討伐者資格試験編Ⅳ 2カメと唖然
実技試験ラストです。用語やたら出しまくってわかりづらいかも知れませんが、その内用語解説の投稿もする予定です。それまでは分かりづらいかもしれませんが、まぁフィーリングで頑張って頂けるとありがたいです。
《時は数分前に遡る》
「今年の受験者は質が悪いな」
エレガントなロマンスグレーのセリフを言ってみた。
まさか昨日あんなに強いと思ったアイツがこんなにギリギリの試験になるとは思わなかった。
今も麻義は魔動機兵に技を撃ちまくっているけど、魔動機兵はビクともしていない。
「…?いやこれあいつの質が悪いっていうか、あのデカブツやたら硬いわね。」
昨日、麻義の技の威力はしかと見た。少なくとも中堅の魔術師くらいの威力はあったはず。
麻義はさすがに能力の効きが悪いことに困っているのか、何か考え事をしている。
「?!ちょっと、なにやってんのバカ!さっさと防ぐなり避けるなりしなさいよ!」
考え事をしている麻義に、魔動機兵が殴りかかろうとしていた。だけど麻義はそれに気づかず、何も反応していない。
「ッドオォゥンッ…」
魔動機兵が麻義を殴り飛ばした。鈍い音が闘技場に木霊し、エコーがかかる。
そして麻義は壁に叩きつけられ動かなくなった。
「麻義…麻義?!ちょっと、そんなとこで寝たら死ぬわよ?!」
私は観客席と闘技場を挟む防護ガラスをかち割って乱入しようとした。
その時横から、さっきアナウンスをした後にの能力値測定の結果が出たということで、データを取りに行ったお姉さんが帰ってきた。
「夏目さん、さっきの測定結果の印刷が出来ました…てえっ?!ちょっ夏目さん?!何しようとしてるんですか?!」
お姉さんがガラスをかち割ろうとした私を止めに入る。
「何って、このガラスかち割ってあのデカブツぶち壊すのよ!何よアイツ!馬鹿みたいに硬いし強いじゃない!あと私のことは真凜ちゃんと読んでちょうだい!」
「そこそんな大事ですか?!ちょっ、お願いですからやめてください!そのガラス対物理、能力兼用のすごく防御力が高い特殊強化ガラスで、高性能でかつ価格もすごく高いもので、あなたなら割れるかもしれないですけどだからこそやめてください!」
お姉さんが私の両腕に手を回してホールドする。
「そんなこと言ったってどうするのよ!てか私の試験の時はあんなバケモンじゃなかったわよ!」
記憶が正しければ私が昔戦ったのは魔動機兵でこそあるもののもっと小さくて脆くて弱いやつで、間違っても殴り飛ばして気絶させるようなものではなかったはず。
「え?いやこのモデルの魔動機兵はSuRe発足当初から変わっていないはずですけど…、て、え?!あれ、先日うちに試験的に導入された上級討伐者訓練用の上位魔動機兵ですよ!まさか、この前入った新人がこっちに間違えて搬入してしまって…」
「はぁ?!」
上級討伐者。つまり、中小都市くらいなら滅ぶ危険のある、災紫級の危険度の存在を単独で処理できるレベルの人々だ。ちなみに、一応私も条件次第ではそのレベルに入れる。
「なんでそんなのがこんなとこにいるのよ!その新人は即刻クビね!早く、早くあのバケモンを止めてちょうだいよ!」
「ドゴッ、ズウゥゥン…」
目を離しているうちに重い、鈍い音がした。
(まさか、また…)
また魔動機兵もとい上位魔動機兵が麻義を殴り飛ばしたかと思った。
しかし違った。
吹っ飛ばされていたのは上位魔動機兵の方だった。
一方の麻義はいつの間にか起き上がり、結界のようなものを纏っている。
「…ん?ねぇ、あれは間違いなく災紫級相当の上位魔動機兵なの?なんか、逆転し始めてるわよ?」
「え、えぇ。その筈ですけど…。なんか大丈夫そうですね?」
大丈夫そうですね?どころじゃない。災紫級をソロで討伐できるということは討伐者ランク第2級クラス、上位5%くらいの実力があることになる。
「あ、そうでした。その件を聞こうと思っていたんでした!あの、これ先程の能力値測定結果の残りなんですけど…あの人何者なんですか?」
そう聞かれると同時にお姉さんに測定結果の表示されたタブレットを渡された。
お姉さんによるとそれはスキルとスキル込での戦闘能力、あと測定結果の正確さを測るための測定対象の状態を測定、調査した項目の結果らしいのだが…
<戦闘ステータス>
攻撃力:S、防御力:S、特殊攻撃力:S、特殊防御力:S、体力:A、機動力:A、魔力:SSS、回復力:S
<スキル>
魔力消費軽減(2%)、体力消費軽減(10%)、精神力消費軽減(5%)、完全消失、火力強化、身体強化、演算加速、並列演算、無口頭詠唱、詠唱圧縮、回復強化、権限強奪、感覚強化、重点集中、測定、悪寒、鑑定、念話、索敵、動作予測、空間探知、魔力探知、魔素探知、気配察知、完全記憶、術式探知、術式解読、術式解除、記憶反芻、性悪、思念伝達、対魔防御、対物防御、加重障壁、完全防御、過硬障壁、最硬障壁、封印、束縛、気絶、加重牢獄、回復、解毒、治癒、操糸生成、収納空間生成、術式合成、見切り、最適化、照準補正、明確想像、動作模倣、照準誘導、指定引斥、完全操作、超加速、所有権主張…(その他も表示) 他1642件
<状態>
精神疲労IV、肉体疲労I、脳疲労Ⅲ、寝不足Ⅱ、栄養失調Ⅱ、貧血Ⅲ
「…。」
「…?」
そのバグったような測定結果に2人とも、黙り込んだ。
スキルの数は普通の人ならだいたい20個くらいで、多くても100個無いくらいなはず。なんなら私のスキルは電気操作の唯一無二なのに。
「…スキルの数がすごいのは見てもらうとわかるんですけど、その中でも魔力消費軽減がおかしいんです。これは至ってありふれたスキルなのですが、上級討伐者の方でもだいたい30%くらいで…。2%ということはつまり本来の魔力、小鳥遊さんの場合、魔法職としてそこそこくらいの魔力の約50倍の魔力分のスキルが使えるということなんですよ。」
「へ?50倍?!」
スキルの数に圧倒されて普通にスルーしていたけど、言われてみると明らかにおかしい。私なんてスキル無いからスキルの消費魔力の倍率なんて天然無添加のジャスト一倍なのに。
「しかもですよ、小鳥遊さんの状態、今絶不調なんです。なので恐く、先程の能力値測定もかなり低めになっています。本来こんな状態で試験に来るような方はいないのですが、あの方はいったい、どれだけの負荷耐性があるんですか?」
そんなこと言われても知るわけない。なぜって知り合ってまだ24時間も経ってない。
「極めつけはこれです。」
お姉さんは追加でプリントを渡してきた。
それはらおそらく最初に麻義が渡していた履歴書だった。
<経歴>
(前略)某国立大学理学部超常能力学科飛び級→大学院
約30のスキルを開発、うち受賞作が13
<資格>
1級術式開発者
2級魔導師
1級呪術師
英検準1級
「…おぅ」
なんというかもう、それしか言えない。卒業大学は知らない人はいない超名門。しかも飛び級。その上資格は能力系のほぼ最上位。もう何なのあいつは。異世界系ラノベのチート能力者なの?
「それで、彼の素性について書類審査の部署が調べたんですよ。すると、超新世時代における実力者を勝手に調査して、勝手にランク付けしたり二つ名を名付けたりする、私営の非公式集団、『世界の傍観者』の情報サイトにその名前があって…。夏…真凜さん、加護領域ってご存知ですか?」
お姉さんが私に下の名前で尋ねた。さすがはできる女ね。まぁそれは置いといて、守護領域?なんか聞いたこともあるような…。
世界の傍観者のサイトは知ってる。私もいつの間にか勝手に、藍の雷鳴なんて異名をつけられた。まぁそこそこ気に入っているけど。でも加護領域…?
「聞いたことはあるんだけど…何だっけ?あと少し、このっ、この辺までは出てるのよ。」
私はみぞおちのあたりを指した。
「その余力はあまりあと少しと言わないと思いますよ。
えっと、加護領域なのですが、数年前に山梨県のとある地区で異界門が出ても5分以内に何者かによって必ず処理がされるという、半径1km謎の絶対安全領域が生まれたんです。
それ以来その地域では、魔物による被害はほぼ0に抑えられ、そこは加護を受けた土地と言うことでそこに住む人々に、何者かの加護を受けた土地ということで、加護領域と呼ばれるようになったんです。しかし、どうも異界門の処理をしている人物が討伐者ではないようで、その上すぐにいなくなるので本当にその正体は不明だったんです。
ですが先日、その正体を『世界の傍観者』がサイトに載せて…」
お姉さんは急に話を止めた。闘技場を見てフリーズしている。
私も闘技場の方を見ると、上位魔動機兵に足下から頭の上まで、体を埋め尽くされるように魔法陣が展開されていた。
その圧巻としか言えない光景は、神聖さすら感じる圧倒感と美しさがあった。
「何よ、あれ…」
こんなものを見せられると、もう唖然とするしかない。もう昨日から驚き疲れた。
「…そ、それで…世界の傍観者が…その、厄災に早すぎる終焉を与える、土地に加護を与える者につけた二つ名が…」
お姉さんが闘技場から目を離せずにいるまま言ったが、また急に黙った。
「発動、複合スキル・局所的完全崩壊」
ハイテク性能の影響か、一方的にしか声が伝わらないこのガラスの向こうで麻義が唱えた。
同時に上位魔動機兵もとい魔法陣の塊は煌々たる閃光を放ち、それが消えた頃には上位魔動機兵は多少の原型を残した残骸となって、粉砕していた。
「…彼の異名は、神速の終幕。SuReで第1級討伐者級の実力の可能性すらあるとまで想定された、最強格の民間人です…。」
少し間を置いた後にお姉さんが言った。しかし、私は何も返事をすることができない。
「ふー。ストレス発散完了っ。」
麻義はそう言って、何をしたわけでもないといった表情で出口に向かった。
「…えっと…し、試験終了…。実技試験クリアタイム、気絶する前も込みで6分半です…。」
お姉さんが闘技場に設置されたタイマーを見た。
麻義は私たちがプリントに唖然している間にも間違いなく激戦を繰り広げていた。覚えている限りだと、完全防御だの、硬獄縛だの、大地掌だのやばそうなスキルをいくつも使っていた。
しかも、最後に使ったスキルはざっと見た感じさっきのタブレットのスキル欄にはなかった。つまりあんだけスキルを使いまくりながら、無口頭かつ並列演算でバリ硬結界の解析、解除スキルの構築、そしてそれを組み込んだ攻撃術式の構築を5分弱でやってのけたということだ。
「今日の試験ってもう終わりですよね?疲れたんでもう帰っていいですか?」
麻義が帰ってきた。あんなことをやらかしたのに本人はケロッとしている。
「え?えっと、はい…もう試験は終了したので帰宅していただいて構いませんけど…」
お姉さんがまだ少し呆然としながら言った。
「そうですか、それじゃあ今日はありがとうござ…」
「あんたねぇ、本当に何者よ!あなた昨日自分は至って真っ当な人間とか言ってたけど、あんたみたいなのが一般人だったらきっとこの星は宇宙最強の星になるわよ⁈」
私は麻義の言葉を遮って言った。
まったく、一体何を基準にしたらこれが普通になるんだか…
「何だ急にうっさいなお前は。それじゃあ地球は宇宙最強なんだろうな。ほら、もう用はねぇんだし帰るぞ。」
「え?何、私がおかしいの?そんな当然のことのように言われるとちょっと不安になるんですけど。」
あまりにも普通に言ったので自分の常識がちょっと自信なくなる。
「そうか、お前バカだから多分常識の七割はなんか間違ってるぞ。」
「はぁ?誰がバカよ⁈これでも記憶力は平均以上なのよ⁈」
まぁ記憶力はギリ平均以上のB+で、演算力はCだったけど…。
(いや、あの時は調子悪かっただけだし!)
こうして、私たちは事務局を後にしたのだった。
次回と次々回、閑話、1カメと試験、終幕と誕生、配信予定です。




