第37話 機動石像ガンゴイルとポンコツドワーフ
◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
――ドカーン!!
バームベルクの街に、雷鳴のような爆発音が響きわたった。
机が揺れ、インク壺がひっくり返る。
「うわっ、やっちまった……!」
机の上の書類は黒いシミだらけ。って、見たら書類を書き上げた書記官が青ざめている。大変だったんだな。ごめんよ。
「ご主人様、どうやら――またやらかしたようです」
エルザが、いつもの無表情で淡々と告げる。
「やらかした?」
「最近、街に引っ越してきたドワーフの発明家の仕業でしょう。日課のように近所迷惑を起こしているそうです。今日は爆発のようですね」
「日課!?」
近所迷惑がルーティンワークって、どんな生活だ。
「昨日は異臭さわぎ、一昨日は真夜中に強い光で眠れないという苦情がありました」
「なんだそれ?何作ってるんだ?」
「さあ……そこまでは。いく先いく先で迷惑がられて追い出され、ついにバームベルクにたどり着いたそうです」
「……つまり、うちは厄介者の最終到達点ってこと?」
「まあ来る者拒まずの街ですから」
エルザの口調はいつも通りだが、どこか“また厄介なのが来た”という空気が漂っている。
「……放っておくのも危ないな」
僕はインクまみれの手を拭きながら立ち上がった。
「商人を装って様子を見に行こう。書類が汚れて仕事にならないし」
「かしこまりました。変装の準備をいたします」
こうして発明ドワーフに会いに行くことになった。
ーーーー
ドワーフの工房は、バームベルクでも腕利きの職人たちが集まる“職人街”の一角にあった。
――だが、さっきの爆発でその一帯はまるで戦場だ。壁は焦げ、通りには煤けた木片が転がっている。
「おい! いい加減にしろよ、ドワーフ!!」
怒号が飛び交う。周囲の職人たちは怒り心頭だ。
「ボクだって、こんなに派手に爆発するとは思ってなかったんだよぉ〜!」
鼻の頭にススをつけた小柄なドワーフが、ケロッとした顔で言い返した。
……ん? ボクっ娘?
アフロヘアみたいなもこもこの髪は――爆発の副産物らしい。
「そもそも役に立たないもんばっか作って、発明家気取りか? 笑わせんなよ!」
「次は工房ごと吹っ飛ばす気か!? 迷惑なんだよ!」
職人たちは口々に叫び、ついには爆笑まで起こる。
「くっ……! バカにしやがって!」
女ドワーフは歯を食いしばり、油まみれの拳を握った。
「いつかボクの発明の素晴らしさをわかってくれるパトロンが現れるんだからな!!」
「ははっ、そんな奇特な変態がいるかよ!」
「その前に餓死するんじゃねえか?」
挑発に笑いが重なる。女ドワーフは唇を噛み、肩を震わせた。
「……安心しろ。明日からしばらく発明家はお休みだ」
「お? ついに諦めたか?」
「違う! 資金が尽きたから、冒険者として稼ぎに行くんだ!」
その言葉に、職人たちはまたも笑い声をあげた。
「おう、せいぜいモンスターに迷惑をかけてこいよ!」
……なるほど。ここの職人は仲間意識が強く、ものづくりの仲間と見ればよそ者にも寛容なはずだ。
それなのに、ここまで悪態をつかれているということは――
このドワーフ、相当やらかしてるな。
僕はエルザと顔を見合わせた。
「……うん。これは“ただの発明家”じゃない気がするね」
「はい。間違いなくトラブルメーカーです」
ーーーー
「失礼しますよ」
僕とエルザは、ドアをノックしてから中へ入った。
工房の中は試作品らしき残骸が散らばっている。
「あなたは?」
奥から現れたのは、あのアフロドワーフ。
「私はバームベルク商会の会長。そしてこちらは秘書です」
「ボクは発明ドワーフ“ウルバン”。僕に何か用事かい?」
「いやぁ、あなたが面白い発明をしていると聞きましてね。ぜひ拝見したい。もし商品化できそうなら、我が商会で取り扱ってみたいと思いまして」
「へぇ、わかってくれるなんて嬉しいね。じゃあ、特別に見せてあげようじゃないか!」
ボクっ娘アフロドワーフのウルバンは胸を張って言った。
僕は工房の奥を見回した。
――見事にカオスだ。
“発明品”と言うべきなのだろうけど……どう見てもガラクタだ。
「これは……まさか大砲?」
僕の目を引いたのは、巨大な鉄の筒。
この世界では火薬が未発見のはず。銃火器なんて存在しない。
なのに――こいつは明らかに、殺傷を目的としている。
「お目が高いね!」
アフロドワーフが誇らしげに胸を張る。
「これは“大砲”って言ってね。魔法を使わずに玉を射出するんだ!」
やっぱり兵器か。初期の大砲は岩石だったが、まさか火薬玉か?
「で、その“玉”ってのは?」
僕が尋ねると、彼女はにっこり笑って――とんでもないものを差し出した。
「これさ!」
手のひらサイズのジェル状ボール。ぷにぷにしていて、スライムみたいな手触り。
「これ、破裂すると悪臭を放つんだ。スライムっぽいから名前は――『クサイム』!!」
……。
「この大砲で嫌いな相手の家にクサイムを撃ち込めば、嫌がらせ大成功!」
アフロドワーフは得意げに鼻を鳴らした。
……うん、天才なのは間違いない。方向性がアレだけど
僕が呆れていると、アフロドワーフはスイッチに手を伸ばした。
「空砲だけど、ちょっと起動させてみようか!」
「や、やめろ! こんな狭いとこで撃つな!」
ドカァァン!!
「げほっげほっ……」
煙が晴れる。
エルザが、小刻みに震えて言った。
「……ご主人様。ぷっ……頭が、アフロに」
鏡を見ると、そこには――もこもこ髪。二話連続アフロ。
なんか疲れたので、何気なく椅子に座った。
その瞬間に――ガシャンッ!
「な、なんだこれ!?」
突然、椅子の脇からベルトが飛び出し、僕の体をがっちりと固定した。
「ご主人様っ!」
エルザが慌てて駆け寄ろうとするが、すでに遅い。
ゴトン、と音を立てて奇妙な車輪が登場。
それぞれの車輪には――なぜかハケ。そう、ペンキを塗るあのハケが付いている。
「ちょ、ちょっと待っ……うひゃあっ!? やめろって! あははははは!!」
ハケが回転し、僕の体を容赦なくくすぐる。
「あー、それはね、“全自動身体洗いマシーン”なんだ」
ドワーフがドヤ顔で胸を張る。
「風呂キャンセル界隈の人でも、清潔でいられるようにと思ってさ!」
「ひゃ、ひゃはは……はぁっ、なるほど……画期的ですね……」
どう見てもこれは――昔の深夜番組でやっていたという『ハケ水車』だ。まさか異世界で再現されるとは。
「……面白い。けど課題がありますね」
ディアブロ邸で罠にかけられる刺客の気持ちがわかった。
「……今日は疲れたから、日を改めますよ」
僕は苦笑いを浮かべながら、アフロ頭をポリポリとかいた。
「ごめんよ。しばらくは冒険者として活動するから工房は留守にするよ」
「冒険者?」
エルザが眉をわずかに動かす。
「そう。資金が尽きちゃってさ。だから一稼ぎしてくるんだ」
「どこへ行くのですか?」
グッタリした僕に代わってエルザが尋ねる。
「ディアブロ邸だね」
ドワーフは気軽に答える。
「いま、賞金が上がってるからさ」
「!」
空気が一瞬、凍った。
「こう見えてもアイテム使いとして冒険者の実績はあるんだよ! 大丈夫、すぐ戻るからさ!」
僕はひきつった笑みを浮かべた。
「……そ、そうですか。楽しみにしてます」
――来る。
このアフロボクっ娘ドワーフが“刺客”として。
ーーーー
ディアブロ邸の上空に、重低音が響きわたった。
ゴゴゴゴゴ……ッ!
「ん?なんだこの音?」
外を見ると“それ”はいた。
巨大な――ガーゴイル石像。
「アフロドワーフじゃないけど?」
思わずツッコミが口から漏れた。
次の瞬間。
――ドガァァァァン!!
石の巨体が邸の正面を粉砕し、堂々と突入してきた。
中から響く、あの甲高い声。
「悪魔伯爵! ボクの研究資金になってくれよ!」
……来やがった。
「紹介しよう! ボクの最高傑作――『機動石像ガンゴイル』だぁ!!」
なんだそのネーミングセンス。
前世のロボットアニメのパロディか?
「アフロ。いきま〜す!」
じゃねえよ。お前がアフロなのは爆発のせいだろうが。
「指令!迎撃態勢を」
エルザが冷静に告げる。なんか口調変わってない?指令って何?
「行け! スケルトン軍団ッ!!」
ブンッ!
一瞬だった。
ガンゴイルのサーベルが光り、スケルトンたちがまとめて粉砕される。
「な!?」
「もろい! 鎧袖一触とはこのこと――」
何だそのキャラは?ロボに乗ると性格が変わるのか?
「次はゴースト軍団だッ!!」
僕はゴーストをけしかける。
透明な影が壁をすり抜け、ガンゴイルの内部へ。
コクピットに潜り込み、そこに座るドワーフを取り囲む。
そして――筆を構えた。
「ちょ、や、やめっ、そこは――ヒャヒャヒャヒャ!!!」
ガンゴイルが突然暴れ出す。
壁に激突、天井をぶち抜き、奇妙なダンスを踊る。
そのまま数分後――ガコン、と音を立てて沈黙した。
やがて胸部装甲が開き、中からアフロ頭がひょっこり顔を出す。
「……ガンゴイルが故障だ……降参するよ……」
そこへ、僕がゆっくりと現れた。
マントを翻し、あくまで悪役らしく。
「フハハハハ! 我が名は悪魔伯爵ディアブロ! 狂気の発明家よ、よくぞ我が館に来た!」
「も、もうやめて……!」
「では尋ねよう。貴様、自分の発明を試したことがあるのか?」
「え?」
「ならば――今こそ体験するがいい! 出よ、『ハケ水車』!」
手を叩くと、ゴーレム(万能型)が登場。
その手に抱えているのは、例の発明品。
ゴーレムがドワーフを椅子に座らせ、スイッチを入れる。
ブンブンと回転するハケが、全方位からドワーフの体を襲った。
「ヒャヒャヒャッ! ちょっ、こ、これはひどい!!」
「自分でひどいって言うな……」
僕は額に手を当て、ため息をついた。
数分後。
「――ふむ、十分反省したようだな」
スイッチを切ると、アフロがぐったりと椅子に沈んだ。
「ドワーフの発明家ウルバンよ。どうだ? このディアブロがパトロンになってやろうか?」
「え?」
「研究施設はこの屋敷を使え。資金の心配もいらん。……ただし、壊すなよ?」
「ほ、本当? やった! 僕、やるよ!」
こうして、アフロボクっ娘ドワーフは――
悪魔伯爵ディアブロお抱えの専属発明家となった。
……その後。ディアブロ邸には、奇妙で悪趣味な“罠”が倍増したという。
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪




