第40話 女騎士の再就職活動
「はぁ……ついてないなぁ」
空を見上げてため息をつく。
思えば、あのときから全部おかしくなった。
――騎士見習いだった頃。
悪魔伯爵ディアブロの討伐に意気揚々と挑んだ私は、レベル違いの巨大スライムに完敗。
しかもブラジャーまで奪われるという、乙女としても騎士としても最悪の敗北を喫した。
……あの時点で、変な運命に巻き込まれてたんだと思う。
その後、第4騎士団の伝令役に抜擢されたが、団は第1皇子直属。
で、その皇子が廃嫡されたら――団ごと即解散。つまり失業。
私は故郷のバームベルクに戻り、冒険者ギルド併設の職業紹介所――通称ハローワークへ足を運んだ。
応対してくれたのは、爪も髪もツヤツヤのギャルっぽい受付嬢。
彼女の言葉は、まるで剣より鋭かった。
「騎士の求人はあるんですけど〜……第4騎士団出身ですか? ぶっちゃけ、無理ですね〜」
「えっ、な、なんでですか!? 近衛騎士団ですよ!? エリートですよ!?」
「まあ、この際だから言っちゃいますけど〜、第4って“実戦経験ゼロ”で、“変な訓練ばっかしてた”って有名なんですよ。
『雇っても役に立たない』って、どこの領でも言われてます〜」
グサッ。
刺さった。
いや、確かに“変な訓練”はあったけど……縛られて『くっ、殺せ!』って叫ぶ練習とか、いったい何の意味があったんだろう。
「一応、専属護衛の求人もありますけど〜、その貴族、セクハラで有名なんで普通はオススメしません。
でも、第4騎士団だったなら余裕でしょ?」
「余裕じゃないです!」
あの頃は“皇子直属の近衛”に誇りを持っていた。
なのに今では“変態皇子の取り巻き”。
社会の評価って、残酷だ。
「お願いです……なんでもいいので、仕事を……!」
私は机に頭を下げた。
もうプライドなんて鎧ごと脱ぎ捨てた。
受付嬢は少し考えてから、ぽんと手を打つ。
「じゃあ、冒険者パーティに入るのはどうですか? ちょうど求人出てますよ〜」
「冒険者、ですか……」
かつての私は安定した“正社員騎士”として、彼らを“契約社員の寄せ集め”だとバカにしていた。
でももう、背に腹は代えられない。
「どんなパーティなんです?」
「ちょっと癖が強いですけど……あ、ほら、あそこに!」
振り返ると、ギルドの片隅に立つ四人組。
ぱっと見、男。
いや――よく見ると、全員、男装した女だった。
「我ら――銀剣の星屑!
迷える騎士よ、共に冒険のフィールドへ!」
「ちょ、ちょっと待ってください、舞台あいさつですか!?」
「いいじゃん、ノリ良さそうだし。ほら、第5のメンバーとして人気出るよ?」
受付嬢がやたら乗り気だ。
……いや、イロモノ臭しかしないんだけど!?
「もし不安なら、パートタイムから始めてみないか?」
副リーダーらしき人物が柔らかく微笑んだ。
「じゃ、じゃあ……パートでお願いします」
こうして私は――
“銀剣の星屑”に、パート契約で加入することになった。
……今度こそ、まともな人生を歩めるといいな。
ーーーー
翌日
「おはようございます!」
「やあ、来たね! 今日からよろしく。まずはメイクから始めようか」
「え? メイク? 剣の訓練じゃなくて?」
泥にまみれるのが冒険者じゃないの!?
理解が追いつかないまま、私はメイク道具を突きつけられた。
「うーん、なんか違うな。リーダー、どう?」
リーダーらしき人物が静かに頷く。
童顔の私には“男装”が壊滅的に似合わない。
横で魔法使いが笑いを噛み殺している。やめろ。
「まあ、メイクはあとで調整しよう。次は実戦訓練だ」
そう言われて移動した先は……鏡張りの部屋。
剣の練習場じゃない。完全にダンススタジオだ。
「じゃあ、振り付けを覚えてもらうよ!」
「振り付けぇ!?」
どこからともなく音楽が流れ出す。
体が勝手に反応してしまう。なにこれ呪い?
「そう!もっと凛々しく!」
「ハッ!」
「テンポ遅れてるぞ!」
「す、すみません!」
ダメだ、リズム感ゼロの私には地獄だ。
「次はフィニッシュだ! スターダストフラッシュッ!!」
全員が決めポーズを取ると、訓練用の人形が爆散した。
……何これ。ミュージカル仕込みの必殺技!?
「威力が弱いわね」
「配役の問題じゃない? ねえリーダー?」
リーダーが口を開いた。
「男役は無理だ。……娘役。これも運命」
「よし! 君は姫騎士役ね!」
は? 姫騎士? 役?
理解が追いつく前に衣装部屋へ連行された。
ーーーー
衣装部屋に着いた。
用意されたのは、光沢のある純白の鎧。
第4騎士団の“素肌に鎧”ではなく、ちゃんとした騎士の鎧だ。
「うちはエロ路線はやってないから安心して」
そこはちょっと安心した。
「キミには“姫騎士役”をやってもらう」
「……はい?」
理解が追いつかない。
「ストーリーはこうだ。姫騎士である君がダンジョンに向かい、ボスに捕らえられる」
「はぁ」
「そこで君が訓練してきた“例のセリフ”を叫ぶんだ!」
副リーダーがビシッと指を差す。
ああ……そういうことね。
また“あのセリフ”を言う時が来たのか。思わず出るため息。
「くっ、殺せ?」
「もっと感情込めて!!」
「くっ……殺せぇぇぇっ!!」
「いいねぇ! 完璧!」
リーダーが静かに頷く。
「姫騎士の加入……これも運命」
リーダーが喋るたびに、なぜか風が吹くのは気のせいだろうか。
そんなことより、大丈夫か?
ーーーー
そして初任務
私は単独でダンジョンのボス部屋に突入し、ボスを半殺しにしてから自分で縛られ、仲間の到着を待つ。初心者向けダンジョンだから途中のモンスターもボスも私の敵じゃなかった。
「……これ、意味あるのかしら」
半殺しされて虫の息のボスを前にして思った。
待つこと一時間。ようやくメンバー到着。
どうやら道中、ダンスパートを挟みながら進んでたらしい。
「貴様ッ! 姫騎士をこんな目にッ!」
私が半殺しにしたボスに向かって、リーダーが叫ぶ。
「行くぞ……!」
「おうッ!」
音楽が鳴り響き、ボスも踊り出す。さっきまで死にそうだったのに、どう言う仕組みだ?
「ハッ!」
「ヤァ!」
「(小声で詠唱)」
全員が見せ場を一通り作った後に
「スターダストフラッシュ!!」
全員の掛け声と共に眩い光が剣から飛び出す。
「グワァァァァ!!!」
光がボスを包み、次の瞬間、ボス、爆散。
……いや、ほんと何このパーティ。
どう言う仕組みか知らないけど、破壊力はあるみたい。
「大丈夫か!? 姫騎士ッ!」
縛った縄を解かれ、私は救出される。
「……あの、誰も観客いないのに、ここまでやる必要あります?」
なんかこの茶番に意味があるのか本当に疑問に思った。
「何を言ってるんだ!」
「これからが本番よ!」
「今日の冒険を舞台にして、劇場で再現するの!」
「今日は良かった……これも運命」
――どうやら、私は本物の舞台系パーティに入ってしまったらしい。
こうして私は、“銀剣の星屑”の新メンバー。
唯一の娘役“姫騎士”として――
ミュージカルデビューを果たすことになったのだ。
「これも運命……」
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪




