第28話 ハイレグテロリストの同人活動
◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
「――テロリスト、ですと?」
警備隊長からの報告に、僕は思わず変な声を出してしまった。
いやだって、中世ヨーロッパ風の異世界でテロリスト?
「はい。最近、ディアブロ領の山岳地帯に拠点を移してきたそうです。何らかの主張を掲げているようですが、その内容までは判明しておりません。ただ確認できた構成員は……全員、女性です」
「……は?」
耳を疑った。
女だけのテロ集団?そんなのある?なにそれ、むしろちょっと興味あるんだけど。
「……というわけです。……あの、聞いてましたか?」
やばい。また妄想をしてたら、報告が終わってた。
「と、とりあえず対策は考えよう。……うん、彼女たちの主張の内容も気になるし」
定例の治安対策会議はそこで終了となった。僕はさっさと自室に戻る。
⸻
「エルザー。例によって……全然聞いてなかった〜」
「でしょうね。そう思って報告書を預かってきました」
エルザが呆れ顔でため息をつきながら、分厚い書類を差し出す。
「助かる〜」
「このやりとり、何度目ですか?そろそろ真面目にしてください」
「はーい……」
仕方なく報告書をペラペラめくる。
「ふむふむ……最近は誘拐事件が多いんだね」
「ですが、被害者は全員解放されています。おそらく身代金目的でしょう」
「なるほど。必要以上に手荒なことはしない……それが彼女たちのポリシーってやつかな?」
「死亡者が一人も出ていないのが、その証拠でしょう」
……女だけのテロ集団。人は殺さず、身代金で活動資金を集める。
なんか義賊っぽい。いや、これは接触してみたい案件では?
(僕も誘拐されてみようかな……)
そんな危険思想を浮かべていると――
「まさかとは思いますが、わざと誘拐されるつもりじゃないですよね?」
「!?」
なぜ分かった!?エルザ、恐ろしい子。でもそんな心配をしてくれるなんて嬉しい。
「そ、そんなこと考えてるわけないじゃないか!」
「本当ですか?……テロリストの方が可哀想なので、やめてくださいね」
……なんだ、心配してるのは僕じゃなくてテロリスト側かよ。
でもまあ、彼女たちと話をする機会を作るっていうのは……悪くないな。
このあと彼女たちがどんな“主張”を掲げているのか、ちょっと楽しみになってきた。
ーーーー
僕はわざと、テロリストが出没すると噂の山道へ一人で足を踏み入れた。
狙われるかどうか──というよりは、テロリスト集団を見てみたいという単純な興味からだった。いざとなれば逃げれば良いし…という慢心もあった。
「これで釣れてくれれば……」
そんなことを考えていたら、どこからともなく風が鳴った。次の瞬間、頭の横を「ヒュッ」と矢が掠めた。冷や汗と同時に、思わず笑ってしまう。お約束すぎるだろ、この世界。
振り向く間もなく、周囲から人影が現れる。女性のシルエット、軽やかな足取り、そして──やたらと露出度の高い衣装。ハイレグに身を包んだ女たちが、弓矢と短剣を手にして僕を取り囲んだ。
「……バームベルク侯爵だね。ご同行願おうか」
気がつけば四方を囲まれていた。美貌と戦闘力を兼ね備えた女たち。だが、どうして全員ハイレグなのか。この世界は女騎士といい、戦闘時の合理性を度外視したファッションが流行なのだろうか。
「確かにハインリヒ・フォン・バームベルクだが……君たちは?」
正面に立っていた女が、ふふ、と含み笑いを浮かべる。冷静な声に、どこか余裕が宿っている。
「フフフ。名乗るほどのものじゃないよ。侯爵には少しお付き合いいただいて、身代金をもらえば解放するさ」
報告書に書いてあった通りだ。手荒な真似はしないらしい。死亡者ゼロ、被害者全員解放──そんな断片だけで、どこか義賊めいた匂いがする。僕の内心がふと軽くなるのを感じた。
(誘拐される→身代金で解放、か。つまり接触のチャンス……だよな?)
それよりも
(ウヒョー。ハイレグテロ集団のアジトか!)
純粋に喜んでしまった。
「わかった。君たちについて行こう。話を聞かせてくれ」
一応、善良な領主として振る舞っているのだ。心の中では鼻の下を伸ばしてニヤニヤしていても、真面目な顔をしなければいけないのが辛い。
ーーーー
山岳地帯の洞窟の入口を抜けると、意外にも洗練された空間が広がっていた。外見は山岳の洞窟だけど、中はモダンな間接照明に調度品、布張りのソファに観葉植物まであって――スタイリッシュな生活を送っているみたいだ。
「リーダー、おかえり〜」
「ただいま。今回のお客様だ、バームベルク侯爵」
中から数人が出迎える。どうやら全員で十人前後のようだ。少数精鋭、というやつらしい。
「侯爵さま、ほんとごめんね。うちら身代金さえもらえればいいの。すぐ解放するから、しばらく付き合ってね」
むっちゃ可愛い笑顔でお願いされる。女の子にお願いされたら断る理由が思いつかない。
軟禁──と呼ぶにはあまりにも居心地が良い。案内された個室は温かい毛布に清潔なベッド。部屋の出入りも制限はされず、談話室では彼女たちが談笑し、訓練室では稽古が行われている。洞窟生活の割に文化水準が高い。
僕は、人混みにスッと入り込んで雑談の輪に入れるタイプではない。前世の僕はコミュ障だった。一人で過ごすしかないか…と思っていたら、向こうから女の子がこちらへ呼びかけてきた。
「侯爵、少しおしゃべりでもしない?」
気づけば談話室のソファに座らされ、女の子たちの真ん中が僕の指定席になっている。距離感が近い。視線が温かい。
「こ、これは!?」
これが噂の――いや、前世で行ったことはないけど、たぶんキャバクラってこんな感じなんだろうな。
僕は彼女たちと他愛のない会話をする。趣味の話、食べ物の話、山での生活あるある。話してみると、みんな普通の女の子だ。ただし隠密生活のせいか、世間のニュースや流行にはやや疎い様子。それもまた可愛いと思ってしまう。
しばらくおしゃべりを楽しんだ頃
「ごめん、トイレに行きたい…」
素で申し出る。
「あー、侯爵。このアジトには男子トイレがないんだ。悪いけど外で済ませてきてよ」
「ふー」
外の茂みへ出て、立ちションをする。──と、そこへ突然の声。
「ご主人様!」
振り返ると、エルザが隠密装束で姿を隠すように控えていた。いつもの冷静さはどこへやら、顔に焦りがにじんでいる。
「びっくりした。どうしたんだよ?」
「主人が誘拐されたんですよ! 奪還に来たに決まってるじゃないですか!」
エルザの声は震えている。普段は冷静で、僕が不用意な冒険を企てても一歩引いてツッコミを入れるだけなのに、今回は様子が違った。心配そうな目でこちらを見つめられると、ハイレグ達の元に戻るという選択肢が急に重くなる。
「彼女達の企みを聞き出せそうなんだ」
僕がもう少し居たいと言うが、納得してくれていない。
「これ以上、心配させないでください!」
かなり強く制止された。
少し考えて、良いアイデアを思いついた。テロリストをディアブロ邸へ誘導する──それが最も安全で、かつ面白い。
「わかった。いい案がある。僕がディアブロの秘密部隊に誘拐されたことにして、彼女達をディアブロ邸に誘導するんだ。そこで迎撃するってのはどうだ?」
「まあ……それなら」
彼女は厳しい顔で頷き、すぐに表情を引き締めた。
よし、これでディアブロ邸へ誘導して迎え撃つ作戦だ。
「ぎゃー!たーすーけーてー!」
僕はわざと洞窟の中にいるテロリストたちに聞こえるよう、魂を込めた悲鳴をあげた。
すぐさま足音が近づき、洞窟から顔を出した彼女たちが見たのは――エルザに縛り上げられ、肩に担がれた僕の姿だった。顔にエルザの胸の柔らかい部分が当たっているのは……秘密だ。
「ふふふふふ。バームベルク侯爵は、ディアブロ秘密部隊がご招待するのよ!」
そう言い放ったエルザの合図で、くノ一軍団が煙幕玉を投げ込む。白い煙が渦巻き、ハイレグ団の追跡を遮断。その間に僕たちはディアブロ邸へと撤退した。
ーーーー
時間を置かず、ハイレグ団はディアブロ邸の門前に姿を現した。
今回は準備期間がなく、罠はひとつだけ。だが一撃必殺のトラップだ。
長い下り坂の廊下。そこへ彼女たちを誘い込む。全員が坂を降り始めたタイミングを見計らい、天井に仕込んだ水鉄砲を作動させる。
――ただし、中身はローション。
「な、なんだこれは!?」
床は一瞬にして這い上がることもできない床と化し、ハイレグ団は見事に足を取られて滑り落ちる。
そして、彼女たちが辿り着いた先は……巨大なトリモチ床。
「ひぃっ!?」「ぬ、抜けないっ!」
ネバネバに絡み取られ、ハイレグコスチュームがいやらしく張りつく。動けば動くほど艶めかしい。……なんかエロいぞ、これ。
⸻
「フハハハハ! 我が名はディアブロ! 悪魔伯爵ディアブロだ!」
満を持して登場した僕に、ハイレグ団は歯を食いしばって叫んだ。
「くそっ! 私たちの理想の社会を実現するまでは負けられない!」
理想?彼女達は一体……?
「貴様らのその主張とやら、聞かせてもらおうか」
リーダー格の女が視線を逸らし、小さな声で答える。
「……レディコミだ」
「え?」
「レディスコミックの規制廃止だ! そのために資金を集めていたのだ!」
……えぇ。そんな理由で山岳に潜んでテロ活動?
エルザが冷静に補足する。
「バームベルク以外では出版規制が厳しいですからね。……というかバームベルクが緩すぎるんです」
さすが中世風異世界。出版の自由なんて当然ないわけだ。
「ふむ……知らんかったのか? バームベルクでは自由に出版ができる。検閲なんてないからな」
「えっ!? 本当に!?」
ずっと山にいたから世情に疎かったんだな。ならば……
「このディアブロが出資してやろう。堂々と出版すればいい」
ーーーー
こうして、ハイレグ団はテロ活動をやめた。
昼は冒険者ギルドで真面目に依頼をこなし、夜はレディコミの同人活動に励むことに。
やがて同人活動は軌道に乗り、彼女たちは書店を構えるまでに成長する。
スポンサーの名前からつけられた名前は
『ディアブロ堂書店』。
ここからレディコミ文化が牽引されていくことになるのは別のお話……
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪




