討伐者資格試験編 EX 1カメと浪漫
討伐者資格試験編の番外編、ゴーレム戦の麻義視点です。
(時は、麻義が逆転し始めた頃にまた遡る)
権能
それは超新世時代において、鬱陶しい程に沢山種類のあるスキルのうちの1種。
しかし、これは少し特殊なもので魔力を消費することはなく、魔力に晒されつづけることにより体質が変化して素の特性が変わる、とかそんな感じの能力だ。それは善し悪しはあれど、大体みんな1つ以上持っている。
俺の権能は「気分屋」。気分次第で能力値が10%から500%くらいまで変化するというものだ。
普段の俺は大概のことが面倒くさくやる気もない。だから平常時の能力値はだいたい50%くらいになっている。
そして、自分の気分なんて自分自身じゃどうしようもない上、基本的にあまり感情の起伏が大きい方ではないので、実質この能力は普段かなりのデバフになっている。
だが、今回は違った。俺はさっきの走馬灯で地獄の記憶とあの厄災のことを思い出したこと、天国とも呼べる平穏が半日にして崩壊したこと、周りに厄介者が増えたこと、馬鹿、相変わらずの理不尽な運命、寝不足、殴り飛ばされ気絶までさせられた事実etc…
様々な要因が組み合わさり、俺は今非常に腹が立っていた。
結果、俺は今怒りという気分により、八つ当たりとも言える能力値アップ(150%)をしていた。
(はぁーっ、なんで俺がこんな目に!さっさと帰りてぇ!)
しかし能力値が上がったところで、相変わらずやる気はない。
「完全防御、並列演算、術式解読」
俺は小声かつ早口で、防御の展開とあのバリ硬結界の術式の解析を始めた。
俺のスキル群はあまり火力は出せないので、あれを脳筋で貫くことはまず無理だろう。
だからあの結界を攻略するためには解析→解除をする必要があった。
『ドッ、ドッ、ドッ…』
流石に天井まで吹っ飛ばしたんだし多少は動きが鈍ると思っていたが再び、魔動機兵は変わらず走りかかってきた。天井に叩きつけて落ちたはずなのに、その動きにはなんの陰りもない。
「まじかおい硬すぎんだろお前!どんな防御性能してんだ!」
試験用で使いまわされるやつだからやたら硬くなっているのかもしれないが、それにしても異常に硬い。物理的な攻撃はまったく入る気がしないし、さっき攻撃の種類は一通り試したが、やはり普通の攻撃に弱点属性なんてなさそうだ。
なら…
「少しは止まれ!硬獄縛!」
俺はスキルで、硬化した魔力の鎖を魔動機兵の四肢に巻き付け、地面に先端を繋いで動きを封じた。魔動機兵は無理やり振りほどこうとするが、鎖にはちぎれる気配すら見えない。
「お前に攻撃しても全部弾かれるからな。大人しくそうしてじっとしてろ!」
その隙に俺は全速力で術式解読を進めた。
…進めたかった。
しかし、そんな隙は10秒も持たなかった。
『ビビッ』
魔動機兵から音がした。それと同時に元々赤かったモノアイが青く色を変えて光り出す。
すると、青くはないが鎖が縛られている四肢も光出し、やがて鎖は砕けるように解除された。
「はぁ?!術式解読と解除も出来んのかよ!ほんとどんなスペックだ!」
再び自由になった魔動機兵はまたも俺に向かって走り出す。
…かと思ったが、魔動機兵はその場から動かず、じっとこちらを向いている。
といっても、仲間になりたそうにこちらを見ている訳でもなさそうだ。
「ん?なんだ?またボーナスタイムか?」
とか思っていたら、今度は魔動機兵の目が黄色く光り出した。
その光に俺の、その名の通り危険をなんとなく感知するスキル、「悪寒」が激しく反応した。
「!? 詠唱圧縮、三重最硬障壁!追加で二重…(ダブル)」
『ビカン!ッッヅヅッディウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンンンッッッッッ…』
そのスキルの反応に反射的に防御障壁を張り、追加でまた張ろうとした。
しかし、追加は間に合わず、魔動機兵から極太のレーザーが物凄い速度で放たれた。
「なぁっ?!」
さすがにここまでのもんが放たれるとは思わず、かなりビビった。
極太レーザーはかろうじて左右に受け流せているものの、シールドはビキビキとヒビが入り出している。
(やばい、これはさすがにやばい。防ぎきれるか?てか防ぎきれなかったら生きてられんのか?)
俺が死んだらSuReは蘇生と賠償をしっかりしてくれんのだろうか。
とかそんなことは考えられるが、正直目の前の光景がやば過ぎて障壁を追加する余裕がない。
(お願いだからマジで防ぎきれてくれ!)
非常に長く感じれる刹那の時間が経った。
レーザーは徐々に収束し、やがて完全に収まった。
肝心のシールドはというと、ギリギリ耐えきりはしたものの、ミサイルくらいなら防げるはずの最硬障壁は前の2枚が跡形もなく粉砕し、残る1枚もボロボロのギリギリだった。
そのふざけた威力の攻撃を見て、俺はふと後ろを振り返る。
…………。
「おい、これ当たったら死ぬやつだろ。跡形もなく消し飛ぶやつだろ。」
後ろの、激しい戦闘にも耐えられるよう非常に頑丈に作られているはずの強化壁は、貫通こそしていないものの黒焦げな上に盛大に陥没し、床は多少削れて穴が空いていた。
全体的には、俺の障壁の裏以外は受け流したビームが痛々しくV字の痕を残していた。
『ドッドッドッ』
あんな攻撃もしたのに、魔動機兵はまだ、攻撃の手を緩める気配はない。
しかしさすがにあのレーザーはそう何度も連発できないのか、ゴーレムはまた重い足音をたてて向かってきた。
「くっそこの攻撃厨マシンが!命の瀬戸際だったんだから少しは休憩させろ!過硬壁岩!大地掌!」
俺は岩の壁での防御と、地面を操作して手型にして掴んで動きを封じようとした。
しかし、ことごとくうまくいかない。
魔動機兵はいかにもパワータイプの強キャラがやるような、障壁と拘束の力任せの破壊をやってのけた。
「もうお前マジでゴリラだろ!5分で終えるとか調子こかなきゃ良かったわ!硬獄…、お?」
大した時間稼ぎにはならないだろうが、全く効果が無さそうな攻撃よりはマシだろうと再びさっきの鎖を出そうとした。
その時、さっきから並行してやってたバリ硬結界の解析が完了した。
「よっしゃようやく終わった!解析時間2分20秒くらいか、これでまだワンチャンあるぞ!
術式合成!術式解除×超加速飛石槍!発動、貫通飛石槍ォ!」
俺は結界を貫通するように強化した槍の刃を、未だこちらに走りかかってきている魔動機兵に飛ばした。
『ピシッ、パキン!ズゴーン!』
(よっしゃ!通った)
俺は右手で、柄にもなくガッツポーズをした。
槍は期待通り、肩のジョイントを結界ごと貫き、そこそこのサイズの風穴を開けた。
開けたのだが…
「はい再生能力搭載ですね!まぁ強キャラには必須ですよね!ザケンナ!!何だこの製作者のロマンを詰め込んだみたいな性能の魔動機兵はぁ!」
魔動機兵の肩に開けた風穴は一瞬魔法陣のようなものを纏い、それが消える頃には何事も無かったように再生していた。
防御、攻撃、再生、この全部がバケモン性能とかふざけてる。
俺の渾身の攻撃でもほとんど怯まなかった魔動機兵は、当然また殴りかかる。いくら高性能といっても、流石に攻撃のパターンはあまり多くないようだ。
だがさっき攻撃を優先したので魔動機兵は完全に間合いまで着いていて、既にパンチの構えに入っていた。
「げっ、は、硬化大地拳!」
地面を変形させて硬化させた拳を魔動機兵のパンチに叩きつける。
(よし、これを相殺してからカウンターで…)
とか考えていた。
しかし現実はどこまでも思いどおりに行かず、魔動機兵の性能は尚も理不尽だった。
そのパンチはフェイントのジャブで、硬化大地拳を受け止め、間髪入れずにもう片方の腕で左フックが飛んでくる。
「へぐぇっ!」
『ッッヅォォォォォンンンン!!』
防御術式は機能していたものの、俺は殴り飛ばされ、横の壁に叩きつけられた。
なんというデジャブ。
しかし今度は防御のおかげでさっきほどのダメージは無い。
(あぁー、フェイントかぁ。完全に油断してたわー…)
衝突の衝撃でやや気持ち悪い体を、ほとんど持っていない気合いを入れて叩き起こす。
かなりの防御力、回復力、火力に加えてフェイントも使える戦闘能力とか明らかにこんな試験程度にはオーバースペックだ。別に討伐者は鬼を殺る隊員とか大陸の魔法協会の一級の人とかみたいな精鋭を集めてる訳でもないはずなのに。
しっかし、あんな機械におちょくられるのは腹が立つ。
あぁ腹が立つ、腹が立つ。
………。
「…なぁ、漫画なんかで再生能力があるやつを倒す定石を知ってるか?」
今更ながら戦闘用の魔動機兵が答えるわけもないが、つい尋ねる。
『ビビッ』
答えるわけはないとは思ったが魔動機兵は、首だけをこちらに回し、答えるように電子音を発した。
まぁ、答えるようにってのは気のせいだったが。
魔動機兵は電子音と同時にまた目の色を変え、無数のミサイルを放ってきた。まぁ機械系の奴には定番の機能な気がする。
「詠唱圧縮{術式合成、複合スキル・照準誘導×魔術・岩}。発動、囮像。」
俺は少し離れたところに囮の像を生成、ミサイルは全て俺とは離れたその像のところに飛んで行って爆散した。
「詠唱圧縮{術式合成、複合スキル・硬獄鎖×暗号化}。発動、不落獄鎖。」
そして、間髪入れずに再び魔動機兵の四肢を拘束した。
魔動機兵はまた目の色を変えて解除をしようとしたようだが、今度は解除ができていない。
「そいつは暗号化で術式をわざと複雑にして、ちょっとやそっとじゃ解析解除できないようにした特別製だ。今度こそ大人しくなったな?」
魔動機兵は力ずくで鎖を引きちぎろうとしているものの、今度こそちぎれる気配は無い。
しかし、まだ大人しくはしてくれない。
「ビカン!ッッヅヅッディウゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥゥンンンンンッッッッッ…」
魔動機兵は、またさっきの極太レーザーを放ってきた。
改めて見ても、これは直撃したら俺程度の身体は余裕で耐えられず、死ぬどころか跡形もなく消し飛ぶだろう。
だが…
「おい、
どこ撃ってんだこのデク。それはもう見たよ。」
俺はまたあのビームが来た時のために予め多目的機球に昔母が開発った転移の呪符を持たせ、魔動機兵の後ろの安地に待機させていた。
この呪符は、術者と呪符の座標もとい位置を交換するという、とても一般人が作ったとは思えない代物だ。
だから呪符一枚は失ったものの、俺は難なく回避することができた。
「さて、逆襲を始めようかぁ!」
ダメージを喰らったアドレナリン効果だろうか。少し気持ちが良く、不意に口角が上がった。
俺は術式の構築を始めた。しかし魔動機兵は、レーザーの中断はできないらしく未だ虚空に向かってひたすらに放ち続けている。
「詠唱圧縮、{術式合成、魔術・過熱光線×落雷×過熱蒼炎×呪術・火力上昇×耐久減少×過大重力×加熱×再生阻害×複合スキル・暗号化×不落獄×麻痺}…」
魔動機兵はビームを放ち終えこちらを振り向く。
まだ動きこそ封じているものの、魔動機兵はまた目を別の色に光らせ、飛び道具を使いそうな動きをしている。
「さっきの質問の答えだ。それはなぁ、回復を上回る攻撃を叩き込んで一撃で沈めることだよ!」
『ビビッ』
ゴーレムはそのモノアイの前に魔法陣を展開した。見た感じ防御ではなく、炎系の魔術だろう。
しかし防御はするまでもない。
「だが遅い!発動、複合スキル・局所的完全崩壊!」
俺は大量の魔法陣で、完全にこの魔動機兵専用のスキルを発動した。
そしてそのスキルは眩しい閃光を放ち、ようやく期待通りに魔動機兵は壊れて、というか崩れていた。
「ふー。ストレス発散完了っ。」
つい本音が漏れた。攻略時間は6分27秒、気絶から覚めた後からは大体3、4分くらいだろうか。
調子こいて宣言してから5分で終わらんかと思ったが、途中で追加で腹が立ったので最終的には能力値200%弱くらいにはなっただろうか。
(あぁ疲れた。さっさと帰って寝よ。)
そうして俺はかなりズタボロになった体育館っぽいところを後にした。
多分そろそろ第1章終わりまーす。
あと年末年始で投稿頻度上がるかもです。




