第25話 熱血勇者のローション相撲
◾️ディアブロ(バームベルク侯爵)
屋敷に来た侵入者(美女限定)を罠やモンスターを使って捕獲を楽しむ。悪魔伯爵と恐れられているが前世はオタク趣味のサラリーマン。表向きは隣で善良な領主をしている。
●エルザ
アシスタント兼ツッコミ。ディアブロの命を狙う刺客だったが、捕縛され悪趣味な遊びに付き合わされている可哀想な女性。金髪巨乳でお姉様系美女。
今日は街をぶらついていた。
エルザと一緒に軽く変装して、冒険者ギルドへ足を運ぶ。
「もっと熱くなれよ!」
場の空気を切り裂くように叫んでいるのは、どうやらパーティリーダーの女勇者らしい。
「そうは言っても……腰が……」
ぼやいたのは剣士っぽい老人。背筋は伸びているが、声に年季が出すぎている。
「怖いの……やだ……」
筋骨隆々、まるで岩のような黒魔道士(男)が震える声でつぶやいた。
……いや、キャラ設定逆じゃない?
「まあまあ、もっと気楽にやろうよ!」
白魔道士がそう宥める。……あれ? ルミルミじゃないか。
第4話で別れた、あのバカップルパーティの片割れだ。
「私たちはもっとできるはず! 上を目指そうよ!」
女勇者は情熱的に語るが、メンバーの顔はどこか冷めきっている。
なるほど、これは……おいしい素材だ。
ーーーー
冒険者ギルドの資料庫から、こっそりと例のパーティのファイルを拝借した。
「ふーん……もともとは実績ある連中なんだな」
ページをめくると、エルザが言う。
「ですが結成は最近ですね」
「本当だ。それまでの実績は全部ソロか……」
ひとりずつ経歴を見ていく。
「ルミルミは……まだ駆け出しか」
「ですが、この子は白魔道士学科の卒業生です。入試の偏差値は高いですよ。暗殺学科より下ですけど」
エルザさん、さらっとマウントを取らないでほしい。ていうか異世界でも学歴社会なの? 世知辛すぎる。
「剣士のじいちゃんは……おお、ドラゴンに勝ってる! すごいじゃん!」
「……四十年前の話ですが」
「最近の戦績は……うん、微妙だな」
「黒魔道士は……黒魔道士コンテスト優勝?」
「よく見てください、“ボディメイク部門”とあります」
「ボディメイク部門!? それ魔術関係なくない!?」
どう考えても戦力には期待できない。
「で、肝心の勇者ちゃんは……おっ、モンスターの大襲撃で武勲を立ててる! これはすごい」
「ですが、パーティの結成と解散を繰り返していますね」
……なるほど。それが全てを物語っている。
こんな凸凹メンバーが、あのディアブロ邸に乗り込んできたらどうなるか。
想像しただけで、僕は口元をにやけさせた。
ーーーー
「ねえ、エルザ。あの連中をディアブロ邸にご招待したい」
僕は小声で囁いた。
「承知しました。受付嬢のピエラから“ディアブロ討伐依頼”を出させましょう」
淡々と答えるエルザ。仕事が速い。さすが我がメイド。
こうしてまた、新たな獲物が罠にかかろうとしていた――。
「この依頼なんてどうですかぁ?」
受付嬢のピエラが、例のパーティに書類を差し出していた。
「ディアブロ伯爵の討伐か……」
リーダーの女勇者が眉をひそめ、しばし考え込む。
「えー、私この依頼いや」
白魔道士――ルミルミがぷいと顔を背けた。
「なんで嫌なんじゃ?」
老剣士が渋い声で問いかける。
「だってさ、前のパーティで行ったんだよ? あの伯爵、変な攻撃してくるんだもん。処刑スタイルの足裏マッサージとか!」
……一同、ポカーン。
そりゃそうだ。一回で理解できる奴なんていないだろう。だが事実だ。
「それにあの屋敷、気味が悪いんだよ。センスないっていうか、もう嫌な感じしかしないの。伯爵がクソダサい感じなんだと思う」
いや、ルミルミ。悪の伯爵邸なんだよ。
演出で不気味にしてるんだって。
「……怖いの……嫌だ……」
筋肉マッチョな黒魔道士がまた小声でつぶやいた。
君、それ言い出すとどこのダンジョンにも行けなくなるぞ?
「でも、この依頼を達成できればランクアップするんだよ! チャレンジしてみようよ! 人生はトライだ!」
女勇者は熱弁を振るう。だが――メンバーの反応は冷え切っていた。
「私は行かない」
ルミルミは真っ先にきっぱり言い放つ。
「な、なんでだ!? リベンジしようよ!」
勇者が食い下がる。
「だってさ……あそこで彼氏と別れたんだもん。あー、マー君元気かなぁ〜?」
……未練タラタラか。ちょっと胸が痛むな。僕があんな別れ方させたから。
「ワシもディアブロ領は遠いからのう……今回は留守番じゃ」
老剣士が白旗を上げる。
「……怖いの、嫌だ……」
マッチョ黒魔道士も同調。
駄々を捏ねていたメンバーだったが女勇者の説得で渋々参加することになった。
くっくっく……どんな“おもてなし”をしてやろうか。
「ご主人様。まだ早いです」
横でエルザが冷静に僕を制した。
ーーーー
ディアブロ邸で、次なる“おもてなし”の準備を始める。
「さあ、最近はレベル上げも頭打ち気味だが……今回は何かアンロックされてるだろうか?」
館主室のモニター越しにウインドウをチェックしていると――
「おっ、ローション!」
ヌルヌルとした万能アイテム。よく滑る。
これは良い。
「クックック……ローションまみれにしてやろうか!」
「……なんか変なセリフですね」
隣でエルザが冷静に突っ込む。
僕も思った。
ーーーー
「ご主人様。女勇者パーティが到着しました」
エルザの報告に、モニターへ目を向ける。
「うん?……剣士のじいちゃん、マッチョ黒魔道士におんぶされてない?」
「バームベルクからは距離がありますからね」
「おいおい、大丈夫かよ」
画面越しでも一目でわかる。勇者以外のメンバー、やる気ゼロ。
やがて扉が開き、女勇者パーティが館に足を踏み入れた。
まず彼らを迎えたのは、ガイコツ剣士軍団。今回は“最初から本気っぽい雰囲気”を出す。……もちろん、見た目だけ。中身はただのハリボテだ。
「こ、ここはワシらに任せて先に行くんじゃ!」
老剣士が胸を張って言い放つ。
「……僕も残る」
マッチョ黒魔道士も珍しく気合を見せる。
「で、でも!」と女勇者が食い下がるが、
「剣士に対抗するのはワシの役目じゃ。はよ行け!」
老剣士がきっぱりと言い切った。
「すまない! 必ず戻ってくるからな!」
勇者とルミルミは先へ進んでいく。
残された老剣士は――ひと突きでガイコツ剣士を粉砕した。
「ほれ、この通り。こいつらはハリボテじゃ。片付けたらワシらだけ先に帰ろう」
さすがベテラン。ガイコツ剣士がハリボテなのを見抜いたか。
「......」
続けて黒魔道士が拳でガイコツ剣士を粉々にする。
……魔法使えよ。
ーーーー
女勇者と白魔道士ルミルミは、館の奥へと足を進めていった。
その前に立ち塞がったのは――無数のゴースト軍団。
「……お前の元彼のマー君。別れてから急成長したな……」
「……捨てたはずのキープくんが出世して、今どんな気持ちだ?……」
「……足くさいのは相変わらずか?……」
ゴーストたちが口々に吐き捨てる。狙い撃ちにされているのは、明らかにルミルミだ。
「ルミルミ……君は一体……?」
女勇者の視線が鋭く突き刺さる。
「や、やめてよぉぉ!」
耐えきれなくなったルミルミは、浄化魔法を乱射!
片っ端から魔法でゴーストたちを一掃する。
「勇者! ここは私に任せて先に行って!」
必死の形相でそう言い放つルミルミ。
「いや...でも」
「良いから任せて!」
ルミルミは無理やり勇者を先に行かせた。
……いや、それ、自分の黒歴史を掘り返されたくないだけじゃ?
僕は思わず画面の向こうで突っ込んでしまった。
女勇者は一人で進み、館の奥にたどり着いた。
そこには小さなトンネルのような入り口がある。
『勇敢な者のみ、入ることを許される』
女勇者は迷わず叫んだ。
「望むところだ!」
彼女は腰をかがめ、トンネルの中へと足を踏み入れる。
「きゃーーっ!」
そう、このトンネルの正体はウォータースライダー。
しかも流れているのは水ではなく……たっぷりのローションだった。
滑る、滑る、止まらない!
女勇者は全身ヌルヌルにまみれながら、歓声をあげつつ一直線に落ちていく。
ローションスライダーの終点は、円形のステージだった。
「いたたた……」
女勇者は尻餅をつきながら、よろよろと立ち上がる。
「フハハハハ! 我が名はディアブロ! 悪魔伯爵ディアブロだ!」
僕は高らかに名乗りを上げる。
「悪魔伯爵ディアブロ! 尋常に勝負!」
勇者は勇ましく叫び返した。
「我との対決の前に、最後の試練だ! いでよ、最強力士軍団!」
相撲のまわしを締めたオークたちが、ずらりと姿を現す。
「こやつらに相撲で勝てたら、我が相手してやろう!」
「望むところだ!」
……何の疑問も持たず挑んでくるのは勇気か、それとも無鉄砲か。
「ルールは簡単。場外に出たら負け。それだけだ!」
「わかった!」
「ひがーしー、オーク山〜!」
「にーしー、女勇者〜!」
オークと勇者が土俵に入る。
本来オークは優しい性格で戦闘向きじゃない。今回の力士役も、「怪我させない程度なら」と説得して引き受けてくれたのだ。
……うちのモンスターは本当に扱いづらい。
「見合って見合って……はっけよい! のこった!」
その瞬間――。
ステンッ!
勇者も、オークも、行司までもが転んだ。
そう、この土俵はローションでヌルヌル。立ち上がろうとすればまた転ぶ。
滑って転び、また転ぶ。
その奇妙な光景は――
「なんというか……泥試合だね」
僕の口から出たのは、ただその一言。
「……いつまで続けるんですか?」
冷静なエルザの声に、ようやく我に返る。
……そうだ。これ、どうやって回収すればいいんだ?
そこまで考えてなかった。
「ええい! 中止だ中止!」
僕は強引に試合を止めた。
「女勇者よ。お前の仲間たちは――すでにお前を置いて帰っていったぞ」
「えっ?」
勇者の目が大きく見開かれる。
「誰もこの依頼に乗り気ではなかったからな」
「そ、そんなはずは……!」
いやいやいや。僕みたいな外野が見てもやる気ゼロだったんだぞ?
それに気づけないってことは、普段から仲間の心を見ていなかった証拠だ。
「さて、どうする? このローション相撲を続けるか?」
僕の問いかけに、女勇者はしばし黙り込み――そしてうつむいた。
「……一旦、戻ります」
力なく答え、ローションまみれのまま背を向けて去っていく。
「こう言うのが独り相撲ってやつですね」
エルザがぽつりと呟く。
……うん、うまいこと言う。
こうして独りよがりの女勇者の依頼は未達成に終わった。
こんなくだらない物を読んでくださってありがとうございます。
とても暇な方ですか?どうせ暇なら、ついでに感想など聞かせてください♪




