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第9話 金粉ショーと計算ドリル

◾️ディアブロ

屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。


●エルザ

アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。


挿絵(By みてみん)


「徴税官……?」

思わず僕は聞き返した。


家令が恭しく頭を下げる。

「はっ。どうやら皇帝陛下在位二十周年式典を行う費用を、諸侯から徴収するようです」


ふざけてるなあ。

「うちは帝国法で免税特権が認められている。お引き取りいただこう」

そうきっぱり告げた瞬間――


バンッ!


部屋の扉が乱暴に開かれた。

現れたのは、性格の悪さが顔ににじみ出たような片眼鏡モノクルの女官僚。冷たい光を帯びた瞳が、僕と家令を見下ろす。


「そうは参りませんわ」


氷のように澄ました声。

「この式典は皇帝陛下のご威光を内外に示す国家的セレモニー。帝国貴族たる貴殿にも協力の義務がございます」


勝手に踏み込んできてこの物言い。


「そもそも諸侯は――」

なおも一方的にしゃべり続ける女を、僕は遮った。


「お話は応接室で伺おう。ここは私の執務室だ。あなたを招いた覚えはない。」


「皇帝陛下の使いである私が話しているのです!」


挑発的なモノクルの光。だが僕も一歩も引かない。


「ならば問う。選帝侯たる私を蔑ろにすることも、皇帝の意志か?」


その一言に、家令が思わず息を呑んだ。普段“善良侯”として温和に振る舞う僕が、怒気を露わにしたのだから。


女官僚は一瞬たじろぎ、唇をかすかに歪めた。

「……まあよろしい。では応接室でお話をさせていただきましょう」


バタンッ!


扉を叩きつけるように閉め、彼女は踵を返した。

残された僕と家令は顔を見合わせる。


「……妙な女が来ましたね、侯爵」


僕は家令にひと言、命じておいた。

「徴税官の女は――夕刻までわざと待たせておきましょう。」


さて、私室にエルザと戻る。僕はソファに腰を下ろしながら、彼女に尋ねる。

「あれ、どう思う?」


エルザは涼しい顔で答える。

「私服を肥やすタイプですね。道中でも『皇帝の使い』を名乗り、貴族や商家から金を巻き上げていたようです」


……さすが。もう調べてるのか。


「とりあえず、今夜ディアブロ邸へ移送しようか」

「目覚めたら、あの悪趣味な館にいると」

エルザが言葉を継ぐ

「悪趣味な館……いやいや、あれは演出だから! 僕の趣味じゃないからね!」


「……違ったんですか?」


……え、ちょっと待って。今まで本気でそう思ってたの?


ともあれ、作戦は決まった。


夕刻。

徴税官は案の定、文句をぶつけてきた。


「随分待たせてくださいましたわね!」


僕は涼しい顔で返す。

「ははは。うちには蓄財などありません。屋敷の中を見てもください。案内しましょう」


そう言って屋敷を歩かせる。

……まあ、本当に質素なんだ。


調度品も必要最低限。飾ってある絵は孤児院の子供の絵。領主の屋敷にしては見栄えしない。けど、それも善良侯のイメージ作り。

浮かせた資金の一部は、裏の顔――ディアブロ邸の趣味に注ぎ込んでいるわけだけど。


「さて、徴税官殿。お分かりいただけたかな?」


モノクルの女官僚は、鼻で笑った。

「式典経費は領民に増税でもすればよろしいでしょう」


……本当にムカつくな。

領民に説明できるか?「お前たちの払った増税分はメスガキ第2皇女のワガママと、第1皇女のフンドシになりました♡」なんて。


「ここは私室ですが――お茶でもいかがですか?」


エルザ特製、“よく眠れるお茶”を差し出す。

案の定、数口で彼女はテーブルに突っ伏した。


「よし、今のうちだ」


僕は床下に隠していた転移陣を起動させる。ディアブロ邸へ直行の裏ルートだ。


「よいしょっと」


眠り込んだ徴税官を背負う。

むにっ

……うん。性格は最悪だけど、胸は……やわらかくていい。


「ご主人様?大丈夫ですか?」

背後でエルザが冷ややかに問いかける。


「い、いかんいかん!」

ラッキースケベに感動してしまった。


深呼吸して気を引き締める。

「さあ――いざ、ディアブロ邸へ!」


ーーーー


ディアブロ邸の地下室。

眠る徴税官を僕は寝かせる。


さて――今回は「屋敷からの脱出」がテーマだ。


モノクル女が寝ている間に、僕は仕掛けをセットし始めた。


「さて……まずは恒例のレベルチェック」


視界に浮かぶメニューを確認する。

おっ、今回は罠がレベルアップしている!


「……タライの素材が選べるようになってる!?」


木製、銅製、鉄製……なぜか豪華に金や銀まである。

「これはこれで……いや、使い道あるか?」


さらに新アイテムも追加されていた。


【絵の具セット】


「……絵の具?」


「いやだから!なんでこういうのばっかりアンロックされるんだろ!武器とか出ないの!?」


嘆いても仕方がない。

出てくるのは毎度、悪ふざけアイテムばかり。


「仕方ない……今回はこれらを駆使して――」


僕はにやりと笑った。


「女徴税官殿をおもてなしといこうか!」


ーーーー


「ご主人様。徴税官殿が目を覚まします」

エルザの冷静な声。

さあ、戦闘(?)開始だ。


「……何? どこなのここ?」

モノクル女は混乱気味に身を起こす。


僕の声がスピーカー越しに響いた。

「ふはははは! 我が名は悪魔伯爵ディアブロだ!」


「なっ……! 私はたしかバームベルク侯爵邸にいたはず……!」


「覚えておらんのか? お前は“金の匂いがする”とほざきながら、勝手に我が屋敷へ入り込み、そこで寝ておったのだ!」


……嘘です。本当は僕が背負ってきました。柔らかい感触を背中にいただきながら。ありがとうございます。


「ば、馬鹿な! 隣の領地まで寝ながら歩いてきたっていうの!? だいたいこんな悪趣味でセンスのない場所にいられるわけないわ!」


悪趣味は演出だけど……センスないはちょっと傷つくなぁ。


「ふははは! まあよい。せっかく来たのだ、“おもてなし”を用意してある。堪能してから帰るがよい!」


徴税官は舌打ちしつつ、出口へ一目散に駆け出した。


その瞬間――


ズゥゥゥゥゥン!


頭上から黄金のタライが落ちてきた


「ひぃっ!」


寸前でかわし、徴税官は床に転げた。


「ご主人様……惜しかったですね」


「まあ、当たらなくてよかったよ。あんな重いの直撃したら洒落にならないし。しかし黄金製は高かったな……しばらく夜の晩酌は節約だ」


床に転がった黄金のタライを、徴税官はギラリと目を輝かせて抱き上げた。

「……これは、持って帰る!」


「結構重いけど、持って帰るんだ……」

「守銭奴ですね……」


僕とエルザは、思わずそろってドン引きした。


「な、なになになに!? なんなのよコレ!?」

徴税官が悲鳴をあげる。


目の前に現れたのは――万能型ゴーレム。

今回は“猫背矯正モード”だ。アーチ状のマッサージベッドに彼女を仰向けで固定、いわゆる逆海老状態に。


「い、痛い痛い痛い!」

背筋を強制的に伸ばされ、ボディがのけぞる。


僕は高らかに宣言した。

「そんなに黄金が好きならば――全身で堪能させてやろう!」


その合図とともに、金色の絵の具をまとった黄金スライムがじゅるじゅると這い寄る。

「ひぃぃ!? なにこれ!?冷たいっ、くすぐったいっ!」


さらにゴーストが筆を装備して登場。金色の絵の具をつけた毛先で、彼女の脇や足裏をすかさずペタペタ、スリスリ。


「やっ、ちょっ……待って!くすぐったい!痛いってばぁぁぁ!」


並行して、ゴーレムは遠慮なく指圧マッサージ。バキバキ鳴る音が響く。

「ぐぎぎぎぎ……っ! やめろぉぉぉぉ!」


やがて――。

数分後にはモノクル女の全身は、眩しいほどの黄金色に染まっていた。


「こ、これは……!? 昭和の頃に実在したという“金粉ショー”ではないか!!?」


僕は感動していた。

全身に金色塗料を塗ったダンサーが舞台で踊る、あの伝説のアングラ演劇……実物を見たことはなかったが、こんな感じなのだろう。


「……何ですか? それ」

横でエルザが冷ややかに突っ込む。


え、知らない? 説明しなきゃダメ? 読者諸氏はネットで検索していただきたい。


「ふはははは! 我が名はディアブロ!」

ついに僕は姿を現した。

「おもてなしは堪能いただけたかな?」


「き、貴様ぁ! 皇帝陛下の使いたるワタクシになんという無礼をッ!」

モノクルに金粉をまとった女徴税官が、怒りに震えながら吠える。ぷっ。


「ふうむ。満足いただけなかったか。では追加サービスをしてやろう」


僕は彼女の帳簿を開いた。

ぱらぱらとめくり――すぐに眉をひそめる。


「……お前、間違いが多いな」


僕は前世で経理経験あり。すぐに不審点が目についた。


「これほどとは……。相当計算が苦手か、それとも――数字をごまかしているか、だな?」


モノクルの奥で、女徴税官の目が泳ぐ。額の汗が金粉を溶かして流れ落ちた。図星だ。


「……け、計算が……苦手です……」

消え入りそうな声。さっきまでの尊大さはどこへやら。


僕はにやりと笑った。

「ならば――これをやってから帰るが良い!」


ドンッ、と床に叩きつけられたのは分厚い計算ドリル


「え……なにそれ……」


「ディアブロ特製苦悶式簿記ドリルだ。安心しろ。今回は家庭教師が無理矢理でもやらせるサポートつきだ!」


ゴーレム(万能型)がすっと現れ、黒板とチョークを取り出す。

――ほんと、こいつ何でもできるな。


徴税官は金粉まみれのまま、震える指で鉛筆を握らされたのだった。


ーーーー



翌日――。

バームベルク邸に、昨日の悪夢を引きずったままの徴税官が戻ってきた。


モノクル女は所々に金粉をまだまとっており、それが何よりの証拠だった。

昨日の出来事は夢でも幻でもない。現実だ。


「侯爵閣下」

彼女は深々と一礼し、言った。

「計算に誤りがありまして……貴殿に納税していただく必要はございませんわ」


あまりの変わりように、僕もエルザも、そして家令まであっけに取られた。


どうやらゴーレム家庭教師にみっちり絞られただけでなく、帳簿の訂正まで完璧にさせられたらしい。


さらに――。

「取りすぎてしまった方、あるいは取る必要のなかった方には、これから返金いたします」


その言葉に、僕とエルザは同時に顔を見合わせた。


「……ゴーレムが最強だな」


――こうして、悪徳徴税官は、ディアブロ邸の“黄金おもてなし”と“地獄の計算ドリル”によって、真っ当な官僚へと生まれ変わったのだった。たぶん。


こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。

とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください。

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