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第41話 盛りすぎ絵画はもはや詐欺

◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)

屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。


●エルザ

アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。


「閣下。そろそろお見合いなどされてはどうでしょうか?」

執事の唐突な提案に驚いた。


「いやあ政略結婚には興味がないからさ」

貴族の娘との結婚はごめんだ。陰謀とか政争に巻き込まれるしね。


「貴族は貴族ですが外国のです。海洋国家ヴェネスの大富豪の娘です。どうですか?絵だけでも見ませんか?」

海洋国家ヴェネス。貿易立国で世界中に貿易拠点を持っている。しかし裏では海賊行為で敵対国の船団を襲っているという噂もあるが……


「肖像画を預かっています。最近評判の画家に描かたみたいです。この画家、なんでも依頼主の満足度99.9%らしいですぞ。肖像画だけでも見てみませんか?」

なんか強引に来るな。気にはなったものの絵を見るだけならば。それに画家の満足度99%とか。通販番組かよ。

なんか引っかかるのがないと言えば嘘だが……


「まあ、肖像画を見るだけでしたら」

「ありがとうございます」

執事は一枚の絵を持ってきた。


「ほう……」


そこには茶色がかった柔らかい髪の女性が、上品に微笑んでいた。

控えめなドレス、落ち着いた構図。清楚で、どことなく儚げ。

悪くない。いや、かなり良い。


「どうですか?興味を持たれましたか?お会いするだけでもいかがですか?」


執事の声がやけに滑らかだ。まるで何かの営業担当。


興味はある。でも引っかかるところもある。


「ところで、なんで海洋国家の貴族がこの内陸にある帝国の山の方にあるバームベルクとの縁組を考えたんだろうか?」


僕の疑問はこれに尽きる。貴族の結婚は打算だ。ならばこの結婚に何のメリットがあるんだ?そこがわからなかった。


「善良侯と呼ばれ、善政を敷く名君と呼ばれる閣下の名声のおかげでしょう!」


「いやそうではなく……」

僕がいうものの、執事はニコニコしている。

いやいやいや。答えになってないって。政略結婚のメリットを聞いてるんだってば。

さてはコイツ、笑って誤魔化そうとしてるな?


「どうですか?会うだけあってみては?」


ずいぶんグイグイ来るな。執事の態度が気になったが……まあ、会うだけならいいか。


「一度、お会いしましょうか。でも会うだけですよ。もう一度言いますが会うだけですからね」


あまり乗り気はしなかったものの、執事の強引さに負けて会うことにした。

僕は何度も会うだけだと念押しをしつつ、人生初のお見合いをすることになった。


ーーーー


私室に戻るとエルザが待っていた。

「ご主人様。お見合いするんですか?」


あー、エルザは怒って……ない?


「う、うん。まあ執事に押し切られてね。で、でも会うだけだよ。まだ結婚するつもりはないし」


なぜか必死に言い訳してる自分がいる。

別に浮気でもなんでもないのに。なんだこの感じ。


「ご主人様は大貴族です。釣り合う方を奥様にお迎えしなければなりません。素敵な方だといいですね」


エルザは静かに微笑み、一礼して静かに部屋から出ていった。


あれ?エルザってこんな感じだったっけ?

一人部屋に残され僕はモヤモヤしたものを抱えるのだった。


ーーーー


なんか、モヤモヤしたまま眠れそうになかった僕は一人で夜の街に出かけた。いつもと違うのは、どんな時も側にいる相方とも言えるエルザがいないこと。今日は酒場で静かに飲もう。そう思っている。


酒場に着くとカウンター席に座った。静かに酒を飲む……つもりだった。


「ガハハハ!明日は勝負だ。今日は前祝いだよ!」

「ね、姐さん。明日に響きますから、今日はこのくらいにして宿に戻りましょうよ」

「しけたこと言ってんじゃなよ!今回は完璧だからね。もうこれでクソ親父に馬鹿にされなく済むようになるんだよ!」


なんか下品な女の声がこだまする。


「あれ、なに?」

僕がマスターに聞く。


「ああ、あれは南の方の海賊みたいですね。略奪品の売り払いにわざわざきたのでしょう」


海賊?あの粗野な感じはそういうことか。でも、何をしにきたんだ?

あまりバームベルクで揉め事は起こしてほしくない。


「おうおうおうおう。うるせえな姉ちゃん。こっちに来てお酌しろや!」

あー。当て馬の登場。見事な酔っ払いのオッサンが絡んできた。どうせ半殺しに…と思った瞬間には遅かった。すでに絡んだおっさんはボコボコになっていた。


「両手両足折っておくか!」

おいおい。海賊の女は物騒なことを言っている。さすがに領内でトラブルが起きているのに見て見ぬ振りはできないので


「おい。その辺にしておけ」

僕は止めに入った。女海賊がこちらを振り向く。日に焼けた肌、鋭い目つき。髪は焦げ茶の乱れ髪。


「なんだい?やさ男。アタシ達とやるというのかい?」

はあ。荒事か。全く困ったな。そう思っていた時に。

「ね、姐さんマズイですって。他国で暴力沙汰は」

お付きの女海賊が首領っぽい女に話しかける。

「チッ。仕方ない。今日のところは引き下がるよ。帰るぞ」


女海賊は手下を引き連れて帰っていった。


結局、モヤモヤしながらその日は眠りにつくことになった。


ーーーー


翌日。

ついに“お見合い”の日が来た。


――来てしまった。


屋敷の門前に馬車が停まり、上品そうな女性が降り立つ。

だが……なんか違う。いや、かなり違う。


「……あれ?」


昨日見た肖像画の女性は、光を纏った天使のようだった。

今、目の前にいるのは――港で酒瓶を片手に船員を殴り飛ばしてそうな女。


そして、その女も僕を見て――


「あ!」


声が重なった。


間違いない。

昨日、酒場で大暴れしていたあの女海賊だ。


まさか見合い相手だったとは。

いや、肖像画詐欺にもほどがあるだろ。


僕はチラリと執事を見る。

――あの野郎、完全に目をそらした。


「はじめまして。マリーナと言います」


振る舞いは見事に“貴族令嬢の演技”。

だが、声は見事に酒焼けしている。

そんなこの女の中身を知っているこっちは、逆に背筋が寒い。


「はあ。……バームベルク侯爵のハインリヒです」


形式だけの挨拶を交わす。

お互い、わかっている。これは茶番だ。


「そ、それでは……お二人でごゆっくり」


おい執事。逃げるな。

こんな爆弾を僕の隣に置き去りにするな。


ーーーー


「何が目的だ?」


二人きりになった途端、僕は単刀直入に切り込んだ。


「何にもないよ」

マリーナはグラスを揺らしながら、けろっと笑う。


「アタイは結婚できりゃいいんだ。形だけでもね。だから、しばらく厄介になるよ!」


……は?なんだよそれ。


その夜。


彼女は遠慮という概念を持っていないらしい。

酒場を再現する勢いで屋敷の中で酒盛り。

連れてきた女海賊の手下たちは勝手に厨房を制圧した。


――地獄。


僕の寝室では、当の本人が布団を奪って大いびき。

ぐうぐうと、豪快に寝ている。

……なんで僕のベッドなんだ。


その時だった。

屋根裏から現れる気配。


「……ご主人様」


エルザだ。

黒い影のように現れたその姿に、僕は思わず胸をなでおろした。


「エルザぁ……怖かったよ……」


「この女を排除しましょう」


声は氷点下。迷いなど欠片もない。

いつも通りの即断即決モードだ。


「ま、待って。いちおう“外国の貴族”なんだ。

 いきなり始末したら国際問題になる」


「では……?」


「ディアブロ邸にご招待しよう」


エルザは無言で頷く。

二人で、寝息を立てるマリーナをそっと、いや、わりと強引に持ち上げた。


寝ぼけて「野郎共!」とか言ってたけど、気にしない。


次の瞬間、転移魔法陣が静かに輝き、

マリーナと僕らの姿は夜のバームベルク邸から消えた。


ーーーー


「おい、起きろ!」


僕はベッドの上で爆睡していたマリーナを、遠慮なく引きずり起こした。


「んぁ? ここ、どこだい?」


寝ぼけ眼をこすりながら、海賊女がキョロキョロと辺りを見回す。

黒い壁、禍々しいシャンデリア、赤く光る魔法陣。

――ここは、我がもう一つの顔が支配する地。


「我が名は――悪魔伯爵ディアブロ!」


ビシィッ!

完璧な名乗りポーズ。


……だがマリーナは眉をひそめ、ぼそりと一言。


「バームベルクの童貞侯爵はどこ行ったんだい?」


童貞ちゃうわ。……いや、童貞だけど……。そこはどうでもいい。


「何を言っている。貴様こそ、我が領に勝手に迷い込んだのだ!」


連れてきたのは僕だけど。そこは気にするな。


マリーナはふてぶてしく腕を組んで睨み返してくる。


「どうするつもりだい? まさかアタイを手籠めにする気じゃないだろうね、この悪魔!」


「残念ながら、悪魔ではあるが紳士だ」


「へっ、口だけだね」


「では証明してやろう! “盛りすぎ肖像画詐欺”の罪を、矯正して償え!」


僕が指を鳴らすと、扉が開きゴーレム軍団が入ってくる。


ズシン、ズシン。

ゴーレムたちの手には武器ではなく、ブラシ・コテ・ドライヤー。


「……な、何が起きるの?」


マリーナが狼狽えている。


「肖像画通りに“仕上げろ”!」


ゴーレム達は無言でうなずき、仕事を始める。

メイク! ヘアセット! ドレスフィッティング!

次々とゴーレムが動き、マリーナを取り囲む。

渦巻く香水と魔法の粉。


そして――


「ほう……」


僕は思わず唸った。


目の前にいたのは、あの肖像画そっくりの上品な令嬢。

あの荒くれ者の片鱗はどこにもない。


「こ、これがアタクシ……?」


急に口調まで変わっている。


「アタクシ、海賊顔ですから淑女になんてなれないと思ってましたの……父からもお前は海賊顔だから結婚は諦めろと馬鹿にされて……」


海賊顔って何? そんなジャンルあったの?

海洋国家では普通なの?


「それは良かった。しかし、バームベルク侯爵には好きな女がいるゆえ、結婚は諦めるがいい!」


「そ、そう……ですのね……。アタクシ、出直しますわ……」


見事に更生(物理的に)した女海賊マリーナは、涙を拭いながら港町へ帰っていった。


ーーーー


マリーナが帰った後のディアブロ邸。

エルザが影のように現れた。


「ご主人様。……その、“好きな人”とは、どなたのことでしょう?」


彼女の声はいつになく静かで、少しだけ揺れていた。


「エルザが素直になってくれたら教えてあげてもいいよ〜」


そう言って、僕は転移陣に駆け込む。


後ろから聞こえた声が少しだけ甘かった気がする。

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― 新着の感想 ―
神回ですね! サッカリンより甘いラブコメ。読んでいてとても楽しいです。 ところで ディアブロの好きな女は誰でしょうか?
2025/11/29 22:03 底辺高校の優等生
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