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番外編 女悪魔の寒中水泳

私は魔王軍幹部――ルナ。

先日、悪魔伯爵ディアブロに敗れ悪趣味極まる屋敷にある牢獄サウナから華麗に脱獄してみせた。


が、そのあとが問題だった。


〜魔王城〜

「おお、ルナ! よくぞ戻った!」

玉座の間に響く、魔王様の若く覇気ある声。

「お前に万一があれば、全軍を率いて帝国に攻め込むところだったのだ」


「ありがたき御心。……ですが、任務は失敗しました。申し訳ありません」


「失敗は誰にでもある。次は必ず帝国を我が手にする。そうだろう?」


その温かな言葉が胸に染みる。私の魔王様は、若くして軍を束ねる器の持ち主。私が命を賭ける価値のある、唯一の“王”。


去り際、魔王様は小さく囁かれた。


「ルナ、あとで私の部屋に来なさい」


「はい♡」


ーーーー


〜魔王の私室〜


「ルナ、よく来た」


「ああ……魔王様……♡」


ほんの少しだけ露出の多い服。魔王様の好みは心得ている。


「大変だったな。お前に危険な任務はもうさせな……うん?臭うな?」


「えっ?」


「いや、ルナ。汗の匂いが……結構、強い」


「そ、そんなはずは。ついさっきシャワーを浴びて、新品の勝負下着に着替えたばかりですのに!」


「本当に臭うのだ。医師を呼ぼう」


どうして?サウナからはだいぶ時間が経っているのに――。


呼び出された宮廷医師は、まず私の脇をじーっと見つめ……いや、ちょっと、恥ずかしいのですけれど!


「ふむ。毛穴が過度に開き、魔力腺と汗腺が暴走しておりますな。死霊使いの魔力と汗の相性も悪いのが原因かと」


「ど、どうすれば治るのです?」


「寒中水泳が良いでしょう。極寒に身をさらし、開いた毛穴を締め直すのです」


「な、なにそれ?」


魔王様が困った顔をしている。


「まだ冬は浅い。城の周辺で寒中水泳は無理だ。ほかに手は?」


「どのみち極地並みの極寒が必要です。ブリザード系モンスターの力で人工的に吹雪を起こせば、まだ間に合いましょう。冬本番まで待てば体質が固定され、慢性化しますぞ」


「それは困る!」

魔王様は即断即決で命じられた。

「ブリザード系モンスターを動員し、特設プールを用意せよ! ルナの治療を最優先だ!」


……魔王様、行動が早い。そこが好き。


ーーーー


〜魔王軍特設プール〜


「ま、魔王様……さ、寒すぎ、ます……っ」


私は水着一枚でプールサイドへ。視界は白。頬に触れる風は刃のよう。召喚されたブリザードウルフとフロストハーピーが吹雪を巻き起こし、水面は凍り、凍り、また割れる。


「ルナ! いけるぞ、お前ならできる!」

魔王様……なぜこんな時だけ熱血……?


ザバァン!


私は氷の膜を蹴り割り、プールへ飛び込んだ。肌が悲鳴を上げ息が止まる。魔力循環を最小限に落として体温を守る。サウナで開き切った毛穴が、ギュッと縮む感覚ってこれか?


「ど、どどど、どう……です、か……っ」


歯がガチガチ音を立てる。医師が指を折って数え、うなずいた。


「良い流れですな。これを20セットほど」


「じゅ、20!? わ、私、死霊使いですけど、死霊にはなりたくないんですけど!?」


「安心なさい。治るか死ぬかです」


なら安心なわけ……ないよね。だめじゃん?



ザバァン。

ザバァン、ザバァン、ザバァン。


10セット目。唇は紫、視界がスノウドーム。

15セット目。意識が雪に埋もれる。

ラスト。魔王様の声だけが、遠く、温かい。


「ルナ! 戻ってこい! あと一回だ!」


最後の一歩を踏み出すために、私は脳裏のディアブロを引きずり出す。

サウナ。あの男が私に味わわせた地獄。復讐!


「リベンジよ!」

叫びながらプールをターンする。


ザバァン!


「ど、どどど、どうですか……っ」


氷片をまとった髪を払って、水から上がる。医師は私の脈を取り、脇の下をマジマジと観察してにやりと笑った。


「改善しましたな。毛穴の開き、魔力腺の過活性、いずれも収束傾向。再発の恐れはゼロではありませんが、注意を続ければ問題なしでしょう」


その言葉に、膝から力が抜けた。


「よくやった、ルナ。……先ほどは私が“臭い”などと、すまなかった」


「いえ、魔王様のためですもの。ですが――」


私は凍えた指でタオルを握りしめ、顔を上げた。


「全ての元凶は、ディアブロ!あの男がサウナで拷問したせいです!」


「聞け、ディアブロ! 次に会うとき――お前をサウナに入れて、水風呂で締めて、また煮て、またサウナに入れてやる!!」


「ルナ……それ普通のサウナだよ」

魔王様のツッコミが静かに聞こえたが同時に寒さのため気を失った。


再戦へ続く?

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