第8話 青春山賊団と甘酸っぱい女首領
◾️ディアブロ
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
「山賊が出るのです...」
警備隊長の報告を聞いた僕は、思わず聞き返した。
「……山賊?」
「はい。どうも隣のディアブロ伯爵領を本拠地にしているらしく、越境してきて街道で頻繁に襲撃が起きています」
なるほど。納得である。
表の僕――善良侯爵ハインリヒ・フォン・バームベルクの領地は、治安対策ばっちり。
一方、裏の顔――悪魔伯爵ディアブロの領地はというと……そりゃもう放置プレイ。だって住民ゼロの無人領だし。治安もへったくれもない。
「それは困りましたね。山賊は強いのですか?」
「なかなか手強いです。特に首領の女はカリスマがあり、手下を――」
――うん!?
いま、隊長さらっと言ったよね?首領が女?
なんとかしてディアブロ邸にお招きできないかな〜、なんて邪なプランニングが脳内で急加速する。
「……というわけでして。あの、侯爵閣下? お聞きになってますか?」
やば、聞いてなかった。あとでエルザに確認しよ。
「わかりました。私の方でも対応策を考えてみましょう」
治安対策会議が終わり、僕はそそくさと自室に戻った。
「エルザさん。山賊の首領が女だってこと以外、正直なにも聞いてなかった」
「やっぱり……」
エルザは深いため息をひとつ。
「そう思って、警備隊長から報告書をもらってきました」
「さっすが〜。できるメイドは違うな」
「表の顔をしている時くらい、徹底してください」
「は〜い」
報告書をめくる。なるほど、境界付近での襲撃。治安部隊が越境できないのを逆手に取ってるわけか。
ふむふむ、元々は別の場所で活動していた、と……。
「前の首領は討伐されて、今の首領はその恋人と」
「はい。後を恋人が継いだようです」
「で、その女首領は裕福な商家の生まれ?」
「そうらしいですね」
――なにそれ甘酸っぱい。
駆け落ちして山賊入り、その恋人の跡を継いで健気に手下どもを食わせてる。立派じゃないか。
「この間のバカップルに見せてやりたいな、この純愛」
「……はあ」
エルザは相変わらず同意しない。冷たい。
「まあいいや。女首領の身辺を直接探りに行こう。今回は僕も隠密するよ」
こうして僕とエルザは、山賊のアジトを目指すことになった。
ーーーー
さあ、隠密活動だ。
エルザはいつもの隠密用コスチュームでピシッと決めている。
僕もそれに倣って、全身黒のレオタードで出撃!
「どう?」
「……ダサいので着替えてください」
「ダメ?」
「ダメです」
――しょうがないので、普段着のまま出発することになった。
山賊のアジトは不明。だが僕にはチートスキル《探索》がある。ピコーン、と反応を辿っていくと……崖に囲まれた一軒家を発見。なるほど、こりゃ見つからないわけだ。
僕とエルザは崖の上に身を伏せ、下を覗き込む。
山賊たちはどうやら家の外で宴会をするらしい。せっせとキャンプファイヤーの準備中だ。
「ふーん。少人数だね」
「報告では、襲撃に出るのも首領を入れて五人が最大だそうです」
「じゃあ、ここにいるのが全員かな?」
――そこへ女首領、登場。
粗野な雰囲気をまとっているが……美人だ。社交界でドレスアップしててもおかしくないレベル。
「お前たち! よくやってくれた! 今回の仕事も上手くいったよ!」
「ヘイ!」
「ハンスも、山賊団が続いてると知ったら喜んでくれるだろうな!」
「ハンス団長は“自由”を教えてくれた人だ!」
「そうだ! 自由だ! 誰もあたいらを縛ることはできない!」
手下がギターを弾き、キャンプファイヤーを囲んでみんなで歌う。
なんだこの昭和の青春ドラマは?
しかし――いい笑顔だ。
女山賊ちゃんは恋人の遺志を継いで、仲間を食わせるために山賊稼業。健気で甘酸っぱい。
「ところで次のアジトですが……ディアブロ伯爵邸はどうでしょう? なんでも伯爵は一人暮らしらしいです」
「ボッチの伯爵様かい? いいじゃないか! 広い屋敷はアタイらがもらうよ! 野郎ども、明日は伯爵邸を襲撃だ!」
――来る! 青春山賊団が明日、僕の屋敷にやって来る!
ワクワクが止まらない。
ーーーー
甘酸っぱい女山賊ちゃんがやって来る。
その前に、屋敷のレベルチェックをしておかねばなるまい。
まずは罠から。
「……水鉄砲LV2」
ほう、今回は――お湯対応。しかも適温。
「ぬるま湯かよ!」
熱湯でも冷水でもない。リラックス効果あり。肌にも髪にも優しい。
続いてアイテム欄。
「……消臭剤?」
説明文:どんな匂いもバッチリ消臭。
「ってなんだよこれ!」
でも……今までアンロックされたものは、なんだかんだ役に立ってきたんだよな。
まあいい。ツッコミ入れても始まらない。
――とりあえず、迎撃戦だ!
「ご主人様。侵入者です」
エルザが静かに告げる。
モニター越しに確認すると――粗野な風貌の連中だが、動きは妙に統率されている。
もっとも、こちらは全てお見通しだ。
僕は正面の扉をわざと開け放った。
「ふはははは! 我が名は悪魔伯爵ディアブロだ! よくぞ我が屋敷に参った、歓迎しよう!」
「フン、噂のボッチ伯爵か。いいじゃないか、この屋敷、大人しく渡しな!」
「奥の部屋に鍵がある。それを取れたら、お前たちにこの屋敷をくれてやろう!」
「その言葉、覚えておけよ! 行くよ、野郎ども!」
女山賊の号令で、手下たちが一斉に屋敷の奥へ突撃していく。
――そこからは恒例のディアブロ邸名物。
まずはタライ攻撃。命中率は前より上がった!……が、落ちてくるタライをキャッチされた。
「……ノーダメージって、わかってるんですから」
エルザが呆れ顔で突っ込む。
続いてスライム。
「ギャッ」
一撃で蒸発した。
水鉄砲LV1。
びしょっ。
「……ただ濡れただけだね」
さらにゴースト。
「うらめしや〜」
……無反応。
「なかなか手強いな」
「効かないのは想像できましたけど」
エルザの冷たいツッコミが突き刺さる。
次の部屋のギミックは、ちょっと凝っている。
「四つのスイッチを同時に押せば開く?」
女山賊が扉に貼られた説明書きを読み上げた。
この部屋は、四隅のスイッチを同時に踏まないと正面の扉が開かない仕組みだ。
「姐さん!ここは俺たちが押しますから、先に行ってください!」
「……そうかい。じゃあ行ってくるよ」
……いいなあ。青春かよ。いちいち絆のドラマがあるんだよな、この山賊団。
四人の手下がスイッチを押すと扉が開き、甘酸っぱい女山賊が中に足を踏み入れる。
部屋の中央には――天井から吊るされた鍵。
「あれがこの屋敷の……?」
彼女が手を伸ばし、軽やかにジャンプした、その瞬間。
「きゃあっ!」
意外にも可愛らしい悲鳴とともに、女山賊の身体が宙に浮かぶ。
床に仕込んだ《反重力装置》が発動したのだ。ジャンプと同時に作動する罠。
そして、勢いのまま天井に――べちゃっ。
待ち構えていた《トリモチ》に絡め取られる。
ここで僕は、満を持して登場!
「ふはははは! 我が名はディアブロ! 悪魔伯爵ディアブロ……って、なんか臭い」
……女山賊しか考えられない。
すごい汗の匂いだ。酸っぱい。青春じゃなくて、リアル酸っぱい。
「ねえ? 風呂入ってる?」
「フン! 山賊にはね、風呂をキャンセルする自由もあるんだよ!」
……出た。風呂キャンセル界隈。まさか異世界で耳にするとは思わなかった。
“青春の甘酸っぱい女山賊”じゃなく“汗で酸っぱい女山賊”だったとは……!
ドカン!
そこへ手下どもが扉を破って乱入してきた。
「姐さん! 今助けます!」
四人の手下が同時にジャンプ。
――その瞬間。
反重力装置が作動し、まとめて天井のトリモチにペタリ。
「うっ!」
野郎の体臭が炸裂する。
僕とエルザは、思わず鼻をつまんだ。
「ほへはきふいな(これはキツいな)」
「ほひゅじんはま、へいのあいてふは?(ご主人様、例のアイテムは?)」
……そうか! 消臭剤!
シューーーー
空気が浄化され、ようやく呼吸可能に。
「チキショウ! 俺たちはどうなってもいい! 姐さんだけは……姐さんだけは見逃してくれ!」
……青春かよ。ちょっと感動してる場合じゃない。
「お前たちの生殺与奪は我が手にあるのだ!」
エルザさん!ちゃんと言えたよ生殺与奪!僕が高らかに叫んだ瞬間、エルザがスッと部屋の外へ。
……っておい! 匂いに耐えられなかったか。
「な、何をする気だい!?」
酸っぱい女山賊が吠える。
「お前たちへの罰はこれだ!」
――水鉄砲LV2発動!
適温のお湯が全員を洗い流す。
その後は、ゴーレム(万能型)部隊が登場。
美容師型、スタイリスト型……次々と髪を切り、髭を整え、ドレスアップ、メイクアップ。
しばらくすると、そこに立っていたのは――
ひとりの美しい姐御と、四人のイケメン。
「なんか変わったね。酸っぱい女山賊ちゃんは、元から素材がいいと思ってたけど」
「……驚きました」
匂いが消えて、エルザも戻ってきた。
「どうだ! お前たちにはオシャレを楽しむ自由を与えてやろう!」
……いや、絶対望んでないもの押しつけただけだよな。反発してこいよ。
「ありがとう、ボッチ伯爵!」
「うん?」
女山賊が頬を赤らめ、語り出す。
「アタイ、実家が厳しくてさ。礼儀作法にうるさいのが嫌で山賊になったんだ。でもファッションの楽しさを思い出したよ」
「俺はマナー教室の講師の家だった!」
「俺はダンス講師!」
「ハンスの兄貴も礼法の家元だって!」
……なるほど。礼儀作法アレルギーで山賊落ちした奴らだったのか。
ゴーレム《マナー講師タイプ》を用意しておけばよかったかな? まあいいや。
「う、うむ。これからはスタイリッシュなファッションを楽しむがいい」
自分でも何を言ってるのかわからない。
「ありがとう! ボッチ伯爵!」
「ボッチ伯爵は恩人だ!」
そう叫びながら、山賊たちは颯爽と帰っていった。
……で、残ったのは妙な感情。
「僕さ、前世でボッチだったから、面と向かって“ボッチ”って呼ばれて、さっきはちょっと凹んだんだ」
「……ボッチなんかじゃないですよ」
「ん?」
「……私がそばにいるじゃないですか」
エルザの小声。でも確かに聞こえた。
「聞こえなかった。もう一回!」
「ふふふ。ナイショです」
……なんだこの甘酸っぱい青春感。
敵は倒したはずなのに、心がやたら熱いんだが。
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください。




