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第32話 暴露系吟遊詩人

◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)

屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。


●エルザ

アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。


――モンスター愛護活動家がいなくなってから、冒険者ギルドはかつての活気を取り戻した。

いや、それどころか、彼らの妨害で駆除が滞っていた分、モンスターの脅威が増えてしまったため、むしろ以前より繁盛しているくらいだ。


もちろん、併設の酒場も大盛況。


「なんだありゃ?」

僕が首をかしげると、隣のエルザが無表情に囁く。


「今話題の吟遊詩人だそうです。女性で、容姿も歌声も美しいと評判です」


確かに、中心にいる彼女は煌めくような存在感を放っていた。男女のカップルと思われるパーティを前にギターのような楽器のリュートを爪弾き、朗々と歌い始める――。


戦場を駆けし勇ましき戦士よ

剣を振るうは名誉のためにあらず

彼の胸に燃ゆるはただひとつ――

遠き家に待つ妻の微笑


客たちは「おおーっ」と拍手喝采。

確かに魅了されるような歌声だ。

感動的なバラード……のはずだが。


「……ん?」


どうもモデルとなったであろう男の戦士が相棒で恋人のようなトレジャーハンターに睨まれている。

戦士の男は“妻”がいるらしいということは・・・・・・?恋人のトレジャーハンターはいったい?


吟遊詩人は続けて、別の曲を歌い出す。


暗き森を忍び行くトレジャーハンターの乙女よ

月影の下に拾いし宝を

欲望に抱くは己がためならず

想うはただ、待ち人の笑顔

――指輪は恋人の手に

首飾りはその胸を飾り

独り占めの罪さえ恋に赦されん


今度は戦士がトレジャーハンターを睨む。指輪や首飾りなんて知らないぞといったところだろうか。トレジャーハンターも別の男に貢いでいるらしい。


つまりだ。

戦士の男には“妻”がいて、ハンターの女には貢いでいる恋人がいる。

このパーティ、どっちも本命が別だということか!


どうやらこの吟遊詩人、ただの美声アイドルじゃない。

歌にかこつけて暴露していくタイプだ。

言うなれば暴露系吟遊詩人。なんて恐ろしい!


舞台の上で、女吟遊詩人は再び竪琴を爪弾いた。


金貨分かち 仲間に笑顔

なぜか数枚は袋に残る

不思議と腹は満ち、酒は絶えぬ

リーダーの采配、神の如し


宝箱は皆で運び 皆で開け

分け前はリーダーがきっちり計算

――なぜか自分の袋だけ重いのは

努力と工夫の証しなり

やりくり上手なリーダーよ


隣のエルザは淡々と呟いた。


「リーダーの横領癖を“やりくり上手”と美化しているあたり……毒舌が芸風のようですね」


視線をやれば、当のリーダーに向けて仲間たちから「……お前、マジかよ?」とドン引き気味。

当事者たちには歌詞の意味が突き刺さっているらしい。


――そして三曲目。

吟遊詩人の竪琴はさらに軽快に、しかし歌声は妙に切なさを帯びて響いた。


塔に灯る明かりはひとつ

仲間に告げず夜を駆ける影

魔法の杖を振るうは誰のため?

己が名誉でもなく――ただ“約束”のために


ソロで請けた依頼書を

胸に抱きしめ隠し通す

仲間の笑顔を曇らせまいと

ひとりで火を纏う


「おおーっ!」

観客はまたも感嘆の声を上げた。


だが僕は肘をつき、小声でつぶやく。


「……魔法使い、完全に内緒でソロ活動してるじゃん」


「おそらく、これも実在するモデルでしょう」


――吟遊詩人が歌えば歌うほど、仲間割れ一直線。

ギルドの酒場は拍手喝采に包まれているのに、当事者たちの心境はまさに修羅場寸前だった。


ここまで来ると、もはや歌の続きが怖い。

次は一体、誰の秘密が暴かれるのか――。


ーーーー


酒場の片隅――。

美声に酔いしれた客たちの拍手喝采とは裏腹に、当事者たちは修羅場の真っ只中だった。


「おい!嫁がいるなんて聞いてねぇぞ!」

トレジャーハンターの女が戦士の男に詰め寄る。


「はあ?そっちこそ誰に貢いでるんだよ! また例のホストか?」

戦士も負けじと怒鳴り返す。


「結婚してるのを隠して付き合うような男に、文句言われる筋合いはねぇな!」

「ホスト狂いの尻軽女に言われる筋合いはねぇよ!」


……まあ、あのパーティは今日で解散だろうな。


視線を移すと、別のテーブルでも火花が散っていた。


「おいリーダー! 分配は等分するって約束だったじゃねーか!」

「どうなってんだよ!」


「そっちこそ! 闇営業で勝手に依頼を受けて何やってるんだ!」

反撃を試みるリーダー。


「闇営業じゃない。副業だ!お前がちゃんと配分しないから副業しないといけないんだろうが!」

魔法使いは悪びれるどころか、開き直った。


「ぐっ……! そ、それはパーティの運営資金としてだな……!」

「運営費は必要になったときに割り勘って決めただろ! 勝手にピンハネして“運営資金”とか言われても信用できるかよ!」


……うん、あそこも今日で解散かな。


――吟遊詩人の歌声が華やかに響くほど、酒場の空気は華やかさと修羅場のコントラストでえらいことになっていた。

観客の拍手と、当事者の罵声が入り乱れる光景。


もしかしてこの吟遊詩人、歌うたびにパーティ解散を量産してるんじゃ……?


ーーーー


酒場をカオスに陥れた女吟遊詩人は、喝采と混乱を背に立ち去っていった。

僕とエルザは目を見合わせ、静かに後をつける。


たどり着いたのは街の外れにある小さな商会。

看板には大きく「マオー商会」と書かれている。


「……マオー商会?」

「まさかと思いますが……魔王軍の隠れ蓑かもしれません」

「そのまんまじゃねーか!」


ネーミングセンスを疑うが、逆に堂々と書いておくことで逆に怪しまれない……とかそういう狙いなのかもしれない......のか?

魔王軍、本当に大丈夫か?


僕とエルザは建物の裏に回り込み、窓から中を覗いた。


そこには二人の魔族がいた。

ひとりは威圧感を漂わせた幹部らしき男。

そしてもう一人は――さっきの吟遊詩人の姿をした女魔族。


「セイレーンよ。任務の進展状況はどうだ?」

幹部の声が低く響く。


「はい。将来脅威となりそうな冒険者パーティの間に、不信の種を着実に植え付けています。今日も、いくつかのパーティは解散することでしょう」


吟遊詩人――いや、“セイレーン”と呼ばれた女魔族が微笑んだ。


「ふふ……さすがはセイレーン。魔王軍一の歌姫よ」


やはり……こいつ、魔王軍の手先だったか!

にしても魔王軍、真正面から攻めてくる気はさらさらないらしい。地味に人間関係をぶっ壊す工作ばかり……嫌らしすぎる。


「さて、セイレーンよ。お前に新たな任務がある」

「はっ」


幹部が声を潜めて告げる。


「ディアブロ伯爵を排除せよ」


……僕の名前が出た!?


「奴は我々の破壊工作を妨害した。将来、必ず脅威となる。お前の“デスボイス”で仕留めるのだ」


デスボイス……?

なんだそれ。音系攻撃か? 名前だけで不穏すぎるんだけど。


「ところで……その……ご褒美を」

セイレーンが妙に艶っぽい声で身をくねらせる。

「太くて、熱くて、逞しいものを……いただきたいのですが」


……おい、やめろ。これR指定回避で頑張ってるんだからな!?


幹部は不敵に笑い、机の下から取り出した。


――特大のソーセージ。


「さあ、味わうがいい」


「ありがとうございます♡」


……いや、飯かよ!


僕とエルザは、奇妙すぎる魔族のやり取りを息を潜めて見届けた。


――ただ一つだけはっきりしている。

あの歌姫セイレーンが、次なる標的として僕の館にやってくるということだ。


そして“デスボイス”なる未知の脅威。

嫌な予感しかしなかった。


ーーーー


――そしてその日。

謎の吟遊詩人、セイレーンがついにディアブロ邸へとやってきた。


ここまで来たら、もうヤケクソだ。

僕は玉座の間に仁王立ちし、両手を広げて迎え撃つ。


「フハハハハ! 我が名はディアブロ! 悪魔伯爵ディアブロだ!」


「お目にかかれて光栄です」

女吟遊詩人――セイレーンは妖艶な微笑を浮かべ、リュートを抱えた。

「では、あなたに捧げる歌を。どうぞお聞きください――」


次の瞬間、会場に響いたのはラップ調のデスボイスだった。


俺の名前は悪魔伯爵

いつも食事はトイレで寂しく

趣味に生きる孤高のオタク

恋人がいない童貞生活

ボッチの日常マジで最悪

俺の名前はディアブロ伯爵


「ぐっ――!」


思わず膝をついた。

なんだこの攻撃は……! 僕の前世の黒歴史、ボッチだったことをえぐり出してくるだと!?

まさか……これが“デスボイス”の正体なのか。精神を直撃するラップ攻撃とは……恐るべし!


「ご主人様! これを!」


エルザが僕に何かを投げ渡した。

「こ、これは……耳栓!?」


単純すぎるが、試してみる価値はある。


「!……!……!」


セイレーンが何かを叫んでいるが、全く聞こえない。

……おお、これはいい! ラップ攻撃も怖くないぞ!


僕は立ち上がり、セイレーンの手からリュートをひったくった。


吟遊詩人セイレーンは、突然歌をやめた。

必死に何かを叫んでいるようだが、耳栓越しでは聞こえない。


「……あ、ごめん」

耳栓を外した。


「その……リュートを返して! お願い!」

涙目で訴えるセイレーン。


そんなに大事なものか? さっきのラップのノリだと、別にいらない気もするんだが。

気になったので【鑑定】を発動してみた。


――魔道具:相手の弱点を見つけ、歌に変換することができる。


「……な、なんだと!?」

僕のトラウマ“ボッチ生活”を抉ってきたのは、このリュートの仕業か!

罪深き道具だな。


「これは没収だ!」

僕は高らかに宣言した。

「貴様は魔王軍の工作員だな?処分は……こいつらに任せよう! お前がどんな歌声を聞かせてくれるか楽しみだな!」


その場に現れたのは――うちのオーク部隊。


見た目は屈強で、普通なら「女性捕虜とオーク」となれば、陵辱イベント待ったなし。

……だが。


うちのオークたちは優しすぎる。

陵辱どころか、おもてなしする始末だ。


「ひぃっ!? いやあああああああ!」

セイレーンは勝手にビビって、その場から全力で逃げ出していった。


……うん。やっぱり最後は締まらない。


「エルザがいてくれたから助かったよ」


「当然です」

エルザは涼しい顔で一礼する。

「これからもご主人様のそばで支えます。もっと頼ってください」


何それ?ちょっと照れちゃうな。


かくしてまたもやパーティの破壊工作を仕掛けてきた魔王軍の陰謀は不発に終わったのだった。

こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。

とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪

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