第5話 魔女っ子の悩み
◾️ディアブロ
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
「えっ、魔女が住んでるの?」
エルザの報告に、思わず声が裏返った。
だってここ、ディアブロ伯爵領は“住民が逃げ出す無人地帯”って売り文句なのに。住民がいたなんて聞いてないぞ。
「はい。ですがその魔女は長らく世界魔女協会に呼ばれて、研究に没頭していたそうです。今度ようやく帰郷する予定だとか」
エルザは、いつもの澄ました顔で淡々と答える。
「……で、なんでわざわざこんなド田舎に?」
「魔法薬の原料となる《マージョ草》が、この領地でしか育たないらしいのです」
なるほど。そんなプレミア草があったとは。
だが僕の脳裏には、それよりももっと面白い発想がよぎる。
「――マージョ草を、先に収穫してやったらどうだ?」
「は?」
「そうすれば魔女が取りに来るだろ?しかも自分からディアブロ邸に!」
「……またロクでもないことを考えてますね」
エルザは深いため息。僕はニヤリ。
よし、決まりだ。
こうして僕らは《マージョ草》探しに出発することになったのだった。
ーーーー
早速、魔女の家の近くにある森へとやって来た。
目的はもちろん《マージョ草》の捜索……なんだけど。
「で、それってどんな草なんですか?」
「……知らん」
エルザと顔を見合わせる。やっぱり分からない。
なら、ここは僕の異世界チートに頼るしかない!
「――プレイヤーチートスキル《サーチ》!」
発動した瞬間、視界の中に矢印が浮かび上がった。
おおおおお!ちゃんと反応してる!これが噂の希少素材探索の力か!
矢印の先をたどって、俺はひょいと一本摘み取る。
「……普通の薬草ですよ。しかも品質は悪いですね」
エルザの冷静なコメント。
「なら次だ。《解析》!」
結果を読み上げる。
「ふむふむ……確かに薬草。でも品質が最低のものは“マージョ草”と呼ばれる。人が見捨てるレベルの貧しい土地にしか育たない……」
……僕の領地が解説文でディスられてる気分になるのはなぜだ。
とはいえ確かに希少ではある。数は多くないから全部収穫してしまおう。
最後にちょっとした置き土産を残す。
紙切れにサラサラと書き殴り、魔女の小屋の扉にペタリ。
――「マージョ草は全て収穫した。ディアブロ伯爵」
よし、これで魔女が引っかかってくれるはずだ。
ーーーー
監視役にエルザを残すことにした。
いつものメイド服じゃなく、今日は“隠密コスチューム”。しかも微妙に露出が増えた、ちょっとエロいバージョンだ。忍び装束って、なんで必要以上にピチッとしてるんだろうな。好きだけど。
僕は屋敷に戻り、次の襲撃に備えて準備を進める。
ほどなくして、森に潜んでいたエルザが戻ってきた。
「魔女は……相当焦ってました。やはり欠かせない薬だったようです」
報告する彼女の姿は妙に色っぽいが、それどころじゃない。狙い通り、魔女は餌に食いついたらしい。
「じゃあ迎撃の準備を始めるか」
僕は屋敷のステータス画面を開き、前回の撃退で手に入れた新スキルを確認する。
――【罠:反重力装置】
説明文:ジャンプする時などに高く跳べる。
「……いやこれ、罠なのか?」
モンスターでもダメージでもない。思い切り使い方を間違えそうな気がする。
それから、もう一つの新規入手アイテムに目を留める。
――【アイテム:エリクサー】
説明文:幻の回復薬。魔女はこの研究のために世界魔女協会に召集されていた。
「えっ、これ幻の回復薬じゃないですか!」
エルザが声を上げる。
「へー……でも屋敷の《アイテム購入》コマンドで普通に買えるんだな」
便利すぎる異世界経済にちょっと引きつつ、冷静に考える。
でも正直、回復させるほどの味方モンスターなんて今のところいない。
ゴーレム(癒し担当)はそもそも耐久力が高すぎるし、スライムやゴーストなんて一撃で消える。
「……まあ、とりあえず一個だけ買っとくか」
ーーーー
魔女は、お決まりの“箒ライドオン”で屋敷へとやってきた。
重々しい扉を開け、堂々と箒にまたがったまま廊下を進んでくる。
「よし!最初の仕掛けは――タライ攻撃だッ!」
カンッ!
完璧なタイミングで落ちてきたタライが、見事に魔女の頭に直撃。
「やった!」
勝利のガッツポーズを取った瞬間、背後から冷静な声が飛んできた。
「……ご主人様、よく見てください。物理防御の魔法が展開されているので、ダメージはゼロです」
エルザ、いつの間にか隠密スーツからメイド服に着替えている。なぜだ。
「くそっ!せっかく初めて直撃したのに……!次だ!」
僕は意気込んで、二の矢――水鉄砲を発射。
びしょ濡れになった魔女が「キャッ」と声をあげる。
「やった!」
……と思ったら。
「――《ドライ》!」
魔女が唱えた魔法で、一瞬にして水気が蒸発した。髪も服もサラッサラ。CMか。
「次いくぞ!……トリモチの罠だ!」
だが、すーっと滑るように飛ぶ魔女のほうきは、地面に仕掛けた粘着ゾーンを軽々スルー。
「ダメですね」
エルザが肩をすくめる。
ぐぬぬ……。ここまで悉く空振りとは。
次の新兵器で決められなければ――今日のところは大人しく《マージョ草》を返すしかなさそうだ。
次なる仕掛けは――問題の《反重力装置》。
正直、使い方なんてさっぱり分からない。だから設置も超テキトー。
そんな不安をよそに、魔女は悠然とほうきに乗って装置の上を飛び抜けていった。
次の瞬間――
「ゴッ!」
鈍い音を響かせ、魔女は床に落ちた。
「……うん? 何が起きた?」
「どうやら、ほうきだけが急上昇したせいで……股間を強打したようです」
エルザの冷静な解説。
「男だったら激痛コースだね」
「女も痛いんですよ」
「え、そうなの?」
それ以上、彼女は何も説明してくれなかった。なんか大人の事情を感じる。
「……とにかく!今がチャンスだ!――《バインド》!」
僕の詠唱とともに鎖が伸び、魔女の体を一瞬で拘束。
こうして彼女は、あっけなく捕らえられてしまった。
「ふははははっ!我が名は悪魔伯爵ディアブロ!よくぞ我が屋敷に来たな!」
決め台詞を高らかに響かせた――つもりだった。
だが魔女は、まだ股間の痛みに悶絶していて耳に入っていない様子。
仕方ない。もう一度だ。
「我が名は――」
「さっき聞いた!」
涙目のまま、魔女が突っ込んできた。妙に元気だな。
それよりも、とばかりに叫ぶ。
「マージョ草を渡せ!」
……拘束されてるくせに随分と強気だ。
「なぜそんなに必要なのか、理由を話してくれれば考えてやってもいい」
「それは……言えない」
魔女はぐっと口をつぐんでしまった。
「ならばこの草は処分するまでだ」
わざと脅すように言うと――
「待て!待ってくれ!……秘密にするなら、教える」
魔女がついに懇願してきた。
「よかろう。悪魔伯爵ディアブロ。神に誓って、秘密は守ろう」
……自分で言っておいてなんだけど、“悪魔伯爵”が“神に誓う”って変だよな。
魔女は小さな声で口を開いた。
「……なんだ……」
「ん?聞こえんぞ。もう一度言え」
観念したように、彼女は叫んだ。
「痔なんだ!魔女はみんなあの姿勢で箒に乗るだろ!?あれで全員痔になるんだ!」
「痔とは……あれか?尻の肛門の――」
「言わなくていい!そう!それです!マージョ草は痔の薬になるんだ!」
……なんという職業病。
魔女も楽じゃないんだな。少し悪いことをした気分になった。
「ご主人様、大変です。今のダメージで……その……痔が……」
エルザが耳打ちしてきた。
……あ、これ完全にヤバいやつ?
いやいや、ここまでするつもりじゃなかったんだよな〜。
「と、とりあえず今日は悪いことをした。わびにこれをやろう」
俺は懐から一つ取り出す。
「……エリクサー?」
魔女の目がまん丸になる。
「うむ。飲むのか塗るのか入れるのか知らんが、お前が使えばよい」
実際、痔にどうやって使うんだろうな……?
「ありがとう、悪魔伯爵!あんたマジ神だね!」
いやだから、“悪魔に神”ってさぁ……。
「ちょっと塗ってくる!」
「う、うむ……」
その間、気まずい沈黙が流れる。
「ねえエルザ、ちょっと悪いことしちゃったな」
「ご主人様は……本当に悪魔です」
やがて戻ってきた魔女は、すっきりとした笑顔を浮かべていた。
「これだけあれば魔女仲間も助かるよ。伯爵、ありがとう」
「うむ、よかった」
そう言うと、彼女は自分の箒からふわふわクッションを外した。
どうやら尻を守るためにつけているものらしい。
「これはもういらないや」
「よかろう。我が屋敷で処分してやろう」
「本当?ここまでしてもらって悪いね。じゃあお願いするよ」
魔女はそう言い残し、夜空に舞い上がって消えていった。
「……そのクッション。今日の戦利品ですか?」
「うん。でも、魔女にあんな悩みがあるなんてな。世界は知らないことだらけだ。」
世界には、まだまだ知らないことがある――そう思いながら、僕は魔女のクッションを手にしてしみじみとつぶやいた。
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください。




