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第36話 パワハラもセクハラもコンプラ的にNGです!

◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)

屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。


●エルザ

アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。


――スタンピード――

それはダンジョンからモンスターが溢れ、街などを襲撃する異世界ものによくあるイベント。その危機が迫っていた。

 

「ご主人様。ディアブロ領に――ダンジョンが出現しました」


僕は、エルザの報告に軽く眉を上げた。

「ふぅん。まあ、珍しくもない話だよな」


……と思ってた。


「どうも様子がおかしいです」

「と、言うと?」


エルザはいつもの無表情で淡々と続ける。


「タワー型のダンジョンなのですが……出現してモンスターがすぐに溢れています」


「は?危険度は?」


「すでに高レベルです。ダンジョン外に高レベルモンスターが進出しています。幸い、ディアブロ領は無人ですので人的被害はまだありませんが、屋敷に到達するのも時間の問題かと」


「……スタンピードか」


その言葉を口にした瞬間、空気が少し冷たくなった気がした。

スタンピード――ダンジョンに溜まったモンスターが一斉に外へ溢れ出す現象。

世界規模で見れば数年に一度はあるが、発生地点が“うちの領地”なのは初めてだ。


「ディアブロ領はモンスターに飲み込まれるでしょう。その後、バームベルクにも波及する可能性が高いです」


「その前にディアブロ邸が飲み込まれるな。」

僕の拠点が荒らされるのは許せない。


「冒険者ギルドは?」

「支部長のカタリナが本部に危険報告を上げましたが、まだ動きはありません」


やれやれ。組織ってやつはどこの世界でも腰が重い。


「……わかった。いずれにしろ、現場を見て判断しよう」

「偵察、ということですね」


エルザが一瞬だけ、珍しく微笑んだ。


こうして僕たちは、新たに誕生した“謎のダンジョンタワー”へ向かうことにした。



ディアブロ領に足を踏み入れた瞬間、空気の濃度が変わった。

明らかに嫌な空気を感じる。


「……モンスターの数、明らかに増えてるな」

「ええ。おそらく、ダンジョンの影響でしょう」


エルザの声は落ち着いているが、その目は警戒の色を帯びていた。


森の向こう、馬に乗った黒い鎧のような影がゆっくりとこちらを横切る。

首が、ない。


「……あいつ、強そうだよ」


「デュラハンですね。魔王軍の近衛兵クラスです。

 こんなのがこの辺りを歩いてるなんて、ありえません。

 戦闘は――避けるべきです」


暗殺者として百戦錬磨のエルザが、戦闘を“避けるべき”と言い切るほどだ。

冗談抜きで、この領地が“死地”に変わりつつある。


「一旦、ディアブロ邸に向かって装備を整えようか」

「それがいいと思います」


僕とエルザは慎重に街道を進み拠点であるディアブロ邸へと向かった。



幸い、屋敷はまだ陥落していなかった。

周囲をうろつくモンスターたちは、まだこちらを攻撃対象と認識していない。


「……よかった。屋敷は無事だ」


館に入り、システムの状況を確認する。

特に異常は見られない。

だが――もしこれが敵から攻撃対象に認定されるような事態になれば、持ちこたえられる自信はない。


「屋敷のモンスターたちは非戦闘員ばかりですし、守りは期待できませんね」

エルザの言葉に、僕は苦笑を返す。

「戦うよりおもてなしの方が得意だからな、うちの連中は」


モニターを開くと、最近見ていなかった通知が浮かんでいた。


――『ディアブロ邸のレベルが上昇しました』


「おおっ!? 久々に新アイテムが解放されてる!」


これは朗報だ。内容をチェックすると――


◆アイテム:ギリースーツ

周囲の背景に溶け込めます。隠密スキルが低い方も安心してお使いください。(ただし、まれに敵に察知されます)


「これは……使えるな!でもまれに察知されるんじゃ安心して使えないじゃん」


僕は思わずツッコんでしまったが、これはうれしい。隠密スキルゼロの僕でも、これさえあれば現場潜入も夢じゃない。


「これでダンジョン内部の偵察も可能になりますね」


そして、もう一つの新アイテム。


◆アイテム:モンスタリンガル

モンスターが考えていることを教えてくれます。精度はそこそこです。

有料のハイグレードプランもございます。


「……モンスターの翻訳機?」


前世でもあったよな、犬の気持ちがわかるとかいう玩具。

「精度そこそこ」って、どの程度なんだろうか?


「……まあ、試してみる価値はあるか」

「今回はその二つを装備して、ダンジョン内部の威力偵察ですね」


新たな装備を持ってダンジョンに向かうことにした。


ーーーー



ディアブロ邸を出発し、僕とエルザはタワーダンジョンを目指して街道を進んでいた。


やがて、道は崖に挟まれた一本の狭い谷道へと変わった。

まるで「ここで待ち伏せしてください」と言わんばかりの立地だ。


「……嫌な場所だな」

「はい。典型的な奇襲ポイントです」


エルザが冷静に言い終えた、その瞬間だった。


――ガアァァァァッ!!


上空から小型ドラゴンの咆哮が響き渡る。

その背に乗っていたのは――ゴブリン。

しかも全員、同じ黒革の軽装鎧に身を包み、槍まで統一デザイン。


「なにこれ!? 強そうじゃないか!」


「くそっ……隠れる場所もない。遭遇戦です、ご主人様!」


エルザが構えた。

僕は慌てて、例の新アイテムを取り出す。


「待て! 戦う前に――モンスタリンガル!」


目の前のゴブリンたちの“思考”が浮かび上がる。


――『友好的』――


「……お?」


「ご主人様?」


「これは交渉できるかもしれないぞ!」


エルザが警戒のまま目を細めるが、僕はすでに歩み出していた。

うまくいけば、塔までの安全ルートを教えてもらえるかもしれない。


「やあ! 僕は敵対するつもりはないんだ! 君たちに――」


言いかけたところで、


――ゴオオオオオ!!!


ドラゴンの口から、見事な火炎放射。

僕の頭は見事なアフロヘアになってしまった。


「アッツ! なんで!? “友好的”って言ったじゃん!!」


「ご、ご主人様! ぷっ……だ、大丈夫ですか?」


おい。今、笑ったなエルザ。

完全に笑いこらえてる顔だぞ。


「なんだこのインチキ翻訳機! “友好的”って何の基準だよ!」

怒りに任せてモンスタリンガルを投げそうになったが、ふと画面に“有料プラン”の文字が出ていた。


「……もういい。課金だ」

僕はやけになって有料プランを購入した。


再び水晶が光り、ゴブリンたちの“真の思考”が流れ込む。


「美味そうだな」

「ご馳走が自分から歩いてくるなんて幸せだな」

「ちゃんと火を通して食べよう」


……。


「友好的って、“食材として”って意味かよ!!」


課金しないと役に立たないことに怒りを覚えた。


「ご主人様。強行突破します」


「……そうしよう」


エルザの短剣が閃き、次の瞬間にはゴブリンたちが地面に転がっていた。 


ーーーー


結局、あのあと僕たちはギリースーツを着て、背景に溶け込んだ状態でダンジョンタワーまでたどり着いた。


……最初からこうしておけば、アフロにならずに済んだのにな。


タワーの内部に足を踏み入れると、意外にも一本道。

監視の目は多いが、ギリースーツのおかげで、モンスターたちの視線は僕たちを素通りしていった。 


通路を抜けると、巨大な円形の部屋に出た。

そこでは――信じがたい光景が広がっていた。


ハムスターの車の巨大なやつ。トレッドホイールをぐるぐると回しているオークたち。

その背中を、黒い鞭が容赦なく打ち据えている。


「お前たち! 魔界とのゲートを開き続けるために働き続けるんだよ!」


声の主は、妖艶な笑みを浮かべた女の悪魔。

ムチでオークたちをこき使っていた。


僕は思わずモンスタリンガルを起動した。


――『もう3徹しているのに休憩をくれない。仕事辞めたい』――


「……うわ、完全にブラックだ」 


パワハラ女悪魔は、隣にいた男のもとへ歩み寄った。


白いローブに包まれた、ガリガリの男。死霊使い――リッチだ。


「ねぇ……侵略計画について、相談に乗って欲しいんだよ〜♡」


艶っぽく腰をくねらせ、リッチの腕に絡みつく女悪魔。

「先ほども説明しましたが……」


「……続きをベッドで、さ♡」


そのまま、二人は隣の寝室へ消えていった。


僕は唖然とした。なんでこういう女は「相談したい」とか言うんだ?


モンスタリンガルをリッチに向けてみると――


――『セクハラきつい。助けて。』―― 


「ブラック企業かよ……」


オークはパワハラ、リッチはセクハラ。なんか可哀想になってきた。


しばらくして、女悪魔とリッチが戻ってきた。

……ずいぶん長かったな。


「はぁ、はぁ……満足したわぁ。しばらくは腰が立たないよぉ」


女悪魔が、どこか恍惚とした顔で言う。

リッチのほうはというと――見るからに干からびていた。


「……なんか、リッチ痩せてない?」

「逆に女の方は肌艶が増してますね」


エルザの冷静な観察が刺さる。

中で何があったのかは……この際、考えないことにした。

重要なのは――今、女悪魔が戦闘不能だという事実。


「今だ。チャンスだな」

僕は転移魔法のスクロールを取り出した。


「高額アイテム部屋ごと転移!」


次の瞬間、僕たちはディアブロ邸に戻っていた。


僕はさっと拘束魔法を展開し、彼女を縛り上げた。


「フハハハハ! 我が名は悪魔伯爵ディアブロ!我が領地を侵略拠点にするなど、笑止千万!」


「な、なんだい!? ここは……どこ……?」


女悪魔は状況を理解できずに混乱している。


「貴様は組織のマネジメントの“なんたるか”を知らんようだな。――出よ、コンプライアンスモンスター!」


「コンプライアンス……?」


女悪魔が首を傾げる。

まあ、魔界にそんな概念があるわけない。


「この世界を統治するには“コンプラ”が不可欠なのだ。さあ、この屋敷でレクチャーしてやろう!」


現れたのはコンプラチェックだけを行うコンプライアンスモンスター。

戦闘には役に立たないがハラスメント防止研修にはうってつけだ。


「理解度が悪いとゴーレムによる足裏激痛マッサージだ!」


「……それコンプラ的にどうなの!?」


「マッサージだからコンプラ的には問題なし。そうだな?」

コンプラモンスターは困った顔をしている。まあ、そうだよね。


結局、女悪魔はその後、

コンプラモンスターによる地獄のハラスメント防止研修を数時間受け、

「こんな厳しい世界、やってられない!」と叫びながら、魔界へと帰っていった。


こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。

とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪

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