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第34話 四十路女は化粧でギャルになる

◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)

屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。


●エルザ

アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。


前回の――「バームベルクのママ騒動」は、僕とエルザのただの勘違いということで幕を下ろした。


占い師の彼女たちは魔王軍の工作員でもなければ、洗脳カルトでもなかった。

ただ……本当に“純粋に赤ちゃんごっこを楽しむ大人たち”だったのだ。


……うん。平和って、尊い。


もちろん、僕も反省している。

あの館をまるごとディアブロ邸に転移させたせいで、彼ら活動を一時的に台無しにしてしまったのだから。

悪魔保育園とかオークの保育士とかトラウマものだよね。申し訳ない。


後日、僕はこっそり再訪した。

部屋の明かりは柔らかく、子守唄が流れ、笑い声が響く。

そして気づいた――あれ、意外と楽しそうだな、と。


……いやいやいや、まさか僕がそんなことに目覚めるわけが――


「さあ、坊や……今日もお昼寝の時間ですよ」


そう言って微笑むエルザが、なぜかママ役をやっていた。

僕が哺乳瓶を握るたびに、ジト目で睨まれ、やがてため息をつきながら言う。


「ご主人様、これは職務内容に含まれておりません」


と言うところで目が覚めた……夢だった。


だが、目が覚めた後も胸の奥に妙なモヤモヤが残っていた。

もしかしたら――ほんの少しだけ、あの遊びを本心で楽しみたいと思っているのかもしれない。


ーーーー


気になる噂を耳にした。

皇帝の第1皇子――かつて“アホ皇子”の異名で知られ、今は廃嫡されて修道院に入った男――その婚約者が、忽然と姿を消したというのだ。


「たしか、元は高位貴族の令嬢が婚約者だったけど、21話で最初の婚約者は芸人になって、代わりに男爵令嬢が2番目の婚約者になったんだっけ?随分とギャルっぽい感じで皇宮の評判も良くなかったんだよね。最初の婚約者と取っ組み合いのキャットファイトをしたとか」

僕がそう尋ねると、エルザが静かにうなずく。


「はい。その“男爵令嬢”が行方不明になったそうです」


「……実家に帰ったとかじゃなく?」

「それが――実家が、存在していなかったそうです」


「……は?」


思わず聞き返してしまった。

帝国は貴族の数が多い。領地を持たない名誉貴族みたいなのもいる。

だから“怪しい貴族”が紛れ込むことも珍しくない。

でも、存在しないって何だ。


「正確には、“あったことになっていた”男爵家です。すでに絶家――つまり、何十年も前に途絶えた家の名を騙っていたのです」


「つまり、いないはずの男爵の娘、令嬢を名乗っていたってこと?」

エルザが再びうなずく。


……怖い。そういうサスペンス展開、このくだらないラノベの中では勘弁してほしい。


「ひょっとすると――化粧魔女かもしれません」

「化粧魔女?」


「はい。伝説のフリーランスのスパイです。どんな顔にもなれると言われていて、私が所属していた派遣会社のヤミースタッフでも恐れられていました。どんなものにでもなりすますことができる......と」

エルザの声は淡々としていたが、どこかに警戒の色があった。


「ただ……」


「ただ?」


「闇の世界で何十年も活動しているそうです。つまり――かなりの年齢のはずです。ちなみに化粧で年齢を誤魔化しているだろうから、ついたあだ名は化粧魔女と」


……それ、ちょっとディスってない?


とはいえ、もし噂が本当なら――この“化粧魔女”はただの変装の達人じゃない。

人の顔と名前、そして人生そのものを“上書きする”存在だ。


ーーーー


しばらくして、奇妙なことが起き始めた。

なぜか――女性に声をかけられることが、やたらと増えたのだ。


最初は偶然だと思っていた。


街を歩いていると、視界の端で何かがきらりと光る。

(あ、飾りを落とした)

反射的に拾い上げて声をかける。


「これ、落としましたよ」

「まあ。ありがとうございます。これ、祖母の形見なんですの。お礼に――食事でもいかがでしょうか?」


清楚な雰囲気の黒髪ロングの女性。品があるし、悪い気はしない。

……が、僕は妙に慎重になっていた。


「いえ、気になさらず。それじゃあ」


軽く会釈して立ち去った。


ーー翌日。


「きゃっ!」

今度は通りで赤毛の女性とぶつかった。元気そうな雰囲気の子で、手にしていた飲み物が派手にこぼれる。


「すみません! 洋服が汚れてしまいましたね……!」

「大丈夫ですよ。クリーン!」

生活魔法でシミを一瞬で消す。


「そ、そうですの……あの、お詫びに食事でも――」

「いえ、本当に大丈夫です」


またもや断って、その場を離れた。


ーーさらに数日後。


「きゃっ!」

今度は僕の目の前で女性が転んだ。

思わず手を差し出す。

金髪の女性で、腰のラインが妙に目を引く。どう見ても色っぽすぎる。


「だ、大丈夫ですか?」

「ありがとうございます。私――」

「すみません、急いでいるので!」


言葉を遮って、逃げるように去った。


……なんだこれ。

まるで“出会いイベント”の乱発だ。

ゲームの世界か?

それとも突然モテ期に突入した――のか?


ーーーー


今夜は風呂でも入って、ゆっくりしたい。

そう思い立った僕は、今夜はディアブロ邸に泊まることにした。


湯上がりにベッドへ潜り込む。

眠りに落ちそうな時に気がついた。


――気配がする。


目をうっすら開けると、そこにいた。

天井に、幼い女の子が――張り付いている。


(うん? なんでそんなところに女の子が? 重力どうなってんの?)


僕と目が合う。

女の子は可愛らしい笑みを浮かべた。


「あは♡」


「ギヤァァァァー!!」


本能で叫んだ。

というより、声にならない悲鳴を上げてベッドから飛び起きた。


廊下に飛び出し、全速力で逃げる。

適当な部屋に転がり込み、ドアを閉めた。


「はぁ、はぁ、はぁ……なんだったんだよ今の……」


息を整えようとした、その時。


「ねえ、逃げなくてもいいじゃない?」


女の声。

振り向くと、そこには――バニーガール。


「ひ、ひえぇぇぇぇぇ!」


またも逃走。

ディアブロ邸の廊下を駆け抜ける。

地下の食糧庫へ飛び込んだ。


暗い部屋の奥から、妙に艶っぽい声が響く。


「ご注文は……わ・た・し?」


料理人の格好をした女が微笑んでいた。


「あわわわわわわっ!!」


再び逃げる。

とにかく人がいなさそうな場所へ!

そうしてたどり着いたのは――トイレだった。


便器に腰を下ろし、冷静さを取り戻そうとする。

「はぁ……はぁ……落ち着け。夢だ。きっと夢だ……」


そのとき。


「ディアブロ殿。トイレットペーパーはこちらに」


背後から低い声。

振り返ると――忍者装束の女が、にっこりと立っていた。


「ひぃぃぃぃっ!?!?」


もう限界だった。理解不能。

というか、どうやって先回りしてんの!?

僕は叫びながら、再び廊下へ飛び出した。


最終的に僕が辿り着いたのは――玉座の間だった。


……まさか、この館の主人である僕が、自分の屋敷で追い詰められるとは思わなかった。


「ご主人様! 侵入者がいます!」


エルザの声だ! 助かった!

彼女が飛び込んできた。いつもの冷静な表情が、今日は頼もしく見える。


「複数だ! 女が何人もいる!」

僕は息を切らしながら叫んだ。


しかし、エルザは静かに首を横に振った。

「いいえ……気配は一人分しかありません」


「え? 一人? いや、さっきから部屋ごとに違う女が現れてたんだけど!?」


「おそらく――“化粧魔女”かと」


「何にでも化けるってやつ? こんなホラー仕様なの!?」


僕は目の前のエルザを疑う。

……まさか、このエルザも偽物じゃないだろうな?


「なあ、エルザ。第2話で、君がシスターの部屋で見つけたもの、覚えてる?」


「ご主人様……まさか私を疑っているのですか?」


「念のためだよ、念のため!」


エルザはうつむき加減に小声で答えた。

「……BL本、です」


「エルザー!! 怖かったよ〜!!」

やっぱり本物だ。


安心したのも束の間――

パチパチパチパチ、と奥から拍手の音が響いた。


「いやぁ伯爵。見せてくれるねぇ」


闇の中から現れたのは、魔法使いの装束を纏った女。

その唇には、余裕の笑みが浮かんでいた。


「それにしても、ここまで強情とはね」


言うなり、瞬時に服装が変わる。

ローブが鎧に変わり、次の瞬間には盗賊の皮衣。

その姿は、まさしく百変化。


「化粧魔女! 何が狙いだ!」

エルザが短剣を構えて叫ぶ。


女は肩をすくめて言った。

「“化粧魔女”なんて名前、あんまり好きじゃないの。アタシの名はジェーン――百面相のジェーンって呼んでおくれ」


ジェーンはウィンクすると、今度はイブニングドレスに早変わり。

大人の色気が漂う、完璧な“社交界の淑女”の姿。


「アタシもねぇ、もう四十になったのよ。この裏稼業もそろそろ辞めようと思ってさ。皇子と結婚して引退しようと思ったんだけど――ほら、あのバカ皇子、廃嫡されたじゃない?」


……アホ皇子、今回ばかりは被害者か。


「だから今度は、バームベルク侯爵に拾ってもらおうと思ってね」


「街で何度かアプローチしたけど、アンタ全然見向きもしないんだもん」


そう言うと、ジェーンの姿が次々に変わる。

すべて、最近街で僕に話しかけてきた女性たちだ!


「女に興味がないのかと思ったけど……ふふ、そういうことね」

意味深な笑みを浮かべるジェーン。


そして今度はエルザに視線を向けた。


「ねぇアンタ。アンタの主人、善良侯と悪魔伯爵を使い分けてるんでしょ? だったら、アンタが“侯爵夫人”をやりなよ。アタシは“伯爵夫人”で我慢するからさ」


「は?」


僕とエルザの声が重なった。


「一人の男をシェアするんだよ。言ったろ? アタシは結婚できればいいんだから」


僕が絶句していると、隣のエルザがギリッと歯を食いしばった。


「半分だって……お前には渡さない!」


その声と同時に、エルザの手からナイフが閃光のように放たれた。

ジェーンは軽く身を翻してかわす。


「おーこわ。……先約がいるならしょうがないね。ま、伯爵夫人は諦めるよ」


そう言い残し、彼女の姿は霧のように消えた。


静寂が戻る。僕は力無く呟いた。

「化粧魔女……恐るべし、だな」


そして僕はふと思い出す。

「しかし、あいつ“四十歳”って言ってたけど……全然見えなかったな。化粧の力ってすごいな。エルザも素顔は――ぐっ」


最後まで言い切る前に、エルザの肘が僕の脇腹に突き刺さった。

でも、なんか嬉しかった。

こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。

とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪

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