第54話 美人スパイと赤ちゃんごっこ
◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
皇帝に呼び出された。
正確には、呼び出されたのはディアブロ伯爵だ。
けれど、あの悪魔スタイルで皇帝の前に出るわけにもいかないので、代理人として、隣領のバームベルク侯爵こと僕が招かれた、というわけだ。
「バームベルク侯爵ハインリヒ、参上しました」
通されたのは謁見の間ではなく、皇帝が私的に話すための応接室だった。
ソファに腰掛ける皇帝フランツ。その横には、顔色の悪い青年。第二皇子カールが控えている。
「おお、バームベルク侯。よく来てくれた。……実は、卿に頼みがあるのだ」
帝国皇帝フランツ。
世間では「お人好し」「無能」と好き放題に言われているが、癖の強い諸侯を絶妙なバランス扱い、国の舵を大きく誤らせたことがない。かなりしたたかな男だ。
「貴公も知っての通り、余は第1皇子を廃嫡し、修道院に送った。後継者としては、ここにいる第2皇子カールを考えておるのだが……いかんせん病弱でな。このままでは諸侯の支持が得られぬ」
帝国の皇帝は、諸侯による選挙で決まる。
皇帝家の人間だからといって、自動的に帝冠が転がり込んでくるわけではない。
諸侯にとって大事なのは、ひとつ。
「この皇帝なら、自分の領地を守ってくれるか?」
いくら聡明でも、戦場に立てない病弱な皇帝候補では、選挙で負けてしまう可能性がある。
「そこでだ。ディアブロ卿に、第2皇子カールの養育を頼みたいのだが……どうだろうか?」
「……は?」
悪魔伯爵に、皇帝の後継を育てさせる? 何を言っているんだこの皇帝は。
「娘たちは二人ともお転婆で手に負えなかったが、今や立派な淑女になった。いささか手遅れではあったが、第1皇子も心を入れ替えた。すべてディアブロ卿の功績である」
「はあ……」
「本来なら陞爵などで功績に報いたいのだが、反対意見が多くてな」
そりゃそうだ。
「そこで考えた。ディアブロ卿に皇宮への出仕を依頼する、というのはどうだ?」
え、なにそれ、すごく面倒くさそう。
「恐れながら……難しいかと。私はディアブロ卿と領地を接しているので多少の面識はありますが、滅多に屋敷から出ない方です。陛下のご要請といえど、応じないでしょう」
「ふむ、やはりそうか。……ではどうだ。『療養』という名目で、しばらくの間、カールをディアブロ卿に預ける、というのは?」
「……は?」
「ここにいる護衛は、元第4騎士団長なのだがな。療養先として、ディアブロ邸がふさわしい、と進言してきてな」
第二皇子の護衛はあの元クッ殺騎士団長か。
前に会ったときは、妙に露出の多い変な鎧だったけど、今日は普通の鎧なので気づかなかった。
「護衛と侍女だけのお忍び、という形でディアブロ領に滞在させたい。卿に、その取り計らいを頼みたいのだ」
侍女として紹介されたのは、黒髪で冷たい印象の美女だった。
名はミレディ。
雰囲気は……なんとなくエルザに似ているような、そんな気配。
(……ん?)
僕の勘が、小さく引っかかった。こっそりステータスを覗いてみる。
やっぱり。これは面白い。
「お任せください。ハインリヒ・フォン・バームベルク。ディアブロ伯爵と話をつけ、カール殿下の療養を手配いたします」
こうして、第二皇子カールのディアブロ邸滞在が決まった。
ーーーー
「しゅっぱーつ!」
少数の護衛に守られて皇宮を出発する。
「ご主人様。珍しく面倒ごとに首を突っ込みましたね」
エルザが不思議そうに首をかしげる。
普段の僕の口癖は“めんどくさい”“やりたくない”だ。
「まあ、ちょっと見ててよ。カール皇子の侍女ミレディ、だったかな。理由はそのうちわかるから」
「……?」
エルザは首をかしげたままだったが、しばらくすると、ふっと表情を変えた。
「ご主人様。あの侍女、同業者の匂いがします」
「さすがエルザさん。やっぱり気づいたか」
「わずかに隠しきれていない所作。あれは“隠密”のものです」
「そう。僕もピーンと来て、ステータスを覗いてみたんだよ。そしたら西の王国のスパイ、ってさ」
「なるほど。それで、どうなさるおつもりですか? 捕えて拷問でも?」
「いやいやいや。行き先はディアブロ邸だよ? だったら少し“遊び”に付き合ってもらわないと」
という流れだ。
ちょうどそのとき
「殿下。薬湯のお時間です」
ミレディがカールのもとに現れた。
「ありがとう、ミレディ。後で飲むから、そこに置いておいてくれ」
スパイが持ってきた薬。
怪しくないわけがない。すかさず鑑定する。
《弱毒性健康茶》
殺す気はなく、長期的に弱らせることが目的か。まあ命に別状はなさそうだ。ディアブロ邸でデトックスすれば問題ないだろう。
僕はそんなことを考えながら、旅路を続けた。
ーーーー
道中、大きなトラブルもなく、一行はディアブロ邸へ到着した。
「フハハハハ! 我が名はディアブロ! 悪魔伯爵ディアブロである! よく来たな、カール皇子!」
「カールです、ディアブロ卿。しばらくお世話になります」
「うむ。我が屋敷の医療チームを紹介しよう! 出よ、チーム・レオナルド!」
現れたのはレオナルド爺さんと、アフロドワーフのウルバン。
それに、医者っぽい衣装を着せられたパペット人形たちがぞろぞろと並ぶ。
「ふぉふぉふぉふぉ! 名医レオナルドですじゃ!」
自分で言うな、爺さん。
「それではまず、デトックスからいくとしようかのう」
「ジャジャーン! 人間洗濯機だ!」
ウルバンが持ってきたのは、どう見ても巨大な縦型洗濯機だった。
「皇子さん、ここに入って」
「こ、こうですか?」
カール皇子は素直に、洗濯機の中に立つ。
「スイッチオンじゃ!」
レオナルド爺さんの掛け声とともに、薬液が流れ込んでいく。
「皇子の病の原因を、この機械で体外に排出するのじゃ!」
「な、なるほど……」
薬液が溜まったところで、洗濯機が回転を始めた。
「ディ、ディアブロ卿……目が回る……」
カール皇子は中でぐったりしている。
「おい、ウルバン! 本当に大丈夫なんだろうな?」
「うーん、多分成功だよ!」
その“多分”が怖いんだよ。
念のためステータスを覗くと――毒のデバフは綺麗に消えていた。
ついでにHPもガッツリ削れていたけど。
ーーーー
翌朝。
食堂に向かうと、そこには血色のいい青年が座っていた。
「カール殿下……?」
思わず疑問形になる。
「いやあ、すっかり元気になった! ディアブロ卿の医療チームのおかげだ!」
「フハハハハ! 当然の結果である! な、側近も喜んでおろう!」
「え、ええ……そうですわね。殿下、よかったですね」
おやおや、美人スパイさん。
焦りが顔に出てるよ?
「今日はディアブロ邸名物の温泉、サウナ、そしてオークのマッサージを堪能されよ。明日には皇宮にお送りしよう」
さあスパイさん。なにか仕掛けるなら――今夜がラストチャンスだ。
ーーーー
夜。
エルザが静かに報告してきた。
「ご主人様。ミレディ、動きます」
「お、カール殿下を暗殺か?」
「いえ、誘拐のようです。今夜、五名ほどの女のチームが、屋敷の窓から侵入する計画です」
さすがエルザ。
襲撃計画の中身まできっちり把握している。
「それなら……久々に本気の“迎撃”といこうか!」
僕はディアブロ邸の迎撃体制を整えた。
ーーーー
合図のスカーフが、窓から外へ垂らされる。
それを目印に、襲撃班が窓から潜入してくる。
「うわっ!?」「きゃあっ!?」
足を踏み入れた瞬間、床が抜け落ちる。
そこから先は、ローションスライダー。
ずるるるるーーーっ!
そのまま地下のとりもちゾーンへ一直線。
ベタベタの粘着床に絡め取られた襲撃者たちは、保育士モードのオークたちが優しく(?)確保。
「よーしよしよし、着替えの時間だよー」
「ちょ、やめっ……!」
服を手際よく脱がされ、オムツと、可愛らしい涎掛けを装着されていく。
「は、恥ずかしいっ!」
「み、見ないでええ!」
襲撃者たちは、そのままオークとの“赤ちゃんごっこ”に強制参加させられる。
一方その頃、ミレディは……
「……遅いわね」
「そうね。今頃、みんな捕まっているわ」
「え?」
独り言を言うミレディに、横から返事が飛んだ。
「貴様、何者だ!」
ミレディが警戒して身構える。
そこに立っていたのは、暗殺者姿のエルザだった。
「あら、残念だったわね。あなたの襲撃班、大したことなかったわよ」
挑発するエルザ。
「くそっ!」
ミレディは一瞬で暗殺者スタイルに変身し、短刀でエルザに斬りかかる。
が、暗殺者としての格は、エルザの方が数段上だった。勝負はすぐについた。
「バインド!」
スキルを発動し、ミレディを拘束する。
「フハハハハ! 正体を現したな、女スパイ!」
「くそっ……どうするつもりだ!」
「ほう、活きのいい女スパイだな。捕まったスパイの末路は決まっている」
「拷問か?」
「そんなものではない!これを見るが良い!」
僕が指を鳴らすと、オークたちがカーテンを開けた。
「ミレディ様ぁぁ!」
「見ないでええ!」
そこには、オムツに涎掛けの完全赤ちゃんスタイルにされた襲撃班の女達がいた。
「貴様も、同じ目に遭ってもらおう!」
「やっ、やめて! お願い――!」
ミレディはオークたちに連行され、別室へ消えていく。
「コンプラ的に大丈夫かな、これ……?」
「着替えさせているオークはメスだから大丈夫だそうですよ」
「あ、そうなんだ」
エルザが教えてくれた。
うちのモンスターたちは、妙なところ律儀だ。
やがて。
「ううう。私のクールな悪の女幹部イメージが……」
ミレディは見事な赤ちゃんコスで戻ってきた。
自分で“クールな悪の女幹部”とか言うな。
「今回は大目に見てやろう。このまま帰るがいい!」
僕はミレディと襲撃者たちを解放する。
「せめて、元の服を返してえええ!」
叫び声むなしく、彼女たちは赤ちゃんコスのまま、ディアブロ邸の外へ放り出されたのだった。
ーーーー
「ご主人様。私、ご主人様に負けた第一号でよかったです」
「え、それってどういう意味?」
「だって、今負けたら、あんな格好させられるんですよね?」
「ああ、そっか。でも、勝負とは関係なくエルザも赤ちゃんごっこしてもいいんだよ。オムツを取り替えたりして……ぐふっ!」
エルザの肘が、僕の脇腹に綺麗に突き刺さった。
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪




