第6話 メスガキを躾けろ!
◾️ディアブロ
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
「ここは閣下の人徳に頼らせていただきたく――!」
皇帝付きの執事が、慌てふためいた様子で僕のところへ駆け込んできた。
「……で、ご用件は?」
僕が紅茶を啜りながら尋ねると、執事は額の汗をぬぐい、言いにくそうに口を開いた。
「じ、実は……第二皇女イザベラ殿下の、躾をお願いしたく……」
「皇女殿下の躾?」
僕は思わずオウム返しをしてしまった。なんだその依頼?
「その、殿下はどのようなお方なので?」
探りを入れるように聞くと、執事は苦虫を噛み潰した顔で答えた。
「とにかく……わがままなのです。年上にも一切遠慮せず、相手が貴族であろうと『ザーコ!』だの『お前、弱弱だな!』だの……。とにかく口が悪くて……」
……あー。なるほど。
僕の脳内に一つの単語が響いた。
――メスガキ。
尊大で小生意気で、しかも口が悪い。まるでプレイヤーを挑発してくるゲームのNPCみたいじゃないか。
……これは、しつけ甲斐がありそうだ。僕の口角が自然と吊り上がる。
「分かりました。このハインリヒ、微力ながらお力添えいたしましょう」
「おおっ……!ありがとうございます!」
執事は涙を浮かべんばかりに感謝し、深々と頭を下げて帰っていった。
残された僕は一人、椅子に腰かけながら考える。
――さて、どんな“お仕置き”で迎えてやろうか
ーーーー
「ようこそお越しくださいました。ハインリヒ・フォン・バームブルクです、殿下」
僕はうやうやしく頭を垂れて、第二皇女イザベラを出迎えた。
「フン。父上の頼みだから来てやったが、退屈させたら承知しないからな、この雑魚貴族」
出たよ。いきなりメスガキムーブ全開じゃないか。これは……楽しみになってきたぞ。
ちらりと横を見ると――。
「エルザくん?」
隣の忠実なるメイドが、わずかに頬をピクつかせていた。明らかにイラついてる。隠す気ゼロ。
「まずはお疲れでしょうから、お食事などは?」
僕が穏やかに提案すると、殿下は即座に鼻で笑った。
「食事よりも先に館を案内せよ」
……来たな。提案をわざわざ否定して逆を要求するタイプ。
やはり相当な天の邪鬼だ。
僕は観念して屋敷の中を案内することにした。だが、その途中で“例の隣人”の話題を出さざるを得なくなる。
「あの伯爵邸には近づかないようご忠告いたします。何を考えているかわからない男ですので」
すると殿下は、勝ち誇ったように笑った。
「そうか。では妾自らが、貴族のあり方を諭してやろうではないか!」
……いや、メスガキに説教なんて、天地がひっくり返ってもごめんこうむりたいんだが。
ーーーー
皇女殿下のディアブロ伯爵邸への“お出まし”が決まった。
僕は「先触れとして伯爵に伝えるため」というもっともらしい口実で別行動になり、その間にディアブロ邸で迎撃の準備を整えることに。
「さて――恒例のレベルチェックタイムだ」
館の罠とモンスターの確認は、すっかり僕の日課になっている。
今回の新しい罠は……デコイ。
おとりを設置できる。が、唯一の機能は“やられたときの演技”。
「……使い道、だいぶ限られるよね」
悪役を演じてる僕でさえ、ツッコミが止まらなかった。
そしてモンスター。新種の追加はなし。
ただし、ゴーレムが“リラクゼーション専用”から“マルチタイプ”に進化していた。
「おっ、万能型!? ……と思ったら戦闘以外限定?」
説明を読んで、僕は思わず頭を抱えた。
「なんで戦闘で使えないんだよ!」
……要するに、戦場で役立つどころか、戦闘中にマッサージ始めたりお茶を淹れたりするタイプってことか。
ーーーー
「お待ちしていました、皇女殿下」
僕の声が館中に響き渡る。もちろん直接じゃなく、スピーカー経由で。
「まずは旅の疲れを癒していただきたく――お茶でおもてなしを」
執事の服を着せられた万能型ゴーレムが、堂々と客間に殿下を案内していく。
やって来たのはメスガキ皇女と、護衛の騎士五人。
ゴーレムは無駄に手際よくティーセットを並べ、見事なお点前でお茶を淹れた。
「フン。気が利くじゃない。でも安っぽいお茶ね!」
――うるさい。そもそもディアブロ邸に“もてなし客”なんか来る想定ないんだよ。高級茶葉なんて用意してるわけないだろ。
その時、護衛の一人が顔を青くして手を上げた。
「あの……殿下。そ、その……トイレに行ってきたいのですが……」
他も同調する。
ふふ。彼らのカップに仕込んでおいたのは強力な下剤。
お漏らしするか、護衛を放棄するか、地獄の二択。
「ちょっと! あなたたちは私の護衛でしょう!? トイレなんて我慢なさい!」
メスガキ殿下がヒステリックに叫ぶ。
「で、ですが……今にも……!」
騎士たちは必死に懇願する。
そこへメイド姿のエルザが、冷ややかにささやいた。
「ここで護衛の方が粗相をすれば、殿下の名誉に傷がつきますわよ」
メスガキはしぶしぶ腕を組み、鼻を鳴らす。
「……仕方ないわね。すぐ戻ってくるのよ!」
そうして五人の騎士は一斉にトイレへダッシュ。
トイレには転移陣を仕込んである。発動と同時に、彼らは屋敷の外へワープ。
――今頃ケツ丸出しで円陣組んでるんじゃないかな。想像すると笑いが止まらない。
そして、転移陣の発動に合わせてデコイも作動。
「グアアアー!」
デコイの断末魔の声が響き、床に倒れる偽の“犠牲者”。
ゴーレムたちがその死体を恭しく担ぎ、部屋へ戻ってきた。
「な、何よ!? 何が起きてるの!?」
さすがのメスガキ殿下も動揺を隠せない。
慌てて出口へ駆け寄るも――扉はびくともしない。
「ふはははは……もうお帰りかな? 皇女殿下も大したことないなぁ」
僕はスピーカー越しに、わざと安っぽい挑発を投げる。
案の定――。
「く、首を洗って待ってなさい! 今からそっちに行って説教してやるわ!」
挑発に即反応。ほんと、この子……バカなんじゃないかな。
メスガキ殿下は、やや腰が引けながらも屋敷の奥へ進んでいく。
そして――来た、恒例の“アレ”。
「今だ!」
ゴンッ。
「痛ったあ」
見事に頭上からタライ直撃!
「ヒットした!やった!ついに初ヒットだ!」
僕は思わずガッツポーズ。
「……ご主人様。殿下は痛がっておりますが、残念ながらダメージはほとんどないかと」
エルザが冷静に指摘する。
「うーん……本当だ。この罠、思ったより弱いんだね」
――そう、これで6回目の設置。ようやく僕は気づいた。
タライはネタ罠であって、決して致命打にはならない。
このあとも水鉄砲、トリモチ、定番の罠とかゴーストによる悪口攻撃などをいろいろ用意していたんだけど……殿下が半べそかき始めたので、ちょっと可哀想になってきた。
仕方ない、ここはカットだ。
「次がラストだ。最後の部屋は――」
僕は不敵に笑う。
「最高のおもてなしだ」
部屋に入った殿下を、ゴーレムたちは有無を言わさずマッサージシートに押し込んだ。
今回のマッサージシート――体勢はなんというか、死にかけの蝉。
仰向けで手足を強制的に広げさせられていて……これは普通に恥ずかしい。
「な、何なのよコレぇ!」
メスガキ殿下が絶叫する。
そのタイミングを見計らい、僕は堂々と登場した。
「ふはははは! 我が名はディアブロ! 悪魔伯爵ディアブロだ!」
「お前、こんなことして……ただじゃおかないわよ! 雑魚貴族ぅ!」
――おお、新鮮で活きのいいメスガキだ。これは上物。
まずはマッサージ開始。
さらに筆を手にしたゴースト軍団が、手足やわき腹を一斉にくすぐり始める。
「ひっ、いたっ! アヒャヒャヒャ! や、やめろっての! ちょ、くすぐるのは反則ー!」
忙しそうにジタバタする殿下。罠の醍醐味、これに尽きる。
そして第二ラウンド。
「殿下のために、特別にマナー講師をご用意いたしましたぞ」
現れたのは万能型ゴーレム。ほんと、なんでもできるなコイツ。
「今日のおもてなしは――『マナーを完璧にマスターするまで帰れません』だ!」
「な、何よそれ!? お父様に言いつけてやるんだからぁ!」
しかし、早速ゴーレムの厳しい指導が入る。
言葉遣いがなっていない、態度が横柄、姿勢が悪い……チェックが止まらない。
「明日には迎えの護衛が来るだろう。それまでにマナーをマスターしておくのだな! ふはははは!」
こうして殿下は“地獄のマナー講座”に放り込まれ、僕は悠々と部屋を後にした。
次の日。僕は普通にメスガキ殿下のことなんか忘れて、のんびりしていた。
「ご主人様。……メスガキ――いえ、皇女殿下の所へ護衛が到着しそうです」
エルザが報告してくる。
夕方になって、ようやく護衛たちがディアブロ邸まで戻ってきたらしい。
僕は館主室のモニターからその様子をのぞいた。
「殿下! ご無事ですか!?」
護衛の騎士たちが駆け寄る。
「まぁ皆さん。ごきげんよう」
――ポカーン。
護衛たちがあっけに取られている。正直、僕も驚いた。
「……なんか、すごいね」
「ゴーレム、万能すぎませんか?」
僕とエルザは思わず顔を見合わせた。
「殿下! 我らの不手際、どうか罰を……!」
騎士たちが地面に頭をこすりつける。
「何をおっしゃっているのです? 私はこうして無事なのです。今までは皆さまにご苦労をかけました。これからも、どうかよろしくお願いします」
……いやいやいや。ちょっと待て。
マナー講師をつけただけなのに、人格まで変わるとか何事だよ!?
こうして、第二皇女――かつてのメスガキ殿下は、すっかり淑女に矯正されて帰っていった。
「あ、そういえば……」
「どうかなさいました?」
「本場の“ザ〜コ♡”を聞けなかったなぁ」
「……はぁ」
いつものようにエルザが呆れ顔でため息をつく。
そして今日も、僕の周りはやっぱり平和だった。
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください。




