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「……もしかしてあの部屋がわたしが転落した場所ですか?」
「…………」
沈黙が何よりも答えに対する肯定だった。
ピタリと動きを止めて、じっとわたしを見下ろす彼の表情は抜け落ちていて、よりエドモンドの精悍な顔を引き立てる。
「姉から『わたしが飛び降りた』と聞きました。一体何があってわたしはバルコニーから転落したんですか?」
「……やはりグレイシアはそのことをあなたに伝えにきたのですね」
「エドモンド、お願いですから話を逸らさないで……」
「ーー分かりました。けれどこの話題はお互いに気分が良いものではない。だから夕食を終えた後。それからにしませんか?」
その提案にコクリと頷く。彼は困ったようにわたしの頬を撫でてから、触れるだけの口付けを落とす。
「こんな所で……」
誰に見られるか分からない廊下で口付けられると落ち着かなくて、つい咎めるようなことを言ってしまう。
けれどエドモンドは「誰もいませんから大丈夫ですよ」と言って、さらにキスを繰り返した。
「……んっ、ぁ……」
重ねるだけのキスはいつの間にか啄むようになり、そして上唇を吸われると、反射的に逃げ腰になる。そんなわたしを彼は力強く抱きしめ、親指の腹で唇をなぞっていった。
「口を開けてくださいませんか」
熱の籠った懇願に、先程彼に強く言及した負い目があったから、ついエドモンドの望むままゆっくりと口を開く。
侵入される舌に戸惑いながらも受け止めると、彼は良くできましたといわんばかりに頭を撫でた。柔らかく撫でられる感覚に、うっとりと目を細めてそのまま閉じる。
舌を絡められる感触が生々しく、同時になんだか馴染んでいるようだった。
(こんなこと慣れていないはずなのに……)
不思議に思うが、それを深く考える前に彼が与える熱に翻弄される。
息苦しさから甘えるように縋り付くと彼の抱擁がますますキツくなった。もうすっかり抜けた腰を彼が支え、そして胸ポケットから瓶を取り出した。
それがなにか……。尋ねる前に彼が口に含んで、その液体をわたしに口移す。匂いも味もない液体に戸惑って、ついそのまま飲み込むと彼がようやく唇を離した。
息を整えて、一体何を飲ませたのだと追求しようした途端、グニャリと視界が歪んだのだった。
***
肌寒くて、目が覚める。辺りは既に暗く、明かりが付けられていない部屋は月光だけが頼りだった。
ぼんやりとした意識のまま辺りを重たい瞼を開けると、エドモンドがベッドに座りながら、わたしの顔を見下ろしていた。
「……ああ、起きましたか。キスの途中、酸欠により気を失ったようだったので部屋に運んできたんですが……」
わたしが気を失ったのはエドモンドがなんらかの薬を飲ませたからだ。
平然と嘘をつく彼を問い詰めたい。
しかしそれを口に出す前に布団を掛けられ、あやすようにしてお腹の辺りを優しく叩かれると、薬が残っていたのかあっという間に眠気がやってきた。
抗えない眠気……。
ーー思えば、わたしが嘘を吐いてから何度もこの感覚を経験しているのではないだろうか?




