第46話 ハロウィンに帰りそびれた女ゴースト
この世界はハロウィンはアンデッド系モンスターが跋扈する夜なのだ。
この夜のアンデッドモンスターは活性化していて、とても強い。なので、お供物を用意し穏便に帰ってもらうのがハロウィンだ。だが、今年のハロウィンは少し様子が違った。
一番やっかいなゾンビについては、今年はディアブロ邸に集まっていた。死霊使いのルナがディアブロ邸を襲撃させたのだ。やつには捕虜としてディアブロ邸の魔導サウナで汗とともに魔力を吸い取り続け魔石の生産をさせ続けていた。だが、死霊使いはゾンビたちを使い、まんまと脱獄(脱サウナ?)したのだ。
ゾンビの大量襲撃のせいでディアブロ邸近辺は悲惨な状況だが、バームベルクはほぼ無事だった。とはいえ、ゾンビ以外のアンデッドはバームベルクに出没したのだ。
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ハロウィンの翌朝。
まだ帰らないアンデッドモンスターが街に残っている。祭りの後の静けさにまだ祭りを引きずっているような違和感。
そう。前世のハロウィン翌朝も、早朝出勤するために山手線に乗っていると帰宅しそびれ、仮装したリア充が乗っているような違和感。平日なのにこいつまだハロウィンやってやがる……という周囲の冷たいしせん。あんな感じだろうか。
今年も朝から街の中に残ってしまっているアンデッドを討伐する。翌日も残るアンデッドはどうやっても帰らないから討伐するしかない。見つけ次第討伐していく。この世界では冷めた目で見るだけではなく、物理的に駆除していく。
僕はアンデッド討伐隊を指揮していた。エルザはディアブロ邸が大量のゾンビに襲われたせいでその後始末に当たっているので今日は別行動だ。
「いたぞ!スケルトンだ!」
太陽の光を浴びて弱っているアンデッドに容赦がないかもしれないが、まれにハロウィンの影響で強力なバフが残っている個体がいるので油断はできない。騎士団や警備隊が複数人で取り囲んで対処する。スケルトンはあっという間に粉々にされてしまった。
「ここまで徹底して破壊することはないのでは?」
僕はやりすぎだと思っているが、そうでもないらしい。
「姿を残した状態で討伐したアンデッドは、来年強力になって帰ってくると言われています。なので粉々にするのです」
複数人で取り囲んで、容赦なくボコボコにする姿はリンチにしか見えない気もするが、仕方がないのか。
アンデッドと人間の共生はできないらしい。
それ以外で目立つアンデッドはゴーストだ。ゴーストについては物理攻撃ができるわけではない。レベルの低いゴーストからは悪口を言われるだけで実害はないのだが、これも残しておくと、そのうちレベルが上がってポルターガイスト現象とかを引き起こす。さらに強力になると呪いをかけてくる個体になる可能性があるので、やはり討伐対象だ。
「ボッチの童貞……」
「お前、好きな女に冷たくされても嬉しそうだな……」
僕は反射的に光魔法の魔道具を使いゴーストを駆除していく。これを残していくのはダメだ。僕は改めて思った。
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「今日はだいたい終わったかな?」
夕方になり、僕が警備隊長と騎士団長に尋ねる。
「はい。住民からの通報に基づく駆除はだいたい終わりました」
「領内の他の町や村も順調とのことです」
うんうん。順調か。こっちは適当に切り上げてエルザの方に合流するか……
「それではここは、おまかせしましょう。私は街の中を見回ってきます」
そう言って、単独行動を始めた。
街を見回ると徐々に日常を取り戻している。明日には普通の生活かな……そんなことをかんがえていたとき、走ってきた女性とぶつから……なかった。
女性が僕をすり抜けたのだ。
「あれ、ゴースト?」
僕が振り返り女性に声をかける。
「あわわわわ。ち、ちがいます。私は実体がなくって、ちょっと透けているだけの無害な女です」
それってゴーストの特徴じゃん。と思ったけど、饒舌なゴーストも珍しい。それに見た目はほぼ実体化している。僕は興味を持った。
「どこだ?あっちか?」
離れたところから警備兵の声が聞こえる。どうやら追われてきたらしい。僕はとっさに彼女を物陰に隠した。
「閣下。ゴーストを見ませんでしたか?」
「見てないぞ」
「そうでしたか。ならば逆の方ですな。おい!いくぞ」
警備兵は反対の方へ走って行った。
「もう大丈夫だ」
「ありがとうございます……」
「しかし、ゴーストの割にはよく喋るな」
僕はゴースト女に話しかける。
「生前は大公家で女執事として仕えていたのですが、悪魔に殺されまして」
なるほど。彼女もあの悪魔の犠牲者か。このまま成仏させるのも忍びない。ここまで人格がはっきりしていれば悪霊化もしないだろう。
「なら、ディアブロ伯爵の屋敷で執事をやってくれないかな?」
僕はディアブロ邸の執事として屋敷の管理をゴーストにお願いすることにした。
「ありがとうございます。悪魔に殺された私が悪魔伯爵のところで働くのもどうかと思いますが、ここは素直に頼らせていただきます」
こうして、ディアブロ邸の新しい執事が誕生した。
名はまだない。だが彼女は今日も、ほうき片手に、床から十センチほど浮いたまま掃除をしている。
ハロウィン明けの朝に拾った“幽霊執事”。
来年のハロウィンは彼女が真っ先にお供え物の準備をしてくれるだろう。




