第57話 女心と吸血鬼
◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
「え!?瀉血⦅しゃけつ⦆ってまだやってるの?」
瀉血はとっくに禁止したはずなのに……
僕は家令からその話を聞いて驚いた。瀉血とは中世ヨーロッパで血を抜く治療法のことだ。なぜかこの異世界でも普及していた。
病気は悪い血が溜まっているからと言う迷信から普及した治療法だが、当然そんなものに治療効果はない。むしろ病人が大量出血すれば生死に関わる。
実は僕もすぐに禁止しようと思ったのだが、長年の迷信というのはとても頑固だった。瀉血を信じている医師も患者も反対した。
そこで、公設治療院で瀉血しない治療法(と言っても栄養とらせて休養させるだけ)と瀉血する治療法を比較観察させてみた。まともな治療法がないこの世界だ。当然、栄養とって休養した方が健康そうに見える。一方で瀉血組は青白い顔で不健康そうだった。
さらに瀉血をおこなって患者が死亡した場合は医師の責任を問うという法律を作った。
これで、責任を取りたくない医師達はバームベルク領内での瀉血というエセ医療行為をしなくなった……はずだった。
「はい。何でも社交界では色白美人がモテるとかで、顔を色白にするために瀉血を希望する令嬢達がいるそうです。あの社交界のカリスマ。ソ・ノーコ夫人が火付け役らしいですぞ」
えー、そこまでするの?て言うか誰だよそれ。
そもそも美白の色白と不健康の青白いは違うじゃん。
女性の考えにちょっと引いた。
「化粧とか他の方法じゃダメなの?」
「顔を白く塗る顔料は閣下が禁止したではないですか」
家令の反論で思い出した。そうだった。“おしろい”に鉛が含まれていることがわかったので健康に悪いということで禁止したんだった。
「たかだか顔を白く見せるだけの問題でしょ?何をそこまでさせるの?」
僕は小声でつぶやいてから後悔した。多分こういう女性の気持ちを理解しようとしないところがモテない理由なんだろうな。
「閣下。女性の美への意識を甘くみてはいけません。美と健康のためならば死ねる。それが女性です」
「何それ?大袈裟すぎない?それに美と健康のためなら死ねるって矛盾して無い?」
「いいえ。大袈裟な話ではありません。実際に瀉血しすぎて倒れている女性もいます。何か対策を考えないといけません」
根本は美を追求する女性の心だからな。
この手のテーマは正直言って苦手だ。女性の気持ちが理解できれば、楽なことはない。ここは女性の意見を聞こうと思って、身近な女性代表のエルザと相談することにした。
ーーーー
「エルザ〜。女性の考えが理解できないよう」
「ご主人様にとってはいつものことだと思いますが……」
うっ!相変わらずキツイ一言。
「そう言うエルザは美白とか興味ないの?あんまり社交界の令嬢みたいにガチガチの化粧しているのをみないよね。美容とか興味あるの?」
「ご主人様とはいえ失礼ですね。私だって女ですから興味はあります。私の場合は容姿は潜入したりするときの武器ですからね。相手にどう印象を与えるかとか、逆に印象に残らないようにするためにはどうするかとか計算しながら化粧や変装をします」
「いや、その、うーん、まあそうだね」
さすがはトップクラスの暗殺女子。そう言う答えが帰ってきたか。女性の美容観が知りたかったんだけどなあ。この質問を聞いた人を間違えた。
「まあ、そんなことよりも、例のインチキ美容医師について調べてきました」
「さすが仕事が早いね」
エルザから報告書を受け取る。
最初にあるのはパンフレット。医師姿のイラストだ。ヒゲを蓄えたナイスミドルな感じのおじさま。その隣にいるガリガリの色白女性がソ・ノーコ夫人か。
「オッサンか……」
なんかちょっとがっかりした。ひょっとしたら美女じゃないかと思ってたんだけど。
「はい。この人物が瀉血治療を行っているブラッディー医師です」
「ふーん。このオッサンが若い乙女を毒牙にかけてるのか」
「よく分かりましたね」
「えっ?」
「この男、ヴァンパイアです」
「まさか、毒牙にかけるを比喩のつもりで言ったのに本当に毒牙にかけているのだったとは」
「治療後の体調が思わしくない被害者に会ってきました。実際に“治療”を受けた後はこんな感じになっています」
図を書いてエルザが説明する。
「通常の瀉血は腕から行うのが一般的ですが、このヴァンパイア医師は足のくるぶしのあたりを齧ったようです」
「なんだと!?こいつ、足フェチか?」
「ゴホン……。いえ、そうではなく、腕だと傷跡が目立つからでしょう。素足を見せるご令嬢など滅多にいませんし」
確かにそうだけど。なんか羨ましい……わけじゃないぞ!
「まあ、このヴァンパイアが碌なことをしていないのは間違いなさそうだから、なんとか排除しようか。例によってディアブロ邸で対決かな?」
「よろしいのですか?」
「あー。美女じゃないからね。このシリーズで初めてオッサン単体で対決するけど仕方ないかな」
「いえ、そうではなく。ヴァンパイアは不死とも言われる存在です。しっかり対策しないと、逆にこちらがやられることも考えられます」
「まあ、なんとかなるんじゃない?困ったらローションまみれにしてオークと相撲を取ってもらうから」
「はあ……」
エルザは心配そうだがなんとかなるだろう。
大体、ヴァンパイア対策は相場が決まっている。ニンニクと十字架を用意しておけば大丈夫だろう。そんな軽い気持ちで考えていた。
ーーーー
ディアブロ伯爵の遠縁の令嬢が色白治療の噂を聞いたと言うことにして、例のヴァンパイア医師を尋ねる。今回、 エルザがその令嬢役をやることになった。
「あれ、ずいぶん雰囲気変わるね」
エルザは10代の娘に変装しているんだが、いつものような雰囲気とは違っていた。
「当然です。どんな対象にでもなりすますことはレディーの嗜みですわ。お父様」
もうすでに役に入っている。て言うか変装がレディーのたしなみだったら、こえーよ。
「それじゃあ行こうか?」
「うふふ。はい。お父様」
やっぱりなんか怖いな。
ーーーー
「ようこそ!美のカリスマこと、ブラッディークリニックへ!」
なんか妙にテンションの高いおっさんだな。
「実は娘の社交界デビューが近くてな。先生に瀉血をお願いしようと思うんです」
「ほう。このお嬢さんですか?」
ヴァンパイアは変装したエルザを頭から足先まで舐めるように見回す。
「お父様。あたし怖い」
エルザがぶりっ子気味で話す。本当にエルザか?別人じゃないんだよな?
「大丈夫。この先生は非常に評判がいい先生だからな。先生に任せておけばお前の社交界デビューの成功間違いなしだぞ」
「それでいつ施術を行いますか?」
「明後日、バームベルクの商会で大規模な舞踏会が行われます。それに間に合うように」
「では明日、行いましょう。場所はどちらで?」
「いま、親戚のディアブロ伯爵邸に滞在していますのでそこで」
「分かりました。それでは明日の夜にディアブロ邸で施術を行いましょう」
こうしてヴァンパイア医師を呼び出すことにした。
ーーーー
ディアブロ邸で装備の確認をする。
今回は……
「おっ!本気だぞ。トゲトゲしい罠ばかりだ」
「ご主人様。注意書きが」
“対ヴァンパイア戦でのみ使えます”
「せっかく本格的ダンジョンディフェンスができると思ったのに!まあいいや。早速迎撃だ!」
「ご主人様。変態ヴァンパイアです」
早速きたか。まずは小手調べと行くか。
「おお先生。よくお越しくださいました。娘は別室で待っております」
「早速ですが、施術をします。私とお嬢さん以外は部屋から出てください」
「父親の私もですか?」
無理やり外に出された。続きは館主室のモニターから視聴する。
強力な暗示で足を齧ってるときの記憶を消すのだろう。モニター越しにヴァンパイアの目が光理、やばい雰囲気が伝わる。
エルザがかかったように眠る。エルザにはデバフ無効化グッズを持たせてるから芝居だ。
「それではいただきまーす♪」
ヴァンパイアがエルザの足にかじりつこうとした瞬間、エルザの短刀がヴァンパイアの首をとらえた!一撃で暗殺成功と思ったが、血は出ない。それどころか傷がみるみる塞がる。
ヴァンパイアはゆっくりとエルザの方を向いた。
「これは罠ですかな?」
ヴァンパイアは声を荒げるでもなく静かに問いかける。それが逆に恐怖を呼ぶ。
僕もディアブロメイクで登場するが異様な雰囲気に飲まれ、いつものセリフが出なかった。
「まあ、いいでしょう。お二人が干物になるまで血を吸い尽くしましょう!」
そう言って僕たちを追いかけてくるヴァンパイア。
隣の部屋には罠をたっぷり仕掛けた。
トゲトゲ床、飛び出すトゲトゲ、トゲトゲ鉄球……
ことごとく罠にハマっているのに効いてない。
「うーん。こんなものですか?」
ヴァンパイアは余裕そうだ。
「ご主人様!やはり不死属性です。ここはいったん撤退を!」
エルザが撤退を勧めてくる。が、さらに次の部屋には対ヴァンパイア対策をしている。
その部屋には十字架とニンニクが大量に用意されている。
「これでどうだ!?ヴァンパイア!」
僕が叫ぶ。首を傾げるヴァンパイア。
「これ、なんですか?ちょっと臭いですね」
「ご主人様!効いてませんよ!」
「なんで効かないんだ!?十字架とニンニクは定番じゃん!」
僕は慌てて廊下に逃げる。
ヴァンパイア苦手なものって何だ?
必死に記憶をたぐる。
そういえば銀の銃弾で殺せるって聞いた。でも銃はこの世界にまだない。
他に銀製品銀製品銀製品……
「ええい!一か八かだ!」
ゴン!
鈍い音と共にヴァンパイアが苦しそうにうずくまる。
「ご主人様!効いてます!」
よかった。苦し紛れに落としたのは銀のタライ。まさかタライが有効武器になるなんて。
「よし!タライラッシュだ!」
ヴァンパイアが苦しんでいるところをタライを大量に投下した。
「ちょっと!やめ、やめて。本当に」
さっきまでの余裕と打って変わって懇願してきた。
気がつくとヴァンパイアは小さなコウモリに姿を変えていた。
「くそ!覚えてろよ!」
そう言い残し、コウモリは屋敷の外へ逃げていった。
こうして女心を利用したヴァンパイアの吸血騒動は幕を閉じた。
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪




