第31話 モンスター愛護活動家とオークのポーさん
◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
「モンスターを殺すなー!」
「命を大事にしろー!」
冒険者ギルドの前で、見慣れぬ人だかりができていた。色とりどりのプラカードを掲げ、大声で抗議活動をしている。
「なにあれ?」
僕が隣のエルザに問いかけると、いつもの無表情で答えが返ってきた。
「モンスター愛護団体です。最近、この辺りで活動していると聞きました」
……なにそれ?
いやいや。モンスターって人間を襲うし、駆除しないと普通に生活できないんだけど。わかってんのかな?
「モンスターだって話せばわかるんです! 彼らは心優しい存在です! 人間とモンスターとの相互理解を深めましょう!」
いや、それができないから駆除しているんだって。人間の味を覚えたモンスターに「僕をお食べ」とでもいうのか?ホラーだろ。
リーダーらしき若い女が、身振り手振りを交えてアジ演説をぶち上げる。やたら煽るのが上手い。
「……普通の人にとっては、モンスターは生死に直結する問題だよな。そんな余裕あるわけないはずなんだけど」
僕が呟くと、エルザは肩をすくめた。
「あの人たちはバームベルクの人ではありません。モンスターの脅威がない地域に暮らしているのでしょう。安全な場所から主張するだけですから」
なるほど、わざわざバームベルクまで来てやるんじゃないよ。
リーダー女の演説はさらに熱を帯びる。
「オークはこのとおり優しいモンスターなんです! 皆さん、『オークのポーさん』を読んだことがあるでしょう? あの優しいポーさんを、この冒険者たちは残忍に殺しているのですよ!」
お前……。
絵本をソースに語るな。
そもそも優しいオークなんて、ディアブロ邸で飼ってる従順なやつだけだからな。野生のオークは平気で「趣味:女騎士への陵辱」なんてステータスに書いてある連中だぞ。
もっとも、ディアブロ邸のオークは優しすぎて戦力にならないという別の問題があるけど。
それを「ポーさんかわいそう!」なんて共感してる連中までいるんだから、頭の中までお花畑もいいところだ。
ーーーー
抗議活動はおわったらしい。
「えー、本日はお疲れ様でした。 動員の方は事務局から日当を受け取ってください」
冒険者ギルド前でマイク代わりに大声を張り上げる男。
……日当?
何そのシステム。つまり動員かけて集めてるってことか。つまり金持ちの道楽か?
呆れるにも程がある。
案の定、群衆は「はいはい」と列を作って日当を受け取る者、打ち上げ会場に向かって浮かれ騒ぐ者に分かれて解散していった。
やっと静かになったので、僕はエルザとギルドの中へ。だが、中はガランとしていた。
「モンスターの討伐依頼が減ってるわ」
カウンター奥で腕を組んでいたギルドマスター、カタリナが険しい顔をしていた。
「最近は依頼人の家にまで押しかけて、『モンスターを殺すな!』って抗議してるらしいのよ」
受付嬢ピエラも呆れ声を上げる。
「……連中、本当にモンスターの危険性を知らないのか?」
僕が率直な疑問を口にすると、隣でエルザが淡々と解説する。
「金持ちはモンスター避けの魔道具を持っていますから、脅威に感じないのです。金持ち以外は日当目当てで動員されているだけですね」
「結局、自分の感情だけで『かわいそう』を主張する連中なのよ。本当に困るわ」
カタリナが肩を落とす。
「しかもね、あの人たちが保護を訴えるモンスターって一部だけなの」
ピエラが補足する。
「えっ? どういうこと?」
「彼らの価値観的に“かわいい”モンスターだけが保護対象なのよ。ゴブリンは気持ち悪いから駆除しろ、って逆に文句言ってくるの」
「なんだそのダブルスタンダード……」
僕は思わず呆れる。
「オークはいいの?」
「『オークのポーさん』の絵本の影響が強いのでしょうね」
エルザが小さくため息をついた。
「なるほど。でもな……あれ、絵本だけの幻想だからな。うちの屋敷にいるおとなしいオークだって、食事シーンはマジでグロいぞ。羽のついた鶏をそのまま生でバリバリ……」
と、そこまで言ったところで妙案が閃いた。
「……オークの生活を体験させようか?」
「は?」
「だって本物を知らないから、あんなお花畑の主張ができるんだろ? だったら“オークの生活体験ツアー”をやらせればいいんだよ」
本物のオークのリアルライフを体感すれば、さすがに考えを改めるはずだ。
「……いつも伯爵のお世話になるのは申し訳ないけど、今回もお願いするわ」
カタリナも同意してくれた。
こうして――ディアブロ邸オークツアー、開催決定である。
ーーーー
次の日の新聞にはこんな記事が踊っていた。
――『ディアブロ領で新ビジネス オーク牧場開業 魔石の安定供給が実現』
いかにも「オークから魔石を摘出するためだけに牧場をやってます」みたいなニュアンス。もちろん僕が書かせた記事だ。
案の定、それを読んだ保護団体は大発狂。
「オークに酷いことをするなー!」
「生命を搾取するなー!」
これでディアブロ邸に集まるはず。と思ったが、彼らが集まったのは――なぜかバームベルクの政庁前だった。
「ちょっと待て! オーク牧場を始めたのはディアブロであって、バームベルクは関係ないだろ!」
僕は思わず頭を抱える。
本当ならディアブロ領に来たところをオークの檻に放り込んでやる予定だったのに、見事に目論見が外れた。
「連中にとっては文句が言えればどこでもいいんです。役所は全部ひとくくりなんでしょう」
エルザが呆れ顔で言う。
案の定、政庁の役人たちは「いや、うちは関係ないんで……ディアブロに行ってください!」と必死に訴えていたが、抗議団体は聞く耳を持たない。
「くそ……! なんとしてでもディアブロ領におびき寄せなければ!」
仕方なく、僕は最後の手段に出た。抗議活動のリーダーと直接会うのだ。
主催していたのは、若い女――どうやら南方の都市国家の貴族らしい。
なるほど、モンスターが脅威じゃない場所で育ったから、こんな呑気な抗議活動をしてるわけか。
「オークは知的なモンスターで、お互い理解し合える存在です!」
彼女は真剣な顔でそう主張する。
……僕は一切真面目に聞くつもりはなかった。
「まあまあ、別室でじっくりお話を伺いましょう」
にっこり笑ってそう促す。
その扉の先は――ディアブロ邸へと繋がる転移扉だ。
こうして僕は、保護団体リーダーを華麗に“ディアブロ邸送り”にすることに成功したのであった。
ーーーー
ディアブロ邸に送り込んだリーダーの女は、なんとオークたちと仲良くなっていた。
……まあ、よかったな。
うちのオークはディアブロ邸仕様の“安全個体”だから、陵辱とか絶対にやらない。これが野生のオークだったら、今頃もう一巻の終わりだ。
「フハハハハ! 我が名はディアブロ! 悪魔伯爵ディアブロだ!」
僕はいつものように高笑いしながら登場する。
するとリーダーは、すかさず眉をひそめて叫んだ。
「伯爵! こんな可愛いオークちゃんたちを牧場で飼うなんて、やめてください!」
「……ほう。では問おう。なぜオークを保護しなければならんのだ?」
ディアブロ(僕)の問いかけに、彼女は胸を張って答える。
「オークは知的な生き物です! 人間と分かり合える存在を、なぜ殺さねばならないのですか!」
堂々と言いやがったな。知的って根拠は幼児向けの絵本だろ?
「ならば――そこまで言うならば、オークの生活を体験してみるがいい」
僕が挑発するように言うと、リーダーの目がきらきらと輝いた。
「望むところです! オークちゃんと一緒に生活できるなんて、夢のようですわ!」
……こいつ、本気で言ってやがる。
こうして、モンスター保護団体リーダーとディアブロ邸オークの――奇妙すぎる共同生活が始まったのだった。
オークたちはリーダーを大歓迎しているようだった。
差し出されたのは赤い液体の入ったコップ。
「あら、ウェルカムドリンク? やさしいのね」
リーダーは嬉しそうに受け取ると――ごくり。
「う、うげぇ……なにこれ!?」
顔をしかめて呻く。よほどまずいらしい。
「……あれなんだろう?」
僕が小声で尋ねると、エルザが即答する。
「生き血ですね。鶏の」
……ウェルカムドリンクに生き血。
僕だったら即卒倒ものだが、ここは少し煽ってやるか。
「おや? オークのもてなしは気に入らないのか? オークたちもしょんぼりしているぞ」
確かにオークたちは心なしかしゅんと肩を落としていた。
「い、いただきます!」
――リーダー、まさかの一気飲み。生き血を飲み干した。
「なかなか根性あるな」
「……本物ですね」
何が本物なのかはわからないが、場は妙に感心ムードに包まれた。
良い子のみんな!得体の知れない生き血を飲むのは危険だから真似するなよ!
続いて始まったのはオーク流の晩餐会。
テーブルにどん、と置かれたのは――羽を毟ってもいない丸焼き鶏。
さらに次々と出される料理。
虫、ネズミ、トカゲ、蛇……さらには小型の野生モンスターらしき姿焼きまで。素材を“そのまま”活かした料理のオンパレードだ。
「さあ、オークのもてなしを無駄にするのか? 食事は相互理解の第一歩だぞ」
僕がニヤリと煽ってやる。
リーダーは――震える手で皿に伸ばしかけ、そのまま真っ白な顔でがくりと崩れ落ちた。
「……気絶しましたね」
「まあ、普通そうなるよな」
こうして、オーク体験ツアーは――リーダーの気絶によって幕を閉じた。
ーーーー
その後――例のモンスター保護団体はあっさり解散してしまった。
まあ当然だろう。オークの生活体験ツアーを最後まで完走できる根性のある人間なんて、そうそういない。
だが、なぜかリーダーはオークたちに気に入られたらしい。
それ以来、彼女のもとには定期的に“贈り物”が届いているという。
中身は……生き血の瓶詰め、丸焼きにされた動物たち、そして小型モンスターの燻製セット。
まさにオーク流の“愛のギフト”だ。
受け取ったリーダーがどう思っているのかは、僕には知る術がない。
けれど――きっと喜んでくれているのだろう。
オークとの相互理解が進んで、彼女も幸せに違いない。
皮肉じゃなくて本気だよ。
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪




