第35話 男装麗人のミュージカル冒険譚
◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
近頃のディアブロ邸は、千客万来。連日冒険者で賑わっている。
神の悪戯か、それとも人の業か――どこかの大金持ちが、僕の首にとんでもない賞金をかけたらしい。
その結果どうなったかというと……冒険者たちが続々と押しかけてくる。
だが、残念ながらそのほとんどが――男。
「美女刺客なら喜んで迎え撃つのになぁ……」
さすがに野郎相手にお仕置きする趣味はない。
そこで僕は、ダンジョン防衛システムをオートメーション化した。
仕組みは実に単純。
長い下り坂を進むと、頭上から“ローションシャワー”が降り注ぐ。
彼らは見事に滑り落ち、重力に導かれるまま一直線に転落。
――そして着地する先は、地獄のような場所。
名を「悪魔保育園」。
待ち構えるのは、ディアブロ伯爵公認の保育士免許を持つオークたち。
彼らは愛と慈悲に満ちた手つきで、侵入者たちを赤ちゃんコスチュームへとお着替えさせ、
そのままおむつ替え体験コースにご案内する。
あれほど血気盛んだった冒険者たちも、帰る頃には何とも言えない表情。
羞恥とトラウマで、二度とディアブロ邸の話を他言することはない。
――まさに完璧な防衛機構である。
ーーーー
そんな折、街では別のブームが巻き起こっていた。
腐女子のBL作家、フー・ジョシ先生がついに新境地を開いたらしい。
きっかけは――男装したエルザと僕をモデルにした“純愛官能小説“
そこから着想を得て新分野を開拓したらしい。
新しい分野はBLでもあり、GL(ガールズラブ。つまり百合)とも言える。
本人曰く「これはBLの新時代ですわ!」とのことだが、僕にはどうにも理解が追いつかない。
なぜなら登場人物は、男装した女性同士。
つまり、男じゃないけど男? 恋愛対象は女? それとも女装した男?
……わけがわからない。だが、女性たちの間ではこれが妙にウケているらしい。
そして男装のブームは演劇の世界へ。
演劇――『レ・ゼペ・ダルジャン・デ・ゼトワール(銀剣の星屑)』(脚本フー・ジョシ)が公演されると、ブームは決定的になった。
華やかな衣装、流れるような殺陣、美しき“男役”たちの恋と友情。
観客席の女性たちは涙し、目覚めてしまった。
この新しいミュージカルは大ヒットし、現実社会にも影響を及ぼす。
「我ら、銀剣の星屑!」
なんと劇の俳優の女達が本当に冒険者登録したのだ。
――その名の下に、新たな“女だけの冒険劇”が幕を開けるのだった。
ーーーー
『銀剣の星屑』――。
その華々しい結成記者会見は、冒険者ギルドを会場にしながら、舞台挨拶のような奇妙な熱気に包まれていた。
僕はというと、
「これは絶対にネタになる」と確信し、エルザを引き連れて現場に足を運んだ。
「ご来場ありがとうございます! こちら、本日の配布資料です!」
受付スタッフが威勢よく声を張り上げている。
僕は気軽に手を伸ばした。
「あ、一部ください」
「金貨一枚です!」
……は?
「え、配布資料って普通タダじゃ……?」
「限定印刷ですので!」
まさかの有料パンフレット制。しかも高い。
だが、ここまで来て引き下がるのも大人気ない。仕方なく金貨を支払い、資料を受け取った。
表紙にはきらびやかな銀の箔押し。
中を開くと、そこには妙に力の入った“パーティプロフィール”が記載されていた。
隊長:セリウス(本名セリナ)
漆黒のロングコートを翻し、風と共に現れる美形剣士。
声は低く、やたらと色気がある。
セリフの語尾はすべて――「……運命だ」。
なお、登場するたびに必ず風が吹く(特技らしい)。
副長:ライオット(本名ライラ)
金髪オールバックに、無駄に眩しい笑顔。
筋肉担当にして熱血枠。
口癖は「愛と勇気で斬るのだ!!」。
……だが小動物にはめっぽう弱い。ネズミを見て悲鳴を上げたらしい。
魔導担当:フェオ(本名フィオナ)
常に袖が風になびいている謎の魔導士。
詠唱はまるで詩の朗読。
「世界の果てに花が咲くなら、我が魔法もまた香れ……」みたいな感じ。
どんな状況でも髪が乱れない。
僧侶:ルキウス(本名ルーシア)
白いロングコートに手袋、清楚系ヴィジュアル。
回復魔法を唱えるたび、観客席に向かって語りかけるように手を差し伸べる。
詠唱はやたら長く、「苦しむ者よ……愛を知れ……癒えよ!」が定番らしい。
⸻
「何これ?」
……どこからどう見てもアイドルユニットのプロフィールだった。
「ご主人様……冒険者としての能力に関する情報がありませんが」
エルザが真顔で指摘する。
「思った。これ、何?」
ーーーー
記者会見が始まった。
スポットライトが4人の姿を白銀に照らし出す。
「本日! 私たちは旅立ちます!」
副長・ライオットが熱く叫ぶ。背筋は伸び、金髪を輝かせながら、彼女は拳を高々と掲げた。
「愛と勇気で斬るのだッ!!」
客席から黄色い歓声が飛び交い、彼女の決めポーズに合わせてペンライトが揺れる。
隊長のセリウスは黒いコートを翻し、風を巻き起こす。――室内だというのに。
「運命が……呼んでいる」
その低音の一言で、観客席の女性たちは歓喜の悲鳴を上げ、気を失う者さえいた。
魔導士・フェオは長い袖を揺らし、詩のように歌い上げる。
「光の果てに影が咲くなら――われらの剣も、歌となれ……」
最後に僧侶・ルキウスが白い手袋を外し、慈愛に満ちた微笑みを浮かべる。
「苦しむ者よ……愛を知れ……癒えよ!」
まさかのミュージカル調。一通りメンバーの発言が終わると、ようやく質疑応答が始まる。
「それではお尋ねします。冒険に旅立つということですが、最初の目的地はどこですか?」
記者の問いに、リーダーが意味深に答えた。
「民を虐げる悪徳領主のダンジョン……とだけ答えておこう。これも運命……」
副長ライオットがすかさず補足する。
「ダンジョンは危険だ! ファンのみんなが入り待ちや出待ちをするのは安全面から問題だから非公表にさせてもらうよ」
……入り待ちや出待ち? まるでスター芸能人じゃないか。
しかし、“悪徳領主のダンジョン”と言えば……やはりディアブロ邸のことだろう。
彼女たちを迎え撃つ準備をしなければならない。
ーーーー
「ご主人様。……“ミュージカル劇団”がやって来ました」
「名称は……まあ、忘れたけど」
報告してきたエルザの顔は、完全にどうでもよさそうだった。
僕もだ。
というか――ディアブロ邸の前が、ファンの入り待ちで埋め尽くされている。
なんか差し入れらしきものを持っている人もいる。
「だから、ダンジョンの入り待ちって何なんだよ!」
思わずツッコミが口を突く。
エルザは無表情で答えた。
「ご主人様が舐められているのでは?」
「まあ、ただ待たせるのも悪いし、ゴーレム(万能型)にお茶でも出してもらうか」
屋敷の前に出てきたゴーレムを見たファンたちは蜘蛛の子を散らすように逃げ出したのだ。残念。
ーーーー
重厚な扉が開く音が響く。
スポットライトのような光に照らされながら、“銀剣の星屑”が登場した。
「悪魔伯爵! 我ら銀剣の星屑が、民を虐げる悪徳領主を成敗する!」
副長ライオットが勇ましく名乗りを上げる。
「民の声を聞かぬ領主に……未来はない。……これも運命」
リーダー・セリウスが低くつぶやいた。
いや、民いないけど?
無人領だよここ。ここまでの道中で誰かと会った?
それにしても――小声のつぶやきのはずなのに、ちゃんと響いてる。
声量、すげえ。さすが舞台俳優。
「ふはははは! 我が名は悪魔伯爵ディアブロだ! 星屑の銀剣よ、よくぞ来た!」
「銀剣の星屑だ! 順番が逆だ!」
即座に全員からツッコミが入る。
あれ? そうだったっけ?
「まずは……小手調べといこう。出よ、ガイコツ軍団!」
ガイコツたちがわらわらと現れる。
実体はハリボテだが、初見なら十分迫力はある。
「いくぞ……!」
「おう!」
パーティは華麗に構えを取り、戦闘を開始した。
なぜかBGMが流れている。誰が流してるんだ?
しかもガイコツたちまで、リズムに合わせて踊り出した。
「はっ!」
「(小声の詠唱)」
一人ひとりが見せ場を作り、キメ顔を忘れない。
そして――
「スタァーダスト・フラァーッシュ!!」
眩い光と共に、彼女たちが決めポーズを取る。
ガイコツたちはその場で一斉に静止し、次の瞬間――砕け散った。
……なんだこれ。原理はまるでわからない。
だが確かに、敵を倒した。
見た目も名前もミュージカルだが、戦闘能力は本物――かも?
「次は貴様だ! 悪魔伯爵ディアブロ!」
「フハハハハ! 望むところだ!」
――そして、戦闘&ダンスパートが始まった。
なぜか踊る気など一切なかった僕まで、BGMに合わせて身体が勝手に動く。
「ご主人様。テンポが遅れています」
「うるさい!」
エルザの冷静なダメ出しが胸に突き刺さる。
くそっ、何なんだこの羞恥系バトルは。
BGMが止まり、空気が一変する。芝居パート突入だ。
「伯爵! リズム感がないな!」
「振り付け間違ってるぞ!」
「ダンスが苦手なのも……運命……」
こいつら、好き放題言いやがって!
怒りのボルテージがMAXに達した僕は手元のスイッチを押す。
「落とし穴・起動!」
瞬間、銀紙のナントカとかいう連中が、決めポーズのまま全員で見事に落下していった。
「落ちるのもまた運命......」
落とし穴の下は、ヌルヌルとする長い急斜面。
そう、ローションスライダーコースだ。
彼女たちは見事なコンビネーションで滑り落ち、辿り着いたのは――
悪魔保育園。
保育士のオークたちが満面の笑みで出迎え、
瞬く間に彼女たちを赤ちゃんコスチュームへと“お着替え”させた。
「ぷっ……カッコつけてたのに……」
僕は先ほどのダンスの恨みを晴らすように笑い転げた。
幸いなことに、外の出待ちのファンは全員逃げ帰っていた。
こんな姿を見られていたら、彼女たちの人気は崩壊だったろう。
ーーーー
こうして“銀剣の星屑”のディアブロ邸攻略戦は、彼女達の戦績から完全に抹消された。
代わりに後日、街では華々しくこう報じられる。
――『チュートリアル遺跡攻略凱旋パレード』開催。
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪




