第27話 女怪盗の妖しいダンスショー
◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
冒険者ギルドは最近、妙な熱気に包まれていた。
理由はひとつ――『女神の拳』。
北方の鉱山から発掘された巨大な宝石で、教皇に献上するため南方へ運ばれる途中、バームベルク領を通過するというのだ。
その間の護衛は冒険者ギルドの仕事となったとのこと。
指揮を執るのはギルドマスター、カタリナ。
元暗殺者らしく、警備計画の立案は完璧だ。
だが、何やら心配の種は尽きない様子でもある。
「なんか大変そうだね」
「そうなんです。しかも……こんなものまで送りつけられて」
カタリナが差し出したのは、一枚のカード。
――『女神の拳を頂戴します♡ 怪盗ミンク』
「えっ、何これ?」
「最近噂の女怪盗です。宝飾品専門で、各地に出没しては盗み去っていくそうです」
エルザが教えてくれる。
「ふーん。わざわざ予告状まで出すなんて、相当な自信家だね」
僕はにやりと笑う。
カタリナはため息を吐いた。
「うちの支部が舐められてるのよ。北方と違ってここはモンスターも強すぎない。冒険者もぬるい人材ばかり……だからかしらね」
「女怪盗、か……」
僕は思案に沈む。
すかさずエルザが小声で突っ込んできた。
「ご主人様。今回は無理です。ディアブロ邸には盗まれるような宝飾品など置いてありません」
「わかってるさ」
僕は肩をすくめる。
「でもさ、『女神の拳』をディアブロ伯爵が預かることになったら?」
「……どうやって?」
カタリナが目を細める。
「ほら、境界が曖昧な地域があるだろ?そこで“我が領を無断で通過とはけしからん、宝石は没収だ!”ってゴネるんだよ。で、ギルドと伯爵が返還交渉してる間に、“宝石はディアブロ邸にある”って噂を流す。――ほら、怪盗ミンクをご招待できるだろ?」
どうだ、この完璧プラン!
「……侯爵。あなたの変な趣味に付き合うのは気が進まないけど……」
カタリナは観念したように肩を落とす。
「今回はお願いするわ」
こうして、ディアブロ邸を舞台にした“囮作戦”が幕を開けたのだった。
ーーーー
北方ギルドからの引き継ぎ地点。
僕はこっそり変装して、バームベルク支部の冒険者たちに混ざっていた。
「へぇ、いろんなメンバーがいるんだね」
「ええ。職業も種族も多種多様なのがバームベルクの特徴です」
隣のエルザが淡々と答える。
なるほど。視線を巡らせれば――猫耳の獣人、犬っぽい獣人、さらには角のある魔族風まで混じっている。
……ん? あれは――イタチ?フェレット?
そこで脳裏に浮かんだ。
――そういえば、“ミンク”ってイタチ科だったよな。
気になって【鑑定】を発動。
――職業:斥候(怪盗)
ビンゴ!
やっぱりアイツが“怪盗ミンク”だ!
冒険者のふりをして護衛に紛れ込むなんて……お約束すぎるだろ。偶然にも今回もターゲットを確認できた。
ーーーー
「出発〜!」
冒険者ギルド同士の宝石の引き継ぎは滞りなく終了。
カタリナ率いるバームベルク支部は、『女神の拳』を守りつつ南へと進軍を開始した。
やがて、例の“ディアブロ領との境界があいまいな地域”に差し掛かる。
僕はタイミングを見計らい――
「フハハハハ! 我が名はディアブロ! 悪魔伯爵ディアブロだ!」
「引きこもり伯爵だ」
「なんか服装浮いてない?」
……おい冒険者諸君、評価が容赦なさすぎないか?
引きこもりって……ダンジョンのボスが頻繁に表に出てきたら逆におかしいだろう。
服も日中の屋外で爽やかな草原にいれば違和感が出るのは仕方ないんだって
「ご主人様。続きを」
横でエルザが冷静に促す。そうだった。
「貴様ら、勝手に我が領へと足を踏み入れるとは許し難い! よって、その荷は一時的に我が預かる!」
「ディアブロ伯爵閣下!」
カタリナが一歩前に出る。声には張りがある。
「この積荷は教皇聖下への献上品。いかに伯爵といえど、手出しはお許しできません!」
予定通りの抗議だ。僕は不敵に笑う。
「ならば通行料を払え。その間だけ預かるまでのこと。……それとも領主たる我と刃を交えるか?」
合図と同時に、ディアブロ騎士団(エルザ&くノ一軍団の変装による即席騎士団)が剣に手をかける。
冒険者側も武器を構え、場は一触即発の空気に。
「ぐっ……」カタリナが苦渋の声を漏らす。
「わかりました。その代わり、安全のためお屋敷まで我々で運び込みます」
こうして両者の妥協が成立。『女神の拳』はディアブロ邸での一時保管となった。
「よかろう。我が屋敷の最奥――玉座の間で厳重に守ってやろう。安心するがよい! フハハハハ!」
保管場所をバラしたのはわざとらしかったかな?とも思ったが、僕はチラリと“例のフェレット娘”を確認する。
そう、怪盗ミンク。
彼女はしっかりと宝石の引き渡しを見届けていた。
ーーーー
女怪盗がやってくる――そう思うだけで、僕の胸はウッキウキに高鳴っていた。
「さて、今回は新装備はあるかな……?」
モニター越しに屋敷のレベルアップを確認する。
罠:赤外線センサー
※この世界には赤外線スコープが無いので、演出上“普通に赤い光”として見えます。
「……なんか説明文がメタいな」
定番こそ、怪盗を迎える舞台装置にふさわしい。
「よし、今回はこれで――怪盗ミンクちゃんを大歓迎してやろうじゃないか!」
ーーーー
「ご主人様。怪盗ミンクです」
エルザの声に振り返ると、モニターに黒いレオタード姿の女怪盗が映し出されていた。
「やっぱり女怪盗といったら、あのスタイルなんだな……」
思わず感慨深くつぶやく。あの“三姉妹”の影響は、どうやら異世界にまで及んでいるらしい。
怪盗ミンクは周囲を鋭く警戒しながら、音もなく屋敷へと近づく。
壁を這うようにスルスルとよじ登り、屋根に設けられた“プロ用の侵入口”から中へ。
「なんかこう、ジャンプ一発で華麗に飛び込むとかじゃないんだね」
「フェレットの獣人ですから。這うような動きが得意なのだと思います」
エルザの淡々とした解説。
やがて、玄関ホールに姿を現した怪盗ミンク。
本来ならここで「我が名はディアブロ!」と名乗る場面だが……今回は気づいていないふりをすることにした。
まずは――久々の“タライ攻撃”だ!
……と思ったその瞬間。
ミンクは壁をよじ登り、天井に仕掛けていたタライをスッと解除してしまった。
「な、なんだってぇ……!?」
僕は頭を抱える。
「タライは落ちる音が派手ですから。事前に潰しておくのは合理的ですね」
エルザが冷静に分析する。
……いや、こっちはあの“オーバーアクションで避けるのを期待したんだが……
なんだろう……ガッカリした。
ーーーー
続いて舞台は――赤外線センサーが張り巡らされた廊下。
「おおっ!」
赤い光の網がきらめく中、怪盗ミンクは華麗に舞い始めた。
しなやかに反り、くぐり、滑り込み――その動きはまるでサーカスのアクロバット。
“ここは絶対ムリだろ”と思える隙間まで、すり抜けてしまう。
「すごいな……」
僕は純粋に感心した。
「イタチの獣人らしい柔軟さですね。……見事です」
エルザも珍しく素直に認める。
ちなみに事前に、エルザやくノ一軍団にも挑戦してもらったが――
一発クリアできた者は、誰ひとりいなかった。ここは素直に相手を認めよう。
ーーーー
次の部屋に待ち受けていたのは――乱立する無数のポール。
床一面にはベタベタのトリモチが仕掛けられており、避けるためにはポールを使って渡るしかない。
怪盗ミンクは一瞬で状況を見抜き、迷いなく飛び移った。
しなやかな体がポールからポールへと舞い渡り、その動きは――まさしくポールダンス。
「……なんか、ちょっとエッチな感じだな」
前世でポールダンスなんて生で見たことはなかった。
……いや、これなら一度くらい行っておけばよかった。
ミンクは腰をひねり、尻尾をしなやかに揺らしながら、軽やかに最後のポールへと着地する。
「クリア……だと……?」
またしても完璧。怪盗ミンク、恐るべし。
ーーーー
最後の試練は単純明快だった。
トリモチに囲まれた空間の中央に、宝石の展示台がポツンと置かれている。
ジャンプで飛び越えるには距離がありすぎる。
となれば、残されたルートはひとつ――真上のシャンデリアだ。
怪盗ミンクは壁を駆け上がり、天井を伝ってシャンデリアに到達。
そこからロープを使ってぶら下がり展示ケースに近づく。
「おお……! ハリウッドのスパイ映画みたいだ!」
過去に見た名シーンが、まさか異世界で再現されるとは。
怪盗ミンクの指先が、展示ケースへと伸びる――。
ヒュッ、と風を裂いて飛ぶエルザが投げたナイフは正確にミントを支えるロープを切り裂いた。
「きゃあっ!」
次の瞬間、怪盗ミンクは床のトリモチに突っ込み、ベタベタに絡め取られてしまった。
身動きの取れなくなった怪盗ミンクを、僕はさらに拘束魔法でガッチリと縛り上げた。
「フハハハハ! 我が名はディアブロ! 悪魔伯爵ディアブロだ!」
ミンクは無言のまま、鋭い瞳でこちらを睨みつけてきた。
「貴様、なかなか見事であった。このディアブロ、感動したぞ!」
惜しかったな、ミンクちゃん。
すると、ミンクは急に色っぽい声を出した。
「ねぇ、伯爵ぅ……拘束を解いてくれない?」
――おおっ、色仕掛け!?
そういえば今までなかった展開だな。たまには良いかも……。
「そ、そうか……では」
「ご主人様!」
隣でエルザが氷のような視線を突き刺す。
……ですよね。
「うむ。やっぱりダメだ」
次の瞬間。
「それじゃぁ……仕方ないね♡」
ミンクが股を広げ、強烈な臭気を発射した。
「くっ……! イタチの最後っ屁か!」
やばい。臭い以前に直視したせいで目に入った。痛い!
僕は思わずよろめく。
「ふふふふふ! アタシは怪盗ミンク。狙った獲物は逃さないのさ。じゃあね、伯爵♡」
拘束を強引に突破し、展示ケースの中身を抱えて彼女は闇に消えていった。
「あーあー……やられちゃった」
ため息をついた僕に、エルザが淡々と告げる。
「今頃、本物はカタリナが隣のギルドへ届けているはずです」
そう――ディアブロ邸にあったのは囮。
ミンクが盗んだのは偽物。
今頃、彼女は気づいて悔しがっているに違いない。
「……また再戦だな」
僕は胸の奥で固く誓った。
「しかし……臭い落ちるかな」
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪




