第63話 恐怖!リズムダンジョン!
「侯爵殿はその……貴族として大丈夫なのですか?」
聖都へ向かう旅の途中、マルコ大司教が尋ねてきた。
「ははは。なんか気になる聞き方ですね大司教」
「いや、貴族にとっては詩とか音楽とかは教養として身につけているものだと思ってたので」
「なるほど。そう言うことですか。私は子供の頃に家督を継いだので、領主としての仕事に忙しく、一般的な貴族教育は受けていません。皇宮で短期間見習いをやったくらいかな?」
「苦労されてるんですね……。侯爵殿も」
なんか同情してくれているが、僕としては領地経営の方が面白いので気にしていない。
「ではダンスなんかも?」
「ダンス……一番苦手かもしれないな」
どうにもリズム感がない僕は本当に苦手なのだ。
そんな会話をしていた。
「ご主人様。天気が悪くなりそうです」
本当だ。エルザが天候の悪化を告げると、たちまち黒い雲が立ち込める。
ピカ!ゴロゴロ……
雷がなり、大粒の雨が降り始める。
たちまち視界は悪くなり、山道を歩くのは危険な状態に。
「これはまずいな。どこかで雨宿りできるところを探そう」
「あそこに洞窟がありますぞ。あそこで、この雨をやり過ごしましょう」
僕が提案にマルコ大司教が提案する。なんか都合よくあった洞窟だと言うことが気になったが、この雨をやり過ごすだけだ。僕たちは一斉に洞窟に駆け込んだ。
「ふー。助かった。しかし、タイミングよく洞窟があったな」
「ご主人様。妙に明るい内部です。人工的な罠かダンジョンの可能性もあります。あまり奥まで行かないでください」
「そうだね。その可能性も……」
そんな話をしていた時だった。
ガラガラガラ……
入口で落盤が発生した。
真っ暗にならずに人工的な灯りで中は照らされている。やはり罠か?
「フフフフ!我が名はゲームマスター!このダンジョンのマスターだ!」
どこからともなく声が聞こえる。ボイスチェンジャーで変換したような声だ。
「このダンジョンはリズムダンジョン。リズミカルなパーティのみ克服できるのだ!」
「なに?リズムダンジョン?」
僕はその名称に動揺した。
「このダンジョンには3つの試練を用意してある!全てクリアできたら出口から脱出できるのだ!」
「しかも、よりによって3つだと?」
と思ったけど、3つだったらエルザ、大司教、そしてゴッツ君の3人がクリアすれば僕の出番はないかもしれない。
「し、失敗するとどうなるんだ?」
ゲームマスターに尋ねる。まさか失敗したら死ぬような、よくあるデスゲームのようなものか?
「安心しろ。命を取るとかそう言うのはない。チャンスは1試練につき1日1回。だからつぎの日までダンジョンで足止めだ!」
地味に嫌なペナルティだな。聖都までのスケジュールを考えるとこれ以上、遅れたくない。
「それでは早速、第一の試練!『太鼓の名人』だ!」
なんかどっかで聞いたことがあるような名前だけど、まあいいや。
「ルールは簡単。リズムに合わせて太鼓を叩けばいい。それだけだ!」
「ここは私が……」
大司教が名乗り出る。
「大司教は音楽得意そうだよね」
「太鼓も得意です。お任せを」
「準備はいいか?それでは行くぞ!」
音楽が流れ、大司教が太鼓を叩く。初めてなのに出来る。ある意味羨ましい。
「どうですか!?」
演奏が終わった大司教がドヤ顔でキメている。
「ぐぬぬ。第一の試練はクリアだ!」
ゲームマスターがそう言うと奥の扉が開いた。
ーーーー
「次の試練は光る床。踊るように踏むのだ!名付けて『ダンシングエボリューション』。略してダンエボだ!」
なんかこれもどっかで聞いたような名前だな。まあいい。
「うん?ゴッツ君。行けるの?こういうの得意だって」
ゴッツが志願してきた。
「それではミュージックスタート!」
正方形のパネルが集まったダンスステージで曲に合わせて床が光る。そのパネルを踏んでいけばいいという仕組みだ。
ゴッツは見事に光る床のタイミングに合わせて踏んでいる。まるで踊るように踏んでいるが、足元だけが踊っているようで、上半身は腕を組んでいる。奇妙な感じだ。
「どうだ!?うちのゴッツは見事なものだろう!」
「ご主人様。自分で踊ったわけではないので……」
エルザのツッコミがあったが、まあいい。
「ぐぬぬ。クリアだ……」
こうして第二の試練もクリアした。
ーーーー
「なんとかなりそうじゃない?あと1つ。僕は自信がないけど、エルザがやってくれればクリアだね」
「ご主人様。油断はできません。最後ですからどんなお題が出るかわかりません」
それもそうか……そんな話をしていたら、次の試練の間に到着した。
「フフフフ。ゲームマスターからの最後のお題は、ペアダンスだ!」
「なに?ペアダンス?」
「そうだ。試練に挑戦していないリーダーのお前、それと女。男女ペアで1曲踊り切れればクリアを認めよう!」
「くっ……僕がダンス苦手なのを知っていて、こんなお題を最後に持ってきたのか?」
「ご主人様。お任せください。私がリード役を務めてよろしいでしょうか?」
「う、うん?ああ。そうだね。僕よりもエルザにお願いした方がいいな」
通常、男性パートがリードやくを務めることが多いのだが、今回はエルザがリード役を務めることになった。
「それでは失礼します……」
エルザの手刀が僕の延髄に衝撃を与え、僕は気を失った。正確に言うと、意識はあるのだが、体の自由が失われた。
(あのー。エルザさん。何を?)
微かに動く口でエルザに訴える。
(ご主人様の体を私が傀儡術で操作します。ダンスの間だけですからしばし我慢してください)
え?傀儡術?聞いてないよ。リードするって、確かにリードだろうけど。
エルザは僕の疑問はさておいてと言う感じで、服を直すふりをして、全身に怪しげな装置?のようなものを取り付ける。
「そろそろ準備はできたかしら?ミュージックスタート!」
ゲームマスターの掛け声で音楽が始まる。
僕の体は勝手に動いている。エルザが操作しているんだろうけど、彼女自身も踊りながらなので、相当なスキルだ。それにしても体が勝手に動いていて、自分とは思えないくらい、見事に踊りを踊っている。
「ほう。これは見事な」
マルコ大司教も感心している。
そして、一曲があっという間に終わった。
傀儡術が解除され、身体の自由が効くようになった。
「ど、どうだ!僕が本気を出せばこんなものだ!」
「ぐぬぬぬ。認めません……女性パートがリード役になるなんて認めません!」
「は?事前にそんなクリア条件は付けられていなかったのに、何を言っているんだ!?」
「うるさいですわね。美しくないんです!なので、チャレンジは失敗!つぎのチャレンジは明日ですわ〜」
そんな無茶苦茶な。
なんとかならないかと思案していた時に珍しくゴッツが話しかけてくる。
「えっ?ゴッツ君。扉破壊できるって。このくらいなら大丈夫? じゃあ、扉を破壊して」
「やめなさい!ダンジョンのレンタル料も結構するのに、弁償代まで払えないわ!」
ダンジョンマスターが慌てて止めに入る。ていうか、このダンジョンってレンタルなのか……そんなビジネスもあるんだなぁ。
「じゃあ、我々の勝ちを認めるんだな。それとも、ゲームマスター殿はゲームのルールを捻じ曲げる卑怯者か?」
「ぐぬぬ……」
「卑怯者!卑怯者!卑怯者!ひっきょうもの〜!」
「うるさいわね!わかったわ。今回はお前達の勝ちでいいわよ!」
扉が開き、数時間ぶりに外へ出た。
外は洞窟に入った時の嵐のような大雨が嘘のように晴れ渡っていた。
「いやあ!侯爵殿にあんな特技があったなんて……」
マルコ大司教。心なしか悔しそうというか、なんか微妙に喜んでいないような表情だけど。
「まあ、パートナー次第かな。心を通わせられればダンスは成立するんだよ。なあエルザ!」
「はい。ご主人様が全てを委ねてくださいましたので、信頼にお応えしただけです」
言っていることはまともそうだけど、使ったのは暗殺者の傀儡術だからね。こえーよ。
まあ、エルザとの絆(というより操り人形として)で危機を乗り切った。




