第30話 信用ゼロ!バカボンボンの大冒険
◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
衝撃のニュースが帝国を駆け巡った。
――アホ皇子こと、皇帝の第1皇子がついに廃嫡されるらしい。
「直属の騎士団を“くっ殺せ”を合言葉にした変態女騎士団にしたり、素肌に鎧みたいな装備に変えてたりして好き放題やってたからなぁ。皇帝もついに堪忍袋の緒が切れたのかな?」
僕が肩をすくめると、エルザはいつもの無表情で話を続ける。
「ですが、まだ噂の段階にすぎません。それに――」
どうも言いにくそうに、彼女は小声で続ける。
「こうなったのは、ディアブロ伯爵……つまり、ご主人様のせいだから、決着をつけると息巻いているようです」
「……あー、やっぱり?」
どこまで行っても残念な子だな、あの皇子。
「しかも冒険者パーティを装って、バームベルクに入ってきています」
「へぇ。で、メンバーは?」
「皇子以外、全員女性です」
――ハーレムパーティかよ!予想はしてたけどムカついてくる。
「放っておいても、どうせディアブロ邸に来るんだろうけど……」
「せっかくだし、偵察がてら冒険者ギルドで様子を見てやろうか」
こうして僕とエルザは、ギルドの喧騒の中へと向かった。
ーーーー
ギルドは今日も相変わらずの喧騒に包まれていた。
酒と笑いと喧嘩の声が飛び交う中で、目当ての人物を探すのは骨が折れる……と思った矢先。
――いた。
顔を知らなくても、あいつが第1皇子だと一発でわかる。
貴族風の身なりだけど、下品に大声で叫んでいた。
「俺はやんごとなき身分だぞ! 料理を高い順にもってこい!」
……やんごとなきって、自分で言う言葉なの?
もはや貴族というより居酒屋で騒ぐオッサンにしか見えない。
早く廃嫡したほうがいいよ、これ。
その周囲には3人の女性従者がいた。だが――表情は見事に白けている。
「早く帰りたい」って顔に書いてあるの、ここまで露骨なのも珍しい。
「エルザ、彼女たちの話を聞いてみたい」
僕が囁くと、エルザはさりげなく皇子の杯に粉末を投入。
数分後――
「ぐがーっ……」
見事な寝息とともに、皇子は床に転がった。
「お互い、主人に恵まれないわね」
エルザが苦笑しつつ、女性たちに声をかける。
「……あんたもかい? でも、さすがにここで寝てるバカほどじゃないだろ」
豪快に笑ったのは女戦士。
「“やんごとなき身分”を自分で名乗る人間なんて初めて見たわ」
魔法使いが呆れ顔で吐き捨てる。
「権力も金もないんじゃ、ついてきて損したって感じよね〜」
盗賊風の女が肩をすくめた。
……うん、これは完全に愛想尽かされてるやつだ。
「それで、君たちはなぜバームベルクへ?」
僕が尋ねると、女戦士が面倒くさそうに答えた。
「床に転がってるアレ、実は第1皇子なんだよ」
「えっ?」
いや知ってたけど! 普通そういうのはトップシークレットじゃないの!?
「なんでもディアブロ伯爵に因縁があるとかで、無理やり連れてこられたのさ」
「どうせこのロリコン、妹のことでなんかあったんでしょ?」
魔法使いがぼそっと呟く。
「しかも金払いはケチ。廃嫡されたらタダ働き確定。やってらんね〜」
盗賊も追い打ちをかける。
……第1皇子、金払いまで悪かったのか。僕も気をつけよう。
「それで、あなたたちはどうするつもり?」
エルザが問いかける。
「うーん、多分明日にはディアブロ伯爵の屋敷に行くと思うんだよね」
「でも、あの屋敷って難攻不落だって聞くじゃない」
魔法使いが警戒心をのぞかせる。
お、わかってるね。死者ゼロだからダンジョンランクは低いけど、実際は一度も攻略されてない。
「ま、廃嫡されるまでは適当に付き合うかな〜」
盗賊が飄々とまとめた。
――わかったこと。彼女たち、完全にやる気ナシ!
「……なんだか第1皇子が可哀想になってきた。僕も気をつけよう」
「大丈夫ですよ」
エルザが珍しく優しい声で慰めてくれる。
「ご主人様は、まだあのレベルには到達していませんから」
……“まだ”って何だよ。
そんなことはなかった。
ーーーー
翌朝――皇帝からの使者が第1皇子のもとへ現れた。
どうやら正式に“廃嫡”を告げたらしい。
その後の冒険者ギルドは修羅場だった。
「くそっ! 父上は何をお考えなのだ! このハイセンスで、スタイリッシュで、クールで、セクシーなこの僕を廃嫡するなど!」
……自分で言うか、それ。
どれも一つも当たってない気がするんだけど。
「荒れてるわね」
エルザが小声でつぶやく。
お付きの冒険者たちに話しかけると、戦士の女が肩をすくめて答えた。
「今朝、皇帝からの使者が来て廃嫡を言い渡したのよ」
「あら、よかったじゃない。あなた達は自由になれて」
エルザがさらりと返す。
「それが、そうもいかないの」
魔法使いが深いため息をついた。
「私たちが皇子付きから外れるのは、皇宮に戻ってから。つまり……ディアブロ邸まではお供しなきゃいけないわけ」
「でも、ディアブロ邸を攻略すれば“ダンジョンクリアボーナス”が出るんじゃないの?」
僕が口を挟むと、盗賊が鼻で笑った。
「このケチで変態な皇子が、気前よく分けるわけないでしょ。どうせ全部ネコババして終わり」
……ここまで嫌われポイントしか持ち合わせていない人間も珍しい。
「おい! お前たち!」
(あ、アホが呼んでる)
「はっ! 殿下! お呼びでしょうか?」
「今すぐディアブロ邸へ出発だ!」
「ですが、装備の準備などは……」
戦士が恐る恐る口を挟む。
「そんなもの要らん! この僕の威光に、田舎伯爵などひれ伏すに決まっている!」
どこから湧いてくるんだ、その根拠のない自信は。
それに――廃嫡されてる時点で威光もクソもないだろうに。
こうしてアホ皇子達はディアブロ邸へと出発していった。
ーーーー
「皇帝陛下の第1皇子たる我が来たのだぞ! 出迎えたらどうか!」
ディアブロ邸に到着した皇子が声を張る。
「フハハハハ! 我が名はディアブロ! 悪魔伯爵ディアブロだ!
これはこれは――廃嫡された殿下。いや、もう“元殿下”ですな。さあ、我が屋敷のもてなしを存分に味わいながら奥までお越しください。お待ちしておりますぞ」
「ぷっ……!言われてやんの」
盗賊の女が吹き出した。
その一言で、女戦士も魔法使いも笑いを堪えきれなくなる。
「く、くそっ! 行くぞ、お前たち!」
皇子は怒りに任せて勇ましく進軍。
後ろを歩く女性陣は、完全にやる気ゼロの足取りでただついてきていた。
――なんというか、この時点ですでに勝負はついている気がする。
奥へ進むと、そこにはガイコツ剣士軍団がずらりと待ち構えていた。
見た目こそ威圧感バッチリだが――実際はめちゃくちゃ弱い、張りぼてモンスターである。
「さあ、元殿下。どうなさいますかな?」
僕はわざと挑発気味にアナウンスを流してみせる。
「くそっ! こんなモンスターなど問題ない! お前たち、早く片付けろ!」
第1皇子が怒鳴る。
「――いくらですか?」
女戦士が無表情で返す。
「は?」
皇子が固まる。
「だから、報酬をいくら出すのかって聞いてるんですよ」
魔法使いが呆れ顔で追い打ちをかける。
「廃嫡されちゃったんじゃ、ただのお坊ちゃんだからねぇ。タダ働きはごめんだわ」
盗賊が肩をすくめる。
女性陣の不信感はガチだ。
「くっ……一体につき銀貨一枚!」
「単価ではなく、全部でいくら?」
「は?」
「だから、ここにいる全部でいくらかって聞いてるの」
「この前、数ごまかされたからね〜」
「あと契約書もお願いします。あんた、すぐ約束破るから」
魔法使いがさらっと釘を刺す。
「わ、わかった! 一筆書く!」
皇子は涙目になりながら契約紙にサインを書き殴った。
「――モンスター、待ってるんだが?」
僕が急かすと、
「わ、わかってる! ちょっとくらい待て!」
と、半泣きで叫ぶ皇子。
契約成立後、冒険者軍団はあっという間にガイコツ剣士たちを片付けてしまった。
ちなみに皇子? ――全く役に立ってなかった。
そして次なるステージはゴースト軍団。
不気味な声が響く。
『……お前、廃嫡されちゃただの人だよな』
『……今までイキってたのにダセーな』
『……あの女騎士団、裏でお前のセンス笑ってたぞ』
「な、なんなんだコイツらは! おい、早く片付けろ!」
皇子は耳まで真っ赤にして怒鳴る。煽り耐性ゼロすぎる。
「ゴーストは物理攻撃してきません。無視してください」
戦士が冷静にアドバイスするが、
「このボクがここまで言われてるんだぞ!? なんとかしろ! 報酬も出す! 契約書も書く!」
「必要経費は?」
戦士が追撃する。
「は?」
「ゴースト退治には光属性のマジックアイテムを使うの。経費がかかるってわかる?」
盗賊が睨む。
「わ、わかった! 経費も別途で支払う!」
「では、こちらにサインを」
魔法使いがすかさず契約書を差し出す。
……なんというか、見てるこっちが可哀想になってきた。
ーーーー
ついに皇子は玉座の間までたどり着いた。
「ディアブロ伯爵! 決闘を申し込む!」
皇子は手袋をこちらに投げつけ、決闘の意思を示す。
「ふむ……ならば我は代闘士を用意しよう」
「は?」
「出よ――ハードクレーマー!」
重々しい足音とともに現れたのは、クレーマーモンスター。
「あなたね! 高貴な生まれのくせに自覚がないのよ! ノブレス・オブリージュって言葉ご存知!? そもそも、あなたの態度は――」
「え、ええ。はい……それは、その……」
皇子は必死に言い返そうとするが、防戦一方。
剣よりも言葉の連撃にボコられている。
これは時間がかかりそうだ……。
なので僕とエルザは別室へ移動し、女冒険者達とカードゲーム《UNYO》を始めた。
「いまUNYOって言わなかった!」
「だあー」
そんな調子で呑気に遊んでいると――どうやら決着がついたらしい。
「こ、これは……?」
そこに立っていたのは、ザビエルカットに髪を整え、修道士の衣をまとった第1皇子。
「今まで私は、欲にまみれすぎていました。これからは国の平穏を祈りながら生きていきます」
……いやいやいや、変わりすぎでしょ!?
ハードクレーマーモンスターって一体なに者なんだよ。
こうして愉快な俗物プリンスは、まさかの聖人君子に生まれ変わったのであった。
めでたし、めでたし……なのか?
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪




