第52話 ミスターSAIZOUと金髪くノ一
◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
魔王軍との一戦が終わった。魔王軍も大規模な軍事作戦の気配が見えないからしばらくは大丈夫だろう。そんな感じでディアブロ領にも、しばしの平穏が訪れていた。
僕はディアブロ邸の裏庭にある巨大アスレチック、通称“SAIZOU”の前にいた。
“SAIZOU”では僕専属の諜報部隊であるくノ一軍団が訓練と称して日々遊んで……いや訓練に励んでいる。
訓練後は天然温泉とサウナで癒しを与えてくれるという充実の福利厚生。
「なんか忍びの道とかってもっとストイックなものじゃない?」
僕がエルザに尋ねる。
「ご主人様。これはこれでよろしいかと思います。最近は暗殺者業界も明るくて楽しい職場をアピールするようになりました」
「暗殺者って、もっと闇に生きるっていう感じで目立たないものだと思ってたけど」
「目立つ目立たないと、充実の福利厚生はベクトルが違いますので」
エルザは真面目に答えるが、僕にはふざけた答えにしか聞こえない。明るく楽しい隠密集団ってなんだよ。
そんなことを思っていた穏やかな午後、ディアブロ邸で雇っている幽霊執事が困惑した顔でやって来た。
「旦那様!妙な来客がこれを……」
「うん?これは?」
それは手紙だった。筆で書かれた毛筆の手紙。一読してからエルザに渡す。
「拝見します……」
エルザは読み終わってから笛を吹いた。
“ピー”
くノ一軍団が訓練(?)を途中でやめ、素早くエルザの元に集合する。
「お呼びでしょうか?」
リーダー格のヒガンバナ。余談になるが、うちのくノ一軍団のメンバーはおどろおどろしい名前が多い。リーダーのヒガンバナ、他にはキョウチクトウ、トリカブト、ドクダミ……って、ドクダミは体にいいけど、それ以外は毒のある花じゃねーか!どういうつもりで娘にこんな名前をつけるんだよ!
まあ、余計なことを考えてしまった。
エルザがさっきの手紙をくノ一たちに見せる。
「お前たち、これに見覚えは?」
「拝見します。ニンジャマスター」
いつしか彼女たちのコーチとなっていたエルザはニンジャマスターと呼ばれるようになっていた。
「こ、これは!オッサン!?」
「ああ。オッサンだ」
くノ一たちがざわつく。
オッサンとはくノ一たち故郷である忍びの里で開催される忍者の試練、通称SAIZOUに長年出場し続けているレジェンドで、ミスターSAIZOUとも呼ばれる男だ!ちなみに完全制覇はしていない。
オッサンの手紙の内容はシンプルだった。
『弟子を育てたからSAIZOUで勝負がしたい』
手紙にはたったそれだけ。
それにしても忍びの里のくノ一がここにいて、SAIZOUっぽいアスレチックがあるってどこで知ったんだよ?
「いずれにしろ出迎えるか」
僕たちは玄関でミスターSAIZOUことオッサンと対面することにした。
ーーーー
「お、オッサン!」
ヒガンバナが話しかける。
「久しぶりだな。ヒガンバナ」
オッサンは片目を失明したのだろうか、眼帯をしている剣豪のような出で立ちだった。
くたびれた服が長旅の苦労を語る。
そしてオッサンの後ろには黒いローブを被った人物がいた。深くフードをかぶっているから男か女かもわからなかった。
「その人は?」
くノ一が尋ねる。
「これぞ私が生涯をかけて育てた最高の弟子!今こそベールを脱げ!スズラン!」
オッサンが大声で言う前に、スズランと呼ばれた人物はすでにローブを脱いで正体を表していた。
「このローブ暑いね!」
「先に脱ぐんじゃない!スズラン!段取りが違うだろう!」
オッサンがローブを着ていた人物に文句を言っている。
「オッサン!うるさいよ!」
「ハーイ!私はウェスタンNINJAのスージーでーす!ヨロシクネ!HAHAHA!」
僕は呆気に取られた。なんと言うかコテコテの日本のことを勘違いしているアメリカ人がやる忍者のコスプレ、アメリカンNINJAって感じなのだ。金髪にピンクの忍者装束。お前、忍者って忍ぶんだぞ?
「スージーではない!くノ一ネームとしてスズランと名乗れと言っておろう!」
オッサンがスージーにまた文句を言っている。あー、毒のある花に名前は芸名みたいなものなのね。娘にトリカブトとか名前をつける親がいなくてちょっと安心した。
「このスージーじゃなかった、スズランならばSAIZOUの完全制覇も夢じゃない!勝負だ!くノ一軍団!」
「のぞむところだ!オッサン、いやミスターSAIZOU!」
オッサンの勝負宣言に応じるくノ一軍団。
おいおいおい。勝手に勝負始めるなよ。とは思ったものの面白そうだから見てみよう。
会場は当然ながらディアブロ邸裏庭にあるSAIZOU特設ステージ。
こうして――“SAIZOU決戦”が幕を開けた。
ーーーーー
SAIZOUの前に参加者が並ぶ。今回はオッサンも参加するようだ。
「ところでオッサン。その目はどうした?」
ヒガンバナが尋ねた。
「うむ。これは厳しい修行の中で失った代償だ」
「オッサン……そんな厳しい修行を……」
ちょっと感動的な静寂をスージー破る。
「オッサンは着替えを覗こうとしていたので、ワタシが目潰ししたら、こうなりました!自業自得ね!HAHAHA!」
「……」
一堂がおっさんを冷めた目で見つめる。
「ち、ちがうんだ!これは……そう!事故だ事故!」
「覗きは犯罪だから事件でーす!HAHAHA!」
またもやスージーがなぎ倒していく。
コイツ!強すぎるな。ていうか何でこんな変態の弟子になってるんだ?
「ねえ、どうしてこんな変な男の弟子をやってるの?」
エルザが僕が思った疑問をぶつける。
「オッサン!お金くれまーす♪」
またもや一堂がおっさんを冷めた目で見る。
「ち、違うぞ!さすがにそういう、いかがわしい関係ではない」
本当かどうかはスージーしかわからないな。
まあいいや。
ーーーーー
ステージ1:地獄の丸太渡り
最初の障害は、落ちれば泥の沼。
オッサンは軽快に飛び移るが――次の瞬間、
「おおっと! 足が!……ぬ、ぬるぬるじゃと!?」
派手に落下。早くも泥まみれ。一応、ギリギリ落ち切らなかったと言うことでクリアとなった。
「ぬうう!なかなかに難コースだな。さすがディアブロ卿だ」
オッサンがクリア後に強がっている。
いや、第1ステージだし、仮にも忍者だろ?
「ミスターSAIZOUという割には大したことないんじゃない?調子悪いのかな?」
僕も心配になるが、くノ一軍団は違った。
「いつも通りかな」
「うん。いつも通りだね」
あ、そうなんだ。こりゃ完全制覇は無理だな。
ステージ2:壁走りの谷
「まだじゃあ!」と奮起したオッサン、壁を駆け上がる!
だが途中で足を滑らせ――
「わしの……ヒザがあああ!」
膝を押さえて悶絶。ここでリタイア確定。
「ミスターSAIZOU、まさかの第二ステージ敗退です!」
実況の声が響く。
一方その頃、金髪でピンクの忍者装束スージーはノリノリだった。
「イエー!ニンジャ・スピリット!ハイジャンプ!」
意味不明の掛け声とともに、次々と障害を突破していく。
くノ一軍団も負けていない。
「行け、毒花乱舞隊!」
「任せて!」
くノ一が華麗に舞い、舞い、そしてリーダーのヒガンバナ以外は全員落ちた。
「ドクダミ、足が滑る!」
「トリカブト、沈むなー!」
泥の沼に咲く毒花。ある意味、美しい光景だった。
――そして、最終ステージ。
残ったのはウェスタンNINJAスズランと、くノ一軍団リーダー・ヒガンバナのみ。
空中のロープを渡り、最後の鐘を鳴らす競技だ。
「いざ、勝負よスズラン!」
「オーライ!レディ、ファイト!」
風が吹き抜け、ロープが揺れる。
二人は互いに目を合わせ、同時に跳んだ!
カンッ!
二つの鐘が、まったく同時に鳴り響いた。
「勝負、引き分けだな」
僕が拍手を送ると、エルザが静かに頷いた。
「良い試合でした。隠密業界も明るくて活気ある業界になります」
……いや、隠密業界、それでいいのか?
こうして“SAIZOU決戦”は、平和裡に幕を下ろした。
オッサンは満足げに空を見上げる。
「ついに、ついにSAIZOUを完全制覇したぞ!」
まあ制覇したのはスージーであってお前じゃないけどな。
弟子スージーはサムズアップ。
くノ一軍団もやる気を出している。
「伯爵!もっと難易度を上げてくれ!」
早速特訓するつもりらしい。
僕は思う。やっぱり平和って、こういうことを言うんだな。
しかし、本当にこれでいいのか!?




