序章Ⅱ 応戦と人権
1話の直接の続きの第二話、序章の完結編です。
「多目的機球起動、戦闘用統合術式発動、能力合成陣展開、魔術・石×動力と呪術・加速度操作術式を合成…」
俺はギリまで早口で術式を構築する。
「へ?何?複合スキルと魔法と呪術いくつ併用してんの?展開速度も早すぎるし、戦闘用統合術式って見た感じ術式何十個か並行発動してるわよね⁉︎」
女は横で騒いでいる。そんな暇があるならカエル以外をどうにかして欲しいのだが。
「発動、複合術式、超加速飛石槍!」
俺はいくつかの爆速の石の槍の刃をカエルに飛ばした。命中した刃はそれぞれ首を貫き、ゴム製ガエル数体は皆はその場に力無く倒れた。
「は?何その威力?打撃が効かない相手には刺突も聞きづらいはずなのに…」
女は首に風穴の空いたカエルを見て呆然としている。
「おい、ぼーっとしてないで他のやつ狩れや。そんなとこで何もしてないと逆に狩られるぞ?」
それを聞いて我に返ったようで、女はハッとしたような顔をした。そして即座に体が帯電し出し、銃を構える。
「えぇ、分かってるわよそんなこと!今のは…そう、思ったより少しはやるようだったから感心してただけよ!」
女は驚き隠しとしか思えないあからさまな嘘をつき出した。さっき『何その威力?』とか言って呆然としてたくせに今更何を言っているのだろうか。
「んじゃ思ったよりやる程度の人間の力がなくてもどうにかできるな。あとは一人で頑張れー」
俺は手を振り、帰ろうとする。
「あぁぁ!ごめんなさい調子に乗りましたぁ!マジでだいぶとてもすごく非常に助かりましたぁ!まだあのカエルも出てきてるし今もたついたから量もかなり増えてて私一人じゃちょっときびいのよ!お願い!謝るから助けてよ!」
半泣きになりながら縋りついてきた。もういっそ清々しいなこいつ。
「冗談だよ!冗談だから鼻水垂らして帯電したまま縋り付くな!やめろ鼻が付く!援護するからやるぞ!お前閉門術式は使えんだろうな!」
異界門は呪術・閉門術式で時間を待たず閉じることができる。しかし閉門術式の発動の詠唱は長く、普通1、2分くらいかかるので援護が必要になる。
「へ?あー言ってなかったっけ。私、超能力の電気操作以外の能力とかスキル使えないのよねー。あなた閉門術式使えない?」
(は?)
こいつは何を言っているのだろう。異界門に対処するのが基本業務の討伐者が、かつさっきまで一人で門をどうにかしようとしていた奴が門を閉められないとか何を考えているのだろうか。
「おまっ、門閉められないってさっき一人でどうするつもりだったんだよ!」
「2時間持久戦?」
女は平然とした顔で言った。分かった。こいつはただのバカだ。いくら強めの討伐者でもこの数を単独で2時間倒し続けるのは無理がある。
「…お前バカだろ。」
おっと本音が
「バカとは何よ失敬ね!さっきも言ったけどあなた初対面の人にはもっと敬意をもちなさい!ほら撤回!その言葉取り消して謝ってよ!」
………。
「よし帰るか」
「待ってくださいごめんなさい謝らなくていいので手伝ってください。」
この女は状況の判断とかできないのだろうか。
そうこうしているうちに魔物はめちゃくちゃ増えていた。奥の方にはどう見ても中ボス格の、さっきの翼竜のでかいのみたいなのも見える。
「あぁしゃあねぇ!俺が閉門術式使うから援護しろ!雑魚何体かも受け持つ!あと俺そんなに火力はないからあの奥のでかいのは任せていいな⁈」
そう言って俺は術式の構築を始める。
「もちろんよ!あんなでかいだけの飛びトカゲ、私に敵じゃないわ!探索者の分隊三番手のこの私の実力を見せてやるわよ!」
こいつの分隊には隊員が3人しか居ないのだろうか。
「あ、そうだ。あなたでっかい鉄の塊とか出せない?」
急に女が尋ねた。
「は?何で。できなくはないけど。」
「私の必殺技に使うのよ。大きさは…まあタイヤくらいでいいわ。」
人に頼らないと使えない必殺技とかどうなのだろうか。まぁそうは言っても鉄塊さえあればどうにかなりそうな口ぶりだし、ちょっと不安だが出してやる。
「鉄礫!」
言われた通りタイヤくらいのサイズ、もといタイヤ型の鉄の塊を魔法で生成した。
「ねぇ、確かにタイヤくらいとは言ったけど別にタイヤ型にしなくてもよかったのよ?しかもなんかやたら精巧だし。」
そんなこと言ってもタイヤをイメージせて作ったらこうなっちゃったんだから仕方ないじゃないか。
「まぁいいわ。それじゃあ取り巻き処理は頼んだわよ!」
女が再び、かつさっきよりもバチバチと帯電しだす。電磁力操作だろうか。タイヤも帯電して女の前に浮遊している。
「分かったよ、その代わりお前もしっかりあの中ボス倒せよ!術式合成陣展開!魔術・熱×石、呪術・重力操作術式×硬度操作術式、複合スキル・測定×索敵×動作予測×照準補正を複合!、建物に対物結界付与!」
俺は建物や道路に結界を張り、索敵スキルに引っかかる範囲のでかい翼竜を除く敵全てに狙いをつける。
「発動!殺意増し流星群」
俺は空に魔物と同じ数の加熱、硬化した岩の槍を生成、重力加速度を操作し、それを上回る加速度で魔物の群れの上からに隕石のように落とした。
放った隕石群は魔物共のそれぞれの急所を的確に貫き、ほとんどの取り巻きは息絶えた。
「うっわ、さっきも思ったけどあなた相当バケモノね。でもネーミングセンスはどうかと思うわよ?」
どいつもこいつの人をバケモノ呼ばわりとは失敬な。俺は至って常人だよ。
「まぁよくやったわ!それじゃいくわよ、大ボスの飛びトカゲ!この私の必殺技で逝けることを冥土の土産の自慢話になさい!穿て!フレミングカノン!」
女は長い前置きの後にさっきの鉄製タイヤをぶん殴って翼竜に飛ばした。
シンプルな攻撃に見えるが、しかしその速度と威力が尋常じゃなかった。やや斜め上に飛ばしたので建物に被害は出なかったが、動体視力が追いついた頃にはすでに鉄製タイヤは8m近くあったはずの翼竜の上半身を消し飛ばし、その後ろの建物に張った結界にも掠ったようで結界は粉砕し、タイヤは閃光の残像を空に残して遥か彼方に消えていた。
…いやあれフレミングの左手の法則を応用した兵器のレールガン的な技だよな。またなんか見覚えあるしあいつどんだけパクリ好きなんだよ。しかも大ボスって、あいつが必殺技を持ち出した奴を俺が中ボスって言ったこと気にしてんのか?
「ワハハハハ!見た?ねぇ見た?どうよ、これが私の実力よ⁈すごいでしょ⁈すごいわよね⁈もっと私に敬意を払ってもいいのよ!」
女はドヤ顔で自慢し出した。うざい。そのドヤ顔がとてもうざい。あんな実力があってもその態度で台無しすぎる。
「はいはいすごいすごい。著作権に引っかからないといいな。」
いやまあ率直にすごいとは思った。思ったがしかし、腹立つから高評価を与えたくない。しかもなんかあいつを褒めたら調子に乗って何かやらかす気がする。
「棒読みすぎるわよこの捻くれ者!はい!敵はあらかた片付いたわよ!さぁ、あんな門さっさと閉じちゃいなさい!」
「何でお前が上から目線なんだよ。本来それお前の仕事だからな?」
と言いつつもさっさと終わらせたいので異界門の方に行って詠唱を始める。
「世界に混沌をもたらしめし忌まわしき門よ、閉門する者たる我、小鳥遊麻義が命じる。世界の秩序に従い、この繋がりを絶て。雲は行き、水の流れる我らが世界の自然を破壊せしめる異常な超自然よ、世界にあるべきでない、存在してはならない異物よ…」
長い。長いし厨二臭い。この詠唱面倒で本当に嫌いだ。しかし途中で止めるとまた初めからやり直しなのでひたすら無心で続ける。
あの女はフレミングカノンとやらを打ったところのそばの道路の柵に座り、あくびをしながらこっちを暇そーに眺めている。
(あいつ道路の真ん中に埋めて帰ろうかな。)
そんなことを考えながら詠唱していると、すぐそばから狼のような魔物が襲いかかってきた。さっきの隕石は腹に刺さっている。しばらくしたら息絶えそうだが、今はまだかなりしっかり動いている。
「危ないクソガキ!」
女が血相を変えて走りだす。あいつ俺のことクソガキとか思ってたのか。やっぱり後で埋めよう。
「ライトニングストライク!」
女が電撃を飛ばした。しかし間に合わないだろう。狼の魔物はもう俺の数十センチ先まできている。
「ギャン!」
狼の魔物は俺の直前で結界に顔面から衝突した。多目的機球。さっき戦う時に一緒に起動した魔道機械で、色々できるが戦闘時は危険な時オートで結界を張れる。
(並列演算、過熱光線)
俺は詠唱を続けながらレーザーで狼型魔物の眉間を貫き、そいつは結界を顔面から滑り落ち、息絶えた。
「へ?あれ?」
女は電撃を投げ飛ばして振り切った体勢でフリーズしている。
「…世の理よ、戻れ。門よ閉じよ!閉門術式!」
俺はうんざりするほど長い詠唱を終え、異界門は光を放って消滅した。
「あんた何よ今の!閉門術式使いながら並列演算、しかも無詠唱でレーザーとか人間技じゃないわよ⁈あのね、本来閉門術式ってかなり複雑な術式で並行して他の能力使う余裕なんてないはずなのよ⁈それに何よその超ハイスペな球?ズルい私も欲しい!あんたバケモンだと思ったけど実際は化け物越えじゃない!ほんと何者よ!」
女がまた騒ぎ出した。だから俺はこれでもしっかり人間のつもりである。そう、あの女に比べれば遥かに。
俺はこの世で最も苦手な女を思い出す。
「なぁ、俺が言うのも何だけど失礼じゃないか?これども真っ当に人間してるんだぞ?」
「はぁ?なら私の中の真っ当な人間の概念は覆されるわよ!」
「んじゃ覆しとけ、お前の辞書がおかしい。」
色々聞かれると答えるのが面倒なので適当にあしらう。
「それじゃあ俺は帰るぞ。後始末までは手伝わないからな。それじゃ達者でなー。今度会ったら道に埋めるから。」
「ちょっと待ってよ。何で私が埋められないといけないわけ?ちょい、待ってってば!ねぇ、あなた名前なんて言うの?」
終わったしさっさと帰ろうと振り返って歩きだすと、女が引き留めてきた。
「は?お前さっき詠唱聞いてなかったのか?麻義だよ。小鳥遊麻義。」
「そう、ん?どっかで聞いたような名前ね。まぁいいわ。私は真凛、夏目真凛よ。よろしくね。ねぇ、あなた学生よね?しかも見るからに暇そうだしどうせたいしてやることもないんでしょ?お前に素晴らしい提案をしよう。あなた、私たちの隊、探索者の分隊に入りなさい!」
(は?)
さっきからすっとんきょうなことを言う女だが、また面倒なことを言い出した。しかもこのバカは目が本気だ。
「断る。」
「何でよ!討伐者って結構美味しい仕事よ?危険手当で収入もいいし、ウチすごいヒーラーもいるから滅多なことじゃ死なないし、死んでも跡形があれば生き返らせられるし、何よりそんな力あるんだから勿体無いじゃない!」
こいつは日本国憲法の職業選択の自由を知らないのだろうか。死ななくても怪我したら痛いし、そんな体を張る面倒な仕事やりたくない。それに…
「その力があるから勿体無いって考え方嫌いだよ。力があってもそれは選択肢が増えるってだけなんだからフルで使わなくてもいいだろ。それにそんな体張る仕事めんどくさい。」
「あんたどこまでもニート気質ね。どんだけ面倒くさがりなのよ!ねぇお願いよー!今ウチの主力の萌樹って人が変な書き置き残してどっか行っちゃって連日事務処理の残業続きなのよー!あの人めちゃくちゃマイペースなのにバカみたいな早さで一人で10人分くらいの仕事片付けてたからかなり人手不足なのよー!お願い、私の定時帰りのために入っでぇ!ん?あなた小鳥遊麻義って…」
女もとい真凛がまた泣きついてきた。しかし今度はさほど気にならない。こいつが物騒な名前を出したからだ。
萌樹。さっき思い出したこの世で最も苦手な人外女であり、俺の姉の名だ。特徴も職業も一致する。
「ちょっ、まっ、おまっ、その名前っ…、」
動揺しすぎて文章が出てこない。
「あー!」
急に真凛が叫んだ。
「何だうっさいな!」
お、文章が出た。
「麻義、あなた小鳥遊麻義って萌樹さんの弟でしょ!ははははは!こんなことってあるのね!もう運命じゃないかしら!」
こんなこと?運命?どうしよう嫌な予感しかしない。
「見てよこれ、萌樹さんが置いてった手紙なんだけどね…」
真凛が笑いながらスマホの写真を見せてきた。それは手紙の写真で間違いなく姉貴の字だった。
『我が同胞の諸君、僕ははちょっと用事ができたのでしばらく旅に出ます。少しの間仕事が引くほど大変だろうけどまぁ頑張ってね♡もし仕事がもう詰みレベルで終わらなかったら僕の弟を召喚して仕事させるといいよ。不肖の弟だけど多分人の5倍くらいは働けると思うから。あ、半分ニートみたいなもんでどうせ暇してるから遠慮はいらないよ?大丈夫、もしあいつが拒否ったらその時は僕が帰った時にあいつを地の果てまで追ってでも捕まえて…そうだね、メイドの格好で街中に放り出して1ヶ月は帰れなくして一生消えない心の傷を刻んであげるから。あ、慣れてきた頃にゴスロリに変えよ。ビキニもいいな。
まぁ半年くらいで帰れると思うからそれまで頼むねー。それじゃ、達者でね。
so-so』
…あぁ、めまいがする。何だこの頭の悪い理不尽で勝手極まりない手紙は。何だso-soって。草草だろ。何がまあまあだ、こっちは最悪の気分だよ。
やばい。あの女は本気だ。何が地の果てだ。あいつは地の果てどころか海を越え空を越え空間を越え宇宙を越えても必ず追いつき実行に移すだろう。あいつはそういうキチガイだ。
「そういうことであなたはかなり特殊な女装で街中に放り出されないためにはウチに入るしかないのよ。正直君を呼ぶかどうかは議論中だったんだけどここまで使えるなら採用するしかないわね。つまりあんたに拒否権なんてないのよ!ワハハハハ!さようなら私の残業!こんにちは定時帰り!あなたはこれから私たちの定時帰りのために強制的に馬車馬のように働かされるのよ!」
真凛はとても気持ちよさそうに笑っている。よほど残業がなくなるのが嬉しいのか本音がダダ漏れしている。だがもうそんなのも気にならない。
「あぁぁぁぁぁあああぁぁあぁぁぁああ‼︎‼︎クソがぁぁぁぁぁ‼︎‼︎‼︎‼︎‼︎あんのドクズ姉貴マジで何してくれてんだぁ!しらねぇよお前の仕事なんて、勝手に弟の進路決めんなや!ダァ、あのウルトラ自己中姉貴といい光の速さで音もなく逃げやがった外道といいこの本音ダダ漏れ女といい何で俺の周りにはこんなクズ共しかいないんだ。ラックを!神よ、お願いだから俺に素晴らしい人と出会えるラックをくれ!誰か俺の基本的人権を尊重してくれぇぇぇ‼︎‼︎‼︎」
何だこの悪夢は!風邪のときの夢でももう少し出来がいいぞ!あぁ誰かこのバグった奴らのいるバグった世界の上手い生き方を教えてくれ!
「じゃあまずは資格を取らないとね!明日資格試験に行くわよ!安心して、この優しい私がついていってあげるから!どうせあなたなら余裕で通れるだろうし善は急げよ!じゃあ明日9時に集合ね。あ、連絡先教えてちょうだい?」
「あ、ああ、ああああああ、あーーー‼︎‼︎」
(さようなら、俺の平穏生活。待ってくれ、まだ、まだ行かないでくれ!)
こうして俺はまことに、ほんとうに、とても、死ぬほど、非っっ常ーに遺憾ながら、街中での自分の評価を守るために、強制的に討伐者連隊(SuRe)の所属組織、探索者の分隊に入ることになったのだった。




