第62話 ゴスペル隊!魂の口パク
1話完結型なので気楽に読んでください!
◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
「いやぁ。久々に大きな街だね」
僕ら一行は、芸術都市と呼ばれる街に到着した。
「いま、ちょうど芸術祭をやっていますな。大聖堂での礼拝の後に芸術祭をちょっと見ていきましょう」
礼拝のため大聖堂に顔を出すと、なにやら騒ぎが起きている。何人かの男女が腹を抱えて苦しんでいるのだ。
「何があったのですか?」
僕が駆け寄って尋ねると、聖歌隊の隊長が困った顔で答える。
「実は、今日の芸術祭にゴスペル隊が参加する予定だったのですが、一部のメンバーが食あたりになってしまい……このままでは人数が足りず不参加になってしまいます」
「それは大変だ。では芸術祭は残念でしたね」
「そうはいきません。今日の芸術祭を盛り上げることが、市長から寄付をもらえる条件なのです。市長の寄付がなければ、この教会は立ち行かなくなってしまうのです」
聖歌隊の隊長が困った顔して訴えてくる。
この街の市長。元々は医薬品の販売を生業にしていたが、今では世界的な銀行家として有名になっている。経済力を背景に政治の世界にも力を持ち、一族から枢機卿を排出したり、諸外国の王家と婚姻関係を持つまでに至った。
「確か、今の市長は芸術に並々ならぬ情熱を燃やしていると聞くね」
「そうなんです!人数も事前に登録しているので、困っています。芸術祭に不参加なんて言ったら大変なことになります。だからなんとしても……。おお!ちょうどよかった。4人必要なのです!旅の方。どうかゴスペル隊に入ってもらえませんか!?」
「いや、しかし、我々は聖歌隊としての練習もしてないし……」
「いや、上手い下手はあまり関係ないのです。魂。心のこもった歌声が聞ければ、市長は満足するのです」
そういうものなの?しかし、今夜は滞在することになるから、いいとしても……。でも、随分と急だな。
「侯爵様。人助けと思って、参加しましょう。こう見えて私も学生時代はゴスペル隊に所属していましてな。歌には自信があるんですよ。テノールパートでしたらお任せください!」
へー。大司教に意外な特技があったんだな。問題はもう一人。ゴッツは喋らないし、僕は歌に自信がない。
そう思って、ゴッツの方を見ると……。
「あー。あーああー」
こいつ、めちゃくちゃイケボじゃないか。
「おお。ゴッツ殿ならば、バリトンでもいけますな!」
「ご主人様。私はアルトでもソプラノでもいけます」
エルザも歌が上手いんだ。
「侯爵様はいかがですか?」
輝いた目でこの聖歌隊の隊長が見つめてくる。
「……音痴なんだ……」
「はい?」
「僕は音痴なんだ!歌は聞くのは好きだけど、歌うのは苦手なんだ!」
僕の告白に場が凍りつく。今までうちのメンバーは僕以外は歌が特技と見せかけて、リーダーの僕が全く歌えないなんて期待外れもいいところだろう。
「ま……まあ、大丈夫ですよ。ゴスペルは魂です!魂がハーモニーを作るのですから! それじゃあ、さっそくリハーサルをやってみましょう。誰でも知ってる歌ですから、本番のつもりで!」
なんか強引だな。この聖歌隊。
そして、僕たちの即席ユニットは歌を歌う。
「どうでした………?」
僕は恐る恐る聞く。
「……。侯爵様。申し上げにくいのですが、ズレてますよね。ご自身でもわかると思いますが……いわゆる音痴かと……」
「ご主人様は音痴なんかじゃありません!」
エルザが聖歌隊長の評価を否定して僕のことを庇ってくれた。そんな優しいところがスキ。
「ご主人様は、単にリズム感がないだけです!」
あ、ちょっと違った。
「あと、音程も少し怪しいですが、なんとかごまかせます!」
さらに追い討ち……。僕のドキドキを返してほしい。
それにしても、問題はわかってる。上手いとか下手とかじゃないのだ。僕はリズム感が致命的に欠けるのだ。
なんか歌と踊りの男装パーティが来た時も、強制的に踊らされたけど、テンポが遅れていた。
「それじゃ、リズムを取る練習だけしましょうか!ワンツースリーフォー……」
僕は聖歌隊長としばらくマンツーマンでレッスンをした。しかし、聖歌隊長が下した決断は冷酷だった。
「あのー。申し上げにくいのですが……。侯爵様は口パクでおねがいします……」
まあね。予想していた。僕は前世でもリズムを取るのが下手だった。合唱コンクールでは仕切っている女子から、「音痴は歌わないで!」って冷たく言われたのを思い出した。いつもは「男子!真面目に練習してよ!」とか言うのに、僕には「歌わないで!」って言ってくるという悲しい思い出。
異世界に来てまでそんなトラウマをえぐられるなんて……かなしすぎる。
結局、ゴッツとエルザ、そしてマルコ大司教がメインとなって、僕は人数合わせの口パク要員として聖堂ゴスペル隊に芸術祭に参加した。
街の広場にある特設ステージ。
そこに参加者が次々と登壇していく。
この芸術祭には勝敗はない。「みな、それぞれ違う美しさがある」とか何とからしく、それぞれの演者の出番が終わり次第、市長から芸術援助金という名目で参加者に金銭が配られている。
そして、僕らの大聖堂ゴスペル隊の出番になった。
“続いては、この街いちばんの美声集団、聖堂ゴスペル隊です!”
僕は後ろの方でコソコソと口パクをしていた。口パクにするくらいなら参加しなければいいじゃないかと思ったんだが、事前に人数を登録してあるとかで、なんか流れに乗せられて参加してしまった。
僕の口パクの演技が終わり、市長からのコメントがある。
「非常によかったですね。ただ、残念なのは心が一つになれなかった……芸術援助金は保留です」
そんな!
言っちゃ何だが、金目当てで参加したはずだろう?それがこんな結果になるなんて……落ち込んでも仕方がない。チャンスを見つけて市長と談判しよう。
「参加者の皆さん。この後、後夜祭を私の屋敷で行います。遠方から来た方も、どうか我が屋敷でお寛ぎください」
ーーーー
後夜祭は市長の私邸で開催された。ここは正体を明かし、ストレートに理由を聞いた。
「市長。はじめまして。私は帝国のバームベルク侯爵ハインリヒ。訳あって聖堂ゴスペル隊に参加しました」
「あなたが噂の......いやあ、芸術祭に参加いただけるとは光栄ですな。しかし残念だ。あの聖歌隊ハーモニーが欠けていました」
「と、おっしゃると?」
「一人口パクの人がいました。あなたですね?侯爵。合唱とは心を合わせて歌い上げるもの。口パクはいけません」
「はあ。おっしゃる意味はわかるのですが、私はその……足を引っ張りますので」
「旦那様。ここは芸術の擁護者同士として、歌唱練習をして、いただいては?」
秘書の女性が市長に進言する。
「そうだな!うん。この街で歌の練習をされるがいい!短期集中型特訓ならば数日で改善しますぞ!」
「実は急ぐ旅路でして……」
「まあまあ、すぐに終わりますから。当家のレッスンは間違いなしですわ」
秘書も引き留めに入る。
おいおい。こっちは急ぐんだって。
困ったことになった。
そうだ!僕には歌唱力は皆無だが、こういう茶番劇は得意じゃないか!逆転一発のいいアイデアが浮かんだ。
「ご主人様。あちらに旅の劇団が来てましたわ。劇も見てみましょう!」
エルザが会場の注目を舞台に集める。
舞台にいるのは役者パペット。ディアブロ邸のモンスターだ。
ーーーー
ナレーション「ここはとある町の教会。少年聖歌隊が歌の練習をしていた」
少年A「司祭様。ハインリヒ君が歌うとテンポがズレます!」
少年B「ハインリヒ!ちゃんとやれよ!」
ハインリヒ「やってるけど、どうしてもリズムに乗れないんだ」
少年C「司祭様!当日はハインリヒ君に休んでもらいましょうよ!」
少年達「そうだ!そうだ!」
ナレーション「少年ハインリヒは、悩んでいた。いくら練習してもリズムが取れない。そのことが彼を苦しめていた」
司祭「これこれ。そう言うことを言うもんじゃありません!生誕祭は全員で歌いましょう。そうだ!ハインリヒ君。君は歌っているふりをしなさい。口パクです!口パクでも参加することに意味があります。口パクで、心を通わせるのです!」
ハインリヒ「口パクで心を通わせる……」
ナレーション「こうして少年ハインリヒは口パクで生誕祭の合唱に参加した」
少年A「ハインリヒ!よかったぜ!」
少年B「お前の口パク最高だな!」
ナレーション「こうして、合唱は大成功。この年の少年聖歌隊は過去最高とまで言われたのだった」
ーーーー
「素晴らしい!侯爵殿にもこんな過去があったなんて!」
市長は感激して泣いている。プロの音楽家達の中には泣いているものもいる。
自分で言うのも何だが、なんだこの茶番劇は?
「それでは市長……支援金の方は?」
聖歌隊の隊長がおそるおそる市長に尋ねる。
「もちろん出しましょう!」
「そしてハインリヒ侯爵!また、この街にお立ち寄りください!」
こうして僕達は芸術の都を後にした。
僕の心に大きな傷と、口パク侯爵というあだ名を残してだが。
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
是非是非感想など聞かせてください♪
いろんな人に読んで欲しいので⭐️評価などいただけると嬉しいです!




