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記憶喪失のフリをしたら冷たかった夫に溺愛されました(全年齢版)  作者: 秋月朔夕@書籍発売中


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 差出人は稀代の魔女エマであった。

 何故面識のない彼女から手紙が届いたのか。

 怪訝に思いながらも、その内容を読んで、愕然とする。



「エドモンドが『魔女の秘薬』を手に入れて、わたしに飲ませようとしているですって?」 



 魔女の秘薬。それは稀代の魔女エマだけが作れる伝説級の秘薬だ。

 その効果はーー恋している気持ちを綺麗さっぱり忘れることができるというもの。



 それをエドモンドが手に入れて、尚且つわたしに使おうとしている意味は……。



(ああ、とうとうわたしの気持ちに気付いてしまったのね)



 王族ですら手に入れることが難しい魔女の秘薬。それをわざわざ使ってまで、わたしの想いをそのまま拒絶しようとするなんて……。


(そこまでわたしの気持ちは迷惑なものなの?)



 恋心すら許されていないだなんて想像すらしていなかった。

 決して歓迎されることのない想いだって分かっていたつもりだった。けれどその気持ちすらなかったことにしようとする彼の行動力が悲しくて、涙が出る。


(そんなにわたしの気持ちが煩わしかったの……?)



 最初からなかったことにするくらいに疎まれていたのか。

 頬を伝う涙が熱く、視界は滲んで見えない。

 廊下に控える使用人に聞こえないように枕に顔を埋め、嗚咽を堪えようとした。

 そうして泣いて疲れて眠った次の日。わたしはエドモンドと対面するのだった。






 あの手紙は悪戯かもしれない。そう思おうとしたが、彼の様子を見る限り、その希望は呆気なく潰える。

 今日のエドモンドは分かりやすくソワソワと落ち着いていなくて、会話も上の空であった。

 そして、わたしがお茶のカップを持とうとするとジッとそれを見据え、固唾を呑んでわたしがお茶を飲むのを待っていた。



(……分かりやすい反応)



 あからさまな態度から察するに、きっとこのお茶に『魔女の秘薬』が入れられているのだろう。だから珍しく、わたしをお茶に誘ったのだ。



「飲まないのですか?」

「……いいえ。ただこの時間が終わるのが惜しくて」



 正確には彼に長らく抱いていた恋心がなくなってしまうことが寂しかったのだけれど。ニコリと微笑むと彼は忙しなく視線を彷徨わせる。

 わたしはそれを見て、諦めた気持ちのまま、カップに手を掛けた。



(あっけないものね)



 稀代の魔女が作った秘薬だ。効果は絶大だと聞いたことがある。いっそのこと彼に想いを知られているのならば、最後くらい告げてしまおうかとも思う。

 しかし、この想いを苛立ちの道具に使うのはなんだか違う気がして、せめて最後くらいはと意識してできる限り綺麗に微笑むことにした。



 ゆっくりと嚥下していく紅茶。お互いに会話もなく、静かに時間を掛けてお茶だけを飲む。やがて飲み切ると、わたしは立ち上がってその場を後にする。


 背後からわたしを呼び止めるエドモンドの声が聞こえたけれど、それに応える余裕はなかった。



 泣きながら廊下を歩くわたしに時折すれ違う使用人達がぎょっとしたようにこちらを振り返る。その視線が居た堪れなくて、逃げるように適当な部屋の扉を開けた。 



(なんだか疲れたな……)



 これから先も彼の隣で過ごすのだと思うと憂鬱な気分になり、それを払拭しようとバルコニーに出て風に当たることにした。


 下を見ると思ったよりも自分が居る場所は高く、このまま落ちたら楽になれるのではないかと馬鹿なことも考える。

 べつにそれは本意ではない。ただ気持ちが暗くなってしまった一時的はものだ。



 けれど、なんとなくその気持ちに抗えなくてバルコニーから身を乗り出す。しかしその拍子に部屋の扉を乱雑に叩かれる音が聞こえ、驚いたわたしは間抜けにも、そのまま落ちてしまったのだ。




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