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第43話 操り大公と謎の少女

◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)

屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。


●エルザ

アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。


『大公』


帝国で皇帝に次ぐ広大な領土を支配する大貴族。

その名はサラザール。


近ごろ彼から発せられるのは、「よかろう」「ご苦労」「そうせい」。

この三つ以外の言葉を、誰も聞いていない。


私はケレンの大司教、オルド。

ケレンは古くから大公家の庇護下にある。

帝国は何世紀にもわたり皇帝派と大公派に割れ、国の未来を賭けた政治戦が続く。

そして――私は聖職者でありながら、皇帝を選ぶ“選帝侯”の一人だ。


本来なら迷わず大公派を支持する。

だが――最近、その“大公”がどうにもおかしい。


サラザール大公。かつて「突進公」と呼ばれた勇猛の人。

戦場では先陣を駆け、矢を浴びても突撃の歩を止めなかった。

けれど今の彼は、戦場どころか自室からも出ない。

生気の抜けた影のように、玉座でただ頷くだけ。

その姿を見るたび、胸の奥に黒い靄が広がる。


今日も大公派の諸侯が一堂に会した。

名目は「懇談会」だが、実態は大公派閥の献金集金である。

豪奢な衣をまとった貴族たちは互いの顔色を伺い、金額を競った。

宴の終わり、私たちは謁見の間へ通される。


そこには大公と、二人の少女。


銀髪のルナ。

金髪のソル。

年若く、あどけない微笑み。だが瞳は、氷の底に火を閉じ込めたように冷たい。

二人は大公の“守護天使”のように寄り添っていた。


「うむ。ご苦労……」


大公の言葉は、それだけ。


「大公殿下より皆様へ。さらなる献金を期待いたしております――と、仰せです」


告げたのは金髪のソル。

大公は、わずかに頷いた。


「ははーっ!」


私たちは少女の声に合わせて頭を垂れる。

奇妙な光景だ。国の行方を左右する大貴族が、ただの少女を通して意思を示すとは。


退室後、廊下で同席の伯爵が小声で問う。


「大司教殿、このままで良いのですか?」


「……何のことかな?」


とぼけて返すが、意図は分かっている。


――この派閥は腐り始めている。大公は傀儡だ。背後に“別の力”がいる。


皆、薄々気づいている。

だが、それを口にした者は……死ぬ。


実際、数か月前に離脱を宣言した諸侯の当主は突然の病死。

妻も息子も行方不明。

代わって遠縁の男が当主に据えられたが、どうにも不自然だ。

あの家に、あんな者がいたか? 私は見た覚えがない。


「……我らにできることはない。時が過ぎるのを待つだけですな」


そう答え、早足で廊下を離れる。


背に刺さる視線。

振り返れば、玉座の扉がわずかに開き――

銀髪の少女がこちらを見ていた。

まるで私の心を読んだかのような、微笑で。


その夜、私は祈った。

神よ、この帝国を救いたまえ。

……いや、もはや神で無理なら、悪魔でも構わぬ。

せめて、この奇妙な沈黙に風を――。

ケレンへ戻った私は、大聖堂でひたすら祈り続けた。恐怖から逃れたい、その一心で。


______________


私の名はルナ。魔王軍の女幹部にして、帝国潜入の工作員。

任務はただ一つ。帝国を乗っ取る。

そのために大公サラザールを「骨抜き」にした。


使い魔ソルと共に人間の少女へと化け、屋敷に仕える。

世話係として信用を得るのに時間は要らない。

武骨な武人は、純粋な眼差しに弱い。可憐な笑顔は世界中の扉を開く。


やがて大公は、私の言葉以外に耳を貸さなくなった。

外の政治は部下任せ、会議にも滅多に出ない。

そして――誰も知らない。彼がすでに“死人”であることを。


「さあ、大公様……こちらに署名を」

「おお、ルナ……ルナ……」

「ふふ。いい子ですね。後で“いい思い”をさせてあげますわ」


その言葉に、唇がかすかに笑む。

もちろん、その笑みも私が作った。


そう。サラザール大公は、生きていない。

私は死霊術で大公を“動く傀儡”にしている。

毎日、偽りの新聞を読ませ、同じ偽物の命令書に署名させる――死体が繰り返す日常。

事情を知らぬ者は「今日も大公様はご健勝だ」と安心する。


私は死人に幻想を与える。

甘美な夢、栄光の記憶、虚ろな愛。

たまに“餌”を与えねば暴走する。死霊も感情を欲するから。

だから囁く。やさしく、甘やかすように。


「ねえ、大公様……夢の続きを、見たいでしょう?」


瞳に宿る光は、死霊術の光。

それでも誰も気づかない。

今日もこの国は、死んだ男の名で動いている。


ーーーー


今日は大公家の重臣との定例会議。

形式だけの儀式だが、貴族社会はこの手の“形式”が大好物。

形式が続く限り秩序は保たれる――そう思い込みたいのだ。


議場の奥には、私の配下の魔族が人間に化けて座る。宰相も、参事も、財務卿も。

屋敷の上層は、ほぼ魔王軍のもの。

それでも誰も気づかない。

人間は「昨日と同じ顔」を見れば、安心するからね。


宰相役の魔族が朗々と布告を読み上げる。

新しい法律。中身は単なる増税。

魔王軍の軍資金集め。

貴族たちはうなずき、沈黙。

そして、いつものとおり死人が締めくくる。


「うむ。よかろう」


喉奥で呪文を囁くと、大公の口がゆっくり動く。

少し濁った声――しかし誰も気づかない。

これで終わり。……のはずだった。


「サラザール殿下! これは増税の布告。我らも領民に説明せねばなりません。どうか、大公殿下ご自身の言葉で!」


配下の行政官が訴える。

……面倒。死霊に会話させるのは意外と消耗するのよ。


「よかろう。この法律は――」


口を動かしかけて、やめた。

こんな雑音は、処理すればいい。


「ソル。この会議が終わったら、あの行政官は始末して」

「はい、ルナ様」


後釜には、彼に化けた魔族を入れれば済む。


領民たちも幸せよね。増税分は魔王軍の軍資金。

帝国乗っ取りのために役立つのだから、ありがたく思いなさい。


あと少し。大公派の票が増えれば皇帝選挙で勝てる。

票が集まり次第、現皇帝には“事故”を起こし死んでもらう。そして選挙を開かせ、傀儡の大公を皇帝に据える。

魔王軍の操り人形が治める帝国……。想像するだけで、うっとりする。


だが、買収にも脅迫にも応じない者がいる。

バームベルク侯爵。中立を貫き、弱みを見せない厄介者。

送ったスパイは皆、なぜか隣の領地のディアブロ伯爵に“ひどい目”に遭わされて戻る。

何が起きているのかしら?


「ディアブロは悪魔伯爵を名乗り、領民を虐げています。人間のくせに……」

ソルが報告する。


「魔族でもないのに“悪魔”を名乗る男。面白いじゃない」


私は、その男に純粋な興味を抱いた。


ーーーー


「ルナ様。バームベルク侯爵が領内を通過中です」


ソルの報せ。皇帝への謁見の旅路だという。

本来なら大公領を通る以上、挨拶に来るはずだが……。

警戒しているのか、密かに通過するつもりらしい。


「ちょうどいいわ。“ご招待”しましょう。よろしいですわね、サラザール殿下?」

「そうせい……」


私は騎士団長に化け、自ら迎えに行くことにした。


ーーーー


バームベルクの一行は少数。侯爵と思しき男と従士が数名。

速度重視。一刻も早く通過したいのが見てとれる。


私たちは橋で待ち構えた。

長い橋梁の中央を侯爵が越えた瞬間、入口と出口を兵で封鎖する。


「止まれ。いずこの諸侯と見受ける。ここはサラザール大公領。殿下への挨拶もなく通るのか?」


「これはご無礼。私はバームベルク侯、ハインリヒ。皇帝陛下に急ぎ召されております。殿下へのご挨拶は帰路に……どうかご容赦を」


白々しい。こちらを警戒しているのは承知だ。


「まあ、大公殿下は無礼にも寛大である。ただし、“ご招待”をお受けいただければ、の話ですが」


さあ、どう出る? バームベルク。


「承知しました。少々の遅参は陛下もお許しになりましょう。殿下のご招待に応じます」


一瞬、侯爵がニヤリと笑った気がした。

大公家の騎士に囲まれ、連行されるように城へ。


ーーーー


「よくぞ……参られた……。バームベルク侯爵……殿」


死霊術で大公を操り、歓迎の辞を述べさせる。

……けれど、魔法の“ノリ”が妙だ。糸がどこか引っかかるような違和感。


「少々強引なお招きに驚きましたが、サラザール大公殿下にはご機嫌麗しく」


侯爵が恭しく頭を垂れる。

まあいい。この城に滞在している間に、籠絡か、脅迫か、あるいは――殺して偽物を立てるか。

それで皇帝選挙は勝てる。


その瞬間、空間が歪んだ。

気づけば、バームベルク侯爵と従者の姿が消えている。


サラザール大公は――ミイラ。

私の死霊術が、無効化されていた。


罠だ! 悟った時には、もう遅かった……


<珍しくシリアスな陰謀編として続く>

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