。
『毎日お見舞い、お疲れ様。明日から新学期なんだから、勉強も頑張らないとね』
兄は素直に、
『出来る範囲で頑張ります』
と答える。
わたしは思わず、
『この状態で、どう頑張ればいいの……』
と呟いた。
すると兄が、優しい声で言った。
『あいちゃんは、もう十分頑張ってたから。今は少し休憩してるだけだよ』
その言葉に、少しだけ胸が軽くなった気がした。
『さあ、次はお墓参りして帰ろうか』
『……うん』
わたしは、小さく返事をした。
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