閑話 終幕の誕生
本編とは別の、麻義の過去の話です。
時は麻義が真凜と会う数ヶ月前、麻義がニート化した数週間後のこと
(どうしよう、死ぬほど暇だー)
多忙
それは人から余裕とゆとりを奪うもの。そして、それらを忘れさせるもの。
ついこの前まで俺は、地獄のような日々をすごしていた。
そして急にその忙しさは綺麗さっぱり消え去り、俺には余裕とゆとりが発生した。
そうなった場合、どうなるか。
(うん、やることがまっっったく無い。)
俺は、まじでどうしようもないほどに暇だった。
(よし、今日からは何日かは暇を潰せるな。)
死ぬほどの暇を感じてから数日後、俺は3日ぶりくらいに外に出た。今日発売の新作ゲーム、その初回限定版を買うためだ。
しかし、学校卒業してから戻ってきたド田舎の実家の近所にはゲームを売っている店なんてものは全くない。
なので俺はそれを売っている店に行くべく、珍しく朝早くに起き、30分に1本くらいしか来ないローカル電車に揺られていた。
…揺られていた(過去形)。
「えー線路付近に異界門が出現したため、電車30分程遅延しております。ご迷惑おかけしますことお詫び申し上げます」
本日数回目の車内アナウンスが流れる。
30分に1本しか来ないくせにすぐ止まる弱小ローカル電車は、異界門のせいで乗ってから2つめの駅で止まっていた。
目当てのゲーム結構人気のやつだから早く行かないと速攻で売り切れるのに。
「お待たせ致しました。甲府行きワンマン電車発車いたします。」
電車が止まってから約1時間。安全確認とかも済んだようで、ようやく電車が発車した。
正直もう詰みな気がするが、それでも微かな希望をかけて俺は店に向かった。
しかし案の定、ゲームは売り切れていた。それも俺の目の前で小僧がラスワンを持って行ったことで。
その後他の店も見に行ったがどこも売り切れで、通販も売り切れ、転売品は値段が2倍以上につり上がっていた。
(うん…まぁ、しょうがない。こんな事もある…よ、な。)
俺は悔し紛れに、 前作のデータを新しく作ってひたすらに縛りプレイをしていた。
あくる日
ゲームを買い逃してから数日後、俺は今度は5日ぶりに外出した。今日発売の漫画、その店舗限定初回特装版を買うためだ。
かなりのデジャブで嫌な予感がするが、今回は明日からゲームイベントが始まってしばらく家から出られなくなるので、何としても今日買う必要があった。
さすがに本屋くらいは家の比較的近所にあるし、電車のように止まる心配もない。もうこれは勝ち確だろう。
(フラグ)
「すみません、今ここの道、異界門対処中で通行止めなんですよ。」
行きの途中、討伐者らしき男性が言った。
本屋までの道の途中にある大きめの川を渡す鉄橋。その橋の真ん中辺りに異界門が出たらしい。
「マジですか…。えっと、いつ頃通れるようになりますかね?」
「いやそれが思いのほか苦戦しておりまして、橋がとてもそのまま通れなさそうな程に壊れている上、毒属性の奴とかも確認されたので数日は通れないんじゃないですかねー」
討伐者の男性は橋の方を眺めて言った。よく見えないがそっちからは爆発音や何かの鳴き声がする。激戦が起こっているらしく、とても楽な戦いのようには聞こえない。
他にこの辺に俺が求めている本を売ってそうな本屋は無い。そんで近くに迂回路も無い。
うん、オワタ\(^o^)/
俺は泣く泣く初回特装版を諦め、帰路に着いた。
またあくる日。
俺は今度は2日ぶりに外出していた。指定のお菓子を買ったら期間限定で好きなゲームキャラのクリアファイルが貰えるということで、コンビニにそのお菓子を買いに行くためだ。
もう最近買いたい物を買い逃しまくっているが、今度こそは大丈夫だろう。なぜならそのコンビニは家から徒歩5分。迂回路も腐るほどにある。
マジで今度こそ勝ち確だろう。たとえ今日買えなかったとしても明日以降もある。
これでまた買えなくなるなんてコンビニが潰れるくらいのことが起こらないとありえない。
「すみません、ここ先日の異界門の時に陥没した道路の工事中で通れないんですよ。」
コンビニまでの道の途中、工事のおっさんが言った。
まぁ大丈夫、俺にはまだ迂回路がある。
「すまんな兄ちゃん、こここないだ異界門が出た時穴空いてそれ塞ぐんで工事中なんよ。」
コンビニまでの迂回路の途中、工事のおっさんが言った。
いや、まぁ、他にもまだ道はある。
「あ、この先工事中で通行止めです。」
コンビニまでの(以下略)
「いやおかしいですよねさすがに。この辺の道に何があったんですか?」
本日三度目の通行止めをくらい、もう歩き回るのも疲れたのでなぜこんなに道が通れないのかをおっさんに尋ねた。
「それがこの前やたら大きい雹を降らせる虎みたいな魔獣が出たらしくて。
不触操作能力者の討伐者のおかげで人や家屋なんかには被害は出なかったのですが、逸らした雹が道路にいくつも落ちて道路がボコボコなんですよ。」
………。
「あ、っそうですかー。ちなみに工事終わるのって…」
「一週間後ですね。」
…うん、まだ大丈夫、限定期間は今月いっぱい。まだ希望はある。
「わかりました。ではこれで…」
別に今すぐ欲しいわけでもないので、俺は今日は諦めて一度家に帰ることにした。
一週間後
「嘘ぉ」
道も直ったらしいので、俺は再びコンビニに来ていた。
そして今、そこに着いた時目の前にあったのは、「コンビニだったもの」だった。
コンビニは何か大きな物が落ちてきたかのように天井に穴が空いていた。
張り紙によると、討伐者はこのコンビニに恨みでもあったのか、受け流した雹が屋根に直撃したらしい。それは不慮の事故ということで解決したものの、修理中につき現在休業中とのことだ。
工事期間は30日まで。その討伐者はちょっとどうかと思うが、よし、まだだ、まだ希望の1日が残っている。
そして訪れる月末、9月31日
皆さん、この日付に違和感はないだろうか。違和感を持った人はもう何が起こったか見当がつくだろう。
そしてその違和感に気づかなかった人。奇遇だな。俺もそっち側だ。
さてそんな人たち、「西向く侍」。この言葉を覚えておくといい。これは31日の存在しない2、4、6、9、11月を語呂合わせで覚えるというものだ。11月が無理があるというか全く語呂合わせになっていないが、これさえ覚えておけば悲劇は回避できるのでぜひ記憶の片隅に置いておいて欲しい。
とまあここまで言ったら何が起こったのか分かるのではないだろうか。
(俺はバカか?)
そう、限定期間は終わっていた。
今日は10月1日。月末の次の日だ。9月末は30日までで、9月31日なんて日はこの日本には存在しない。つまり月末までの限定期間は昨日の30日までで、今日は既に期間外だった。
それに気づかなかった己のバカさとあまりの虚無感から、訳もなく心の中で何者かに語りかけていたが、ただひたすらに虚しいだけだった。
またまたあくる日。
もう何買いにいく気力もなくなり引きこもる。
かといってゲームも大体飽きるほどやりこんだので、暇つぶしにパソコンで趣味のイラストを描く。しかし描いている最中に異界門により電柱が倒れ、大規模停電。オートセーブをつけていなかったためデータが全て消し飛ぶ。
そのまたあくる日。
好きな監督の新作映画を見に行く。
サンドワームが出たため地面に穴が空いたということで道が通行止め。迂回するも盛大な遠回りになり上映時間にに間に合わず。
さらにあくる日。
もう通行止めに振り回されないためにバイク、移動用の魔動機械である機浮遊盤、ほうきの操縦免許を取る。そして念には念を入れて複合スキル・浮遊術式を覚える。
ここまで念入りに準備していざ外出しようとするも、危険度・禍赤級のレッサーワイバーンの群れが出たため外出自粛が言い渡される。そのため家から出ることすらできず。
まだまだあくる日。
もう絶対に買いそびれることのないよう、近所に転移の呪符を目立たないように色を変えて貼って周り、各地に一瞬で行けるようにする。
そしてそれを使って新作のスナックを買うため、近所のスーパーへと出向く。
ようやく何事もなくスーパーへ到達するも異界門による交通被害により流通が滞ったらしく、品物がない。
来週まで待てば入荷するらしいが心が折れたため買えず。
ますますあくる日。
(これだけやれば、もう、流石に、大丈夫…だろ…う)
俺は昨日までに地区内のほぼ全域に片っ端から呪符を貼って回った。本来こんな苦労をするのは俺の主義に反するのだが、こうも外出が阻まれるとなるといたしかない。
今回の買い物もとい最難関ミッションは、徒歩5分のコンビニにプリペイドカードを買いに行くというものだ。
なんという、なんという過酷な試練なのだろう。しかし行かねばならない。早く、ゲームに課金するために…!
「うわぁぁ!い、異界門だぁ!」
コンビニの最寄りの呪符から歩くこと30秒、近くにいた男性が悲鳴をあげた。
見るとそこには異界門が出ていて、そこからは魔物がわんさか出てきていた。こんなに外出を異界門に邪魔されるとなると、もう不幸とか通り越して宿命な気さえする。
だが素直にクソみたいな宿命に従うわけには行かない。
(異界門 とは少し距離がある。よし、まだ逃げ切れるな。戦えば勝てなくもないけど無理。面倒い。⦅この間0.2秒⦆)
「発動、複合スキル・瞬足」
俺は異界門を完全に無視し、コンビニに走った。
翌日
(だぁーっ、全っ然最風できねぇぇー)
俺は昨日課金して買ったDLCを使ってオンライン環境で昨日から徹夜でプレイしていた。
昨日、異界門に直面した後、俺は無事にプリペイドカードを買って帰ることができた。帰りは40分くらいコンビニに居座った後、静かになったっぽいタイミングを見計らって普通にコンビニを出た。異界門が出た道は穴まみれな上魔物の血痕らしきものもあり、案の定通行止めになっていたが、覚えたての飛行術式を使って空を飛んで問題なく帰ることができた。
「ちょ、待てこの立方体おじさん、コンボやめっ、やめろぉ!待てこれは、死ぬって!上強の発生後隙バグってんだろ!その手を止めろぉぉ!次回作リストラされろぉ!」
そして今はちょうど、最風を練習しつつ相手残り1ストの撃墜帯までノーデスで持っていったにも関わらず、その後相手が急にふざけたPSを出し始め、3スト即死コンを決められ惨敗したところだった。
ゲームをしない人にもわかりやすくいうと、前半は手加減して勝てる希望を見せておきながら後半に本性を出して相手を完膚なきまでに叩き潰すという戦闘スタイルを進んでやるクズの手によって、俺はボコボコにやられたいた。
(クッソなんでこんなバケモンがこんな所にいやがる。クズい戦い方しやがって、こちとら2スト目くらいで集中力消滅すんだよ。)
さっきから使い慣れないタイプのDLCなのでだいぶ負けまくっていて、ひたすらに精神力が削られている。というかよくよく考えたら俺どちらかというと軽量級の方が得意だったはずなのに、なんでこの明らかに重いヤツ買ったのだろうか。
(いい加減攻略サイトに頼るか。)
今まで謎のプライドにより攻略サイトとかの情報ほとんど無しで頑張っていたが、そろそろそのプライドを維持する気力も尽きてきた。なので大人しく攻略を見てコンボやコツを確認する事にして、パソコンの検索アプリを開いた。
(お、これうちの近所じゃん)
ふと検索ウィンドウの下にあるネットニュースを見ると、そこに近所の話題が出てた。
事故でもあったのかと思って見たその記事の内容は、昨日の異界門の被害で子供が1人死亡したというものだった。まあ今はそこそこの聖職者なら蘇生術が使えるのでその子供は普通に生き返ったらしいが、それでも精神にはそこそこのダメージを負ったらしい。
(…いたたまれないんですけど)
勝てなくはなかったけど面倒だったから&課金するためという理由でスルーした異界門で死者が出られると、さすがになんか罪悪感がある。別に俺は悪くはないとは思うがそれでも気持ち悪い。
それに、暇すぎて寝る以外することがないので、ならばいっそと睡眠の質の向上を目指しだした今日この頃において、寝覚めが悪いのは大分問題だ。
思えばここ最近、異界門のせいで俺のノンストレス生活のテンポを崩されまくっている。なんかもういっそ自分で倒した方が普通に暮らせる気さえする。
…いや、マジでこれ自分で処理した方が俺に被害無い説あるな。
そして、あくる日
(お、出たな。)
町中くらいに範囲を定めた異界門レーダー的な術式を刻んだ呪符に反応があった。
位置は南ブロックK地点付近。山の上の方で、母校の学校がある辺りだ。正直あっちに行く用がある事はめったに無いが、あそこで暴れられると最悪土砂崩れで家が埋まる。そして、まぁそんな最悪なこと起らないだろとか言って行かなかったらまた完璧なフラグになる自信がある。
(今月2…いや、3回目か。よし、面倒だけど暇つぶしがてら運動しに行くか。)
自分で狩った方が平穏に暮らせるということに気づいてから、俺は近所に異界門が出る度に狩りに行くようになった。正直だいぶ面倒いが、上手くやれば10分位で終わるし行かない方が色々と問題が発生するので、軽い運動にということで今では割り切れている。
別に地域の安全を守るためとかいう大層な信念がある訳ではない。正義感なんてものは俺には無い。全く無い。正直俺と関係ないところで知らない人がどうなろうが、別に気の毒だなくらいにしか思わない。全ては俺の悠々自適で平穏な生活のためだ。
あと、意外なことに魔物の肉は結構美味しかった。この前牛みたいな奴がいて画像検索したら食えるという事だったので、ステーキにして食べてみたことがあった。
すると実際、かなり美味かった。あの耐久力とかからは想像がつかないほど柔らかく、脂の乗ったかなりいい肉だった。
ということがあったので、今では狩りは夕飯の食材稼ぎという役割も果たしている。
そして何より、狩りをするということは暇つぶしになる。俺の常日頃から暇つぶしを探す生活にとって、定期的に暇を潰すことがあるということには大きな意味がある。
「呪符転移!」
そして俺は今日も、異界門のもとへと転移で足を運んだ。
俺の平穏な生活と、今日の晩飯の為に…!
多分次回から第2章だと思います。




