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記憶喪失のフリをしたら冷たかった夫に溺愛されました(全年齢版)  作者: 秋月朔夕@書籍発売中


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5



 エドモンドと共に寝るようになってから、十日が経つ。一緒に眠ることになっても彼はわたしに触れることがなかったものだから、わたしはすっかり油断していた。




「そろそろ次のステップに移ろうと思うんです」

「ステップ、ですか?」



 横になっている状態で、彼はポツリと呟く。頭だけ動かして彼の方を見ると、エドモンドは目を細めた。



「ええ、そうです。フィオナはもう僕と眠ることに慣れてきているようなので、まずは手を繋ぐところからはどうです?」

「えっと、それだけならまぁ……」



 わたしが頷くと彼はゆっくりとわたしの手に触れていく。子供同士がするような触れ合い程度だったことに安堵する。肩の力を抜くと指と指を絡ませて、さらに手を密着して繋がれる。

 いわゆる恋人繋ぎになったことに緊張して、身体が強張りそうになる。



「嫌ではありませんか?」


 注意深く、わたしを観察しているエドモンドはあくまでわたしが嫌がっていないか確認しているだけだ。だから緊張する必要はないはずだと過度に意識してしまいそうな自分に言い聞かせる。

 けれどエドワードに指の付け根をくすぐられると、つい肩が跳ねてしまう。



「すみません。嫌でしたか?」

「いえっ、ちょっとくすぐったくて……」

「ではくすぐるのは止めておきましょう」



 わたしの顔をじっと見つめながら、手の内側を柔らかく引っ掻く。切り揃えられた爪で自分の存在を主張するかのように柔らかい内側の皮膚を刺激されて、反射的に手を引っ込めようとすると、あっという間に手首を掴まれた。



「……やっぱり僕に触れられるのは抵抗がありますか?」


 すっかり沈んだエドモンドの声に慌ててかぶりを振る。


「違います。そんな風に触られるのは、なんだか恥ずかしくて……」

「ではフィオナから僕に触れるのはどうでしょう?」

「わたしから、ですか?」

「はい。僕から触れません。悪戯に触れられないと思えば、少しは緊張感が和らぐのではないのでしょうか」



 確かに自分が主導権を握れるのならば、意図せぬ動きに翻弄されることはないだろう。だけどやはり自分から男性に触れるのはなんだかはしたない気がして、躊躇われる。尻込みするわたしに彼は眉を下げて謝った。



「すみません。貴女と触れ合えることが嬉しくて調子に乗りました。フィオナが困っているのならば、今夜はもう止めましょう」



 握っていた手を離し、わたしから距離を取ったエドモンドは本当に触れる気はないようだ。そのことに安心しながらも、傷付かせてしまったかもしれない罪悪感から小さな声で謝る。



「わたしこそ、すみません」

「いいえ。良いんです。僕達は夫婦なんですから、焦らずに明日からも慣らしていけば良いんです」

「えっ! 明日もですか?」

「もちろん。あなたが僕に慣れるまで何度だって練習しましょう。だけどもしフィオナが嫌がったり、怖がるようであるのならば、その日は止めますから、安心してくださいね」


 つまりこの触れ合いは慣れてしまうとさらに次のステップに進んでいくというわけだ。殊勝な態度とは裏腹な大胆な提案に安心できるはずもない。

 どうやって抗おうか考えている内に眠気がとろりとやってくる。




 ーー不自然に忍び寄る眠気。その原因を考える前にわたしは瞼を閉じてしまったのだった。


 


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