討伐者資格試験編Ⅲ 機兵と走馬灯
資格試験編Ⅱの数分後、最後の試験スタートです。
「では最後の実技試験を開始します。」
スピーカー越しにお姉さんが言った。
能力値測定が終わったあと、このやたら頑丈そうな体育館みたいなところに案内され、今いよいよ最後の実技試験が始まった。
時間は20分間、内容は魔動機兵と戦う、という至ってシンプルなものだそうだ。真凛は強化ガラスの向こうの観戦席でまた退屈そうに眺めている。
(さて、今までの試験はイマイチだったしどうにか取り返さないとな。はぁぁーっ、何で俺がこんなことしないといけないんだめんどくさい。)
「ガタンッ、ヴィィィィン…」
今こんな目にあっていることに改めて不条理を感じていると、目の前のシャッターが開き、魔動機兵が出てきた。出てきたのだが、その大きさがバグってた。幅2m、高さ10mくらいはある。
(は?このサイズのやつこんな20分しかかからん試験で戦うようなのじゃねぇだろ。)
俺は魔動機兵の頭を見上げ、強く思った。大きさ以外にもやたら大きい肩のジョイントに太い四肢、赤く光る機械らしい一つ目、と明らかに強い機動兵器のオーラを醸し出している。
しかしゴーレムはシャッターの向こうから歩き、目の前で止まってそのまま動かない。警戒はしたが、本当に動く気配もなく、倒してくださいと言わんばかりだ。ボーナスタイム?
「まぁいいか、攻撃してこないってことはこっちのターンってことだろ。おら食らえ!超加速飛石槍!」
俺は昨日作って覚えたスキルをその無防備な腹に放った。しかしカエルの首を貫く程度の威力はあったはずの槍の刃は、ゴーレムの体の表面にある結界のようなものにあっけなく弾かれた。
(うわ硬っ。そりゃぁ一筋縄ではいかないか。刺突が効きづらいなら…)
「戦闘用統合術式発動!並列演算、落雷!炎上!風刃!加重隕石!強酸膜!硬縛糸!…」
俺は電気、炎及び熱、斬撃、物理重圧、酸、拘束による切断、左右からの圧迫、冷却、ドリル、などなど、あらゆるダメージの入りそうな技をひたすら撃ち続けた。
しかしそれらは皆あっけなくバリ硬結界に阻まれている。
「あはははぁ…どれかは少しくらいはダメージ入って欲しかったなー…」
そんじょそこらの魔物なら跡形もなく消え去るレベルの攻撃を放ったはずだが、魔動機兵は見た感じ何のダメージも入っていなかった。試験に来ている人にはもっと初心者もいるはずなのに明らかに硬すぎる。
(うーん…どうしたもんか…)
次の手を考えていると、突如として魔動機兵が動き出した。
ゆっくりと動き出した魔動機兵は大きく右腕を振りかぶり、一瞬止まった後に急にすごい速さで拳を振りかざしてきた。
「⁈過硬障壁…」
防御術式を展開しようとしたが咄嗟のことで判断が間に合わず、半端なシールドは砕かれ、俺は壁に叩きつけられた。
「っだっっ…」
そして視界は暗くなり、魔動機兵を眺めつつ倒れ込み、意識は遠のいていった…。
10年前、世界革新が起こった時、俺は夢じゃないかと思った。しかし不謹慎ながらそれは悪夢ではなく、最高格の吉夢だった。
(異能力が使いたい)
アニメや漫画、ラノベなどが好きな人なら誰もが思うことだろう。そして俺にはその欲求が人一倍に強かった。
伝承の呪術や魔術のことについてもひたすらに調べ、再現ができないかと化学についても勉強した。しかし当然の事ながら、一向に使うことは出来なかった。
なので魔法が使えるようになった時、俺は泣いて喜んだ。世界革新で各地に被害が起こっている中、それでも人生最高に歓喜した。
だから異能力の研究は、世界トップクラスに早く始めたと思った。ワールドクラスの能力者にだってなれるとさえ思っていた。
…しかし、現実は違った。俺は家族にすら、その、才能という理不尽で大きすぎる壁には勝てなかった。才能の塊である愚姉は、普通1つ使えたら珍しい超能力をいつの間にか3つも使えた。天然の天才である母は、タイムセールの為に呪符を利用した転移術式を開発していた。
きっと世界にはこんな天才がゴロゴロいるんだろう、そう思った。
そして俺はそんな天才に勝つために死ぬ気で努力した。まずはあの忌々しき姉に勝つために。
俺が17になる頃、姉貴が討伐者になった。その時も、まぁあの姉貴なら普通に上位の討伐者にはなれるだろうくらいには思っていた。
だが、現実はさらに、もっと無慈悲だった。
天才は討伐者になって1週間で、能力技術大国日本における最強の十三人、「十三覇星」に選ばれた。俺が世界にゴロゴロいると思っていた天才は、常に本気を出さない愚姉は、世界でも上位の、天才中の天才だったのだ。
俺はかなり困惑した。俺が基準だと思っていた壁は実は天井だったということに、天才とは何をする訳でもなく天井にいけるという事実に、混乱が抑えられなかった。
そんな時、姉からLAINが来た。
「ははは!私はこの国の頂点に君臨してやったわ!あんたも頑張りなさい!」
俺の中で何かがプツンと切れた音がした。
おそらく姉貴は自慢と激励のつもりで言ったのだろう。しかし、どうしてほほんど頑張っていない天才に死ぬ気で努力している俺が励まされなければいけないのだろう。
というか、どうして俺は努力していたのだろう…
(あぁ、なんかもう、全部面倒くさいな。)
それからは何する気も起こらなくなり、努力らしい努力をすることもなくなった。
その、吹っ切れた後の、何事もない灰色の生活が暮らしが…
どれほどに素晴らしかったことか!
ひたすらに天才の存在を考えることも、血の滲むような苦労をすることもない生活は実にストレスが無く、天国のような平穏な生活だった。
元々好きなこと以外は基本面倒くさがりだった俺に努力は根本的に向いていないということを、ひたすらに努力し始めてから7年目にしてようやく気づいた。
それからはその地獄の時代に手に入れた常人の5倍近い処理能力でやらなければいけないことは爆速で終わらせ、日がな一日ひたすらグータラするという生活を続けていた。
…そう、昨日までは…
「ズゥゥゥン」
魔動機兵のやたら重たい足音で目が覚めた。どうも長いこと気を失っていた気がする。
意識もはっきりしだして、慌てて時計を見たが、多分1分も経っていない。今のが走馬灯というやつだったのだろうか。
魔動機兵は再びそのバカでかい拳を振りかぶっている。かなり絶望的な状況だが、頭は酷く冷静で、同時に酷く怒りを感じている。
あぁ、嫌な夢を見た。地獄のような日々、害悪のような姉貴、理不尽としか言えない今の状況。人生、こうも不幸が続くものだろうか。
あぁ、腹が立つ。面倒くさい。早く帰って即寝たい。
「最硬障壁」
早口で呟いた。今度の魔動機兵のパンチは障壁で防ぎ切ることができ、なんならまだ傷一つついていない。
(あぁー、面倒くさい。こんな事に20分もかけてられっか)
「地殻変動」
俺は目の前の足元から斜めに岩を生やし、魔動機兵に叩きつけて弾き飛ばした。
魔動機兵は天井に叩きつけられ落下したが、普通に起き上がった。ダメージを負ったようには見えないが、急なことに処理しきれていないのか少し身構えている。
「悪いな、俺は今気分が悪いんだ。少し八つ当たりに付き合ってくれ。5分で片付けるが恨むなよ。」
俺は久しぶりに、ストレス発散のためにそれなりの力を出して戦うことを決めた。




