11(side:エドモンド)
(あぁ、僕は彼女になんてことを……!)
自分がやらかしたことを思い出して、執務室の机に数度頭を打ち付けると、タイミング悪く大量の書類を抱えて来た部下達が部屋に入ってきた。
「うわっ! 宰相補佐が仕事のし過ぎでおかしくなってる」
「ここ何日もろくに寝ずに泊まり込みで仕事しているからですよ……まぁ追加の書類も持ってきたんですがね」
「……今ならこっそり机に書類置いていけば気付かれずに済むかな?」
「僕はその役目嫌ですよ。もし気付かれでもしたらあの性悪上司、コッチに仕事を倍にして押し付けてきそうですもん」
机に突っ伏した僕がそのまま寝たのだと思ったらしい。
小声で内緒話を始めている部下をどう教育してやろうかと、ゆっくりと顔を上げ、視線をそちらに向けてやる。途端にヒッと情けなく悲鳴をあげる二人に、人好きのする笑みを作ってみせた。
「お前達、聞こえていますよ」
肩を抱き合わせて、仲良く後ろに下がる部下二人。全くそんなに怖がるのなら、最初から余計なことを言わなければいいのだ。
「上司であるこの僕が寝ずに仕事をこなしているのに、お前達ときたら呑気に雑談をする余裕があるとは……。直属の部下が可愛いあまりに、随分と甘やかしてしまっていたようだ」
「い、いえっ。そんなことは……!」
二人揃って顔を青褪めさせて首を横に振っている。そんな二人の側に行って直々に慰めようとゆっくりと彼らの元に近付いて、肩を叩いてやる。
「大丈夫ですよ。僕は優しいですからね。こんなことで怒るわけないでしょう」
口の端を持ち上げて、じっと彼らを見下ろす。次いで彼らの持っていた分厚い書類の束を受け取り、その内容を確認する。
書類の内容はやっかいなものであるが、きちんと調べれば彼らにだって十分に出来るものだろう。べシンと投げ飛ばすように彼らに突き返し、ついでに机に積んでいた書類もくれてやる。
持ってきた書類が五倍の量になって自分達のところへ戻ってきたことに、彼らは涙目になった。
「ちょっと、この量はなんですっ!」
先程まで怯えていたくせに、これから自分に降り掛かるであろう『災難』が手元に渡されたことで、彼らは食ってかからんとばかりの勢いで愚かにも僕に詰め寄った。
「ああ、すみません。優秀なあなた達にはこれっぽちの仕事量じゃ足りませんでしたね。僕が至らない上司ゆえに、適切な仕事を采配できず、申し訳ありません。では、これからさらに書類を足して上げましょうね」
「止めて下さいっ! 俺達二人とも新婚なんですよ? ただでさえ、ここ最近は忙しさのあまり、王城に泊まり込みだっていうのに、いつまでも家に帰れないんじゃ妻に見限られてしまうじゃないですかぁ……!」
「えー。仕事に生きる旦那様って素敵って惚れ直してくれるかもしれませんヨ?」
「その棒読み止めてください。第一、宰相補佐だっていつまでも屋敷に帰ってないんですから『社交会の妖精』とまで謳われた奥様に見限られても知りませんからね!」
ここにいてはまた書類が足されると思ったらしく、捨て台詞を残して、慌ただしく走り立ち去っていく。
(まったく。お前のところと違って最初から好かれてもないのだから、今さら見限るも何もない)
溜息を吐きながらそうは思っても、なんとなくムカついたので、後で本当に追加の書類を部下に届けさせよう。
一体その書類をどれにするかと考えていると、遠慮がちに部屋の外からノックの音が聞こえた。
それに応えて入室を促すと現れたのはフィオナの姉、グレイシアであった。




