第64話 迷探偵ディアブロ
1話完結型なので気楽に読んでください!
◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
僕たちは聖都への旅路を急いでいた。
「この山を越えれば、麓の街からは街道が整備されています。旅もだいぶ楽になるはずです。そこから聖都は、すぐそばと言えるでしょう」
エルザの報告に、僕は内心で安堵した。
今までは山道のたびに変な修道院に行ったり、ダンジョンで踊らされたりと、変なことに巻き込まれていたのだ。
「終盤って感じがするね……感慨深い……」
「ご主人様、油断は禁物です。旅の終盤ほどネタが渋滞します」
「エルザさん。メタいこと言うね」
そんな軽口を叩いていると、大司教が物知り顔で解説する。
「この辺りは女性の領主、マチルダ女伯の領地ですな。敬虔なる信仰の持ち主で、教皇聖下の信頼も厚いとか」
「へえ、まともな人じゃん」
「ただ、親密すぎて“教皇の愛人”などと陰口を叩く御仁もおりますが……」
「なにそれ?」
「ミサで教皇聖下の祝福を受けた際、感動のあまり気絶したそうでしてな」
混乱した。
敬虔な信者なのに愛人疑惑? ミサで気絶とか、それ推しのライブで倒れるやつと同じノリでは?
僕の本能がヤバい奴だといっている。
「できれば関わりたくないな……」
そう願った瞬間、山上に城が見えた。
静かな環境で神との対話をするらしい。修道女かな?
「太陽が傾き始めてる。先を急ごう」
僕は日暮れまでに麓へ降りる算段で歩調を上げた。
ところが悪天候。よりによって、吹雪。
「うおおおお! ざむび……!」
大司教が変な悲鳴を上げた。寒さで舌が凍ったらしい。
エルザが周囲を見回し、声を落とす。
「ご主人様。視界が遮られています。このままでは遭難します」
「侯爵殿、やむを得ません。例の女性領主の館に保護を求めましょう」
関わりたくなかったのに。
「……やむを得ない。吊り橋の先だな。一晩だけ宿を借りよう。信仰心の厚い人なら巡礼者を邪険にしない……たぶん」
僕は城の戸を叩いた。
ドンドンドン!
「ごめんください!」
「……はい……」
出てきたのは女性執事だった。
「我らは聖都への巡礼者。この悪天候で困っている。申し訳ないが一晩の宿を……」
「しばしお待ちを」
執事は引っ込み、しばらくして主人を連れてきた。
現れたのはまだ若い女性。黒衣のドレス、白い肌、静かな微笑。視線だけは妙に刺さる。
「旅の方。私はこの館の主人、マチルダです。吹雪の中、巡礼の旅を……さあ、中で暖をとってください」
丁寧な口調。だが、何かが隠されている気がした。まあ、今は寒さが勝つ。僕は素直に暖炉へ吸い寄せられた。
大広間は立派だった。タペストリーに古い甲冑、そして暗い廊下。
まるで推理ドラマの洋館の様な作りだ。
館の住人は少ない。マチルダ女伯、女性執事、女性の使用人が数名。
男がいない。普段ならワクワクするはずだが、館の不気味さが勝ってしまった。
落ち着いたのも束の間。
外から轟音が響いた。
「あの音は……?」
全員が顔を見合わせる。
「マチルダ様。吊り橋が落ちました」
使用人が静かに告げる。
唯一の吊り橋が落ちた。孤立。密室。外界から遮断。嵐の夜。これ本当に推理ドラマじゃない?
しかしマチルダは落ち着き払っていた。
「またですか……ご安心ください。あの橋はよく落ちるのです。吹雪が止めば麓の領民が修理します。復旧まで、ここでお過ごしください」
僕は思った。
(……これ、遊べるな)
だって、舞台が完璧なんだ。
古い館、吹雪、孤立、少人数。
推理ドラマごっこの条件がそろってしまった。
僕はエルザに耳打ちした。
彼女は一瞬だけ「また始まった」という目をしたが、結局、付き合ってくれる。そんなところが好き。
「いやあ、疲れた。部屋で休ませてください」
僕はわざとらしく部屋に案内する様にねだる。
僕は客室に通されると、こっそりモンスターを召喚する。
ディアブロ邸で使っているデコイ。僕そっくりのダミーだ。
時間が来たらベッドの上で“死体役”をするよう指示しておく。
そして部屋を抜ける。
廊下の曲がり角で、エルザと目が合う。
「……ご主人様。今日はなにをするんですか?」
「今日は“推理ドラマあるあるごっこだから」
「被害者は誰です?」
「大司教あたりは乗ってきそうじゃない?」
エルザはため息をついた。
僕は変装して玄関へ回り、もう一度、館に入った。
ドンドンドン……
「旅の途中で吹雪に遭ったのです。宿をお借りしたい」
執事が出てきたところへ、僕は肩書きを盛りに盛った。
「私は帝国のディアブロ伯爵の従兄弟。探偵をやっています。人呼んで名探偵ディアブロ!」
「はあ……」
マチルダ女伯が一瞬だけ固まった。変装に気づいていない。よし。
やがて夕食の時間。
使用人が皆を食堂へ案内しようとする。
「それでは私は侯爵様を呼びに行ってきます」
侍女が客室へ向かった。
そして戻ってこない。
「私が様子を見に行きましょう」
僕が向かう。
客室の前。扉は閉ざされている。
「中から鍵がかかってますね」
「こちらを……」
侍女が持っていた予備鍵を回して扉が開く。
そして
「きゃあああ!」
侍女が叫んだ。
ベッドの上に、僕の死体があった。
胸から赤い液体。顔は青白く、目は虚ろ。
いかにも“やられてます”という完璧な死体だ。
僕は内心で満足した。デコイの演技力が高い。
だが表情は真面目に作る。名探偵だから。
「今すぐこの城にいる全員を広間に集めてください!」
「は、はい!」
侍女が走る。
推理ドラマのBGMが聞こえる気がする。
広間に全員が集まった。
「さて、これで全員ですかな?」
僕はメモ帳を取り出し、帽子のつばを下げて宣言した。
「犯人はこの中にいます!」
ビシッ!決まった。
大司教が動揺して前に出た。
「な、なにを証拠に!?」
「この大雪の中、外部の犯行とは考えにくい……」
「そんなことはないじゃろ! 現に探偵殿はさっき館に来たではないか!」
「まあ、それはそうなんだが、その意見は無視します」
「なんでだよ!」
大司教のツッコミが冴えている。いつもは僕に言いくるめられてるのに、僕が死んだからか今日は元気だ。
名探偵ごっこを続ける。
「いずれにしろ、誰が犯人かわからない状況です。このまま朝まで大広間でまとまっていた方がいいでしょう」
「冗談じゃない! 誰が殺人者かわからんのに、こんなところにいられるか! ワシは自室に籠る!」
来た。
推理ドラマで一番やっちゃいけない単独行動だ。これで犠牲者は大司教に決まりだ。
「大司教様、危険です!」
「うるさい! 神はワシを守る!」
大司教はドタドタと去っていった。
僕は残った面々に聞き取りを始めた。
誰がどこにいたか、何を見たか、何を聞いたか。
もちろん、意味はない。
だって犯人はいない。僕の自作自演だ。
だが“雰囲気”は大事だ。
しばらくして
「ぎゃああああ!」
大司教の悲鳴が響いた。
僕たちは一斉に駆け出す。
扉を開けると、そこにはベッドの上に血まみれの大司教の死体があった。
さすがエルザ。仕事が早い。
その瞬間、マチルダ女伯が思わず呟いた。
「……同志ランク外……」
僕の背筋が、少しだけ冷えた。
今のは、同志だって?
「マチルダ女伯。今、何と?」
「い、いいえ……何でもありませんわ」
微笑みが揺らぐ。
ほんの一瞬だが、彼女の“素”が見えた気がした。
僕はメモ帳を閉じ、改めて女伯を見た。
「マチルダ女伯。あなたとバームベルク侯爵の関係は?」
「関係もなにも、初めてお会いしましたわ」
「何か侯爵を恨んだり、許せないことはありますか?」
「私を疑っているのですか!?」
「なにもあなたが犯人だと言ってません」
僕は淡々と続けた。名探偵の顔で。
「ただの確認です」
「……バームベルクは信仰心の薄い街だと聞きました。信心深い私にとっては、許せないといえば許せません」
「ふうむ。動機はあるが初対面、と」
「ええ。そうですわ。もういいかしら?」
女伯は背を向けた。
「すみません。最後に一つ」
「なにかしら?」
「猫の話は好きですか?」
女伯の肩が、ぴくりと跳ねた。
「……普通ですわ」
「あと、ダンジョンって貸し切ると高いそうですね」
「な、何のことかしら!」
女伯は早足で去っていった。
今の動揺。やっぱり当たりだ。
そろそろ幕を引こう。
ーーーー
夜明け前。
エルザが小声で言った。
「ご主人様。やはりあのマチルダ女伯が、今まで旅を妨害していたのは間違いありません」
「だよね……でも、そんなに恨まれることしたかな」
「そういういい加減なところとか許せないのでは?」
そのとき食堂の方から騒ぎ声。
「マチルダ様! 大変です!」
料理人が駆け込んできた。
地下のワイン倉庫から、大司教と“侯爵”が縛られた状態で見つかったという。
「気がついたら縛られていたんです!」
大司教は混乱しながら自分に起きたことを訴えている。
「そういえば死体は?」
マチルダ女伯が疑問を挟む。
「マチルダ様。客室には最初からなにもなかった様に消えています」
マチルダ女伯が固まる。
執事も使用人も、理解が追いついていない顔だ。
大司教が叫ぶ。
「では、あの名探偵は!?」
するとエルザが、何でもないことのように言う。
「ディアブロ探偵は、橋が開通したからと先に帰りました」
「えっ、橋が……?」
玄関へ向かうと、扉の外には
立派な石橋がかかっていた。
吊り橋ではない。頑丈そうな橋だ。
実は夜のうちにゴーレム(万能型)へ命じて造らせた。
「これですぐ出発できますね!」
僕が明るく言うと、マチルダ女伯は理解不能な顔のまま立ち尽くした。
「いやあ、女伯! お世話になりました。我らは先を急ぎますゆえ!」
僕が頭を下げると、マチルダ女伯が話す。
「私も行きます」
「……はい?」
「あなたの信仰心が本物か、この目で確かめるのです!」
「えええ!?」
やめて。終盤で仲間が増えるの、だいたいロクなことにならないから。
僕の心配をよそに、マチルダ女伯は静かに荷造りを始め、執事が無言で旅支度を整えた。
吹雪は止み、空は白く澄んでいる。
僕たちは石橋を渡り、山を下りていく。
背後で、女伯が小さく呟いた。
「……今度は、もっと上手くやりますわ」
聞こえないふりをした。
こうして僕たちは“面倒が増えた状態”で、聖都へ向かうのだった。
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
是非是非感想など聞かせてください♪
いろんな人に読んで欲しいので⭐️評価などいただけると嬉しいです!




