討伐者資格試験編 Ⅴ 帰路と魔窟
気が変わって資格試験編追加の1話です。おそらく今度こそ最終回です。
「なぁ、俺結構試験ズタボロだったけどあれで受かんのか?」
討伐者試験の帰路、俺は真凛に尋ねた。
「そうね、あんたがかなりの大バカで筆記がゴミじゃなければ受かると思うわよ?てかたとえあんたが大バカでもあんだけのことして受からないってことはまずないでしょうね。」
「おい、人をあんまバカバカ言うな。少なくともお前よりは知性がある自信がある。」
「ねぇ、さっきから私そこまでバカじゃないって言ってるわよね⁈」
まあ確かに言ってはいたが言動があんまり賢そうじゃない。それにたとえ能力値の数値的に平均より賢くても、こいつにはそれを打ち消して余りある何か大きな知性的マイナスがある気がする。
「うんまぁ自分はバカじゃないって思ってた方が人生幸せだと思うぞ?
てかそれはいいとして、俺さっきの試験合格で資格取れたらお前んとこのー、なんだっけ探索者の分隊?に入んの?」
話が結構それたが、元々それを聞こうとしてたんだった。
「ちょっと、私がバカってことで話進めないでくれないかしら。まぁそれは追々抗議するわ。
えっと、そうね。多分試験結果の通知とか制服の作成とか分隊への登録とかであなたは大体、再来週?くらいからかしら。そのへんからうちで私の残業を減らs…尊い労働に清い汗を流してもらうわ。」
「本音ダダ漏れしてる、ってかものはいいようっつっても限度があるからな?再来週な。んじゃそれまでに正確な日時とかどこに行きゃいいかとか連絡頼むわ。あとは…そうだ他の隊員ってどんな人がいんの?人数とかさ」
確か昨日こいつは分隊の中で三番手とか言ってた気がするが、それならあと雑務要員が2人くらいいるとかだろうか。もしくはただ見栄を張っただけの嘘かのどっちかだろう。
「他の人?えーっとぉ、1、2、3……。」
真凛は少し上を向いて、指折りで確認し出した。
「…今いない萌樹さんとかほとんどお手伝いの式神さん、あ、式神って苗字ね?とかも入れて隊員は14人と1羽ーかな?あんたが来れば16人ね。」
どうやら後者が正解だったようだ。てかなんだ1羽って。ペットが頭数に入ってんのか?そんでそのあと単位人に入れられてるし。
「そうか、思ったよりいるんだな。んじゃお前がそこの問題児枠でいいとして、他の人はどんな感じなんだ?」
「…っts……」
急に真凛が表情を暗くして気まずそうに目を逸らした。問題児としての自覚に目覚めたのだろうか。
「…えー、まず私が問題児ってのはあとで追加で抗議するとして……えっと他の隊員?……まぁ味方によっちゃあ普通…の人ぉー…か、な?うん、大丈夫!多分おそらくきっと大丈夫!アットホームで和気藹々とした職場だよ?」
真凛は露骨に目を逸らしたまま大っ変気まずそうに言った。そんでそれはブラック企業の勧誘の決まり文句みたいなもんだがまさかそれを普通に使う奴がいるとは思わなかった。
「おい、目を合わせてそれを言ってもらおうか、まさか他のやつもお前レベルの問題児じゃないだろうな?」
「いやまぁ副隊長は優秀な至ってまともな人だよ?かなり高頻度でやつれてるけど…」
まともな人枠には真っ先に副隊長なる人が上がった。逆に言うと、それ以外の人は上がらなかった。そしてそのまともな人は管理職でかつ、やつれている、と。
………。
「なぁ、それその人が唯一のまともな人で他の人の尻拭いで苦労しまくってやつれてるってことないよな。」
「……………………」
真凛は目を逸らしたまま何も言わない。見た感じ結構な冷や汗をかいている。
「どうした、汗すごいぞ?さぁ言ってみろ、普通の人というなら他の隊員がどんな奴なのか言ってみろ。」
「………報告書のコピー出してきてって言ったらシュレッダーで粉砕された原本持ってくる剣士とかPTA中毒の聖職者とか隔週で死ぬロリっ子とかヤのつく人とか野生系女子の半猫獣人とか座敷童子とか…」
目を合わせないまま早口かつ小声で言った。
おかしいだろラインナップ。芸能事務所でももうちょいキャラ渋滞控えめなんじゃなかろうか。
「俺そんなわけの分からん異常者の終点みたいなとこで働かされんの?そんで俺もその副隊長みたいな感じで苦労させられんの?」
そのやばい奴らまみれの空間だと、俺はまた理不尽な苦労をさせられる気がする。
「はぁ?あんた自分が常識人とでも思ってんの?なんで常識欠落ニートのあんたが常識人判定なのよ!」
真凛が急に顔をこっちに向けた。
「誰がだバカ、ニートは金を稼がず生活してるやつのことだ。俺は自分で稼いだ金がまぁまぁあるからニートじゃねぇ。あと常識もあるわ。」
そう、学生の時に開発したスキルのデータで小金を稼いだので、決して無一文ではなかった。
「はっ、それもどうせ宝くじかなんかで当たった小金で一年持たない程度なんでしょ?」
「失敬な、一年半は持つわ。」
「ほぼ正解じゃない。」
いや、半年は結構違うだろ。
…結構…違う…だ、ろっ…
「まぁそんな先行き不透明なニート生活ともこれでおさらばね。これからはさっきみたいな力を存分に発揮して私の仕事を減らしなさい!」
こいつ、隊員の話から露骨に話を逸らした上にとうとう本音隠すことを諦めやがった。てかそんなに働きたくないってこいつの方がよほどニート気質なんじゃないだろうか。
しかし、さっきの力を発揮って、さっきはストレスがかなりきてたから権能で強化されてただけで普段は…
(あ、そういやそれ言ってなかったか)
「あーそれ無理。」
完全に開き直ってケロッとしているバカに言った。
「はぁ⁈あんたどこまで働きたくないのよこのクソニート!大丈夫、隊に入ったら私が引きづり出してでも働かせてやるわよ!」
「クソニート言うな。いやそうじゃなくて…」
俺は自分のデバフ、もとい権能・気分屋について話した。
真凛はそれを聞くうちにだんだん表情が再び暗くなっていく。
「……えっと?それじゃあ、あんたはその権能のせいでさっき強かっただけで、普段はその能力値の4分の1くらいしか出せないってこと?」
「いや、労働意欲なんてほとんどないようなもんだから6分の1だな。だから俺ができることなんて精々貧乏強めの器用貧乏と力の要らない雑務くらいか。あ、あと戦闘センスは皆無で戦っても集中力は10分弱しか続かないから。」
「…………………」
真凛は表情を暗くしたまま立ち止まり、完全に黙った。
「おーい、生きてるかー、目ぇ死んでるぞー」
生気が感じられないので真凛の目の前で手を振ってみた。
「…っふっざけんじゃないわよぉぉぉぉ‼︎‼︎‼︎」
急に顔を上げたと思ったら半泣きで縋りついてきた。
「何よ気分屋ってあんたに最悪のデバフじゃない!しかもやる気が出る時は気分が良い時と怒ってる時くらい⁈運ゲーすぎんせしょふざけないでよ!こんなのサムネ詐欺じゃない!私の、私の残業はどうなるってのよぉぉぉ‼︎」
そう叫びながら襟首を掴まれた。さすが腐っても討伐者というか意外と腕力があって結構苦しい。
「ぢょ、まで離ぜ死ぬ…!」
それを聞いて我に返ったのか、小謝りして急に手を離した。そして俺は反動で後ろによろけた。
「ハハハハッ!体感雑っ魚いわねw」
真凛がまだ少し涙を目に残したまま笑った。こいつは情緒どうなってんのだろうか。
あとお前のせいでよろけたのに笑うなよ。
「あぁ、今なら多分80%くらいでるぞ」
「ごめんなさい許してくださいもう埋めないでください」
どうやら今朝埋めたのはこいつの心にトラウマを植え付けたらしい。僥倖だ。
「…ったくしょうがないだろ?俺だってこんなほとんど得のない権能要らんかったよ。だからお前の残業は自分でなんとかしろ。」
「嫌よ!何が悲しくて深夜まで楽しくもない事務処理しないといけないのよ!そもそもあんたほどじゃないけど私もそこまで仕事もモチベ高くないし!」
かなり食い気味に言った。
しかし昨日自分から異界門に向かってきてたし仕事のモチベは結構あるってか戦うの好きなのかと思ってたのだが。
「お前が仕事のモチベないの意外だな。んじゃなんであの仕事してんだ…」
「お金がないからよ!」
俺の言葉を遮ってさらに食い気味に言った。
「は?」
「お金がないからよ!」
2度言った。全く変わらない勢いで、また言った。
「お金がないk」
「いやそれは分かったから。え?お前そんな理由でその仕事してたのか。それならもっと他の給料が良くて安全なのもあっただろ。」
3回目を言おうとしていたので無理やり遮って尋ねた。
「ウッ、それは、まあその、……ちたのょ…」
後半小声で何か言ったがよく聞こえない。
「なんて?」
「落ちたのよ!給料が比較的いい就職先片っ端から面接受けて全部落ちたのよ!唯一拾ってくれたのがうちの隊だったの!」
なるほど、激しく納得した。
「あぁ思い出したらムカついてきたわ。なんであれで落ちたのよ。しっかり正直に志望理由言っただけなのに!」
いやこのバカなんだからそりゃ落ちても…
待て今こいつ志望理由正直に言ったっつったか?
「お前その志望理由って…」
「えぇ、しっかり言ったわよ「お金がないから給料がいい御社を志望します」って。」
……俺の、真凛が相当なバカだという認識が確固たるものになった。
「それじゃあ私こっちの道だから。ばいちゃー」
真凛が言った。それもう何十年前のネタだろうか。
「ん、お前入隊の日にちと場所連絡すんの忘れんなよー」
真凛の確固たる認定をしてから色々聞きながら歩くこと数分、当然だが俺と帰り道が違うらしく、真凛と別れた。
(あー再来週から仕事かー、面倒いぃ…)
あのうるさい女が消えて1人になるとつい色々考えてしまう。主に労働とか労働とか労働とかのことだ。
俺の一年弱の無職人生はたったの二日で崩壊し、再来週から魔窟みたいなところで働かないといけない。
そう考えるとひたすらに憂鬱だ。あぁ、あのクソ姉貴タンスの角に小指ぶつけて死ねばいい。
…いや、あの女はたとえ鋭利な隕石の角に全身ぶつけても死なないな。
(全く、どうして俺がこんな目に遭ってんだ。あの女は無責任にどこ行きやがった。)
………ん?
そう思った時、何か違和感を感じた。確かに奴は超絶勝手で傍若無人な自由人だが仕事はかなりしっかりやるし、責任感も人一倍にあったはずだ。
それが仕事をほっぽり出して俺に押し付けてどっかに行った?
やはり変な気がする。
(何かとても重要なことがあった?もしかして、母さんの…)
『ピコン!』
そんなことを考えていたらスマホの通知が鳴った。
見てみると、今メインプレイしているゲームの重要イベントスタートの通知だった。
(やばい忘れてた!こんなこと考えてないでさっさと帰んねぇと!)
どうせあの女のことなんて俺が考えたところで何も分かる気がしない。
ならばそれよりも目の前のイベントの方が大事だ。
「発動、複合スキル・瞬足!」
俺はもう考えることを諦め、全速力で家に帰った。
そして、家に着いた頃には無情にもイベントは終了していたのだった。




